ヤンデレCD Re:birth 野々原 渚 prologue ~渚が見る夢~   作:オオシマP

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後編です。

この後にCD本編を聴いてね!って言いたいところですが、制作会社がヨルダン辺りまで吹っ飛んでしまったため、言えないところがツライ。


後編

そう、こんな悪夢に苛まされるずっと前から、渚は現実の世界で、現実に血の繋がった兄を愛してしまっていた。

その愛情をはっきりと意識し始めたのは、いつからだったのか。

 

少なくとも、物心つく前から、兄を男性として意識していた。

もしかしたら、この世に生まれ落ちた直後、母親の腕に抱かれながら、初めて兄が自分の顔を見つめた時、その時からこの恋は始まっていたのかもしれない。

いや、もっとずっとずっと前、兄をこの世に生み出したのと同じ子宮の中に生を受けた瞬間から、それは始まっていたに違いない。

 

渚は信じている。

運命の赤い糸、などという妄想にも等しいお伽噺なんかじゃない。

わたしたちは、血で、肉で、遺伝子で繋がっているのだ。生命の起源で繋がっているのだ。

誰にその根源的な繋がりを、絆を、愛情を妨げることが出来るだろう。

 

幼児のころから兄と触れ合いたいと思っていた。

小学校に入る頃には唇を交わしたいと思っていた。

中学校に入る頃、兄から入学祝として赤いマフラーを貰った時には、自分の女としての身体の中に兄を迎え入れることを決心した。

今でももちろんそう思っている。

 

あの夢が、悪夢が、自分の兄への想いに拍車をかけたのかもしれない。

それは確かに否定できないかもしれない。

でも、それはあくまできっかけでしかない。ただの結果論だし、単なる推測だ。

その前から、ずっと前から、自分は兄を愛していたのだ。

それだけは、間違いのない事実だ。

胚が細胞分裂を開始し、わたしという命を形作り始めた時から、遺伝子に刻みこまれたある種の物語として、そのプログラムはスタートしていたのだ。

 

渚はシャワーを止め、バスルームの鏡に映る、まだ成熟しきらない身体を持つ自分自身を凝視した。

あの悪夢を見た後は決まって酷い顔をしているが、今夜もその例に漏れず、鏡に映った渚は憔悴しきった表情で自分を見つめている。

 

 

「今日も酷い夢だったね」と渚は言った。

 

「今日も酷い夢だったね」と鏡の中の渚は言った。

 

 

朝までこんな顔してたら、お兄ちゃんが心配しちゃう……、いつも困っちゃうんだよね、お化粧すればなんとか誤魔化せるかもしれないけど、この歳でお化粧してたら、お兄ちゃんはわたしのこと嫌いになるかもしれない……。いつも通り温かいタオルを顔にあてておくくらいしかないか……。

 

部屋に戻ってベッドに横たわり、お湯につけて絞ったタオルを瞼の上に乗せて、渚は闇の中で悪夢について考察する。静寂と暗闇はいつも渚の思考を手伝ってくれる。

 

小さい時からわたしを苦しめ、苛むあの夢に、一体どんな意味があるのだろう……。それとも意味なんてないのかな……、わたしの頭が、おかしくなりはじめているの……?

 

渚は悪夢に襲われるたびに、幾度となく同じ問いを繰り返した。

 

兄妹なのに、お兄ちゃんを愛していることへの罪悪感……、そんなわけがない。あり得ない。

わたしはお兄ちゃんを愛することに、罪悪感なんて爪の垢ほども持っていない。道端に落ちている小石程度の罪悪感すらない。そもそも、わたしに常識や倫理なんて関係ない。そんなものは守りたい人たちが勝手に守って、自己満足にでも何にでも浸っていればいい、どうぞ、いくらでもご自由に。

でも、わたしには、なにひとつとして、関係、ない。

 

もしかして……、呪い……とか……? ふ、ふふ、あはは……。

 

馬鹿馬鹿しい、と渚は心の中で苦笑する。

 

お兄ちゃんに幼なじみづらして付きまとってた女……、彩子……、だったっけ。最近はたまに見かけるくらいだけど。あの女なら人を呪うくらい平気でやりかねない雰囲気してるな……。そういえば、夢の中でわたしを殺す女の片割れに、少し感じが似てるかも……。声も、とても似てる気がする……。

……って、今そんなことどうでもいい……。

 

幼い頃から悪夢を見続けている渚は、その夢に意味を付与し少しでも心の安寧を得るため、ずいぶん多くの文献をあたってみたこともあった。

ジグムント・フロイト、カール・グスタフ・ユング、アルフレッド・アドラーといった心理学の源流から現代精神医学まで、とはいえ学校や市立の図書館では専門書といっても限度があったし、そもそも渚自身、難解な専門書を充分に読み解く知識は持ち合わせていない。

ほとんど読み飛ばしに近かったが、おおよその意味が掴めればそれでよかった。

人間が見る夢が持つ意味……、主な説としては恐怖、不安、逃避、挫折、疲労……。

 

違う、どれもしっくりこない。

恐怖や不安はわからないでもない、渚は思う。

 

もしわたしとお兄ちゃんが結ばれない、なんてことになったら……。

それは確かに想像したくない状況であり、不安も恐怖も感じるけど……、それなら単にお兄ちゃんに振られる夢、それかお兄ちゃんが誰かと結婚しちゃう夢でいい気がする……。何もあんな血塗れの凄惨な夢である必要性はないはず……。

いや、そんなことないのかな……、わたしのお兄ちゃんに対する愛情が強すぎるから、その裏返しであんな酷い夢になるのかな……。

 

普段の渚なら、悪夢の後の疲労もあり、この辺りで徐々に思考が眠りに誘われる。

だが、そのときの渚は、疲労を押して思考をもう一歩、普段と違う方向に進めてみた。

 

昔の人は夢が持つ意味をどう考えてたんだっけ……、夢占い、予知夢みたいな超自然的な力の類……、前世の記憶……、前世……? なによそれ……? わたしの前世はお兄ちゃんのお嫁さんに決まってる……。

あとは……預言、神託みたいな神様のお告げ、啓示、それはある種の行動の示唆、もしくは戦争や天変地異への警告……警告……、 警………告……?

同じ夢を繰り返し見せることで、わたしに警告している……とか……? それこそなんで? どうして、なの……?

わたしは誰かに警告されるような悪いことはしていない、ただ、お兄ちゃんが好きなだけ……、お兄ちゃんのことを、愛してるだけなのに……。

 

 

お兄ちゃん、大好きだよ、誰よりも、お兄ちゃんを、愛してる……。

明日も……、一緒に、ごはん、食べよう、ね……。

 

 

 

 

いつしか渚は、眠りにつく。

時刻は既に午前3時を大きく回っている、渚の眠りを妨げるものは、今はもうない。

暗く深い太古の森の奥に、ひっそりと佇んでいるような静寂が渚を包んでいる。

 

 

 

この夜、渚はまさに、問題の核心に足を踏み入れていた。

 

 

 

しかし、渚は眠り続ける。

翌日の朝、兄に少しでも元気な姿と、精一杯の笑顔を見せるために。

どんなに酷い悪夢が邪魔をしようと、それが遥か昔から渚の心をどす黒い檻の中に捕えて放さないとしても。

夢のせいで兄を少しでも心配させることなど、兄の笑顔を曇らせることなど、渚にとって、絶対にあってはならないことなのだから……。




登場人物の解説

・野々原渚:言わずと知れた『ヤンデレCD』シリーズで最も有名な妹ヒロイン。初代CDではかなりあぶねー女だったが、4枚目の『ヤンデレCD Re:birth』では9年という長き時を経てヒロインに返り咲き、真っ当なヤンデレとして復活。発☆砲☆祭!

・河本綾瀬:初代CDで渚を殺したり返り討ちにあったりする幼なじみ。名言は、ブスは死ねブスは死ねブスは死ねブスは死ねブスは死ねブスは死ね

・柏木園子:初代CDの3人目ヒロイン。セカノハ様。

・朽梨彩子:おっぱい。手にするフライパンは宝具ランクA。当たると死ぬ。
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