IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作)   作:raludo

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第十話 打鉄弐式は未完成

――チュン、チュン――

 

朦朧とする意識に雀が朝の訪れを知らせる。

 

「ん……朝……か?」

 

少しずつ覚醒していく意識。しかし、それをまるであざ笑うかのように突如として襲ってくるまどろみ。

 

別に朝は弱いほうではないが、このまどろみは苦手だ。つい、また睡魔に意識を投げ出してしまいそうになる。

 

「……ううん」

 

すぐ隣で妙に色っぽい身じろぐ声がした。

 

閉じそうな眼を必死に開いてそちらに視線を向けてみれば……おおう。

 

服装が乱れた刀奈が俺の腕を枕にして眠っていた。

 

道理で腕に違和感があると思ったら……て、そういう場合じゃない。

 

寝間着が裸ワイシャツなのだ。いや、ワイシャツは寝間着じゃないか。

 

とにもかくにも刀奈が男のロマンの一つである裸ワイシャツで眠っている。

 

しかも、服装が乱れて胸元がかなり開いてしまっていて、エロい。

 

それに、今は朝。起床後だ。こんな時間だと男の俺には生理現象が起きている。

 

その状態の俺にこの光景は毒だ。鎮まるものも鎮まらない。

 

「ぐっ、鎮まれ……!!」

 

必死についその胸元に手を伸ばそうとしている自分に制動をかける。

 

さ、さすがに朝から情事をしてしまうわけにはいかない。もし、そんなことになってみれば、遅刻は確定。あの鬼教師の餌食になってしまう。しかも、絶対遅刻の理由を聞いてくるはずだ。たとえ嘘をついたとしてもそれが通用するだろうか。否、するはずがない。

 

数分間自分の理性と野性とがぶつかり合い、ほんの僅差で理性が勝った俺はゆっくりと刀奈の頭をどかし、ベッドを脱出。自己主張の激しい下半身が鎮まるまでずっとシャワーを浴び続けるのだった。

 

 

 

 

何とか落ち着き、シャワールームを出て脱衣所で制服に着替える。そして部屋に戻ると相変わらず刀奈は寝ていた。

 

……とりあえず、目に毒なので起こすことにした。

 

「おーい、刀奈。起きろ。もうすぐ朝食の時間だよ」

 

「ふぁ……」

 

声をかけるが少し身じろぎしただけでまた睡魔の世界へと旅立っていった。

 

「おーい、かた『いつまで寝ているのかなこの駄猫は』……え?」

 

ふと、扉の方を見れば、天災(何度も言うが間違いではない)が扉を開けてこちらを見ていた。

 

「束さん!?なんでここに?」

 

「むふふ、それはコウと一緒に朝ごはんを食べようと思ってね」

 

そう言い、一歩部屋へ足を踏み入れようとすると。

 

ガッ!

 

「へぶっ!?」

 

見事に一回転して頭から床に倒れ込んだ。

 

「か、刀奈?」

 

その隣には先ほどまで眠っていた刀奈の姿があった。

 

「私と紅牙の愛の巣に足を踏み入れるなんていい度胸じゃない」

 

どうやら、束さんが声をかけた時にはもう行動を開始していて、束さんが足を一歩踏み入れた時に前と同じく足をかけたようだ。

 

「……」

 

地面に突っ伏したまま動かない束さん。

 

「さあ、こんな兎は放っておいて、食堂に行きましょう」

 

いつの間にか制服に着替えていた刀奈が俺の手を取り、食堂に行こうとする。

 

「って、おい刀奈!荷物、荷物忘れてる!ちょ、引っ張るな!」

 

ああ、今日も騒がしい一日になりそうだ。それと束さんごめん。あとで氷華に頼んで介抱させるから。それと、最近出落ち感が半端ないのは俺の気のせいでしょうか。

 

たぶん気のせいだろう。そう思い込むことにした。

 

 

 

 

 

 

食堂に到着し、刀奈に自分の分の注文を頼み、俺は席を取ることにする。

 

すると、見知った顔を見つけた。

 

「よっ、おはよう。一夏、箒」

 

「おはよう紅牙」

 

「……おはよう」

 

なんだ、えらく箒が不機嫌だな。また、一夏の天然が炸裂したか?

 

「はあ、一夏も懲りないな……」

 

「なんで俺!?何もしていないぞ、俺は!?」

 

「(ギロッ)」

 

一夏の発言に箒が睨む。これで一夏が何かやらかしたのは決定だな。

 

「紅牙ー?席は取ったかしら?」

 

少し話し込んでいると、朝食を乗せたトレーを二つ持って刀奈が合流。

 

「ってことなんだ。悪いがここに座ってもいいか?」

 

俺は一夏の前に空いてある二つの席を指さした。

 

「ああ、俺は構わないけど、いいよな、箒?」

 

「……構わん」

 

「ありがとう」

 

俺は刀奈から朝食を受け取り、二人並んで一夏の前に座る。

 

朝食は定食なのか、ご飯に味噌汁それと出汁をたっぷり使ったふっくら卵焼きだった。

 

「そうだ、箒。ちゃんと束さんとは話しているか?」

 

俺はふと思いついて、箒に聞いてみる。まあ、さっき束さんに会ったからなのだが。

 

「まあ、ほどほどに」

 

よかった。一応話はできるまで仲は回復したようだな。

 

前に一度束さんから箒ちゃんと仲良くしたい、と相談されたことがあり、それ以来気にかけていたのだが、一応上手くいっているようだ。

 

まあ、束さんが実の妹に嫌われても仕方ないと言えば仕方ない。ISを開発したせいで箒やご両親は重要人物保護プログラムによって保護され、家族バラバラになってしまった。姉を恨む気持ちも分からなくはない。

 

だけど、少し考えてみればわかることだ。束さんが何故姿を消したのかは。きっと迷惑掛けたくなかったんだろうな。いや、今でも迷惑は掛かっているだろうけど開発者本人が家族とともにいたら、今頃大変なことになっていただろう。

 

箒もそのことを理解し始めたのか、一歩ずつ姉との距離を修復しつつある。

 

「それはよかった」

 

そのことに安堵していると、突然刀奈が、

 

「ねえ、あなたのお姉さん何とかならないかしら?私の紅牙にべたべた引っ付いてくるのだけれど」

 

心底困った、と言った感じで箒に話しかける。あくまでそう装っているだけ、だけどな。

 

「し、知りません。というか、そんな恥ずかしげもなく恋人宣言しないでください!紅牙があなたの恋人なのはもう周知の事実ですから!」

 

箒は「私の紅牙」と強調されている部分に反応したのか、顔を赤らめ、喚いている。

 

刀奈のこういったからかいにはもう慣れるしかない。一応、謝っておく。すまない、箒。

 

口には出さないが。

 

「そう言えば」

 

俺は昨日の出来事でふと思いつき一夏に聞いてみることにする。

 

「なんか、昨日凰が泣きながら走っているのを見たんだけど、一夏、何か知っているか?」

 

ピタッ。

 

一夏と箒の動きが止まる。

 

「ん?何々、どうしたの?」

 

刀奈もその反応に気が付いたのか二人に聞く。

 

「実はだな――」

 

一夏が昨日起こった事の顛末を話す。要約するとこうだ。

 

昨日、訓練が終わり、一夏が更衣室で着替えていると、凰が登場。そこで一夏が箒と同棲していることを聞く。

 

その夜、一夏の部屋に凰が登場。同居人の箒と部屋を変わってくれと交渉。

 

箒は頑としてこれを拒否。そこで凰は一夏に昔の約束を覚えているか、と尋ねる。

 

一夏は何とか思い出す。ちなみに約束とは『料理が上達したら毎日私の酢豚を食べてくれる?』という約束らしい。

 

しかし、一夏はこれをただ単に奢ってくれる程度にしか考えていなく、それを知った凰が激怒。手厚いビンタをもらったというわけだ。

 

ちなみに俺が昨日見たのは、それに関して泣いていたのでは、と推測できる。

 

まあ、なんというか。

 

「「「はぁ……」」」

 

俺、刀奈、箒は一斉にため息をつく。箒が機嫌悪いのも納得だ。

 

まあ、凰も問題はあるがな。そんなロマンチックで分かりづらい約束をこの天然が正確に意味を捉えられると思っている時点で凰のリサーチ不足というか、配慮がないというか。

 

「一夏君」

 

刀奈が声をかける。

 

「まさか、女子に興味無いの?」

 

「「「ぶっ!?」」」

 

刀奈の爆弾発言に刀奈以外の全員が吹き出す。

 

「ちょ、なんでそうなるんですか!?」

 

「駄目よ!紅牙は私のだからね。もし手を出したら一夏君でも……ユルサナイワヨ?」

 

ゴゴゴ、と背後に炎が見えた気がしたが、気のせいだろう。

 

だけど、まあ、俺を想ってくれるのは純粋に嬉しいので止めはしないが。

 

「ああ、もう!楯無さんとご飯食べるといつもこの手の話になるな、ちきしょう!違いますよ楯無さん!俺はノーマルだ!」

 

一夏の絶叫が朝の食堂に響き渡った。

 

 

 

 

 

その日の授業を順調に終わらせた俺は氷華に一夏の護衛を任せ、俺は整備室に足を運ぶ。

 

――確か刀奈の話だとここで簪がISの開発を行っていると聞いたんだが。

 

扉から顔を覗かせると……目標発見。

 

投影ディスプレイをいくつも開き、キーボードをカタカタと叩く、流水色の髪をセミロングにしている少女がそこにいた。

 

「簪、順調か?」

 

簪の背後に声をかける。

 

「え、お兄ちゃん?」

 

簪は俺の来客など予想していなかったのか、驚いている。

 

「なるほど、これが簪のISか、データで見ていたけど実際に見るとだいぶ違うな」

 

そこに鎮座していたのは打鉄ではなくそのカスタム機〝打鉄弐式〟。第二世代ISから大きく進化し、第三世代のISとして進化したその姿は打鉄の重々しいイメージがなくなり、スラスターの増設により高機動型のISとして設計されている。

 

しかし、武装が搭載されておらず、また脚部や肩部にはまだ欠損が見られるため、まさに開発段階と言ったところか。

 

「うん、でもまだまだ動かせる段階じゃない。肩部のスラスターもそうだし、脚部も全然。特に酷いのが武装プログラム。マルチロックオンを積んでいるけど、プログラムが全く形にならない。

 

しゅん、と肩を落としてしまう簪。

 

だが、俺は純粋にすごいと思う。まだまだ未完成とはいえ、ここまで一人で製作してきたのだ。そうそう真似できることではない。

 

「……まだ、一夏のことは嫌いか?」

 

この機体を一人で製作する羽目になった原因――一夏のことを聞いてみた。

 

そもそも、この打鉄弐式は倉持技研が製作していたISだ。予定通りならもう手元に完成された状態であるはずなのだ。

 

しかし、予定外のことが起きた。

 

世界初の男性IS操縦者、織斑一夏。このイレギュラーのIS作成を倉持技研が担当することになったのだ。

 

一刻も早く男性IS操縦者の稼働データを取るため、打鉄弐式の開発を一時中止、一夏の「白式」の製作に人員が駆り出されてしまった。

 

そのため、製作途中のISを簪が引き取って、完成させているのだ。

 

なので、こうなる羽目になった一夏には少なからず思うところがあるのでは、と思った。

 

「……わからない。彼のせいではないのは分かっているけど、でも……ごめん。言葉にするのが難しいよ」

 

簪が困ったような表情を浮かべる。

 

「いや、無理に言わなくてもいいよ。それより、俺も製作に手を貸したいんだけど」

 

「……いいの?」

 

「もちろんだ。そのためにここに来たんだから」

 

「お兄ちゃん……ありがとう」

 

簪が恥ずかしがりながらも笑いかけてくれる。

 

――その笑顔は俺が久しく見ていなかったものだった。

 

 

 

 

「やっぱり、どう考えても脚部から優先させた方がいい。それにある程度の基本となる稼働データがないと動くものも動かないぞ」

 

「分かってる。だけど稼働データなんてどうすれば……」

 

今は製作の真最中。まず武装は後回し、まずは機体の完成を急ぐことにする。

 

だけど、圧倒的にデータが足りていない。パーツはともかく、それを補助するアシストプログラムが全くできていない。そのせいでたとえ機体が完成してもほとんど手動で動かさなければならなくなる。

 

「うーん、俺のISのデータは一応機密指定を受けているからなぁ。使えるとすれば……刀奈か一夏あたりか?」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

刀奈の名に少しすくむ簪。

 

「やっぱり、いきなりはきついか?いや、少しは周りを頼ってみたらどうだ?俺だけで無くさ。まずは、刀奈に稼働データの提供をお願いしに行こう」

 

「で、でもいきなりそんなこと言いに行っても、迷惑じゃ……」

 

簪は不安がっている。いくら和解したとはいえ、刀奈は簪にとっての壁なのだ。簡単に割り切れるものではない。

 

だけど――。

 

「そんなことはないと思うぞ。逆に嬉々として稼働データの提供、どころかつきっきりで製作を手伝ってくれると思うんだけどな。自他ともに認めるシスコンだからな、刀奈は」

 

シスコンというのは本当だ。一時期は生徒会の仕事を抜け出して日夜ストーキングを繰り返していたからな。

 

「……お姉ちゃんが直接製作に加わっちゃダメだよ。それじゃ、お姉ちゃんに追いつけない」

 

「でも、稼働データは欲しいんだろ?」

 

「……それはそれ。これはこれ」

 

おう、そう来たか。でもまあ――。

 

「簪がそれでいいって言うなら、俺に文句はないよ」

 

「そう?……なら、その、一緒に付いていてくれる?私一人じゃ、まだ不安だから」

 

簪がおどおどとした上目遣いでお願いしてくる。

 

やばい、小動物みたいでめっちゃ可愛い。

 

「お、おお。それじゃあ一緒に行くか」

 

そうして、俺たちは刀奈から稼働データをもらうため整備室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「刀奈ー?入るぞー」

 

俺達は刀奈が生徒会室で仕事をしていると本人から聞いていたため、生徒会室へ向かった。

 

「はいはい、どうぞー……って簪ちゃん!?いったいどうしたの?」

 

俺の傍らにいる簪にたいそう驚いている刀奈。

 

「ああ、簪からちょっとお願いがあるみたいだぞ?」

 

そして俺は簪を前に行くよう促す。

 

「お願い?いいわ、なんでも言ってちょうだい!簪ちゃんのお願いだったらお姉ちゃんどんなことでもするから!」

 

大好きな妹に頼られて舞い上がっているのか、机から身を乗り出して目をキラキラさせている刀奈。

 

「あ、あのね、〝打鉄弐式〟のためにお姉ちゃんのISの稼働データが欲しいんだけど……ダメ……かな?」

 

簪が不安そうに尋ねる。そんなに不安がらなくてもこの妹愛は断らないと思うけどな。

 

「え?稼働データ?そんなのいくらでもあげるわよ♪――というか、私も製作に加わるわ。その……いいかしら?簪ちゃん」

 

やっぱり。てか、待て。いくら稼働データといっても、〝そんなの〟って言うな。一応貴重なデータだぞ。

 

「え?……え?」

 

突然、自分も製作に加わると言い出した、刀奈に戸惑う簪。まあ、なんにしても良かったな。少しずつ姉との距離は短くなっているんじゃないか?

 

「えっと、それはダメ……。お姉ちゃんは私にとって越えなきゃいけない大きな壁。だからこそお姉ちゃんの力だけは借りちゃいけないの。他の人の力は借りても、お姉ちゃんの力を借りてしまったら、越えられないから。……ごめんなさい」

 

「……そう。わかったわ。でも、あれ?私のISの稼働データ……」

 

「それはそれ。これはこれ」

 

「ええ!?そ、そんな。私はダメで私のデータはいいの!?」

 

「……(コクリ)」

 

簪が頷き、その場にヨヨヨと泣き崩れる、刀奈。

 

それを微笑ましく見ている俺。

 

「……それにしても紅牙?簪ちゃんと二人きりだったそうね。そこらへんのことをじっくりと聞きたいなーと思っているのだけど?」

 

俺に火の手が回ってくるなんて想像もしていなかったけどな。

 

まあ、これで簪のIS作成がはかどる。その代償と思えば――。

 

「……夜が楽しみね。ねえ、紅牙?」

 

妖艶な笑みを俺に浮かべてくる刀奈。妖艶なはずなのに目が笑っていないのは気のせいか?

 

――もしかしたら、かなり大きな代償だったのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というか、妹にまでやきもちを焼くなよ」

 

「嫌よ、私はわがままで独占欲が強い女なの。……紅牙はそう言う面倒くさい女は嫌い?」

 

「……好きだ」

 

「……(あうう。会話に付いて行けない……)」

 

 

 

 

 

 





あとがき

久しぶりに簪ちゃんを登場させてみました。

いやー、呼び名に困りましたよ。最初は「紅牙兄さん」の予定だったんですが、刀奈のことを「お姉ちゃん」と呼んでいるので、これは合わせたほうがいいかなと思い、「お兄ちゃん」を採用しました。

それと、束さんがほとんど噛ませ犬状態ですね。これはいかん。近々この小説における束さんの設定を載せたほうがいいかな?

それはそれとして第十話、ご精読ありがとうございました。次回はサイドエピソードなので、気が向いたら読んでみてくださいね。

それではまた次回で。



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