IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作) 作:raludo
今年最後の投稿です。
空が青く輝いている。まるで、大洋かのように透き通る深い青。魚でも遊泳しているのではないか。
そのような錯覚を覚えるほど、今の空は青かった。
アリーナはずれの歩道。学園寮と校舎の通り道であるここから、俺はアリーナから聞こえる喧噪をBGMに空を見上げていた。
「そろそろ始まったころか」
時計を見て、アリーナで一夏と凰の試合が始まったことを確認する。
「零、警戒レベルを三に引き上げ。索敵範囲を学園外五㎞まで設定」
『了解しました。空域はどうしますか?』
「同じくアリーナ直上から五㎞」
『ずいぶんと広く設定しますね。広くすればするほど消費エネルギーも大きくなりますし、精度も落ちますよ?』
「問題ない。とりあえず、網を張っておく程度で大丈夫だ」
『了解しました。ではそのようにしておきます』
零に警戒指示を出す。
今は精密な索敵は必要ない。もともと学園の方も索敵警戒はしている。なら、こっちは範囲外をカバーすればいい。だから、外周部に網を張っておく。精度が低くても、何かが近づけばさすがに反応するだろうから。
「網も張ったし、あとは見守るだけでいいか。……っ!?」
俺は後ろを振り返った。
「いるなら出てこい。出てこなければ敵と断定する」
わずかに後ろの物陰から視線を感じた。
「……」
すると、観葉植物として植えられている木々の合間から一つの黒い影が姿を現した。
「さすがだね、〝兄さん〟。少し視線を向けただけでこんなに早く反応されるとは思わなかった」
現れたのは、大きな黒いロングコートを羽織った人物だった。体格からして少女だろうか。顔はフードを被っているため、よくは確認できない。
それにしても、兄さんって。
「悪いが俺の妹は一人しかいないんでな、変な妄想はやめてもらおうか」
「ああ、そういえば氷華姉さんもこの学園にいるんだっけ」
「……お前、何者だ」
氷華までも姉さん呼ばわり。本当に氷華の妹か?いや、そんな話は聞かないし、そもそも氷華は……ってまさか!!
「お前、まさか……」
「ふふふ、気が付いたみたいだね、兄さん。うれしいよ」
「!!」
俺は身構える。こいつの正体が割れた以上、ここから返すわけにはいかない。
「そんなに身構えて……悲しいな。私は兄さんに会いに来ただけなのに」
「……お前には聞きたいことが山ほどある。悪いがご同行願おうか」
「ふふ、そんな悠長なことをしていていいのかい?」
少女は不気味な笑みを浮かべる。その笑みに俺は背筋を凍らせた。理由はわからないが、冷や汗が噴き出す。なんだ、この感覚。心臓を鷲掴みにされたかのような息苦しさを感じる。
「どういう意味だ」
『警告。索敵範囲に熱源反応三。アリーナ直上二㎞の位置でアリーナに向かい速度を上げています。速度からしてISと断定。以降この熱源パターンをISと登録します』
「なっ……!?」
なんだってこんな時に!!しかも、索敵範囲は五㎞に設定しておいたはずだ。それが、なんで二㎞になるまで探知できなかったんだ?いや、待て。こんなこと前にも――。
――まあ、私ほどじゃないけど、凡人じゃないのは確かだね。何せ完璧なステルスを実現させたんだからね――
脳内で束さんの音声が再生された。そしてこの不可思議な現象の辻褄が合った。
「そうか、手練れの技術者がいるんだったな。なあ、亡国企業さん」
「あら、兄さん。知っていたの?」
少女はきょとんとした表情で言う。
だが、俺はその言葉を無視し、ISのプライベートチャネル開き、アリーナにいるであろう氷華に通信を入れる。
刹那。
ドガアアアンッ!!
アリーナの方で爆発が起きる。
「くそ!遅かったか」
『兄様!!』
「氷華か!すぐに一夏達の援護に向かえるか?」
『それが、ピットの隔壁が自動ロックされてしまっています!』
「自動ロック……だと?」
俺は不審に思い、今度は織斑先生にチャネルを送る。
ちらっと、目の前の少女の方を見たが、別段何もする気配がなく、ただ、不気味に笑っているだけである。
『黒咲兄か!現状は理解できているか?』
「ある程度は。しかし、自分も敵の一人と思われる人物と接触しています。そちらへの応援は遅れそうです」
『了解した。こちらは敵性勢力のハッキングを受けたのか、アリーナの全隔壁及び客席シールドエネルギーまでも最高レベルで自動ロックされてしまった。……束でも解除に時間がかかるらしい。そのせいで生徒の避難も鎮圧部隊の突入もできん』
「なっ!?」
束さんが手間取る?やはり、相手側にも凄腕のハッカー。いや、技術者がいるのは確定だな。
『束が言うには何でも、ハッキングの攻勢プログラムを解除しても次から次へと攻撃プログラムとそれを防衛するプログラムプロテクト。スタンドトラップが山ほど侵入してくるらしい。束が構築したネットワークセキュリティをすり抜けてだ』
「……わかりました。アリーナのピットを破壊する許可を氷華に与えてください。一夏と凰ではIS三機を相手するには荷が重すぎます。最悪のケースすら起きかねません。お願いします」
『……よかろう。破壊する許可を与える。可及的速やかに三機を戦闘不能にしろ。――できるな?』
「もちろん。氷華ならばできます。――氷華、聞いたな!BREAKERSトップの実力を見せてやれ」
『了解です。兄様もお気をつけて』
そこでプライベートチャネルを切る。
すると、こちらが通信を終えるのを見計らっていたのか、少女がニタァと歪んだ笑顔を見せる。
「話は終わったかい、兄さん。まあ、察するところ千冬姉さんと話していたのかな」
千冬……姉さん……だと?
「――はは、お前は兄妹には困っていないらしいな」
「ああ、そうだよ。みんないい人たちだ」
こいつは本当にあの織斑先生の妹なのか?それだけじゃない。俺がさっき考えていたことが本当だとすると、織斑先生の妹であるはずがないんだが、もしかするとあの計画に織斑先生も関係していたということか?いや、断定は早い。まずはこいつを捕まえてからだ。
そうと決まれば話は早い。俺はISを展開する。
全身が光の粒子が奔り、刹那の後、青白い中世甲冑のようなIS〝ミスティック・クラッド〟が展開される。
それと同時にアサルトライフル〝ラピッドシューター〟を展開。銃口を少女に向ける。
「さて、まずは不法侵入として、そして今回の事件の関係者として身柄を拘束する」
俺が銃口を向け、じりじりと迫る。が、その少女は声を上げて笑い出す。
「あはは!兄さんに私は捕まえられないよ。それに私ばかりに注意を傾けていいのかな」
「何?」
『警告!アリーナ上空二㎞の位置にIS熱源一。こちらに向かっています!』
零が再び警告を促す。
「じゃあね、兄さん。会えてうれしかったよ」
少女が背を向け、歩き出す。その足取りはさも遠足に来たような軽快なリズムであった。
「待て――ッ!?」
少女に向けて威嚇射撃を撃とうとするが、上空から白い粘着弾が構えていた右腕に直撃。それは鳥もちのように右腕に直撃し腕の制動を奪う。
「これは……ネット弾?」
「あああいたかぁったぜぇ。青白!!」
ネット弾が放たれた上空から黒い大型のISが姿を現す。
そのISは八本の機械足でこの瞬間、俺は理解する。
「八本足のIS――アメリカの第二世代〝アラクネ〟か。そして、その口ぶりからして、束さんの研究所にいた赤青コンビの一人か」
「はん!忘れていたら、今すぐ脳天に風穴を開けているところだぜ」
アラクネの操縦者はくしゃりと歪んだ笑みを浮かべ、両手に展開されたカービンを構える。
「まあ、どちらにしろ、風穴を開けるんだ。遅いか早いかの問題だけどな」
その様子はまるで恋人に会ったかのような妖艶な笑みを浮かべる。もちろん通常とは逆のベクトル。殺人衝動からくる笑みだった。
「……気持ち悪い笑みだな。反吐が出る。それにやられるのはあんただ。俺じゃない」
「随分と余裕だな。その右腕でどうにかなると思っているのか?」
アラクネの操縦者は自分の勝利は揺るがないとでも思っているのだろうか。この程度のネット弾など――。
「俺には効かない。――零」
『了解です。準備はとっくにできています』
零の音声が返ると同時に右腕の腕甲部分に装着されているクリスタルが光り出す。
「『ミスティック・クリスタル、起動』」
俺と零の声が重なると、右腕にクリスタルを中心としたひし形のビームシールドが形成される。その熱量にネット弾が溶け出す。
「……ははは!それこそあたしの好敵手だ!遠慮なくやれる!!」
ネット弾が溶け出すさまを見て、逆に嬉々とした表情になったアラクネの操縦者は、両手のカービンを俺に向かって掃射する。
俺はそれを先ほど展開したシールドで防ぎ、牽制として同じ手に展開していたアサルトライフルを連射。それと同時に飛翔する。
アラクネの方も器用に足を動かして銃弾を躱し、こちらを追って飛翔する。
流石に学園内で戦闘は避けたい。せめて上空で戦って、学園の被害を抑えなければ。
飛翔している間もアラクネは八本の足に装備されている機関砲とカービンで総射撃を行ってくる。
「はああ!」
俺はそれをローリングにより射程範囲から逃れる。
そして、左手に四連装無反動ショットガン〝バスター・バスター〟を展開。アサルトライフルを放ちながら、アラクネに接近する。
「……!上等だあっ!」
アラクネの方も前四本の足から高周波のクロー展開し後ろ足四本を折り曲げて前方射撃をしながら接近する。
飛び交う銃弾が両機をかすめる。撃っては撃ち、撃たれては撃ちを繰り返す。
「そこ!」
俺はアラクネに向かってショットガンをワントリガー。三十二発の散弾がアラクネを襲う。
「ちっ……!!」
アラクネは回避しようとするが、機動制御が間に合わず、大体半分の弾を貰ってしまう。
アラクネの弱点の一つ、機動性の低さを突いたのだ。
アラクネは八本の足を扱うため、非常に運動性能は高いが、その大型な体躯のため、どうしても従来のISよりも機動性能が低くなってしまうのだ。本来、空中戦などには向かないのだ。
アラクネは姿勢制御するのに手一杯のようで、徐々に高度を下げていった。
「……。なるべく低高度では戦いたくはないけど」
俺はアラクネを追撃するため、地上に向かって加速する。
むやみに校舎や寮を攻撃したくはないが仕方ない。俺はそう割り切りアラクネに向かう。
そこで、ふと気づく。
――なんで突入部隊が援護に来ないんだ?アリーナの方にいる部隊は自動ロック待ちというのは分かるけど、それ以外にもISチームがいるはずだ。全機アリーナに閉じ込められているはずがない。
嫌な汗が頬を伝う。
考えられる可能性は二つ。そちらの方にも敵ISがいるのか、もしくは先ほどの少女。この二つだ。
普通に考えれば、後者だ。アラクネが現れた後忽然と姿を消したあの少女。あのまま、格納庫に向かい他のIS部隊を足止めしているというのが有力だ。
いくら、高性能なステルスがあるからと言ってISという高熱源を未だにに気付かれずに活動しているのは考えにくい。
「隙ありだ!!」
アラクネがこちらに向かって先ほどのカービン、そしてネット弾を乱射する。
つい思考にふけってしまったとは言え、敵に対する警戒は微塵も怠ってはいなかったため、一つ一つ冷静に躱していく。
俺は両手の銃器を解除し、右手にミスティックセイバーを展開する。
それを両手で肩に担ぎ、前傾姿勢を取りながら、全身のいたるところに装備された、隠しスラスターを開閉。それらを一斉に吹かしての瞬時加速を行う。
――キンッ――
「……何?」
小さな風切り音が響く。その刹那、前足二本が斬り裂かれ、地上に落下する。
対するミスティック・クラッドは丁度アラクネの背後でミスティックセイバーを横に振りぬいた形で静止していた。
「ば、ばかな」
アラクネの操縦者が唖然としている。
それはそうだろう。本来ISはシールドエネルギーが全身を包むように展開されているため、銃器等以外は原則、破壊されないのだ。
確かに、実戦という形で戦えば、装甲損傷等は発生するが、今のアラクネのようにそのまま斬り裂かれるというのは、本当に難しいのだ。
逆を言えば、斬り裂いたミスティック・クラッドの斬撃はそれほどの威力を放ったということなのだ。
それを可能にしたのが、隠しスラスターを使用しての
もちろん、これを行うにはかなり高難度である。振りぬくタイミングがブレードの丁度真芯――斬り裂く絶妙な位置になるよう合わせなければならないのだ。
それを紅牙は最強戦士として弄られた思考回路を持って可能にしたのだ。
「悪いが、他にも確かめないといけないことが増えた。故に今すぐお前を拘束する」
振り向き紅牙はアラクネを見据える。
「……へっ、やれるもんならな!!」
まだこの事件は始まったばかりである。
あとがき
どうも、raludoです。今年最後のBREAKERSです。何とか年内に間に合ってよかった。
それはそうと、最近書き方を少し変えようと思いまして。少しずつ三人称視点での地の文を増やしていこうと思いまして。まあ、本当に少しずつですけどね。
本編最後に書いたように、この事件結構続きます。内容としては後二、三話ぐらい(そんなに長くはないか?)を目途にしています。
年明けは忙しいのでいつ投稿するかはちょっと不明です。が、できるだけ早く上げようと思います。
では、みなさん、よいお年を過ごしてください。
御拝読ありがとうございました。