IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作) 作:raludo
今回は一夏や鈴の視点です。
空は快晴。風もほぼ無風。
万全の試合日和だ、と改めてそう認識するのは、たった今その身に白式を纏わせ、アリーナグラウンドに身を躍らせた織斑一夏であった。
先に配置に付いていたのは、対戦相手である凰鈴音。通称鈴であった。
「鈴、待たせた」
「遅いわよ。レディを待たせるなんていい度胸じゃない」
「悪いな。でも、俺とお前の仲じゃないか。少しくらい許してくれよ」
「そういう問題じゃないでしょ……」
一夏の返答に呆れの表情を浮かべる鈴。まあ、いいわ。と気を取り直したのか鈴は早速〝甲龍〟の両手に〝双天牙月〟と呼ばれる大型の青龍刀を展開。切っ先を一夏の方へと向ける。
「ねえ、知ってる?ISの絶対防御も完璧じゃないのよ」
「いきなりなんだ?」
不意に聞いてきた鈴に一夏は不審感を拭えず聞き返す。
「いくら絶対防御があるからと言っても、衝撃は殺せないってこと。つまり――」
――死なない程度にいたぶることは可能なのよ。
「……」
鈴から発せられた言葉に一夏は表情を硬くする。
「そのことを確認したうえで聞くわ。……約束について私に謝る気は?」
真剣な眼差しでこちらを見据えてくる鈴。その瞳は一夏の瞳を凝視していた。
――冗談や嘘は許さない。
鈴の瞳はそう物語っていた。
それがわかった一夏は、一度目を閉じ考える。
(あんな真剣な鈴は初めて見た。それだけ今回のことを根に持っているということか?いや、何か違う。何かが引っ掛かる。……ここで考えても仕方ないか)
数瞬の思考の後、一夏は静かに目を開く。そして、しっかりと鈴の瞳を見据える。
「決着は試合でつけると決めたんだ。お互い負けた場合のリスクも決めた。だから、ここでは謝らない。まずは剣をぶつけて戦おうぜ、鈴!」
そして、不敵な笑みを浮かべる一夏。そこに迷いはなく、ただ純粋に勝負をしよう。そんな思いがありありと読み取れた。
「……いいわ。なら、さっさとやろうじゃない!どっちが負けても文句なしだからね!」
「上等!」
そして、試合開始のブザーが高らかに鳴り響いた。
試合開始のブザーからわずか二分。
試合はやはりというべきか、鈴の方が圧倒的に押していた。
それもそのはず。鈴が一夏に勝っている部分が多すぎるのだ。IS操縦技術及び操縦時間。模擬戦経験の有無、戦術構築、機体の相性。数えればきりがない。
それだけ代表候補性とは努力の果てに掴むものだと認識させられる。。
「ほらほら、懐ががら空きよ!」
白式から距離を取っていた鈴は甲龍の両肩部の非固定武装である空間作用式衝撃砲〝龍砲〟を起動。ちょうどこちらに斬りかかろうと加速している白式に向かって発射する。
龍砲の射線上の空間がわずかにうねる。そして、次の瞬間には白式が何かに殴られたように吹き飛ばされた。
「うおっ!?」
突然の衝撃に驚きを隠せない一夏。すぐさまハイパーセンサーにて状況を確認する。
(空間作用式衝撃砲……。くそ、弾丸も射線も砲身も見えないのに一体どうやって躱せっていうんだ。とりあえず、空間に作用しているみたいだから、重力場の乱れを計測させているけど、これじゃあ間に合わない。――とにかく固まっていてはだめだ。動き回らないと)
留まっていては蜂の巣なので、とりあえず、動き回ることにする。
(考えろ。考えるんだ!甲龍はデータで見た限りは燃費の良さを売りにしていた。つまり、燃費の悪い白式じゃ、長引けば長引くほどこっちが不利になる。――ちょっと早いけど、やるしかないか?)
とりあえず、無軌道に動き回りながら、勝利への算段を探し出そうとする一夏。その間にも甲龍から放たれる空気の弾丸が白式のシールドエネルギーをじわじわと削る。
「ほら、逃げてばっかりじゃ私には勝てないわよ」
鈴がいったん砲撃をやめ、二本の双天牙月を肩に担ぎ、白式に向かい加速。
「くっ、一か八か!」
一夏も砲撃がやんだ今がチャンスとばかりに鈴に向かって加速する。
(チャンスは一度きり!集中しろ、集中するんだ織斑一夏!)
一夏と鈴の距離がみるみる狭まっていく。
そして、一夏は少し早めのタイミングで自身の得物――雪片弐型を振りかぶる。
鈴はこの時勝ったと思った。距離がまだ開いているのにその得物を振りかぶっているのだから。鈴にとっては隙だらけに見えるのだ。
そう、鈴は完全に油断していた。この勝負、自分のものだと。
普段の鈴ならもしかしたら、一夏の戦法を見切れたかもしれない。
冷静に考えれば、一夏は剣道を嗜んでいたことがあり、間合いの読み間違えなどするはずがないのだ。
だが、一夏をある意味舐めていた鈴にとって、この読み間違えは大きなミスとなる。
「ここだ!!」
「ッ!?」
まだ斬りかかるには少し遠い間合いで一夏は以前、紅牙に教えてもらった瞬時加速を使用する。
その爆発的な加速が早めに振りかぶっていた得物の間合いを丁度にするとともに、ぎりぎりでの瞬時加速は鈴の意表を突く形となった。
加えて、一夏は零落白夜を起動させる。
振るわれた雪片弐型は禊の部分が開閉し、そこから、青白いエネルギーの刃が出力される。
この一撃が決まれば、一夏の勝ちといっても差支えない。そんな必殺の一撃を、鈴はまさかこのタイミングで瞬時加速を使うと思っていなかったため、対応できずについ咄嗟に目を閉じてしまう。
だが、必殺の斬撃は鈴には届かなかった。
ドガアアアンッ!!
突如、アリーナの直上から高出力のビームが一夏の真横を通過し、地面に着弾。
一夏は着弾時の爆風で、機体ごと吹き飛ばされたため、鈴に斬撃を与えることはできなかった。
「うわっ!?な、なんだ!!」
「あ、あれは何?」
一夏はハイパーセンサーを用いて、アリーナ直上の敵を確認する。
そこには、三機の黒い影――無機質で冷たい、そんなイメージを抱かせる機体がこちらに向かって降下してきていた。
三機それぞれが同じ形態をしており、特徴的なのが珍しい全身装甲と異様に巨大化した両腕。そのうちの一機の右腕から湯気のような蒸気が発せられていたため、この巨大な腕は高出力のビーム砲撃が可能だと判断できる。
「……とにかく、一夏!すぐに避難よ!」
鈴が張りつめた表情をし、一夏にオープンチャネルで言い付ける。
「避難って、鈴はどうすんだよ」
「私も一緒に逃げちゃ、こいつら追ってきちゃうかもしれないでしょ!大丈夫、無理はしないから」
「待てよ!そんなことさせられるはずがないだろう!――危ねえっ!!
「え?きゃっ!?」
一夏は咄嗟に鈴をさらうように抱え上げ、その場を離れる。
瞬間、鈴がいた場所には一筋の高熱線が奔る。
「くそ、なんて出力だよ!?紅牙のイグニスより上じゃないか?」
「っ!?と、とにかく離しなさいよ。身動きが取れないじゃない!」
鈴の言葉に一夏はパッと手を放す。
鈴は一夏の方をきっと睨みながら、
「あ、ありがとう」
と頬を少し染めながら言った。
「??お、おう」
一夏はてっきり罵声が来るものと思っていたので、調子を崩される。
『織斑君!凰さん!聞こえますか!!』
そこへ管制室にいる一夏が属する一組の副担任――山田真耶の通信が入る。
「聞こえています。とりあえず、避難したいんですけど」
『すみません。それは不可能です』
「な、なんですって!?」
鈴がありえない、といった感じで叫ぶ。
『現在、アリーナの全シールドエネルギー防壁、及び隔壁が最高レベルでロックされてしまっています。もちろんピットの隔壁も封鎖されてしまっています。そのうえ、観客席には一般生徒たちも取り残されてしまっていて、状況は最悪です』
「アリーナのシールドエネルギーは破られたんでしょ!?だったら、そこから――」
『先ほど言った通り、全シールドエネルギー防壁が最高レベルでロックされてしまっています。つまり、防壁が張り直されてしまっているんです』
鈴の反論の途中で遮るように真耶は言葉をはさむ。
「な!?どこまで敵に乗っ取られてるのよ!このバカ!!」
つい、真耶に罵声を浴びせる鈴。それに見かねた一夏が鈴をなだめる。
「お、おい鈴。山田先生が悪いわけじゃないだろう。ともかく今は逃げに徹するしかないわけだ。幸い観客席の方も最高レベルで防壁が張られてるんだ。みんなの安全は一応確保されているんじゃないか?」
『……そうですね。最高出力で展開されてしまっていますから、先ほど以上の出力でなければ、耐えられるはずです』
そう、アリーナ防壁であるシールドエネルギーは通常、八割程の出力で展開されている。そのため最高レベルで展開された防壁ならば、先ほどの威力の砲撃なら耐えられるのだ。
「つまり、俺たちがアリーナ内で逃げ続ければいいわけですね」
『……そう言うことになります。本当に面目ないです』
「大丈夫ですよ、山田先生。無事逃げ回って見せますし、それに紅牙たちもいる。そのうち何らかの手で突入してきてくれるはずだ。それまで持たせればいいだけの話です。――鈴、やれるな!!」
「……誰に言ってんのよ。私は中国の代表候補生よ?こんな奴ら朝飯前よ!」
そして、二人は通信を切り、先ほどの侵入者たちを見据える。
なぜか、通信中は攻撃してこない三機。それを一夏達は不審に思っていると、またもや通信が入る。
『織斑君、聞こえますか?』
通信相手は一夏と一緒にピットへと付いてきた氷華だった。
「氷華さんか!今、大変な状況だ!」
『それは理解しています。あと少しだけ持たせてください。おそらく一分以内には救援に向かえます』
そしてそのまま返事を待たずに通信を切られる。
しかし、今の一夏にとってこの言葉は心強かった。
一分。そう一分持たせればいいのだ。いつ来るかもわからない援軍を待ちながら逃げるより、リミットを付けてもらった方がはるかに良い。
「鈴、喜べ。一分逃げ回ればいいみたいだぞ」
すると、鈴は不敵な笑みを浮かべる。
「なによそれ?それじゃ、あの三機を破壊する暇がないじゃない」
「確かにな」
一夏も鈴に不敵な笑みを返す。
そこで、痺れを切らしたのか、三機が動き出す。
「行くぞ、鈴!!」
「わかってるわ!」
一夏と鈴は同時に飛び出し、陣形を組む。
前衛に一夏の白式。後衛に鈴の甲龍といたって基本的な陣形だが、今はそんな大層な陣形を組む必要もないし、それ以前に一夏にそんな高度な戦術的連携は行えない。
一方、敵の三機もトライアングルの陣形を組み、前方が接近、後方が遠距離砲撃を行おうとしていた。
(あの時の感覚を思い出せ!あれができれば)
思い出すのはクラス代表決定での模擬戦。
一夏はミスティック・クラッドのイグニスによるエネルギー弾を一度、零落白夜で斬り裂いているのだ。
「迷っている暇はないな。できる、できないじゃない。やるしかないんだ!」
そう叫ぶ一夏に向かって、二機の砲撃が放たれる。
「零落白夜展開!エネルギーは少し心もとないけど、行くぞ!!」
迫る二筋の砲撃。一つは機動回避し、もう一つは零落白夜で斬り裂く。
粒子ビームが零落白夜に触れた途端、まるでそこに何もなかったかのように掻き消された。
「よし、行ける!!」
一夏は確かな手ごたえを感じて、引き続き次弾に備え回避体勢に入る。
一方、鈴の方は接近してくる一機を衝撃砲で牽制していた。
巨大な図体の割に意外と小回りがいいようで、ひょいと躱されてしまう。
だが、それでいい。この牽制は当てるために撃っているわけではないのだ。
前衛である一夏に接近できないよう、一夏から遠ざけるように誘導しているのだ。
「ほらほら、一夏に近づくんじゃないわよ。一夏は……その、私のなんだから、あんたみたいなのが気安く来ないで」
一夏に聞かれぬよう、周囲への通信をカットして、そう呟く鈴。その表情はまさに恥じらう乙女であると同時に、大事なものを守るといった整然とした表情をしていた。
「鈴」
「わっ!?な、なによ」
タイミングよく一夏から通信が入り、焦る鈴。まさか聞かれていたのではと取り乱す。
「ん?どうかしたか?」
「な、何でもないわよ」
どうやら聞かれてはいなかったらしい。そのことに安堵する鈴。
「そうか。なあ、あいつらの動き、なんかちょっとおかしくないか?なんか、こう、動きが硬いというか、機械的というか」
「何が言いたいの?」
鈴が聞き返す。なぜかこちらが通信を始めると、攻撃の手を休める敵IS達。
そのことに不審に思いながらも鈴は一夏の言葉に耳を傾ける。
「本当にあれ、人が乗っているのか?」
「え?」
一夏の言っていることが一瞬理解できなかった。
「だから、あれって本当に人が乗っているのかって聞いているんだ」
そんなことはありえない。すぐさまそう反論しようとする鈴だが、待てよ?と思いとどまる。
鈴にも敵の挙動には引っかかるところがあるのだ。一夏が指摘した動きが機械的なのもそうだし、そもそも不恰好な形態がおかしい。
「確かに、おかしいわね。こうして話している時はなぜか攻撃してこないし」
でも――、そんなことあり得るのか?と考えてしまう鈴。
一夏が言っているのは、簡単に言うと無人機ではないかということだ。
だが、ISというのは人が乗ることで動くものだ。ISコアの成長には人間が不可欠とも言われている。それなのに、人が乗らずに果たして動くものなのか?
「――もし、もし仮に人が乗ってないとしたら」
「乗ってないとしたら何よ?」
「遠慮なくやれる」
一夏の真っ直ぐな発言に鈴は苦笑してしまう。
「ふふ、そうね。徹底的にやれるわね」
鈴がそう返すと同時にピットから爆発が響いた。
「氷華さんか。来てくれたんだな」
一夏が安心したようにそう呟くが、ピットから出てきた機体見て驚愕する。
「なっ!!く、黒い……白式?」
「なんで、あんなに白式と似てんのよ!?」
二者ともそれぞれ違う反応で驚く。
それもそうだ。現れたのは白式がそのまま黒に配色されたような機体がピットから出てきたのだ。二人が驚かないはずがない。
その黒い白式は瞬く間に敵の一機に近づく。
それと同時に、残りの二機が一夏達に向かって砲撃を再開する。
「ッ!!鈴、回避だ!」
「わかってるわよ!」
一夏と鈴は回避行動に移る。
が、鈴が少し出遅れたため敵の粒子ビームを掠ってしまう。
「くぅ……!!」
「鈴!?」
動きが止まる鈴にとどめとばかりにもう一射を放つ仮称無人機。
「やらせねええっ!!」
一夏は鈴の前に躍り出て、零落白夜を起動させた雪片弐型を上段に構え、一刀両断するように振り下ろす。
縦に一閃、振るわれた雪片弐型は迫りくる粒子ビームを斬り裂くことでそれを消滅させる。
そして、砲撃をしてきた二機のうち後方の方に黒い白式が迫る。
「え!?もう一機を無力化したのか!?」
次の瞬間には黒い白式が敵ISを蹴り飛ばし、残る一機の方に向かう。
接近されている残りの一機は距離を取るためか、飛び上がる。
丁度飛び上がったISの真下に来た黒い白式は腰の補助腕に似たようなものを用いて、真上にいる一機と先ほど蹴り飛ばした一機、二方向に向かって展開したアサルトライフルやマシンガンで射撃を行う。
その途中で、黒い白式の背後で三角柱のようなポッドが展開され、ミサイルをばら撒きながら上空へと射出される。
どうやら、全て誘導ミサイルの様で、敵IS二機に向かい着弾した。
着弾時の爆風と煙が辺りを包み、それが晴れると同時に――。
「ジャスト一分。時間度通り救援に来ました」
透き通るような声と不敵な笑みを浮かべた氷華がその身に黒い白式を纏い、現れた。
「す、すげえ」
「本当に白式そっくりだわ」
感嘆の声を漏らす一夏と鈴だったが、ハイパーセンサーの警告音で我に返る。
「やはり、あの程度のミサイルでは堕ちませんか。ならば、もっと激しい弾幕を差し上げようかしら」
二機の仮称無人機が動き出す。それに対し至って余裕顔の氷華だったが、次の瞬間その顔が凍り付く。
『一夏あっ!!』
ハウリング特有のキーンとした耳鳴り音が響くと同時に、小型拡声器を持った箒が先ほど壊されたピット隔壁から出てくる。
一夏や鈴、氷華までが驚愕する。なぜ、出てきたのかと。なぜ、防壁内にいないのかと。
『男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
(ちがう、そうじゃないだろ!?なんで箒がここに来るんだ!?)
(何してんのあの子!?死ぬ気!?)
(なっ!?正気ですか!!)
その場にいた三人はそれぞれ胸の内で同じようなことを言った。声に出なかったのはそれだけ驚愕しているからだ。
それだけ箒が行ったことには危険だった。
そして、案の定仮称無人機の一機が箒に向かって右腕を構える。
「あっ……」
今頃自分の危険に気が付いたのか、表情が凍り付く箒。
「くっ!!」
氷華が阻もうと両手のサブマシンガンを掃射するが、もう一機の仮称無人機が両腕の砲塔から放つ粒子ビームで邪魔をしてくるため、銃弾がそれに飲み込まれ、ほんの少しだけ着弾が遅れてしまった。
そのほんの少しが勝負を決めた。
あと一歩間に合わず、箒を狙った粒子ビームが発射されてしまったのだ。
その緋色に近い閃光はピットの方へ吸い込まれていき――。
ズドオオオンッ!!
大きな爆発音を鳴らし、爆発した。
あとがき
どうもraludoです。
今回は、少し長めの文字数でお届けします。
無人機乱入の一夏視点ですね。少し一夏を格好よく書きたかったんですけど、上手くかけているかな?
そして、最後。箒がやらかしました。
さて、箒はどうなったのでしょうか。次話で明らかになります。
誤字脱字や感想、評価等がありましたら是非よろしくお願いします。
御拝読ありがとうございました。