IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作) 作:raludo
人は得てして傲慢である。
欲望を抑え込もうとすればするほど人は光りを失い、欲望を解放すればするほど人は輝かしい光を放つ。
人というのは、自らの欲望を満たして輝く、傲慢の権化。
それは篠ノ之箒自身がよくわかっていたことだった。
かつて、己の未熟さゆえに、欲望のままその剣を振るい、餓鬼道の門を開きかけた箒にはそれが身に染みていた。
その時は何とか自分の過ちに自ら気づくことができ、その時は、もう自分の欲望を満たすためだけに剣を振るわないと誓った。
その後も己を律するために剣道をひたすら続けてきたが、それが改善されたとは到底思えない。
このIS学園に入学してかつての想い人と再会してから、それは顕著に表れていたと思う。
今思い返してみれば、自分は一夏に何をして上げたのだろう。思い出す記憶はすべて一夏を成敗する記憶。
それは一夏のせいだ。と思考に蓋をしてきたが、本当にそうなのか?と疑う自分はいつもそこにいた。
そして、実の姉にも素直になれず、邪険に扱うばかり。あの時のくしゃりと歪んだ姉の表情を見るまでは姉の想いなど微塵も考えていなかった。
ただ、気に食わないから。
そんな言葉が箒の頭をよぎる。一夏に過剰な制裁を与えてきたのも、姉を嫌い、避け続けてきたのも、すべては自分が気に食わないからではないのか。
そうやって傲慢を繰り返してきたその結果が――これだ。
「あっ……」
迫りくる高圧縮の粒子ビーム。それを前にしても、箒は存外に落ち着いていた。
今になって再認識した。自分は傲慢の塊なのだと。
欲望のままに剣を振るっていたあの時も。気に食わないものはすべて避けるか武力干渉を行う今も。
自分は何一つ変わってなどいなかったと。
それを今、箒は死を直前にしてようやく気付く。
死ぬ間際にこんなことを思うなんて、これが俗にいう走馬灯というやつなのか。
目を静かに閉じると、再びいろいろな記憶が頭をよぎる。
昨夜、一夏は箒の気持ちをわかっていると言っていた。
それは箒にとって本当にうれしかった。……だが。
「こんな私をお前にはわかってほしくないな……」
閉じた瞳から熱い雫が滲む。
(――ようやく自分の間違いに気付けたというのに。……これが報いだというのか?一夏。だったら、私は受け入れるべきなのだろうか?)
そして、今にもすべてを焼き尽くさんと、粒子エネルギーの奔流が箒を飲み込んだ――。
「なに死期を悟ったような顔をしているのよ!このおバカ!!」
「え……?」
箒は静かに目を開ける。開けると同時に滲んでいた雫が零れ落ちる。
箒の目の前には薄い蒼のISが両手を前に突き出し、高熱の熱線を受け止めていた。
よく見ると、そのISは幾重にも張り巡らされた水のヴェールをその身に纏い、まさに今、粒子ビームを受け止めている両手の先には大きなひし形の蒼いクリスタルが蒼い輝きを放っていた。
「そんな『これで終わりなんだ』みたいな顔されたら、意地でも助けるしかないじゃない!!」
「あ、あなたは……楯無さん?」
「そうよ、私は更識楯無。生徒の長である生徒会長。いい?覚えておきなさい。IS学園の生徒会長っていうのはね――」
そこで、一度言葉は途切れる。楯無――刀奈の表情に苦悶が奔る。
刀奈が纏うIS〝ミステリアス・レイディ〟は装甲が薄く、肌の露出も多い。
アクアクリスタルから放出されるナノマシンを含んだ水流で飛躍的に防御力が上昇するからと言って、この高出力の粒子ビームの熱線をその身に受けて無傷ではいられない。
「楯無さん!!」
「――この程度!」
熱線が前に突き出した両手の装甲を溶かしていく。徐々に肌が露出しその腕をじわじわと焼き尽くす。
だが、刀奈はなにも無策で飛び出してきたわけではない。
ちゃんと、策は持っていた。そう、その手に。
「アクア――クリスタルッ!!」
刀奈が叫ぶと同時に両手の先のアクアクリスタルがより蒼く発光する。
そして、勢いよくクリスタルから先ほどの比ではない高圧水流が流れ出す。
「――オーバードライブッ!!」
ズドオオオンッ!!
刀奈の言葉とともにクリスタルが爆発。その爆風は箒と刀奈を包んだ。
箒も迫りくる衝撃に身構え、目を閉じる。
が、いつまでたっても自身を襲う衝撃は来なかった。
箒は薄らと目を開ける。
「……ッ!!楯無さん!!」
箒の目の前には両手を前に突き出したまま、刀奈が座り込んでいた。
その両手はISの絶対領域があったとはいえ高熱のエネルギーにさらされ、火傷の跡が色濃く残っており、その痛々しさから箒は目を背ける。
そして二人の周囲には水のヴェールが張り巡らされていた。おそらくこのヴェールが爆風を防いでくれたのだろう。
「箒ちゃん……無事?」
刀奈から発せられた声は弱々しくも優しさが込められており、本当に箒のことを心配しているのが窺える。
「はい、無事です」
そして箒は激しい自己嫌悪に落ちる。自分の犯した罪の大きさに恐怖してしまう。
そのせいか、ついこんな言葉を漏らしてしまった。
「……どうして私なんかのためにそんな――」
箒の漏らした言葉は途中で刀奈の声に遮られた。
「さっきの続きだけれど、いい?覚えておきなさい。IS学園の生徒会長っていうのはね――常に最強じゃなければならないの。その最強が生徒の一人も守れなくてどうするのよ」
それに、と刀奈は言葉を続ける。
「本当に一夏君のことが好きなら、彼に恋焦がれているなら、彼が悲しむことするんじゃないわよ。恋を抱く乙女失格よ?」
箒はまるで頭を鈍器で叩かれたかのような衝撃に囚われた。
今更ながらに自分が生きていてよかったと。今、この瞬間、呼吸ができていることに改めて安堵する。そして、同時に思う。
私が死ねば、一夏や姉さんは悲しむのだろうか、と。
その問いの答えがわかるのはすぐ先であることを箒はまだ知らない。
アリーナ外空域にて今まさにアメリカの第二世代型IS〝アラクネ〟と青白い装甲を持つIS〝ミスティック・クラッド〟が戦闘中であった。
アラクネは蜘蛛をイメージした多脚型のISで非常に大型のISであり、機動性はお世辞にも良いとは言えないが。その八本の足を巧みに操ることにより、従来のISでは不可能なほどの運動性を発揮することができる。
だが、その自慢の足もすでに前足二本がミスティック・クラッドによって切断されていた。
そのせいか、重量バランスが崩れ、余計な姿勢制御が必要になったアラクネは本来通りの動きが不可能になっていた。
「ちっ……」
威勢よくミスティック・クラッドと対峙したのはいいものの、すでに撤退の二文字がアラクネの操縦者の心中には浮かんでいた。
というのも、自分の劣勢が明確になり、敗北の色が濃くなってきたからである。
(くそったれ。やはり第二世代ごときではあいつを落とせないか。撤退するにしても、奴がみすみす逃がすとも思えねえ。くそ、予定通りあいつに任せるしかないか)
「そこ」
短い掛け声とともにアラクネに大型の対艦刀が一閃。
「うおっと」
その斬撃を脚部に搭載されている小型のブースターでバックブーストを行うことで回避する。
「さっきから動きが鈍っているが、そんなんで大丈夫か?まあ、お前を拘束しやすくなるから別にいいが」
ミスティック・クラッドの操縦者――黒咲紅牙はアラクネに対して皮肉をぶつけてくる。
「ふん!余裕をぶっこいていられんのも今のうちだぜ」
そして、アラクネはそれぞれの足に装着されている鉤爪を展開。残り六本となった足を上手く操り、流れるような連撃をしかける。
「ふっ」
対するミスティック・クラッドは対艦刀をしまい、両腕部のミスティック・クリスタルからビームの刃を出力。その二本でアラクネの連撃を次々と捌いていく。
『オータム、こちらの目的は達成した。予定通りお前の離脱の準備に入る』
オータム、そう呼ばれたアラクネの操縦者は複雑な思いを心中に抱く。
(結局、こいつに任せるしかないのかよ、ものすごく癪だが、仕方ねえ)
もちろん通信を受けている間も連撃の手は緩めない。むしろ、足に加え両手のカービンをしまって、新しく二振りのカタールを展開。さらに苛烈に攻め立てる。
が、紅牙は涼しい顔でそれらを対処していく。
斬りかかってはいなされ、斬りかかってははじかれ、といったことを先ほどから続けている両者であったが、ここで変化が起きる。
「――な……に?」
紅牙の動きが一瞬止まる。まるで、何かに驚いているかのように。
オータムはその隙を見逃さず、脚部からネット弾を数発射出。至近距離で放たれたそれらは遮られることなく、ミスティック・クラッドに着弾する。
そして、追撃するかと思いきや、オータムは全速力でそこから離脱する。
「――な……に?」
アラクネの斬撃を防ぎ続けていた紅牙の視界は一瞬ブラックアウトし、すぐさま元に戻るが、その景色はノイズが走っていた。
それとともに各計器が異常な音を鳴らしながらアラートを鳴り響かせる。
必然と紅牙の動きも止まってしまう。
その隙を突かれ、アラクネから数発のネット弾をその身に受けてしまう。
そのままアラクネは攻撃を重ねるかと思いきや、その場を急速に離脱していく。
「零!一体どうした!!」
『システムチェック中――完了。どうやら簡易的なジャミングを受けたようです。ジャミング自体はそこまで強力なものではなく、各計器のアラートもすぐに止まります』
簡易的なジャミング。紅牙はこの単語に妙な引っ掛かりを覚えた。
はたして、IS相手にジャミングを掛けることができるのか、と。
しかし、敵のステルス機能から考えれば、ありえないことではなかった。それが、一秒にも満たない間のジャミングならばなおさらだ。
そして零の言う通り、アラートはすぐ消え、ハイパーセンサーも正常に戻ったのか、景色のノイズも消えた。
「ミスティック・システム起動」
紅牙の宣言と共に機体がビームのエネルギーに包まれる。その奔流は付着したネット弾を溶かし、行動不能状態から復帰する。
「敵機の反応は?」
紅牙は零に語り掛けるが、返ってきた言葉はある意味期待通りだった。
『反応、消滅しました。おそらく先ほどのステルスシステムを作動させたのではないかと』
それを聞き、紅牙は苦虫を噛み潰したような渋顔を浮かべる。
任務として、敵を撃退することには成功したが、捕縛することはおろか、逃げられてしまった。アリーナの方にも敵ISが侵入されてしまい、堂々と任務成功とは言えなかった。
(結果的には勝ったが、いろいろなところで負けたな、俺たちは)
あとがき
どうも、raludoです。
箒の救済?が入りました。さてはて彼女はどのように成長していくのでしょうか。
それと、楯無さん負傷により紅牙の怒りパラメーターが……どうなるのかは次回にて。
次回はほとんど事件後の後日談みたいな形式になります。え?無人機が後二機残っているだろうって?
それも、もう後日談で片付けます。二機とも手負いでしたしね。
それでは次回でまたお会いしましょう。
感想、評価等がもしありましたら、よろしくお願いします。
御拝読ありがとうございました。