IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作)   作:raludo

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第二章 銀の銃弾~シルバーブレット~
第十七話 戻りつつある日常


五月末日。クラス対抗戦乱入事件から三日後、IS学園は落ち着きを取り戻し始めていた。

 

事件直後は生徒たちも緊張状態が解けず、心穏やかに学園生活を送ることができなかったが、学園に残る事件の爪痕がなくなっていくことに比例して、生徒の緊張も解けていった。

 

未だに残っている爪痕と言えば、緊急事態により破壊された第三アリーナ東側ピット隔壁のみだが、これも学園のエンジニア志望の学生と外部のエンジニアを総動員して改修し、近日中に使用可能であるとのこと。

 

今一般生徒が自主練として利用できるアリーナは第一、第二アリーナとなるが、基本この二つのアリーナは授業兼行事用なので生徒向けに一般開放されることは少ない。しかし、それではISでの自主練ができなくなってしまうとのことで、第一アリーナのみ臨時として開放されている。

 

とは言え、専用機持ちはそんなに人数がいるわけでもなく、また、事件が起こって日がまだ浅いため、訓練用ISを申請する人物も少ないため、割と自由に使える空間となっている。

 

「ということらしいわよ」

 

「……うん、いきなりどうした?」

 

「いや、何でもないわ」

 

朝の時間帯の割にひっそりとしている食堂に二つの姿があった。

 

一つは少し癖毛なのか薄い氷白な髪を外側にはねらせている女性。

 

もう一つはやや色素の薄い黒髪をレイヤー気味にしている青年で、二人とも朝食を食べている最中だろうか。

 

これだけならば、ただの恋人同士と思うのかもしれないが、異様なのは女性の両腕に包帯が巻かれていることだった。しかも、腕全体を覆うようにして巻かれている包帯は痛々しさを醸し出していた。

 

この女性――更識刀奈が両腕に包帯を巻いているのは三日前の乱入事件の時に火傷を負ったためであった。そのため、彼女は少し日常生活で苦労していた。

 

決して動かせないわけではないが、やはり動かすと痛みを伴うもので、三日経過した今でも、その痛みに顔をしかめることがある。

 

幸い、学園には最新医療が揃っており、皮膚の再生治療を行うことによって、跡は残らないが、それでも女性の肌に火傷というのはいただけない。

 

そして、その付き添いとして隣に座っているのが世界で二番目の男性IS操縦者である黒咲紅牙。政府直属組織BREAKERSの一人で現在、篠ノ之束と織斑一夏の護衛を主としている。

 

「第三アリーナの改修もすぐ終わるみたいだし、これで事件の爪痕はすべて消えたかしら」

 

「どうだろうな。確かに物質的な爪痕は消えたが……色々思うところがあるやつもいるみたいだ」

 

そう言い、紅牙は先の光景を思い浮かべる。

 

その光景はまだ食堂に行く前のこと。今日は休日なので遅めの朝食にしようとしていた紅牙と刀奈であったが、そこに来訪者が現れた。

 

「紅牙さん。いらっしゃいますか」

 

「紅牙ー、いるー?」

 

現れたのは、煌めく金髪をロール状に巻いている女性――セシリアと活動的なツインテールが印象的である鈴だった。

 

二人とも最初は紅牙に対して余所余所しいところがあったが、今ではすっかり名前で呼び合うほどには打ち解けていた。

 

「二人そろってどうしたんだ?わざわざこんなところまで」

 

「いやー、あんた今日暇?てか、暇よね?よし暇ね。午後時間あけておいて頂戴」

 

「待て待て、話を勝手に進めるな、鈴。一体何だ?」

 

「詳しい話は後ほど話しますが、午後に第一アリーナに来ていただきたいのです。お願いします。それでは後ほど」

 

そう言い残し、二人はさっさと立ち去ってしまった。まるでこっちの意見は関係ないとばかりに。

 

「まあ、別にいいけど。たぶんあの二人のことだ。一夏もその場にいるだろうし、護衛としても問題ないかな」

 

「ふーん。彼女を差し置いてあの子たちの誘いに乗るんだ。ふーん」

 

そのことで刀奈が拗ねてしまい、宥めるのに苦労したのは言うまでもないだろう。

 

脱線したが、あの二人がわざわざアリーナに来いっていうのは、おそらくIS絡みであるのは明白。おそらく訓練しましょう、とかそのあたりだろう、と紅牙あたりを付ける。

 

「ねえ、紅牙?聞いているの?」

 

「ん?……ああ、すまない。ちょっと考え事を」

 

「む。またあの子たちのことを考えていたんでしょう。愛する妻が目の前にいるのに他の女性のことを考えるなんて不謹慎よー」

 

ずっと思考にふけっていた紅牙に刀奈は頬を膨らませる。

 

「妻って何だ、妻って。結婚しているわけじゃないだろう」

 

「それはあれよ、比喩ってやつよ。……このぐらいの冗談、許してくれてもいいじゃない、ばか」

 

ぷいっと顔を背けて子供らしい拗ねた声を出す刀奈。その姿に少しドキリとした紅牙であったが何とか取り繕った。

 

「ほら、早く続きを食べさせてよ。手が止まってるわよ」

 

そして、刀奈は目を瞑り、小さくあーんと口を開ける。

 

そもそも、現在の二人の状況を言うならば、紅牙が刀奈にご飯を食べさせてあげている最中なのである。

 

そもそもなぜそんな全国の独り身が見たらだれもが羨むような状況になっているのかというと――。

 

「紅牙。両腕が使えないからあなたがご飯を食べさせて!」

 

という刀奈の発言が原因であった。

 

最初は紅牙も拒否していたのだが、手を動かすたびに顔をしかめる刀奈はさすがに見たくないと思い、渋々了承。今に至るわけである。

 

「はあ、仕方ない。ほら、あーん」

 

「あむ」

 

定食の料理を箸でつまみ、刀奈の口に持っていく紅牙。それを、若干頬を紅潮させた刀奈が可愛らしい声を出して咀嚼。何とも桃色恥ずかしい雰囲気が漂っていた。

 

刀奈も回数を重ねるたびに恥ずかしくなってきたのか、徐々にその頬に赤みが増していく。

 

結局、この恥ずかしい行為は料理がなくなるまで続いた。紅牙は周りの視線の痛さに辟易していたのに対し、刀奈が上機嫌だったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

その日の午後、紅牙は鈴とセシリアに誘われた通り(強制)一般開放されている第一アリーナへと足を運んだ。

 

やはり、事件の影響か、アリーナにいる人影はほとんどないため、鈴やセシリアを見つけるのは容易だった。

 

そして、一緒に一夏がいるのは想像していた紅牙だったが、彼にとって一人予想外の人物がいた。

 

「氷華?お前も呼ばれていたのか」

 

「あ、兄様も呼ばれていたんですね」

 

氷華はさほど驚いている様子はなかったようで、少し疑問を抱いているだけであった。

 

「それでセシリアさん、鈴さん。そして一夏さん。私達を呼んだ理由は何でしょうか」

 

「あー、実はね、あんた達に私らを鍛えてほしいのよ」

 

「鍛える?一緒に訓練じゃなくて?」

 

紅牙は己の予想と少しずれていたため、疑問の声を上げる。

 

「どう見たって実力的にはあんた達の方が上。ならそれを利用しない手はないでしょ」

 

「護衛対象自身が力を付けたほうが、紅牙達もやりやすいんじゃないか?」

 

鈴と一夏、両者とも何ともイイ顔で理由を述べる。それも眩しいほどに。

 

(こいつらいい根性してやがる)

 

と、紅牙は内心で感心していた。まさか、自分がここにいる理由を利用されるとは思ってもいなかった。

 

「話はわかりましたが、なぜ急に?……何か理由があるのではないですか?」

 

氷華は真剣な目で三人を見つめる。その視線は心の奥底まで見通すような、冷たい光を放っていた。

 

(……氷華のやる気に火が点いちまったか)

 

紅牙は静かに心の中で合掌をする。その理由も次第に明かされていくことだろう。

 

「あの時、私は己の無力さを呪いました。ですから、あなた達に鍛えてほしくて」

 

静かに拳を握りしめ、悔しそうに唇を噛みしめるセシリア。彼女は先の事件にて、管制塔いたので、戦闘に介入できず、機体相性、そして本人自身の戦い方が現場の状況にふさわしくなかったため、何もできなかった。おそらくそれが悔しいのだろう。

 

「私も頼むわ。あの時は正直、氷華が来てくれなかったら、やばかったから。せめて自分の身は自分で」

 

そう言う、鈴の瞳にも静かな炎が揺らめいていた。

 

「……守りたいからさ、みんなを。今はまだ弱いけど、そんなことで諦められるほど俺は往生際が良くない」

 

断固とした決意を胸に秘める一夏。

 

「ふむ、いいでしょう。私が直々に訓練を見てあげましょう」

 

三人の想いに納得したのか、氷華は静かな笑みを浮かべる。

 

「そして、ここで三人の末路が決まった」

 

「「「え?」」」

 

突然、紅牙が呟いた言葉に疑問符を浮かべる三人。だが氷華は――。

 

「いやですね、兄様。さすがにこの人たちにあんな真似はしませんよ……たぶん」

 

ボソッと最後に呟いたのは無視していいだろうか?そんな思考が頭をよぎる。

 

「え、えと、どういうこと?」

 

何やら物騒な雰囲気を感じ取った鈴が他の二人を代表し、おずおずと氷華に問いかける。

 

「俺は氷華に操縦技術を教わったんだ。その厳しさに――死にかけたこともあったな」

 

答えたのは氷華ではなく、紅牙であった。それも何とも言えない笑みを浮かべて。

 

「「「し、死にかけた!?」」」

 

「まあ、頑張れよ。とはいっても、さすがに氷華が三人分の訓練を見るのもつらいだろう。……一夏、お前は俺と訓練だ」

 

「いよっしゃああああっ!!」

 

一夏は紅牙の言葉に歓喜の言葉を上げる。そんなに死にかけたくないのか、と紅牙は思うが、一夏の言葉は紅牙の悪戯心を刺激した。

 

「――喜ぶのはいいけど、俺の訓練が易しいなんて誰も言ってないぞ」

 

「えっ!?」

 

一夏の顔がみるみる青くなる。その変わりようがおかしかったので紅牙はくすくすと笑い、一夏の襟を引っ掴み、ずるずると引きずっていく。

 

「や、やめろ!一人で歩けるし、逃げないから!!だから、引きずるのはやめてーーー!?」

 

一夏の断末魔がアリーナのピットに響き渡る。それを聞いたセシリアと鈴は顔を真っ青にして、ゆっくりと氷華の方を見る。

 

そこにはイイ笑顔を浮かべた氷華がじりじりとにじり寄ってきていた。

 

「いやあ、久しぶりに鍛えがいがある人達ですね。ふふふ、本当にやりがいあります」

 

「「い、いやああっ!?」」

 

再度、アリーナのピットに女性の悲鳴が響き渡った。事情を知らぬ人が見れば、お化け屋敷と勘違いするのではないだろうか。

 

「弾幕姫の通り名の由来、しっかりとわからせてあげます」

 

氷華の地獄の特訓はここから始まった。

 

 

 

 

「いいか、一夏。お前が優先すべきことは二つある。敵の懐に潜り込む機動技術。そして、確実に仕留める近接格闘能力。この二つだ」

 

アリーナグラウンドにてピットから移動してきた一夏と紅牙が先ほどの雰囲気など、どこ吹く風といった感じにガラリと表情を真剣にし、話し合っていた。

 

「うーん、近接戦闘についてはそこそこ自信があるんだけどな」

 

剣道を嗜んでいたことがある故、一夏は自分には近接戦闘に覚えがあるという。

 

しかし、紅牙はこの答えを一蹴した。所詮一夏の持っている技術は剣道によるものだ。通常剣道は平等な立場で行われるものだが、IS戦に平等の二文字は無い。機体がお互い違う時点でそれは明白だろう。

 

「お前に覚えてほしいのは、確実に入る一撃だ。お前の武器はそれで勝負がつくようにできている。だから、無駄に打ち合う必要はない。というか、打ち合うな。零落白夜は使えば使うほどこちらの首を絞めるアビリティだからな」

 

「一撃っていっても、どうすればいいんだ?」

 

「何、簡単なことだ。お前はまだそこまで巧みな機動技術は扱えない。それは仕方ない。――なら、近づかないようにして斬ればいい」

 

「へっ?」

 

一夏が素っ頓狂な声を上げる。紅牙の言っている意味が分からないようだ。

 

確かに、遠くにいて斬るというのは理解できないだろう。だが、紅牙は――。

 

「お前の雪片弐型ならできるはずだ。ヒントは出力調整だ」

 

「……まさか!!」

 

一夏は紅牙の言葉に驚く。それほど紅牙が考え付いたことは突飛なアイデアだった。

 

「まあ、それは後ほどやるとして、まずは機動技術だな。お前に一つ教えておこうと思っていることがあってだな」

 

そう言い、紅牙達は訓練に入っていく。一方、離れたところからは終始爆音と悲鳴が絶え間なく響き渡っていたことに二人は全く意識を傾けることはなかった。

 

 

 

 




あとがき

こんにちは、raludoです。

テストなどがあって忙しく、なかなか更新ができませんでした。すみません。

今回は日常回ですね。鈴とセシリアにとっては災厄な日(誤字ではあらず)かもしれませんが。

次はお待ちかね、箒の回を予定しています。気になっていた人はお楽しみに。

それでは次回でまた会いましょう。

御拝読ありがとうございました。


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