IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作)   作:raludo

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第二十話 銀弾製造――クリエイション

――カツ、――カツ。

 

無音の静寂に包まれた薄暗い廊下に響く軍靴の鉄音。それは、規則正しいリズムを刻み、柱時計の刻音を思わせ、無常観を誘う。

 

――カツ、――カツ

 

その鉄音は止むことを知らず、しばらくの間、その廊下に響き渡らせた。

 

そして、唐突に鉄音がピタリと止まる。柱時計が壊れたかのようにその音は消え去ってしまった。

 

「IS配備特殊部隊〝シュヴァルツェ・ハーゼ〟隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。只今参上いたしました」

 

「入れ」

 

ピシャッと自動ドアの開く空気音が鳴り、その人物――ラウラ・ボーデヴィッヒはその中へと歩を進める。

 

ラウラを一言で表すなら〝銀〟。この言葉がしっくりくるくらい彼女の風貌は怜悧さを隠せなかった。長い銀髪。感情を思わせない冷えた表情、どれをとっても。

 

「リヒャルト・ゲオルク中将。お久しぶりです」

 

その部屋の中ほどまで進んだラウラはビシッと敬礼を行い、再会の賛辞を述べる。

 

リヒャルト・ゲオルク。ドイツ軍IS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの指揮官を務める人物であり、壮年のがっしりとした、いかにも軍人らしさを醸し出している、ドイツ軍の中でも指折りの人物である。

 

「うむ。少佐も息災のようだな。さて、さっそくだが、本題に入ろう。少佐は近日中に日本に赴く。その際の極秘任務を与える」

 

「極秘任務……でありますか?」

 

ラウラは多少の困惑を隠せず、つい聞き返す。

 

「そうだ。少佐が件の男性操縦者に浅はかならぬ因縁があるのは承知している。が、これは個人の感情に優先されない任務だと心得よ。……なに、そう難しいことではない」

 

リヒャルトはくつくつと笑いながら、こう告げた。

 

「件の男性操縦者、織斑一夏と戦い、そして――負けろ」

 

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒには恩師とも呼べる人物がいた。

 

ラウラはいわゆる試験管ベイビーと言われる、特殊な生まれ方をした人物である。その名も遺伝子強化試験体〝アドヴァンスド〟。生まれる前から遺伝子調整を行い、『常人よりも卓越した頭脳を、常人よりもはるかに凌駕する身体能力を』をコンセプトにした一種の人体改造である。

 

この計画は現在ではもう行われていないが、IS出現前は先進国で躍起になって行われていた。形こそ違うが、黒咲紅牙の受けた最強戦士計画もアドヴァンスドに通じる部分はある。過酷さ、非人道さでは圧倒的に最強戦士計画の方が凄まじいが。

 

話は逸れたが、アドヴァンスドとして生まれたラウラは生来から軍人として教育された。アドヴァンスド成功例のため、スポンジに水を吸わせるかのごとく、戦闘技能を習得していった。

 

本格的に陸戦部隊に配属されてからは、その本領を発揮し、トップエースと呼ばれるに至った。

 

しかし、そんな彼女に不幸が起きる。

 

ISの登場。それの適合能力向上のため左目に移植された疑似ハイパーセンサー〝ヴォーダンオージェ〟、それがラウラの体には適応しなかったのである。理論上では失敗のリスクは提唱されていなかったが、彼女の左目は金色に変色し、ヴォーダンオージェの力、視覚伝達の高速化と高速機動での動体視力向上と言った、超人的な力を制御できなくなってしまったのである。

 

その結果、作戦行動に支障をきたすほどの影響を及ぼし、たちまちラウラはトップエースから出来損ないへと滑り落ちた。

 

それは彼女にこれとない屈辱を与えた。他人からは嘲笑われ、軍令部からは罵倒の嵐。ラウラは生きていくことに、自分の存在理由に疑問を持ち始めた。

 

――兵器として、常人を超える超人として生まれたのに、常人以下に扱われる。……私の存在理由とは何なのだ?私は……なぜ、生まれた?――

 

それは彼女の心、まだ兵器に染まりきっていない彼女本来の心に決して癒えない傷を作った。

 

しかし、その傷を埋めることができる人物がラウラの目の前に現れた。

 

――織斑千冬。そう、かの有名な世界最強を誇るIS操縦者であった。

 

諸事情により彼女がIS教官としてドイツに赴任してきた時から、ラウラの人生が少しずつ変わる。

 

織斑千冬の指導は完璧だった。それはまるで魔法のように、ただその指導に必死についていくだけで、ドイツ軍のIS操縦者は飛躍的にその力を伸ばすことに成功した。そして、それはラウラも例外ではなかった。

 

千冬の鬼のような外的な戦闘訓練がラウラの左目――ヴォーダンオージェの制御を可能としたのである。ここまでくればもう、彼女が底辺で立ち止まる理由はなくなった。

 

それからはアドヴァンスドの潜在能力もあってか、他の操縦者を軽く追い抜き、軍内部の操縦者でも一位、二位を争う実力にまで返り咲いた。

 

当然、ここまで導いてくれた千冬にラウラは感謝の念以上の感情を抱いた。そう、恩師とも呼べる人物である千冬の一番弟子を誇るラウラはその先――千冬にとっての一番になることを夢見た。

 

今は無理でも、このまま指導についていき、しっかりとした実績を残し続ければ、教官もきっと……。そんな思いを抱きながら必死に千冬についていった。

 

しかし、ラウラの心の傷を埋めたのが織斑千冬ならば、再びその傷口を抉ったのも――織斑千冬であった。

 

「ラウラ。貴様はなぜ強くあろうとする?」

 

「教官?それは……概念的なお話でしょうか?」

 

「ちがう。主観的な意味で聞いている」

 

「なぜ、と申されましても、強くなくてはならない。それが兵器として生み出された私の存在理由ですが」

 

「……なら、言いたくはないが、その〝ただの〟兵器がなぜ一番にこだわる?貴様は兵器としての実力ならば、すでに基準値以上だ」

 

「はっ、ありがとうございます」

 

「問いに戻るが、なぜ強くあろうとする?なぜ他者よりももっと、と力を追い求めている?ああ、言っとくが兵器だから、と言う理由は私の前では何の説得力もない」

 

「……わかりません。が、漠然とした理由なら思いつきます」

 

「それは何だ?」

 

「私が軍のエースから出来損ないの底辺に転がり落ちたのは教官も知っての通りです。その時でしょうか。強さに存在理由を求めました。だってそうでありましょう。私は元来兵器となるために生まれています。教官がなんと言おうと、これは変わらない事実であります。そんな私が常人より落ちぶれていたとあっては、私は何のために生まれたのですか?」

 

「……」

 

「存在理由。それが欲しいがために私は強く、そして一番であろうとしているのかもしれません。先ほども申しました通り、漠然とした理由ですが」

 

「……そうか。しかし、ラウラ。この際だからはっきりと言わせてもらう。今の貴様では一番になどなれはしない」

 

「!!……なぜでしょうか」

 

「貴様自身の器が兵器である以上、強くはなれても、一番など到底見えない話だ」

 

「器……?なぜですか?確かに世界最強である教官を差し置くことはおこがましいですが、それでも全くありえない話ではないはずです!いや、差し置かずとも、私は教官にとっての一番強い弟子になれれば……!!」

 

「良いか?ラウラ。私より強いやつなど、探せば出てくるだろう。話はそういう外的要因の話ではない。……今のお前ならば、私の弟にも劣るかもしれんな」

 

「教官の弟……でありますか。恐れながら言わせてもらいます。私が一般人である教官の弟に負けることはありえません」

 

「そう思い込んでいる時点で、お前はあいつより弱いだろう」

 

「くっ……!なぜですか、教官!!私は、私は……!!」

 

「……お前は誰だ?ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「えっ……?」

 

「この問いに答えられるようになるころには――お前が一番になれない理由がわかるようになるだろう。……長話をしてしまったな。では、訓練に戻れ。ラウラ・ボーデヴィッヒ大尉」

 

「くっ……。了解しました教官」

 

ラウラの一番になりたい。その想いを真っ向から叩き潰した千冬。それは少なからずとも彼女の心を再び斬り裂いた。

 

その後、千冬は一か月後に日本に帰国してしまった。ラウラに何も告げず。

 

「教官は弟には勝てないと言った。ならば……その弟――織斑一夏に勝てば、教官も私が一番になれることを認めてくれるはずだ。……見ていろ、織斑一夏。私は兵器としての意地を掛けて、貴様を倒して見せる!」

 

強さのその意味も知らず、ラウラは突き進む。その果てに何があるかなど、気にもせずに。

 

ラウラは一発の銃弾となった。差し詰め、銀弾と言ったところか。

 

 

 

 

「なぜですか、中将!?なぜそのような任務が……!!」

 

ラウラは激昂を抑えきれずにリヒャルトに詰め寄る。

 

織斑一夏に負けろ。それはラウラにとって到底できそうにない任務であった。

 

(織斑一夏は倒さなければならない人物。倒さなければ教官には……!!それを負けろどと?ふざけるな!!)

 

内心でラウラはその任務内容に毒を吐く。それを知ってか知らずか、リヒャルトはつまらなそうにラウラを一瞥し、言い放つ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。いつから貴官は命令に口出しできるようになったのだ。自分の身分を思い出せ。貴官はいつから〝人間〟より偉くなったのだ。貴官は〝兵器〟であろう。それを弁えろ」

 

「……了解、しましたっ……」

 

リヒャルトはラウラのか細い返事を聞き、先程の表情から一変させ、ニマニマと笑みを浮かべる。

 

リヒャルトはラウラの存在理由を逆手に取り、兵器としての心得をラウラに教えた。千冬がいなくなった後、強くなるために必死だったラウラにリヒャルト自身が都合の良い、いわば駒を作るためにラウラの意識を変えていったのだ。ラウラにしても、強くなるために必死だったため、自分の身になりそうなものは何でも身につけた。それが自身を弱くする地雷だと知らずに。

 

「そう。それでいい、少佐。なお、学園に行くまで貴官のISは軍部の開発機関のメンテナンスを受けてもらう。受領は学園に向かう日の当日だ」

 

「はっ」

 

ラウラは瞳の色を無くし、ただ茫然と返事をする。その姿からは先ほどの激昂が全く感じられなくなり、虚無感ばかりが漂う。

 

「うむ。話は以上だ、少佐。持ち場に戻りたまえ」

 

「はっ、失礼します」

 

平坦な声で敬礼をし直し、部屋を後にするラウラ。暗闇の廊下は彼女の姿を瞬く間に掻き消してしまった。

 

 

 

 

ラウラはこうして再び一発の銃弾となった。中身が空っぽな銀弾に。

 

 

 

 

「……厄介だな」

 

「どうしました、織斑先生。……ああ、例の転入生の件ですか。確か織斑先生はその生徒と面識があるそうですが」

 

場所は変わり、IS学園職員室。そこには当然、教師である織村千冬と山田真耶の姿があった。

 

千冬は一枚の書類を難しい顔で睨み、真耶はそんな彼女のためにコーヒーを差し出す。

 

「どうぞ、織斑先生」

 

「ああ、済まない、山田君。どうにも面倒くさいやつが来るのでな」

 

「め、面倒くさいって」

 

教師が生徒に対してそんなことを言っていいのかな、と真耶は苦笑する。無論、口には出さないが。

 

「はあ、また面倒を起こすのだろうな。特に織斑に対して。何とかならんのだろうか?……いや、待て?これはもしかしたら使えるかもしれん」

 

「何がです?」

 

突然、千冬が悪人面で笑みを漏らしたので、気になった真耶は千冬に問う。

 

「ふふふ、喜べ山田君。どうやら仕事が減りそうだぞ」

 

「???」

 

一人、ニヒヒ、と聞こえてきそうなほどの悪人面で笑い出した千冬に、真耶は戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

 

またまた場所は変わり、IS学園生徒寮。そこのとある一室。

 

「これは……何かしら」

 

その部屋には流水のようななめらかで艶やかな髪を持つ女性、更識楯無と。

 

「……は、ははは」

 

これ以上にないほどの冷や汗を量産中の黒咲紅牙の姿があった。

 

 

 

 




あとがき

ハーメルンよ!私は帰ってきたああ!!……ゲフンゲフン。

どうも、raludoです。久々の更新でつい興奮してしまいました。申し訳ない。

予定では四月投稿再開予定でしたが、それより早く更新することができそうだったので、投稿しました。

今回はついに第二章が動き始めます。ちょいとここらでラウラに対する補足を入れておきましょう。

Q:〝アドヴァンスド〟って?

A:強化遺伝子素体のことです。原作では第五巻でマドカにラウラがそう言われていますね。まあ、今回の話で記載したアドヴァンスドのコンセプトは完全に独自解釈なので、ご注意を。

Q:ラウラの教官LOVEが変わってない?

A:たぶん変わっています。ここも原作乖離と言うことでよろしくお願いします。原作と違う点は、千冬になりたいのではなく、千冬の一番、もしくは世界最強になる=千冬に認められる。と言った具合に改変しています。

Q:なんかラウラが傀儡化してんだけど。

A:今後の話にご期待ください。まあ、軽く説明いたしますと、力に貪欲だったラウラに都合のよい〝兵器〟としてのアドバイスをリヒャルトが吹き込んだということです。強くなるにはこうあるべきだぞ、みたいな感じでそそのかして。

いまいち文章表現が足りず、よくわからなかった読者様。申し訳ありません。今後も精進いたしますので何卒ご容赦を。

ラストのシーンは次回への布石です。お楽しみに。

それでは次話でお会いしましょう。

御拝読ありがとうございました。感想等ありましたら、よろしくお願いします。

追伸 打鉄弐式の完成はもうしばらくお待ちください。
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