IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作)   作:raludo

23 / 28
第二十一話 震える瞳、揺れる瞳

六月――外気温が着実に高くなってゆき、それに伴って湿度もじわじわと上昇の一途をたどるこの季節、生徒の士気は湿度と反比例に下がってゆく。上昇する湿度が生徒の士気を根こそぎ奪いさり、そこに怠惰と惰性を置き去りにする。

 

そんな気だるい季節の中、生徒会長である更識楯無も例外ではなく、上昇する気温と湿度に嫌気がさしていた。

 

「あ~、もう。なんなのよ、この暑さは。夏の日差し顔負けの暑さじゃない。いえ、夏は幾分かカラッとした日差しだけど、この季節独特の暑さにはいつまでたっても好きになれそうにないわ……」

 

生徒会室の自分の机にべたー、と体を預けながら、漫然とした手付きで生徒会の実務をこなしていく楯無。見た目はだらけているように見えても、仕事のスピードはそこまで落ちておらず、なんだかんだと言って何事にも真面目に取り組むのが、楯無の美点であった。いや、生徒会長として矜持がそれを許さないのか。

 

IS学園の生徒会長は一般の高校の生徒会長とは少し毛色が違う。まず、生徒会長の選抜方式。ここからすでに一般とは異なる方式を採っている。

 

――学園最強。この称号がIS学園生徒会長と同義なのである。つまり、学内の生徒で一番の実力を持つものが生徒会長に就任するのだ。そして、その権限は多岐にわたる。学園方針の関与。IS訓練授業の参加有無。学園内のみでの一部警察権、などまさに一般の生徒会長が持てぬ権限まで与えられるのがIS学園の生徒会長なのである。

 

その生徒会長、更識楯無が実務を行う机には二つのノート端末が配置されてある。一つは生徒会長としての〝表向き〟の端末。もう一つは対暗部としての裏の顔を持つ彼女の仕事用端末であった。

 

そこに軽い電子音を伴い、一通のメールが届く。

 

届いたメールは仕事用の端末、つまり、対暗部としての彼女に届いたメールと言うことになる。

 

先程のだらだらとした態度から一転。背筋を伸ばし、メールを確認する前にノート端末にウイルスプロテクトを掛ける。

 

「……誰かしら?この端末のアドレスを知っている人物はそう多くはないのだけれど」

 

覚えのない差出人のアドレス。楯無は訝しみながらも、警戒心を最高レベルまで引き上げながら、まずはいつものようにウイルスチェックソフトを立ち上げ、それをメールにはしらせる。

 

そして、異常がないことを確かめ、そのメールを開く。

 

中は一つの添付ファイルと簡易的な暗号化を施された文章だった。暗号化された文章ということは他に見られたらまずいという証拠。その事実がさらに彼女の警戒心を煽る。

 

「とりあえずは添付ファイルからかしらね。……これは……画像ファイル?」

 

任意のソフトを指定し、画像ファイルを開く。――そして彼女の顔が凍り付いた。いや、時が止まったかのように動かなくなったというのが正解か。

 

警戒心に満ちた表情が徐々に色を失い、無色の表情――無表情へと変わる。

 

その間、湿度で温くなった生徒会室は最低温度でクーラーを入れたかのように気温が下がった。これが比喩なのかそうでないのかも、分からなくなるほどに。

 

それから我に返った彼女は、表向きの完璧超人、更識楯無の顔ではなく。一人の恋する乙女、更識刀奈の顔になっていた。

 

それから、暗号化された文章をさらりと解読し、文字に写す。その文章はこう綴られていた。

 

『拝啓 憐れな子猫様

 

あなたの大事な大事な人、黒咲紅牙はこの私が寝取らせてもらいました。証拠の画像も添付として送ってありますので、ご確認を。

 

いやー、やっぱりあなたより私の方がいいみたいだね。あなたばかりがリードしていくから、こっちも焦っていたんだけど、まあ、結果は見えてみたみたいだね。ははは。ご愁傷様♪

 

                      スーパーラブリィ篠ノ之束ちゃんより』

 

もちろん、この文章には多大な嘘が込められている。確かに紅牙は束と口付けは交わしたが、ナニはいたしていない。が、先に証拠とかかれた画像――紅牙と束の口付けシーンを見てしまった刀奈にはこれを疑うという考えが浮かばなかった。ただひたすらに鬼の形相で文章を読み、そして、にこやかな笑顔を浮かべるだけであった。

 

「ふ、ふふふ。はは、はははは」

 

その笑顔も決して瞳は笑っておらず、嫉妬、憎悪、怒り、悲しみ。それらを長時間煮込んだような、ドロドロとしたどす黒い感情をそのまま表したかのように鈍く光っていた。額には青筋が浮かび、ひたすら乾いた笑いを漏らしていた。

 

と、そこへ――。

 

「会長、失礼いたしま――すみません。失礼いたしました」

 

間が悪いとはこのことか。何の因果か、彼女の守り刀である布仏虚が刀奈に所用があり、生徒会室を訪れたのだが、刀奈の状態を見て、これはやばい、逃げよう。とそのまま生徒会室を後にしようとした、が。

 

「ふふ、ふふふふふふ。虚ちゃん。ちょーーーといいかしらぁ?」

 

「い、いえ、お嬢様の邪魔をするわけにはいきませんのでっ。これにて失礼しまっ――!!」

 

いそいそと生徒会室から脱出を試みる虚だが、それは叶わず、瞬間移動でもしたかのように、刀奈が虚の肩をがっちりと掴む。

 

「別に逃げなくてもいいじゃなぁい?少しお話に付き合ってほしいんだけど?」

 

黒い感情が溢れる笑顔で、なおかつとても優しい声色で刀奈は虚に語りかける。が、虚にとってはその状態が恐怖でしかなく、思わず膝が震えてしまうほどであった。

 

(これは……もうダメだわ。本音、ごめんなさい。お姉ちゃんは先に逝くわ)

 

己の死期を悟ったかのように、虚は残された妹に心の中で語りかける。その時の虚には走馬灯が見えていたという。

 

 

 

 

――キィン――

 

金属同士がぶつかり合う金属音がアリーナに響き渡る。その音は一度や二度ではなく、数えるのも馬鹿らしくなるほど、長い時間響き続けていた。

 

金属音が響き渡るアリーナには二機のISがアリーナ上の大空を飛び回り、己の得物を交わらせていた。

 

一機は真っ白な純白。それよりも白い、まさに白色の化身と呼ぶに相応しい外見をもつIS。名を〝白式〟という。

 

加えて、もう一機も白を基本としているが、その白色はやや青みがかかっており、ブルーホワイトというのが正しい表現だろう。

 

「もう一度だ」

 

「せやあああっ!!」

 

青白い機体――〝ミスティック・クラッド〟を駆る黒咲紅牙が白式――織斑一夏にかかってこいと言わんばかりに、自身の剣、ミスティックセイバーを肩に担ぐ。

 

一夏は言われた通り、紅牙に向かってスラスターから推進剤を吹かしながら、雪片弐型を居合に構え、突撃する。

 

自分の間合いに紅牙が入ったことを確認するや否や、空気の抵抗にできるだけ逆らわぬよう、風の流れに平行になるよう意識して、腰に構えた居合を放った。

 

それと同時にスラスターから推進剤とともにエネルギーを放出し、瞬時加速を敢行する。

 

抜刀術の中で最速を誇る居合斬り。そして、それを放つ寸前での瞬時加速。その二つが組み合わさることにより、一夏が放った居合斬りは通常の二倍近い速さで、相手を斬り裂こうと、その刀身を鈍く光らせる。

 

『斬撃速度、先程より一割増です。回避行動を推奨しま――』

 

「大丈夫だ」

 

対して紅牙は、〝零〟の警告に特に慌てもせず、化け物じみた反射神経で肩に担いだミスティックセイバーを振り下ろす。

 

――ガギィンッ。

 

お互いの刃がぶつかり合う音が響き、両者は反動で少し後ずさる。

 

『相変わらず、恐ろしいほどの反射神経と反応速度ですね。機械(私達)よりよほど卓越しているのではありませんか?』

 

「こんなもん、欲しくて手に入れたものじゃないんだけどな」

 

『???』

 

「いや、気にしなくていい。――それよりも一夏、なかなか鋭い斬撃になってきたじゃないか。あとはどれだけ空気抵抗を減らして振れるか、だな。何も刀身にだけ空気抵抗がかかるわけじゃない。それを振るう腕にも等しく掛かることに注意するんだ」

 

――空気抵抗。空中機動戦を行うのならば確実といっていいほど問題になる代物である。

 

斬撃を放つにしても、高速で移動するにしても、すべてこれが障害となって操縦者を襲う。これをいかにして減らせるかが、空中機動戦のカギになってくるであろうことは、想像に難くない。

 

「空気抵抗か。どうやったら軽減できるんだろ?それこそ無くすことなんて不可能だし」

 

「それは自分で考えることだ、一夏。抑える方法は教えた。あとはどう派生させていくかはお前次第だ」

 

紅牙はそれだけ言うと、訓練は終わり、とばかりに装備を解除してピットに戻って行ってしまった。

 

(普段ならもう少しアドバイスなり、手解きなりしてくれるんだけどな、今日は調子が悪かったのか?まあ、考えていても仕方ないか。俺も部屋に戻るとするかな)

 

紅牙のつれない様子に少し疑問を持ちながらも、一夏は白式を解除。紅牙と同じくピットに戻っていった。

 

 

 

 

今日は朝から嫌な予感がした。

 

そう胸中で溜息と共に漏らしたのは、先ほど一夏の訓練を行っていた、黒咲紅牙。先日、故意ではないとはいえ、想い人である刀奈以外の人物と口付けをしてしまった人物である。

 

どこか嫌な予感が頭から離れず、一日を無駄に緊張状態で過ごした紅牙は夕方になり自室へと戻ろうとしていた。

 

「でもまあ、俺の思い過ごしみたいだな」

 

結局その日は何も起こらず、目新しいことと言えば、明日転入生が来るということだけであった。これについても、こちらはすでに調べがついており、また、千冬自身から『明日から織斑から離れるな』と密着ボディーガード指示があったため、転入生の詳しい情報はすでに手に入れていた。本来ならば千冬はBREAKERSに命令できる立場ではないが、だからと言って、好き勝手にやっていては後々やりづらくなるため、現場の意見として取り入れることにしている。

 

(それにしても、上手く厄介者を押し付けられたな。あの時の織斑先生、とてつもなく〝イイ〟笑顔をしていたし)

 

実際の所、紅牙が想定している以上の厄介を押し付けられているのだが、それはまた別の話。

 

今日あっためぼしいことはこれぐらいか。と、今日の出来事を回想していると、自室の前に到着。何とはなしに扉に手を掛けようとしたところで。

 

「!?」

 

悪寒が電撃のように全身を駆け巡った。言い換えるなら第六感というやつだろうか?

 

(な、なんだ?今の悪寒は。なぜかはわからないが、この部屋に入ってはいけない。そう本能が告げているのか?あり得るとしたら……侵入者か?いやいや、それならば氷華や対暗部のプロである刀奈がすぐに気が付くだろうし、なんなんだ?)

 

数瞬ほど紅牙は思考したが。結局現状では何の解決にもならなかったので、警戒しながら扉を開けた。

 

部屋にいたのは刀奈であった。

 

内心で安心しながら紅牙は、やはり気のせいかなどと考えながら刀奈に声を掛けるべく近づく。

 

そして、今まさに声を掛けようとしたところで、ふと気が付く。

 

(……おかしいな。刀奈なら俺が部屋に入ってきた段階、刀奈のほうから寄ってくるのに。俺に気が付かないなんて。それに心なしか部屋の気温が低い気がする。それも刀奈に近づくほど寒気を感じるのはなぜだ?)

 

思考と感覚は上手く相容れぬもの。紅牙は後にこのことについて、そう語った。いくら本能が危険を伝えていたとしても、理性ある人物ならばそれを思考で蓋をしてしまう。故に理性あるものは危機感に疎い。言葉でしか、数値でしか危機を感じ取れない。これなら野生児の方がましかもしれない、と。

 

「……あら、紅牙?帰って来ていたのね」

 

こちらに背を向けたまま、優しい声音で語り掛けてくる刀奈。二度も言うがこちらに背を向けずに、だ。

 

ここでようやく紅牙は明確な〝危機〟を感じ取った。肉体的な脅威ではなく、精神的な脅威を。

 

紅牙は背筋が寒くなると同時に、異様に冷たく感じられる室内で滝のような冷や汗を流していた。かと言って、ここで無視するわけにもいかず、刀奈に返事を返すことにした。

 

「お、おう。ただいま」

 

やや突っかかりながらも、帰宅の辞を述べる。そんな紅牙を知ってか知らずか、刀奈は机にあらかじめ置いておいた一枚の紙を紅牙に見せる。その行動の間も刀奈は俯いており、その表情は確認できない。

 

「ん?――なっ」

 

紅牙は言葉を失った。その紙には紅牙にとって一番知られたくないものが写されていたからである。

 

「――ねえ、紅牙。これはあなたから――したの?」

 

ふるふると体を震わせながら、刀奈は平坦な声で問う。

 

「これは……なにかしら?」

 

その声と体を震わせていることから、紅牙は刀奈がこれ以上にないほど怒っていることを自覚する。

 

「……は、ははは。いや、これは決して俺から――」

 

「――じゃダメなの?」

 

「え?」

 

紅牙の言い訳じみた言葉を遮り、刀奈を己の体を紅牙にぶつける。いきなりの体当たりに紅牙はバランスを崩し、後ろに倒れ込む。その上を刀奈が覆いかぶさるように――いや、しがみつくように、必死に縋るように体を密着させる。

 

「刀奈?一体何を――んっ!?」

 

紅牙の問いかけを遮り、刀奈を己の唇を紅牙の唇に重ねる。紅牙からの発言は許さないとばかりに、彼の口内をひたすら蹂躙する。

 

――一体どの程度時間が過ぎたのだろう。紅牙は刀奈になされるがまま、詳しく言うのならば、刀奈との口付けに魅了され動けなかったというべきか。

 

ようやく唇を離したのは、それから五分以上も経ってからであった。

 

それでも、そのまま密着した状態が続く。しかし、目を合わせようとせず、俯いたままである。刀奈の肩の震えは止まることなく、先程よりも大きく揺れているようにも見える。

 

「……私じゃ……ダメなの……?」

 

「え……?」

 

刀奈がゆっくりと顔を上げ紅牙の目をしっかりと見据える。

 

「……っ!!」

 

紅牙は思わず息を飲む。刀奈の瞳は涙に揺れ、今にも零れ落とさんとばかりに必死にその大海を堪えていたからである。

 

ここにきて紅牙は一つの勘違いに気付く。

 

先程から肩を震わせているのは怒りによるものかと思っていたが、とんだ勘違いであった。

 

(最悪だな……俺)

 

先程から刀奈が肩を震わせていた理由。それは紅牙がたった今認識した通り、怒りなどではなく、〝不安〟であった。もしかしたら紅牙がいなくなるかもしれない。紅牙が離れていってしまうかもしれない。刀奈は最初こそ怒りを感じたが、件の画像を見ているうちにそれが段々と不安に転化されていった。

 

あんな子供染みた文章でも、読んでいるうちに、本当に書いてある通りなのではないか。相手はあの篠ノ之束。もしかしたら、もしかしたらとマイナスの方向に思考が傾いてしまっていた。

 

「ねえ……?私のキスじゃダメなの?……私じゃ……ダメなの?」

 

か細く、か弱く。散りかけの花のように震えた声で、溢れだしそうな大洋を必死にこらえた涙声で、刀奈は必死に紅牙の体にしがみつく。

 

(ああ……くそ。何やってんだ、俺は!!)

 

紅牙は思い切り刀奈の体を抱きしめる。今までも何度か抱きしめたことは何度かあるが、ここまで刀奈の体が小さく感じられたのは初めてだった。そのことが余計に紅牙を腹立たせる。刀奈に対してではなく、自分に対してである。

 

「――あっ……」

 

力強く抱きしめられ、紅牙の胸元に顔を埋める刀奈。抱きしめられた衝撃で瞳から涙が溢れるが、それは零れることなく、紅牙の制服に染みを作った。

 

「そんなことないさ。俺にとっての一番は刀奈だ。それは昔から変わらない。あの時、君がいてくれたから、今の俺がある。君のおかげなんだ。俺が俺でいられるのは」

 

紅牙はさらに強く刀奈を抱きしめる。安心させるように。俺はここにいる、と示すかのように。

 

「束さんの件は不可抗力なんだ。そりゃ、行為自体は否定しようがない。束さんにも多大な恩があるし。見ての通り、好意を持たれている。それ自体は俺も純粋に嬉しい」

 

だけど、と紅牙は続ける。

 

「だけど、俺は――ここにいる。自分の、自分自身の想いでここにいるんだ。それに――」

 

そう言い、今度は紅牙の方から唇を重ねる。刀奈は紅牙の胸に両手を置き、上目づかいをするかのように下顎をくいっと紅牙の手で上げられ、口付けをされる。

 

一瞬だけ刀奈は目を見開き、そして安心したのか、頬を赤く火照らせながらも、求めるように目を閉じる。

 

やがて、どちらからともなく唇を離す。お互い顔を桜のように染めながらも、微笑み合う。刀奈に至っては目がとろん、と魅了されたかのように呆然と、しかし、その顔にはしっかりとした笑みが浮かんでいた。

 

「……ほんと……よね?」

 

「ああ」

 

刀奈は一つ一つ確認するかのように、ゆっくりと紅牙に問いかける。

 

「私の方が……いいのよね?」

 

「そうだ」

 

「私じゃなきゃ、いやなの……よね?」

 

「もちろんだ」

 

「え、えへへ。私も紅牙とじゃなきゃ、いや」

 

刀奈は紅牙の制服を握りしめたまま、もう一度唇を重ね――。

 

 

 

 

――ようとしたが。

 

「ちょ、ちょっと待ったぁ~~~!!」

 

思わぬ乱入者が現れる。その人物は特徴的なドレス、具体的には不思議の国の少女のようなファンタジックなドレスを纏い、これまた特徴的な鳶色の長髪をなびかせ、またまた特徴的なウサミミのバンドのようなものを頭にはめた女性。――ここまでくれば人物断定は容易い。この状況を作り出した張本人、篠ノ之束であった。

 

「え、なに?なんなの!?あれ!?私の蒔いた種がものすごいことになって回収されてる!?え?ええ!?なんなのこの状況はあああ」

 

いきなり部屋に乱入してきたかと思えば、吃驚仰天と言ったように頭を抱えながらその場をくるくると回り出す。よく見たら眼もくるくると目を回したかのように、渦を巻いていた。

 

「ぐすっ……何の用よ、篠ノ之束」

 

あなたに紅牙は渡さない、と言わんばかりに紅牙をぎゅっと抱きしめながら、涙の残る瞳でジトリと束を見据える刀奈。不謹慎だが、紅牙はこの様がお気に入りの玩具を取られないようにしている子供の様に見えて、内心で可愛いなあ、と微笑んでいた。

 

「くっ、コウにそんな風に抱き付いて、羨ましいっ……!!じゃなくて、なにコウに手を出しているのさ!!」

 

「そんなのあなたに関係ないじゃない。紅牙は私と一緒にいるの。あんなので揺さぶろうたって、もう引っかからないんだからね!」

 

「ぬぐぐっ。ならば、決闘しようじゃないか!!私が負ければ今回は大人しく引き下がる。でも、私が勝ったら、コウは渡してもらうよ!!」

 

「いいわよ。その勝負、乗ったわ」

 

まるで子供の喧嘩だな、と他人事のように内心で呟く紅牙。そもそも、紅牙を巡っての争いなのに、その本人がこのように他人事なのはどうかと思うが。

 

「で?勝負の方式は何?」

 

「ふふん。普通に勝負したんじゃ、私の勝ちは見えているからね。ここは猫にもチャンスがあるようにフェアな勝負にしようじゃないか」

 

ふふーん、と腰に手を当てながら、自慢げに胸を張る束さん。その大きく実った果実が胸を張るたびプルンと揺れるのだが、今この時点でそれに魅入ってしまっては、また刀奈が泣き出しかねないどころか、矛先が自分に向くことが容易に想像できた紅牙は、スッと目線を束からずらす。今この時点ではそれが良策であろうと信じて。

 

それを敏感に察知したのか、刀奈は先程とは違い、胸だけを押し付けるように抱きしめる。刀奈も束ほどではないにしろ、歳に不相応なモノを持っているのは確かなので、その柔らかな感触が、紅牙の自制心を揺さぶる。

 

「勝負の方法は――ズバリ、妹自慢勝負!!」

 

紅牙達のやり取りに気付かないのか、自信満々で勝負内容を発表する束。最近はそういう少し天然なところが出てきたなあ、などと紅牙はほのぼのと思っていた。

 

「いいわよ。何よ、楽勝じゃない。待っててね、紅牙。軽くひねりつぶすから。そのあと……続きを……ね?」

 

少し照れているのか上目遣いで、てへへといった感じで笑いかけてくる刀奈。体勢もそのままだったためか、紅牙は押し付けられている胸を強く意識してしまい、柄にもなく見惚れてしまう。

 

そこでようやく二人の状態に気が付いたのか、束が憤慨の声を上げる。

 

「こ、こら!!まだ勝負も始まってないのにイチャイチャするんじゃない!!なんて羨まし――じゃなかった、とにかく離れなさい!!離れろっての!!~~~そっちがそうなら、私だって!!」

 

うがー、と可愛い雄叫びを上げながら座り込んで抱きしめ合っている紅牙達に突撃。空いている紅牙の背中に抱き付き、自慢げに刀奈を見る。

 

これが勝負の合図になり、二人は夜明け近くまで紅牙に抱き付きながら、お互いの妹自慢を始めた。

 

(たまには、こういう風に和気藹々とするのもいいな。――でも、気を付けないと。もう刀奈の涙は見たくない。しっかりしないと。今は違っても、俺は刀奈の守り刀だったんだから)

 

翌日から始まる激務の前に、紅牙は今一度、自分がここにいる意味。この二人の女性について意識を改めた。

 

翌日の銀弾との邂逅に備えて――。

 

 

 

 




あとがき

こんにちは、raludoです。

当初の予定ではギャグで済ます予定だったんですが、書いているうちに、こんなに砂糖だらけになってしまった。何故?

しかも八千字オーバー。本当に当初の予定では五千字くらいのギャグ回にしようと思っていたのに。何故?

でも紅牙と楯無さんの甘い展開は日頃書きたかった展開でもあったので、それが爆発したのかな?

あ、虚さんは生きています。ご心配なく。

次から銀髪さん登場。第二章も核心に入っていきます。

中身のない、されど中身を欲している銀弾はこの学園で何を見つけるのか。

続きは次話以降にて。お楽しみに。

それでは御拝読ありがとうございました。感想等、誤字脱字ありましたら、報告していただけますと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。