IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作)   作:raludo

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第二十四話と第二十三話のタイトルを一部変更。こちらの方がしっくりくるので。


第二十四話 固まる心、崩れる心 後編

 

――3

 

IS学園のアリーナ。そこで対峙する重厚な黒のISと神々しい白のIS。お互いに視線がぶつかり合い、火花でも出ているのではないかと錯覚してしまう。

 

――2

 

白いIS――白式を駆る織斑一夏は、己の得物である〝雪片弐型〟を正眼で構える。ゆっくりと深く呼吸を繰り返し、集中を高める。

 

――1

 

対する黒いIS――シュヴァルツェア・レーゲンを駆るラウラ・ボーデヴィッヒはしっかりとした構えはとっておらず、身構えるだけに留まっている。ある意味では舐めているととれる。だが、一夏はそのような解釈をしなかった。

 

舐められている。確かにそうなのだろうと一夏は思う。たかが一、二か月ISを運用した相手に職業軍人であるラウラが本気で掛かってくるとは思わなかった。それに舐められていると思うことこそ、自分が相手と同等以上の力を持っていると過信することと同義である。生憎だが、今の一夏は自分を過信するということはなかった。伊達に訓練という名のフルボッコ大会を潜り抜けてきたわけではない。自分の力は自分が一番知っている。

 

――GO!!

 

故に、カウントゼロ時から一夏は本気で攻めた。様子見だとか、牽制だとか、そんなものは今の自分に必要ない。相手との実力差にかなりの差があるのだ。最初から本気でいかなくてどうする。

 

両者がお互いに向かって加速する。一見同じ行動をとったように思えるが、内容は全く違った。

 

ラウラはカウントゼロと同時に背部と脚部バーニアを吹かしたが、その時にはもう、一夏の駆る白式は〝目の前〟にいた。

 

「なっ!?」

 

ラウラはあわてて体を急反転。半身でかろうじて一夏の突撃を躱す。

 

一夏のやったことは何も難しいことではない。スタートと同時に瞬時加速による突撃を行ったのだ。しかも、きっちり零落白夜を起動させて。

 

一夏は今までの訓練から自分の実力がどれだけ周りから離されているかを身に染みるほど思い知った。箒も鈴も皆、一夏を置いて成長していく。それが一夏には耐えられなかった。

 

いつか見た夢のような空間。自分だけが周りと隔離され、誰にも認識されない空間。あれを体験してから一夏の意識はかなりの変化を遂げた。今までの受け身の姿勢から、積極的に学ぶ姿勢にシフトしたのだ。それだけに訓練やISの知識にはかなり貪欲だった。授業が終われば即IS訓練。夕食の後は寝るまで同室の黒咲紅牙や代表候補生たちとIS談義。それだけでも一夏の本気さが窺い知れる。

 

故に開幕の必殺突撃は必然だったのかもしれない。決して油断できない相手。舐められている、とは思わない。それこそ自分が相手を侮っている証なのだから。下手な小細工など必要ない。自分には必殺の刃があるのだから。それを信じて最初から全力全開でいけばいい。

 

結果としては避けられてしまったが、一夏は特に気にすることもなく次の斬撃を放つため、姿勢制御を行い――再びラウラに向かって加速した。しっかりと零落白夜は斬撃時を除いて解除している。

 

「くっ!?」

 

いきなりの突撃にぎりぎりのところで回避したラウラは即座に姿勢を安定させ追撃に備える。左の腕からプラズマのブレードを出力させ、それを手刀のように構える。

 

「はああああッ!!」

 

一夏はラウラに近づき、居合の要領で雪片弐型を振るった。否、振るおうとした。

 

「な、なんだ。体が……」

 

ラウラに近付いた一夏は、ラウラとあと五十センチというところで不意にぴたりと〝停まった〟。一夏のすぐ目の前には広げられたラウラの右手があった。

 

「エネルギー反応?――なんだよ、それ」

 

「ふっ、知らないか。勉強不足だな、織斑一夏」

 

ラウラはそう言い残し、左手のプラズマブレードを一閃。それが一夏に直撃するも、一夏は動かない。いや、動けないのだ。しかも斬撃を受けているにもかかわらず、ピクリとも動かないのだ。ここまで来て、一夏は一つの答えを導き出す。

 

「ぐっ……!!これは、第三世代兵器……か?がはっ!?」

 

「ほう?だが、分かったところでどうしようもあるまい。――悪いが、このままやらせてもらう」

 

会話をしている間にも、一閃、二閃と左手のブレードが一夏に振るわれる。その間も依然として一夏は動けないままである。

 

くそったれと、一夏は内心で毒づく。結局、この状態だ。始まって数分も経っていないのに、もうチェックメイトとばかりに追い詰められている。自分は全然成長していない。前にすら歩けていないじゃないかと、一夏は斬撃に打ち震える体とは対象に悔しさを込めた言葉を胸中にばら撒いた。

 

何か、何かあればいいんだ。この事態を打破できる何かが。それだけでいいと、つい無い物ねだりをしてしまう。じわじわと削られるシールドエネルギー。それを眺めながら、情けないなと、一夏はどこか他人事のように思った。結局は実力が足りておらず、白式の機体性能をもってしても、その差は埋められなかったということだ。

 

ふと、視線をラウラに向ける。ラウラは無表情で、退屈な作業でもしているかのように淡々と左手を振るっていた。その瞳には何も映っておらず、一夏にも、もう興味はないとばかりに、ただの機械と化していた。

 

 

 

 

――ふざけるなよ……。

 

 

 

 

そんなラウラの態度が……一夏の心に火を灯した。

 

 

 

 

「う、ううう、うああああああああッッ!!!!」

 

一夏は思い切り叫ぶ。なんで俺は〝こんな〟奴にいいようにされているんだと、〝人〟の目をしていない奴に負けるのかと。

 

許せるわけがない。一夏は激昂した。だってそうだろう。一夏は第二回モンドグロッソの件でラウラが自分に対して恨みを持っていると思っていた。事実、恨みかはわからないが、何かしらの悪感情をラウラが一夏に持っていたのは確かだ。だから、この模擬戦でもそれなりの覚悟を持って臨んだ。なのに、いざ蓋を開けてみれば、この目だ。何も映していない瞳。試合前には確かに宿っていた感情が、今は何もない。それは舐めているだとか、そういうレベルではない。

 

――これは明らかな侮辱である。

 

「む、まだ抵抗するか。――ならば、これで」

 

ガチャッ、と右肩のレールカノンが音を立てて下にスライドされる。砲身は一夏の顔面に向けて。

 

「うおおおおおおッ!!白式っ!!」

 

だが、一夏はそれに怯みもせず体を動かそうと全身に力を入れる。

 

動け。動けよ。動くんだ。そして――進むんだ!!前に!!こんなやつには――負けられない!!

 

――うん。いいよ。イチカ……行こう。

 

一夏は誰とも知れない少女の声を聞いた。懐かしいような、ただ忘れているだけのような、そんな声を。

 

 

 

 

「な、なんだ、それは……」

 

今まさに肩のレールカノンの砲弾を発射させようとしていたラウラは、驚きの声を上げる。

 

一夏が、白式が光を放っているのだ。白く淡い、柔らかな光を。それと同時にギギギッと少しずつ白式が動いている。正確に言うならば、こちらに近づいてきているのだ。

 

そんな馬鹿なと、ラウラは胸中で驚きの声を上げる。今まさに白式に対して起動しているシステム。名を〝アクティブ・イナーシャル・キャンセラー〟略称をAICという。そのAICは簡単に言うならば慣性停止結界。PICの応用で極小範囲の慣性を停止させるという機能を持っている。そのため白式は動かなくなったのだが、それを今、そんな理屈を蹴っ飛ばすかのように少しずつ動いているのだ。感情論でどうにかなるようなシステムではないのにもかかわらず、である。

 

「くっ、だが、これを撃てば」

 

ラウラはレールカノンを発射させる。先ほどまでプラズマブレードで切り刻んでいたのだ。相手のシールドエネルギー残量ならば一撃で残量をゼロにできるだろう。

 

――だが、レールカノンから放たれた砲弾は白式に当たることなく、空を切った。

 

それどころか、白式はその場から消えていた。

 

「なっ、どこに……上か!!」

 

ラウラはハイパーセンサーのアラートで白式の場所を認知する。が、それはあまりにも不可思議であった。一体いつの間にAICの束縛を振り切って上昇したのかと。そもそもなぜAICの束縛を逃れることができたのか。ラウラの疑問は尽きないどころか、次々と浮上する。

 

そして、最大の疑問点は今もなお、白式が淡く輝いていることだった。一体どういう原理なのかはわからないが、おそらくあの発光状態にAICを解く力があったのだろう。ラウラは乱れる思考の中、かろうじてその答えに至った。

 

一体、なぜこんなことになっているのか。それは今のラウラには到底わからないことだった。だが、わからないものは仕方ない。目的は当初から変わらない。織斑一夏を倒す。それだけである。もうこのタイミングでしか、それを成すことができないのだから。

 

 

 

 

レールカノンの砲身が眼前に構えられる。だが、存外に一夏は落ち着いていた。自身から、いや白式から溢れるこの淡い発光はとても暖かく、それだけで昂ぶっていた感情がクールダウンする。悪い意味ではなく、むしろ良い意味で一夏〝落ち着いた〟。

 

――いけるよ、イチカ。イチカと〝私〟なら、AICなんて敵じゃないよ。

 

「ああ、そうだな」

 

一夏は自分の頭に響く声に、誰にも聞こえない声量で頷きを返す。AICとやらは、生憎何のことかわからないが、おそらく先の第三世代兵器の名称だろうと、自己完結する。それに、やっとわかったのだ。この少女の声が。この少女が誰なのかを。

 

「飛ぶぞ、〝白式〟!!」

 

背部のウイングスラスターを盛大に吹かしながら、一夏は何の束縛もなく、軽やかに上空へと飛び立つ。それとすり替わるように一夏の元いた場所には高速の弾丸が撃ち込まれた。

 

上空に飛び立っても白式の発光状態は維持されたままであった。これがどういう状況なのかはわからないが、好都合。一夏は前向きにそう考え、再びラウラに向かって、雪片弐型を肩に担ぎながら加速する。

 

AICを抜けたことによる驚きで数瞬の間、固まっていたラウラだったが、すぐに思考を切り替えたのか、リアアーマーに格納されていた四本ワイヤーブレードを射出する。

 

射出された四本のワイヤーブレードはそれぞれ時間差で別々に動き、一夏を襲う。が、今の一夏には届かなかった。

 

――右、左……その次も左だよ。

 

「ああ、わかってる!」

 

頭に響く少女の声と一夏自身が予測したワイヤーブレードの軌道が一致する。つまりは完全に見切っているのである。日々の訓練の成果もあったが、何より今のラウラの攻撃は焦っているのか読みやすいのだ。

 

次々飛来するワイヤーブレードを雪片弐型で切り払い、小刻みなブースト運用で危なげながらも躱していく。そして、四本目のワイヤーブレードを躱すと同時に一夏は再びラウラに向かって急加速。

 

「うおおおおッ!!」

 

雪片弐型を両手で肩に担ぎ、〝自分〟の有効圏内までラウラに接近する。淡い光が先ほどより薄くなってきているが、そんなものは関係ないとばかりに一夏は突撃する。

 

「くッ、今度こそ!!」

 

ラウラは再びAICによる束縛を試みようと右手を前に突き出す。だが、その停止結界が一夏を捉えることはなかった。

 

一夏はラウラに接近する段階で先ほどのAIC有効範囲をある程度把握していた。さっき捕まったのはラウラの前五十センチの位置である。もっとも有効範囲はもっと広いかもしれないが、生憎と第三世代兵器というのはどれもこれも集中力をかなり必要とする兵器である。ならば、今のラウラならそこまで有効範囲は広くないはず。一夏はそう予想していた。

 

なら、あれが使えると、一夏は心の中で一人ニヤリと笑った。勝機が見えたとばかりに。すると、一夏の心のうちを読んだのか、例の少女は楽しそうに笑う。

 

――いいね、それ!さすがイチカだね。

 

――だろう?これならやれる!

 

同じように心の中で少女に語りかける一夏。これで勝利への方程式はできた。あとは計算ミスをしないようにするだけだ。

 

「紅牙直伝!――〝ライトニング・ムーブ・二連〟!!」

 

突き出された右手の前二メートルほどのところで一夏は、自身の右斜め前に向かって進路を変える。そして、すぐさま直角に近い軌道制御を行う。雷のようにジグザグと。それが丁度ラウラの右手のAIC有効範囲を躱すような軌道となったのだ。

 

「な、んだと……」

 

ラウラは信じられないものを見るかのような目で一夏を見る。ありえない、なぜ貴様がその技術をと。データではそんなものはなかったはずだと。

 

もちろん、一夏も最初から〝ライトニング・ムーブ〟が使えたわけではない。紅牙との特訓で会得した機動技術である。練習段階では成功率四十パーセント未満であったが、今回は何とか成功したようだ。ちなみにこの技術、曲がる回数が増えれば増えるほど、その難易度も倍近く増していく。今の一夏では二連が限界であった。これを教えた紅牙は、五連は余裕と聞いた一夏は軽く顔が引きつったそうだ。

 

そのライトニング・ムーブを惜しげもなく披露し、効果的に運用できた一夏は、両手で肩に担いだ雪片弐型を勢いよく振り下ろす。必中を確信した一夏は、スラスターと共に自分の全体重をその一撃に乗せた。

 

「ぐっ!まだ!!」

 

ラウラは最後の抵抗として、リアアーマー残されていた二本のワイヤーブレードを射出する。これにはすでに得物を振りかぶっている一夏は対応できず、直撃を確信した。思わず目を瞑ってしまう。だが――。

 

――大丈夫。そのまま振り下ろして。

 

少女の声が頭の中を反芻する。それが聞こえるだけで妙な安心感を覚える自分に対して、それでいいのかと、苦笑したくなる一夏だったが、その声を信じて雪片弐型を――零落白夜を振り下ろす。

 

普通ならば、一夏に吸い込まれるように射出されたワイヤーブレードはそのまま一夏を切り刻み、そのシールエネルギーの残量をゼロにする。……かのように思われた。

 

――キィン。

 

妙に甲高い金属音を鳴らし、そのワイヤーブレードは何かにぶつかったように弾かれた。何かとは何なのか?答えは必然と一つしかない。

 

「ば、かな……」

 

ラウラは信じられないものを見るかのような目で一夏を呆然と見る。だってそうだろう。ワイヤーブレードは白式が纏っている淡く青白い光に阻まれたのだから。そんな非現実的な現象を認められるほど、ラウラには余裕がなかった。

 

そして、そのまま固まってしまっているラウラに、情け無用とばかりに白光の剣が振り下ろされた――。

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴る。結果はもはや語る必要もないだろう。そのぐらい、明白な勝敗だった。

 

「ラウラ」

 

一夏はその場でうなだれるラウラに視線を向け、静かに話しかける。時間的に夕暮れで、沈みゆく夕日がラウラを照らすが、惨めさを増してしまっているのは誰の目にも明白だった。

 

「どうして、やめたんだよ」

 

無言のラウラに一夏は一度ため息をつき、言葉を続ける。

 

「お前にとって、この模擬戦は意味があるんだろ?だから、わざわざ俺を誘った。もちろん俺も覚悟していたさ。お前は俺と戦う理由があるからな」

 

けど、と一度言葉を切り、ラウラを睨むように、冷たい瞳で見下ろす。

 

「お前の戦いっていうのは、あんなものなのか?あんなやる気のない目で、何が得られるっていうんだ。そんなもの、例え俺に勝ったとしても、何も手に入らないだろう。ただ虚しいだけじゃないか」

 

ビクリと、ラウラの体が震える。一応話は聞いてくれているみたいだと、冷たい瞳とは裏腹に素朴な感想が出てくる。

 

「もう一度、戦う意思を思い出せよ。思い出したなら、その時はまた模擬戦をしよう」

 

そう言い残し、一夏は踵を返し、ピットへと歩を進める。土を踏む音が次第に遠くなり、アリーナは静寂に包まれる。が、ラウラはその場から動かなかった。いや、動けずにいた。

 

勝たなければならなかった。どうしても。負けるなど論外の話だった。少なくともラウラにとっては。

 

くしゃりと顔を歪ませ、必死に涙を堪えるラウラ。地面に手を付きその土を握りしめる。

 

事実上、ラウラが一夏に勝つチャンスはなくなったも同然だ。もうすぐ行われる学年別トーナメントでは、何の意図かはわからないが負けろと言われている。それ故、幾度も模擬戦を申し込むというのもできない。八方塞がりであった。せめて、模擬戦の一回で完璧に勝利したかった。公式戦では任務のため勝つことは不可能なのだから。

 

ラウラの唯一の支えであった一夏打倒。そして教官であった織斑千冬に認めてもらうこと。それを失ったラウラの心はガラガラと、音を立てて崩れ落ちた。

 

「ふ、ふふ、ははは」

 

ラウラはその場で空を仰ぐ。乾いた嗤いが喉を掠めるように口から漏れる。瞳は夕日に照らされているにもかかわらず色を失い、煌きを無くす。その目尻には一筋の涙が浮かべられ、つう、と頬を伝った。

 

その状態のラウラを、紅牙はピットから眺めていたが、やがていたたまれなくなったのか、目を背け、すでにピットを後にした一夏達の後を追う。一方、一夏達は先程の白式の現象に興奮しているのか、ワイワイと賑やかな雰囲気を作り出している。氷華の提案で、あとで束博士に伺おうという話になったため、皆急ぎ足で行ってしまった。

 

「これが、〝勝者〟と〝敗者〟の差……か」

 

紅牙の複雑な感情を孕んだ呟きは誰にも聞こえることなく、夜の闇へと紛れていった。

 

 

 

 

 





あとがき

raludoです。実はこの話を上げるのにびくびくしていました。

人によって賛否が出るかなあと、思いまして。まあそんなこと気にしてたら作品を投稿できなくなってしまうので、頑張ります。

次回はおしえて!束さん!!的なお話です。白式の現象解説とラウラのその後も書く予定。

戦闘描写が読みづらいかもしれませんが、今後もっとよくなるよう、練習しますのでご容赦ください。

それでは次回にてまたお会いしましょう。

ご拝読ありがとうございました。

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