IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(旧作) 作:raludo
あれは確か私――更識刀奈が十七代目楯無に襲名されるよりも前。そう、あの事件よりも前の話だ。
当時、十六代目楯無であった母の命令で自分と簪ちゃんに護衛として守り刀が付くことになった。
私は更識家の者――身内かなんかだと思っていたが、母から渡された資料を目にして驚愕した。
――何せ、私と同い年の外部の少年だったからだ。
私は気になり、彼のことを調べてみることにした。
まだ十二歳であったが、それなりの伝手と訓練を受けていたこともあり、彼の経歴を洗うことができた。
だが、その結果は異常だった。
親の職業から先祖までの家系、どれを調べてみても何もなかったのだ。
これ以上調べても何も出てこない。と判断した私は調査を断念。それに、母が直々に私に付ける守り刀だ。ただ者では無いはずだし、信用ができない輩でもないのだろう。そう思い、私は結局彼と会って確かめるほかなかった。
え?何を確かめるかって?そんなの決まっているじゃない。彼が私を守るに値するか、よ。
ついにその日が来た。
初めて彼を見た印象は〝儚い〟だった。
今にも消えてしまいそうな雰囲気を出しながら、見ていて痛々しい作り笑顔を浮かべる彼を見て、胸が痛かった。
なぜ、彼はこんなにも儚げなのか?その理由は分からなかったが、原因はその翌日に少しわかった。
私は見てしまったのだ。
更識家の女性守り刀に虐待されているのを。
――今、この世はISの登場により、急速に女尊男卑の世界になりつつある。
私はそこまで意識していなかったが、中にはそれをいいことに男性を小間使いする女性もいる。
そして、それを今目の当たりにしているわけだが、問題はそこではなかった。
彼は〝笑顔〟で虐待されていた。あの儚げな笑顔を必死に顔に張り付けて。
まるで、その笑顔を崩したら彼が消えてしまう。そんな予感――いや、確信に近いものが私にはあった。
だから、私はすぐさまその現場に行った。
「私の守り刀に何をしているのかしら?」
「あ、刀奈様。いえ、この身の程知らずに少々教育を――」
「教育なら私がするわ。あなたは仕事に戻りなさい」
「……わかりました。刀奈様」
女性守り刀はどこか不満げな顔で仕事に戻った。
「申し訳ありません。刀奈様。無様な姿をお見せしました」
相変わらず儚げな笑顔を顔に張り付け、私に頭を下げる彼。
その痛々しい姿を見て、私は彼を何とかしてあげたい。そう思った。
理由は分からないが、そんな気持ちにさせられた。こんなのは初めてだ。
「……私の前でその笑顔はやめなさい。笑うのなら、もっと心から笑いなさい」
「……」
彼は黙り込んでしまった。
「笑えないのなら、笑えるまで付き合うわ。だから、まずは諦めないこと。男なんだから根性を見せて頂戴?」
「なんでそこまで……」
「明確な理由なんか無いわ。強いて言うなら、あなたのこと、気になるから、かしら」
そう。間違ってはいない。こんな気分にさせられるのは恐らく私が少なからず彼を気にしているところがあるからだろう。
「……君は――」
「?何か言ったかしら?」
ぽつりと彼が漏らした言葉。それを私はよく聞き取れなかった。
「いや、何でもない」
「ふふ、口調が素に戻っているわよ?」
「……あ」
すぐさま彼は謝ろうとするのだが。
「別にいいわ。そっちが本当のあなたなのでしょう?なら、二人きりの時は無理して口調を変えなくていいわ」
「……はは、やっぱり君は――温かいな」
「え?」
「いや、何でもないよ。――改めまして、俺の名前は黒咲紅牙。君の守り刀だ」
その時の彼の笑顔は儚い笑顔でなく、本当の笑顔だった。
今思えば、この時だったと思う。この事件をきっかけに私は彼のことを好きになったんだと思う。
ちょうど彼が来て、三カ月が経った。私は暗部としての初任務で、とある人物を追跡することになった。訓練は積んでいたので、手順もわかっていたし、下調べも済んでいた。
もちろん彼も同行した。私の守り刀なので任務に同行するのは当然だ。
だが、イレギュラーが発生した。
更識――特に十六代目楯無に対しての不満、恨みを持った者が反乱を起こしたのだ。
元々十六代目楯無である母は、襲名されると同時に内部を徹底的に正した。
いくら更識家と言っても内部には甘い蜜を吸おうとしている者はいる。
母はそれらを全て処罰した。おかげで彼らからの恨みを買うことになった。
今回はそれがイレギュラーとなったのだ。
追跡中のため人気のない裏路地でその反乱分子に襲撃されたのだ。
腐っても彼らは元更識の暗部にいた者たち。隠密に関しては常人よりはよほど戦える。
そんな奴らに囲まれた私たちは正直大ピンチと言ってよかった。
「……なんであなた達がここにいるのかしら?」
私は元更識家のエージェントたちを睨みながら問いかける。
「それはもちろんあなたを確保するためですよ。あなたさえ手に入れればあの女は成す術を無くす。あの女はあなた達姉妹を溺愛していますからね」
そう言いながらじりじりと私に迫るエージェント達。数は前方に三人、左右に二人、そして後方に五人の十二人。私と紅牙の二人で相手するには数が多かった。
だが、先に動いたのは彼だった。
紅牙は後方にいたエージェントの顎を蹴り飛ばし、昏倒させる。そして、その隙をついて彼は懐から短刀を取り出すと、もう一人のエージェントの首に投げる。
ここまで僅か二秒。私を含め誰もが茫然としている。
そして、いち早く現実に戻った私が呆気にとられている前方のエージェントに向かって飛び蹴りを放つ。的確に顔面を捉えたそれは昏倒させるのに十分だった。
そして、残りの二人も今まで培ってきた戦闘技術で昏倒させる。
そこで、ふと異変に気付く。他のエージェントたちが一向に攻撃してこないのだ。自分にはいくらでも隙はあったはずなのに。
だが、それも彼――紅牙の方を見ることで異変の正体が発覚した。
そこには、九人のエージェントが転がっていた。すべて首を掻っ切られて絶命している。
「こう、が?」
その中心には返り血を浴びて、もの悲しそうにこちらを見ている紅牙。
そして、わかってしまった。読み取れてしまったのだ。紅牙の心情が。
紅牙は守り刀としての務めを果たした。だが、その力は異常だった。
紅牙としては普通に外敵を排除したのだが、明らかにこちらを見て怖がっている刀奈。
紅牙は悟ってしまった。ああ、やってしまった、と。
それと同時に激しく自分に対して怒りを感じていた。守る対象に恐怖を抱かせてどうするのだと。
とりあえず、もう話すことはできないと勝手に思い込んでいた。
こんな化け物なんかと――。
ここまで正確に読み取れたわけではないが、少なくとも私の前から去ろうとしている。
ズキリ。
胸が痛んだ。それも強烈に。
紅牙が背を向ける。
「ま、待ちなさい!」
彼は歩き出す。
「だ、ダメ!待って!」
彼は歩みを止めない。
「お願いよ!私の前からいなくならないで!!」
言ってみて、やっと理解できた。あの時からずっと気になっていたこの思い。
そして、彼は――。
セシリアと一夏との模擬戦当日。
俺と一夏、箒は第三アリーナのピットにいた。
「紅牙は専用機を持っているんだよな。てことは紅牙が最初だな」
そう。一夏の専用機が遅れているのだ。
アリーナの借りられる時間も限られているのであまり試合を遅らせるわけにはいかないので、先に俺がセシリアと戦うことになるだろう。
「黒咲君。準備をお願いします」
山田先生のアナウンスが響き渡り、俺はカタパルトの方へ向かう。
「紅牙」
一夏が俺を呼び止める。
「なんだ?」
「勝てよ」
「もちろんだ」
「負けたら承知しないからな、紅牙」
箒も笑みを浮かべている。
「ああ。自分がどれだけ過信しているか、あのお嬢様に見せつけてくるよ」
そうだ。代表候補生ごときで天狗になっているセシリアの鼻っ面を折る。そして、それを糧にもっと強くなってもらわねば、いくら護衛がいるって言っても、限界がある。
俺は密かにそんな思いを胸に秘めながら、IS〝ミスティック・クラッド〟を展開する。
青白いブルーホワイトが全身を覆い、ブルーホワイトとブラックのツートンの翼が背中に左右四枚ずつ、計八枚展開される。
「零、 行けるな」
『もちろんです、マスター。抜かりはありません』
機体をカタパルトに接続。射出カウントをスタートさせる。
――さあ、行こう。あのお嬢様の過信をBREAK(破壊)するために。
そして、カウントがゼロになり、俺はピットから射出された。
「待たせたな」
アリーナにはすでにセシリアがおり、IS〝ブルー・ティアーズ〟を展開させて、待機していた。
「ふん、レディーを待たせるなんて。これだから男は……」
相変わらず、一々癇に障る言い方だな。
「まあ、いろいろあってだな。それよりも準備はオーケーか?」
「ええ、大丈夫でしてよ。……まったく噂しか聞いていないのでどなたかは存じませんが、あなたと付き合っている女性が理解できませんわ。こんな男のどこがいいのでしょう?まあ、どうせその女性もろくでもない人なのでしょうけど」
……何?
待て、今のはさすがの俺でも我慢できないぞ。
こいつは今なんて言ったんだ?
刀奈がろくでもない奴?ふざけるな。
「……別に俺のことは好きなだけ罵倒すればいいさ。だけどな、彼女は関係ないだろ。何の権利があって侮辱しているんだ?ふざけるのも大概にしろ」
俺は殺気を出し、セシリアを睨む。
「っ!?な、なんですの?この殺気は」
セシリアが狼狽えているが、今は関係ない。
『マスター、怒るのもいいですけど、任務のこと忘れないでくださいね』
「大丈夫だ。頭は冷静に動いているから。護衛の件もちゃんと考えている。セシリアに怪我はさせないから」
まあ、自分の実力がどれほどなのか身をもって知ってもらうけどな。
そんなことを考えていると、試合開始のブザーが鳴った。
「よくわかりませんがこれでお別れですわ!」
セシリアは先手必勝とばかりに〝スターライトmk.Ⅲ〟を構え、放つ。
だが、それは虚空を走る。
「なっ!?」
一瞬にして消えた。少なくともセシリアにはそう見えたのだ。
しかし、ハイパーセンサーのおかげか、すぐに、敵を察知して砲撃を続ける。
「へえ、それなりに反応できるんだな」
俺は初弾を全速力で躱し、相手の頭上に向かって飛んでいた。
『どうするのですかマスター?刀奈嬢のように〝手加減〟します?』
「言い方が悪いぞ、零」
俺はセシリアの銃撃を躱しながら、零と話す。
『自爆特攻なんていう、あなたの〝素〟で戦ってしまう相手です。十分手加減かと』
「……。今回は手加減なしだ」
『了解です、マスター。〝ミスティック・クリスタル〟の準備をしておきます』
「頼む」
このような会話をしている間も正確にセシリアの銃撃を躱す。
「ああ、もう!じれったいですわね!これで落ちなさい」
少し苛立った調子でセシリアが叫ぶ。
と同時にブルー・ティアーズから四つのビットが射出された。
『BT兵器のビットです。回避行動を』
「わかっているさ!」
ビットから放たれる多方面攻撃をまるで最初から分かっていたかのように、正確に躱す。
そして、対艦刀〝ミスティックセイバー〟をコールし、回避行動をとりながらビットを一つ一つ斬り裂いていった。
「な、なんですの!?なぜこんなにも簡単に!?」
セシリアが唖然とした表情をしている。
だが、俺にとってはそう難しいことじゃない。
零の補助もあるが、セシリアのビットの配置は分かりやすいのだ。
必ず一番反応が遅れるところに配置してくる。だが、逆を言えば〝そこ以外は配置しない〟のだ。
初心者ならそれがわかってもどうしようもできなかったかもしれない。だけど、俺は違う。
俺にとっては分かりやすすぎるのだ。
「はっ!」
そして四つ目のビットを切り裂き、一気にセシリアに向かって急加速。
「させませんわっ!」
セシリアがスターライトmk.Ⅲを構え、放つ。
俺はそれをローリングで躱しながら、ミスティックセイバーを片手持ちにし。空いた左手を前に突き出す。
「ミスティック・クリスタル、起動!」
『了解。ミスティック・クリスタル起動。出力三十%で出力。形状はいかがなさいますか』
「クローで」
「了解。クローを形成します」
零の音声が終わった瞬間、左手の腕部に装着されていた赤いクリスタルからビームが出力された。
そのビームはクローを形成し、そのまま接近しセシリアを斬りつけた。
「くっ、インターセプター!!」
懐に飛び込まれたセシリアは近接武器を展開し、クローを受けようとするが、受けきれず、もろにクローの直撃を受ける。
「ああっ!?」
セシリアのブルー・ティアーズが切り刻まれ、アリーナの壁に激突する。
俺はそこを追撃した。
まずミスティックセイバーで横一閃。返す刀でもう一撃。そのあと左手のクローで、切り上げ、すぐさま切り下げる。
「うおおおおおっ!」
切り下げにより地面に激突したセシリアに左手のクローを突き立てる。
そして、右手のミスティックセイバーの鍔にあるマガジンを一回リロードする。
――カシャン。
小気味のいい音が響き、刀身がビームに包まれる。
「ま、まだですわ!」
セシリアはクローを突き立てられているのにもかかわらず、隠してあったミサイルビットからミサイルを発射させた。
――だが、もう遅い!
俺はビームで刀身を包まれたミスティックセイバーを振り下ろし、ミサイル共々セシリアを斬り裂いた――。
ドガアアアンッ!!
ミサイルを斬り裂き爆発。徐々に煙が晴れていき――。
「そこまで!勝者、黒咲紅牙」
試合終了を告げるアナウンスがアリーナに響いた。
余談だが、この時のミスティック・クラッドのシールドエネルギーは一割も減っていなかったという。
「す、すげえ……」
一夏はピットの中にあるモニターの前で唖然としていた。
元々あいつから座学を教えてもらっている時に薄々は感づいていいた。
少し勉強してきた、どころじゃないんじゃないか?
そう思っていた。
が、今目の前で繰り広げられた戦いを目にし、それが確信に変わる。
あいつ、強い!!
戦慄するのが分かった。
理由は知らないが、あいつは俺が思っている以上に強い。
なにせ代表候補生を圧倒できるくらいだ。その強さは計り知れない。
ふと、隣にいる箒に目を向けてみる。
「……」
箒も口を開けて唖然としていた。
箒でさえ唖然とするんだ。あいつの強さは本物だ。
だったら、俺も負けていられない。
昔、千冬姉に話した、護るということ。
あいつは勉強を教えてくれている時言っていた。
『一夏、お前はこれからISという世界最強の兵器に乗るんだ。この意味わかるな?だけど、あえて言わせてもらう。一夏、戦いに勝つためだけに力を振るうな。それはお前が望んでいる勝ちとは言えない。いいか?お前にとっての勝つということは、人を守り、〝生かす〟ことだ。これを忘れないでくれ』
そう、生かすために戦うんだ。だから、誰よりも強くなくてはならない。
待ってろ、紅牙。必ずお前に追いついてやる。
俺はそう決心し、専用機の元へ向かった。
そして俺は今、専用機〝白式〟の前に立っていた。
「時間が押している。フォーマットとフィッティングは実戦でやれ。できなければ負けるだけだ」
千冬姉が後ろから急かす。
「実戦でやれって言われても……いや、分かった実戦でやる」
そして、白式に触れる。
初めて触れた時のような感覚は無かったが、理解できる。これが何なのかを。
俺は白式に背中を預けるように体を傾ける。
すると、白式が俺の体に合うように装甲を閉じる。
そして白式と〝繋がる〟。まるで昔から自分の一部だったかのように。
一つ一つセンサーを起動する。ハイパーセンサーも問題なく起動。
ハイパーセンサーの起動と同時に相手の機体情報が表示される。
「――ブルー・ティアーズ」
表示された機体名を声に出す。これがセシリアの――。
「ハイパーセンサーはしっかりと起動しているようだな。一夏、気分はどうだ?」
千冬姉の声がわずかに震えていた。ハイパーセンサーでやっとわかるほどに微かであったが。
「大丈夫だ、千冬姉。行ける」
千冬姉に言葉を返すと、先ほど戦闘を行っていた紅牙がやってきた。
「問題なさそうだな、一夏」
「おう、ばっちり勝ってくる。戻ったらその強さの秘密、教えてもらうからな!」
「……いいだろう」
紅牙が不敵に笑う。まるで、これぐらいやって見せろ、と言わんばかりに。
「じゃあ、……箒」
「な、なんだ」
「行ってくる」
「あ……ああ、勝ってこい」
その言葉に頷きを返して、俺はカタパルトに向かった。
彼――紅牙は一夏君がカタパルトで射出されるのを確認して、観客席へとやってきた。
「紅牙、こっちよ」
私――更識楯無は彼を呼ぶ。ちょうど話したいこともあったし。
「ここにいたのか刀奈」
「ええ。ふふ、格好よかったわよ♪」
私がウィンクをしながら言うと、彼は照れたように頭を掻きながら言う。
「まあ、お前のこととなるといくら俺でも我慢できないというか」
だけど私は容赦なく口をはさんだ。
「なら、なんで私とは本気で戦ってくれなかったの?」
笑顔でそう言い放った。目は笑ってないけどね。
「……え~と」
紅牙は冷や汗を浮かべながら視線を逸らす。
「さて、白状してもらいましょうか」
私はニヤリとした笑みを浮かべながら彼に迫る。
具体的にはぴったりと体を彼の腕に密着させながら。
「……わかったよ。だけど、手加減したわけじゃない。本気だった」
「嘘。さっきのほうが断然強かったわよ」
「ああ、刀奈と戦ったのは〝素〟の俺だ。さっきのはBREAKERSとしての俺だ」
「ほえ?」
私は彼の言っていることがわからなかった。
「まあ、〝素〟で戦う俺は危ないんだよ。何せわが身を無視して行動するからな。……理由は、まあ刀奈ならわかるよな?」
「あっ……」
そう、紅牙が自分の身を顧みずに無謀になるのには理由があった。昔、私と会う前のあるできごとのせいで……。私は彼から、話を聞いただけだけど、ずいぶんと重い話だ。
「だから、普段はちゃんとBREAKERSとしての戦い方に徹底しているんだけど、刀奈と戦ったときは、その……久々に刀奈に会えて舞い上がっていたというか、なんというか」
照れながら目を逸らして話す紅牙。
正直言って可愛かった。
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
私は彼に抱き付いた。だって、少なくとも普段の戦い方ができないくらいには私に会って舞い上がっていたということなんだから、嬉しくないわけがない。
「……もう怒っていないのか?」
紅牙が不安げに私のほうを見る。ああ、もう。可愛いなあ///
「ふふ、最初から怒ってないわよ、はむ♪」
私は笑顔でそう返した後、彼の唇を塞いだ。もちろん私の唇で。
まあ、周りの目もあるから舌を絡めるようなキスはしないけどね。
「……すごくうれしいんだが、そろそろ離れてくれないか?周りの視線が……」
「イヤ♪」
そう言い、私はさらに強く抱き付く。
「ほら、一夏君の試合を見よ?」
ふふ、やっぱり彼といると幸せ♪
「よっと。待たせたなセシリア」
俺、織村一夏はアリーナの中央、ブルー・ティアーズの前に来ていた。
「……」
あれ、反応がないな。
「おーい、セシリアー?」
再度呼びかけてみるも反応がない。
「ふう、構わん織斑。さっさと始めろ」
千冬姉が通信を通して指示してくる。心底呆れているようにしているのは気のせいか?
「了解っと。えーと、武装はっと」
「……」
俺は展開可能武装一覧を出し、武装を確認する。……あれ、近接ブレード一本しかない?
「……」
まあ、これしかないのだから仕方ない。
「……」
近接ブレードを展開っと。
俺の右手には一振りの近接ブレードが展開された。
「……はっ!?」
あ、セシリアが気付いた。――先手必勝!
「はあああっ!」
俺はセシリアに突っ込み、近接ブレードを上から振り下ろす。
「!!」
セシリアは間一髪のところで避けた。
「な、なんですの!?」
「いや、織村先生がやれって」
「~~~まあ、いいですわ。わたくしも最初から全開で行かせてもらいますわ!」
そう言いながらセシリアスターライトmk.Ⅲを構え、放つ。
「うおっ!?」
ギリギリのラインで躱すが、避けきれず、掠る。
「まだまだですわ!」
その後も立て続けにトリガーを引き、雨のようなレーザーが俺を襲う。
「わっ!?く、くそ!」
俺は近接ブレードとスラスターを駆使し、回避に徹するが、凌ぐことさえかなわない。みるみるシールドエネルギーが削られる。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
そう言いながらもセシリアの射撃がやむことはない。
「く、何とかしてダメージを減らさないと!」
俺は相手の隙を見つけるために、回避に徹し続けるのだった。
「――二十七分。大分しぶといですわね」
「そりゃどうも」
残りシールドエネルギー67。実態ダメージ中破。あと一撃でも貰えば、俺の負けだろう。
幸い、相手のビットは先の戦闘を見ていたこともあり、何とか二つは破壊した。
だが、あと四つもビットがある。状況は絶望的だ。
だけど――。
――だけど、諦めるわけにはいかない!
「……何でですの?」
セシリアがまるで不気味なものを見るような目で俺を見てくる。
「なんであの人もあなたもそのような真っ直ぐな瞳をしていますの!?状況は圧倒的にこちらが有利。あなたの勝ち目なんか残されていないんですのよ!?」
セシリアが喚き散らす。まるで男性にこんな人物がいるはずがないという感じに。
「だからと言って、諦めるかよ!俺はあいつらに約束した!勝つって!そして昔、千冬姉にも言った!誰かを守ると!だから、こんなところで諦められるか!」
だから――。
俺に力を――。
「だから白式!俺に力を貸せっ!!」
俺がそう言い放つと、俺の思いに答えるかのように白式が光に包まれる。
「な、なんですの!?」
光りが徐々に薄れていき、その光がなくなるとそこには白式がいた。真の姿で――。
――フォーマットとフィッティングが終了しました。確認ボタンを押してください。
な、なんだ・フォーマットとフィッティング?あっ、千冬姉が言っていたやつか!
そう思いながら確認ボタンを押すと、一斉に情報が頭の中に流れてくる。
そうか、白式。これがお前なんだな。
真の姿となった白式はさらに深い白になりウイングスラスターが盛大に展開され、手とウイングの一部に青の配色がなされている。
「ま、まさか……一次移行!?あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」
「ああ、千冬姉にフォーマットとフィッティングは実戦でやれって言われていたしな」
唖然とするセシリア。
「さあ、行くぜ、白式!」
俺は近接ブレードを構え、隙だらけのセシリアに向かって斬りかかる。
その一撃をセシリアが躱す。
そこで違和感。
近接ブレードの形状が変わっていたのだ。
不思議に思い、武器データを表示する。
そこには〝近接特化ブレード・《雪片弐型》〟と記されていた。
雪片……?それって千冬姉の……。そうか、そういうことなんだな。
「俺にもこれが使えるっていうことなんだな!」
そして俺はかつて千冬姉が使っていた最強のアビリティー、〝零落白夜〟を起動させた。
すると、刀身が縮み鎬に入った亀裂がはっきりと分かれる。そこから青白いエネルギーの刃が形成された。
俺はそれを構え、セシリアへ再度斬り込んだ。
「なっ!?あれは、あの形状は……!」
観客席にいる俺は驚きを隠せなかった。
一夏の一次移行。そこは別に驚いていない。驚いているのはその形状だ。
なんで、なんであんなにも〝あれ〟に似ているんだ!?
「紅牙、どうしたの?あの機体がどうかしたの?」
刀奈もここまで取り乱している俺が珍しいのか、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「い、いや、大丈夫だ。ちょっとあの形状に見覚えがね……」
そう、似ているのだ。俺のよく知っているISに。
あれの同系統なら間違いなく天災――束さんが関与しているはずだ。ということは?
そこでアリーナの一夏が零落白夜を発動した。
――やはり、束さんが作った機体だ。じゃなければ、姉弟揃って同じワンオフ・アビリティーなるものか。
それにしても、一次移行からワンオフ・アビリティーが使えるなんてな。
「この試合、見物だな」
「ええ、まさか一夏君がここまで粘るとは思わなかったわ」
俺達は一夏達の試合に注目した。
「はあっ!」
俺は零落白夜を使った一撃を放つ。それは、セシリアのライフルを斬り裂き、確実にセシリアを追い詰めていた。
「これで、終わりだああっ!」
俺は手持無沙汰になったセシリアに向かって、居合いの要領で斬りかかった。
しかし、俺は忘れていた。まだビットが残っているということに。
セシリアは隠していたミサイルビットをを前面に移動させ、発射。
俺は何とかそれらを斬り裂き、さらに近付こうとするが、残った二基のビットがそれを阻止。
二基のビットが放つ光条の中を駆け抜け、横一閃を放つ。
が、セシリアが二基のビットを身代わりとして前面に配置する。
「そんなもの!」
俺は放った横一閃でビットを斬り裂き、返す刀で後退したセシリアに再度斬りかかる。
「っ!!」
その時の一夏の追撃の速さはもはや素人の速さではなく、熟練した剣士の速さそのものだった。
その速さにセシリアは付いて行けず、思わず目を瞑る。
――が、その時ブザーが鳴った。
『試合終了。――勝者、セシリア・オルコット』
あとがき
今回はTINAMIの方に投稿しているオリジナルの第三話と第四話をくっつけてみました。
冒頭の過去は今回新しく載せたものです。最後の刀奈と紅牙のやり取りの続きはあえて書きません。皆さんのご想像でお願いします。まあ、そのうち小話で書くかもしれませんが。
それと一夏の『だから白式!俺に力を貸せ!!』は完全にガンダムのネタです、はい。
つい声優が一緒だったからやってしまった。タグにガンダムネタを追加しておこうかな。