襲撃から始まった長い1日の終わり掛け。
指揮官は基地内のBARへと足を運んでいた。
とある約束を守るために。
※めっちゃ更新時間かかりました。月末年度末新年度月初めと重なるとどうしようもないです。言い訳ですね。すいません。
ここは補給基地の中にあるBAR。元々はいわゆるPXであり食堂と分ける意味合いでBARに改装された経緯がある。指揮官の個人的なこだわりでなかなか雰囲気が良く、ある種の職権濫用とも言える指揮官の手腕により置いてある酒の種類が豊富であり、バーテンダー型の自律人形も含めて上等なBARに見える。非番の戦術人形達がここで呑んでいたり、はたまたバーテンダーとして接客していたりもする。宵の口にそんなBARを訪れたのはこの基地の指揮官である。
普段は比較的平和なこの基地がこの日珍しく大規模な襲撃を受け、どうにか撃退・解決したのだが、明日からはそれに関する報告書や色々なことが待ち受ける。そんな現実から逃避したいから……というワケではなく、トンプソンに誘われたために指揮官はここを訪れていた。彼女から呑みに誘われるのは久しいことであったし、明日から忙しくなることも分かっているため今回の誘いを受けた指揮官である。彼はBARを見回しトンプソンが来ていないことを確認すると、とりあえずカウンターに座りトンプソンが来るのを待つことにした。
「ボス、お待たせ」
「ああ、トンプソン遅かった……な」
声を掛けられ振り向いた指揮官はトンプソンが予想外の格好で来ていたために一瞬固まってしまう。てっきりいつものマフィア感溢れる服装で来ると思っていた指揮官だったが、彼女が着てきたのは黒いドレスである。ベアトップで背中が大きく開いているためかなりセクシーなデザインである。さらにスカート部分が斜めにスリットされていて、トンプソン持ち前のスタイルの良さと相まってかっこよさとセクシーさが同居している。
「……」
「ボス?やっぱり私には似合わない……かな?」
「あ、いや、よく似合っているよ。つい見惚れてしまったんだ」
「え、あ、そ、そうなのか。良かった。シャワーを浴びていたらいつの間にかダミー達が私の服を隠していてさ。代わりにこのドレスが置いてあったんだ」
(ダミー達よくやった!)
内心ガッツポーズの指揮官である。ダミー達はメインフレームがスリープモードの間に採寸を済ませて(個体差が多少あるため測っていた)ドレスを仕立てていた。……部屋に侵入して、メインを起こさずに採寸するとかアイツら本当にダミーなのだろうか。暗殺とか余裕でできるんじゃないか、とも思う指揮官である。
「これなら私もピシッと決めてくるべきだったかな?」
「いや、私がこんな格好で来ただけだからさ。気にしないでくれよ」
「ふふ、なら遠慮なく。さ、こちらへレディ」
「ちょ、ボス、普段とキャラが違いすぎないか!?」
「そういう君も普段と違うからこれでちょうどいいんだよ」
そう言うと指揮官は、彼女の手を取りエスコートする。
(さすがにキザすぎたかな。まあ、今夜だけだし別にいいか)
(ちょっとカッコつけすぎじゃないかボス!?ていうかいつもと違う強引さが!?え、なに、どういうことー!?)
カッコつけてみたら想像よりも恥ずかしかった指揮官と、いつもの
「さて、何を頼む?」
「あ、うん。何にしよう」
「特に決めていないなら……。まだ宵の口だし弱めにしようか」
「ん、そうするか」
「じゃあ、『テキーラ・サンライズ』を二つ」
「はい、かしこまりました。……指揮官、飲み過ぎはいけませんよ?」
この日のバーでカクテルを作っていたのは、普段の昼間にカフェを開いているスプリングフィールドだった。翌日の業務に響かないようにと優しく釘を刺しているが、なぜかどことなく楽しそうにしている。
「昼間はスプリングフィールドも戦っていただろうに、バーに出て大丈夫か?」
「あ、そこは私も気になった。戦術人形だからって無理してないよな?」
「ご心配なく。私は明日非番を頂いていますし、カクテル作りは楽しいので息抜きになります。それに、その昼間の戦いに勝ったお祝いに呑みに来られる方がいるだろうなーと思いまして。ここぞとばかりに呑みに誘った娘とか?」
「……あの場で誘ったのってそんなに目立ってた?」
つまりスプリングフィールドは指揮官とトンプソンが呑みに来るのを分かっていてバーカウンターの中にに立っているワケである。とはいえ茶化したりするために居たわけではない。知りたいことがあったためにこの日のバーに立つことを決めたのである。
「目立ちますよー。今日を逃したら今度は落ち着くまで誘えなさそうですし、ある意味今日誘ったのは正解だと思いますけどね」
「それに美人に真正面から誘われたら断る男はいないさ」
「……ボス、今日カッコつけすぎ」
「今日はカッコつけるべきだと思ってな?」
「いつも思うのですがトンプソン?あなたもしかしてボソッと言っているそれが周りに聞かれていることに気づいてないんですか?」
「やっぱり皆聞こえてるのか……?」
薄々自分でも気づいてはいたがはっきりと他人に言われて確証を得てしまったトンプソン。さすがにカウンターに突っ伏したりはしないが、今にも崩れ落ちそうな感じではある。そうこうしている間にスプリングフィールドが『テキーラ・サンライズ』をカウンターへ置き、それを手に取った指揮官とトンプソンはお互いに小さく「乾杯」と言うと飲み始める。
「そこも含めて可愛らしいのだから気にするな」
「それは追い打ちかけてるのかな?……言ってて恥ずかしくないかボス?」
「ちょっと恥ずかしい。まあ、トンプソンの反応を見るのが楽しいから問題無いさ」
「あら、指揮官ったらもしかして1杯目で酔ってます?」
いつもトンプソンをからかってはいるがここまで真っ正面から可愛いなどとはあまり言わない指揮官にスプリングフィールドがちょっと心配して声を掛ける。
「いやいや。さすがに1杯では酔わないよ。『戦術人形を飲み比べで沈めた』主計官ってなぜか有名だったし」
「それ、人づてに聞いたのですが事実なんですか?」
スプリングフィールドがこの日のバーに立っている理由、それがその真偽を確かめたかったことである。スプリングフィールドはカフェの仕入れ等で本部や本部に近い業者とも関わりが出来たのだが、自分が補給基地所属の人形であること、そしてその基地の指揮官が『異動した元本部の主計官』であることを知った者達からとある話を聞いていたのだ。
曰く、『その主計官は本部近くのバーで戦術人形を飲み比べで沈めた』『戦術人形に挑発されたので真正面から酒で潰した』『あいつはザルじゃない、ワクだ』等々。最後のに至っては本部の輸送部隊隊長が言っていたのである。極東の出身者が家族にいる彼は酒を多く飲める人を『ザル』だと聞いていた。だが、その家族からこう言われていたのだ。『ザルより飲める奴はワクだ』と。そして、隊長が最初にその言葉を実感したのが『元主計官』なのだとスプリングフィールドは聞いたのだ。
「皆さんから聞く話だと、『元主計官は本部の中でも最強ではないかと言われていたほどの酒豪』と」
「いや、私はそこまで強くないと思うのだけどね」
「ボスを強くないと言うならほとんどの人間が弱いに分類できるよ。なんならアルコール分解機能を起動した人形とも渡り合えるぞ」
「……それは人間では無いのでは?」
あまりにも人間離れしていることを言うトンプソンに、スプリングフィールドは「さすがにそれは無いだろう」という思いを抱く。アルコール分解機能を起動しているということは極端に言えば延々と飲めるということだ。それと渡り合えるなど。
「そう思うだろうけどな、飲み比べた私が言うんだ間違いないよ」
「いや、君はあの時体調が悪かったと言ってたじゃないか」
「ボス真に受けてたのか。あれは負け惜しみだからな?私は曲がりなりにも市街地の警備部隊だったんだぜ?そんな戦術人形が体調不良になってるワケ無いだろ。さすがにアルコール分解は起動してなかったけど。……自慢じゃないがあの当時、私は本部飲み比べ連続勝利記録保持者だったんだけどな」
「どんな記録ですか……。本当にに指揮官はそんなに強かったのですか?」
「ボスは今でも強いと思うけど。ああ、飲み比べは挑むなよ?まず負けるから。FAL辺りに聞いてみるといい、彼女も飲み比べて負けた口だし」
ちなみにFALがよくこのバーに飲みに来ているために、彼女が酒豪と言われるだろう強さであるとスプリングフィールドは知っている。その彼女が指揮官と飲み比べて沈んだことが事実だとしたら桁が違うのではと内心慄く。一般的に人間と自律人形が飲み比べた場合1:9で人形が勝つ。そんな人形の中でも特に酒に強い個体を相手に勝つなど……。
「いやいや、まるで私がアルコールで沈むことがないみたいじゃないか」
「なら聞くけど、酔いつぶれたことあるかボス?」
「記憶の限り無いね」
「記憶が飛んだことは?」
「それも無いな」
「最後に、最高何時間連続で飲んだことがある?」
「うん?若い頃にバカ騒ぎをして丸一日かな?あの時は銘があるような酒は飲めなかった覚えがあるよ。ボトルは何本空けたかな、はっきり覚えていないけど10本は1人で空けた気がするけど」
トンプソンがスプリングフィールドに「ほら、化け物だろ?」と言いたげな視線を送った。送られたスプリングフィールドはこの話を聞きながら、もしかして内蔵が鉄で出来ているのかしらと思う。「銘もないお酒」つまりいわゆる安酒(と呼べるかも怪しい)の類のボトルを10本以上空けたとなると、身体がアルコールで出来ている化け物と言っても過言ではない気がする。
「まあ、それは置いておいて。2杯目はどうする?」
「ほら、ちょっとペースが他より早いだろ?コレでも実はスローな方なんだああ、私はまだ少し残ってるから」
「本当ですね。……お次は何にいたしましょうか」
「んー、じゃあ『ゴッドファーザー』で」
「かしこまりました」
「いや、たしかに私と飲むなら似合ってるかもしれないけどさ。急に強くなりすぎてないか?」
そんな心配など何処吹く風といった顔でこの指揮官はトンプソンに答える。その程度で酔うワケないじゃないかと。
「そうか?いいじゃないか。君と2人で飲むのは久しぶりだしね」
「今度はホントに2人きりで飲みたいな」
「あら、指揮官のお部屋でですか?大胆ね、トンプソン」
「残念ながら私の部屋にはあまりお酒は置いてないんだけどな。いくつか置いておくか」
「あーあーあー!そこは聞こえないふりをしてくれぇ!」
「らから、いっただろー。ボスは、ほんとにさけにつよいんだよぉ」
「トンプソンだいぶ酔ったなぁ。ほら次で最後にすること」
「んー、しょうがらいらー」
「あの本当に酔っていないのですか?強がってませんか?」
「ん?いや、まったく。おいしいカクテルだったよ、スプリングフィールド」
「あ、ありがとうございます。って、そうじゃなくて」
飲み始めて数時間。そう数時間である。その間ショートドリンクやウイスキー等を次から次へと変えながら飲み続ける指揮官と、可能な限り酔いつぶれないように気をつけて飲んでいたトンプソンであったが、さすがに限界が来たらしくトンプソンの呂律がかなり怪しい状態になっている。アルコール分解機能は起動しないのかとスプリングフィールドが問うと、
「ボスと飲む時は酔えるようにするって、決めてるんだ」
と、ハッキリと答えたのである。彼女なりのこだわりなのか、それとも指揮官には酔った姿を見せていいと思うのか。スプリングフィールドはどちらにしても面白いと感じていた。ここまで人に対して感情ひいては好意を見せるトンプソンは少ないと聞く。そんな彼女なりのアプローチなのだろうと理解したのだ。そんなへべれけ寸前のトンプソンから指揮官へ視線を移したスプリングフィールドは彼に聞く。
「あの、指揮官?失礼とは思いますが、あなたが飲んでいた酒量はおそらく普通の人なら死んでいますよ。これだけ飲んでなんの異常がないというのが異常だと思うのですが……」
「そうか?久々にここまで飲んだけれどなんの問題も無いな。少し暑い気はするけれど」
「内蔵が金属か何かで出来ているのでは?」
「俺は君たち戦術人形じゃないつもりなんだけどな」
「私達も酔えますから、私達以上ですね」
「私をもしかしなくても人外認定しようとしてないか?」
「いえ、もうしました」
なんだってー!という顔をする指揮官とクスクス笑うスプリングフィールド。そしてそんなやり取りをする2人を見て面白く無さそうな顔をしたトンプソンが火を噴いた。
「なあ、ぼすぅ。私とのんでるんだよぉ、私のことほっとかないでよぉ。……ねぇ、私のことすき?」
「…………」
「指揮官?急に酔いが回りましたか、って指揮官!?」
「すまないスプリングフィールド、ティッシュをもらえるかい?ありがとう。いや、不意打ちにこんなのを食らうとは思わなかった。トンプソンにしてやられるのは久々だよ」
「ぼすー?ぼすー?こたえはー?」
顔を赤らめて瞳は蕩け、少し、いやかなり色気が増した状態で、真っ正面から指揮官の目を見ながら問うトンプソン。そんな普段と違う様子の彼女にやられ、高かった体温がさらに上がった気がする指揮官。スプリングフィールドもトンプソンのこの姿を見て自分も魅了されてしまいそうだと感じる。今のトンプソンを見ればほとんどの男性が魅了されるだろう。いや、魅了というよりも誘惑と言った方が近いかもしれない。彼女の纏う色気と雰囲気にはさすがの指揮官も陥落寸前である。
「やれやれ、まったく。……スプリングフィールド、ラストオーダーだ。私に『XYZ』をトンプソンに『サイドカー』を」
「かしこまりました。今日は徹頭徹尾カッコつけてますね。先程の質問には答えないのですか指揮官?」
スプリングフィールドが心底楽しそうに指揮官に聞くが彼女は実は気づいている。『最初の1杯目』で既に答えがでていることを。
「スプリングフィールド、君は意外に意地悪なんだな」
「今日の指揮官はカッコつけすぎですから。ただ最後に『サイドカー』なんてトンプソンを持ち帰るおつもりですか?」
「最後の最後に最高に可愛いことを言ったこの娘は沈めておかないとね。知らないっていうのは罪だなぁ」
「ぼすぅ?だからこたえはー?」
「はい、『サイドカー』です。指揮官は『XYZ」でしたね」
「おさけじゃないかー。こたえじゃないよー」
「ありがとうスプリングフィールド。……トンプソン、これは答え方の一つだよ。明日以降で覚えていたら調べてみるといい」
「んー、ぼすがそういうならー」
完全に出来上がっているトンプソンは指揮官が言っている意味が理解しきれない。それでも自分が好意を向けている人の言葉は頭に入ったようで、覚えていたらという言葉が付くが調べるだろう。最後に自分へ勧めたカクテルが『サイドカー』であるワケを。そして指揮官が飲んだ最後のカクテルが『XYZ』であるワケを。
「ま、今日はカッコつける日だから。これくらいは許されるでしょ」
「意味がわかった時、彼女はどんな顔をするでしょうね」
カクテルの意味を知ったトンプソンが今まで以上に真っ赤な顔をするのはまた別のお話。
はい、という訳でめっちゃ時間かかりました。
簡単に言えば仕事関係で忙しかったワケですが、書いているうちにネタが暴走して収拾がつかなくなったのも原因ですね。祝6000字突破。書くほどに増える。はい、私の悪癖です。だが反省はしていない。
というか、本当はトンプソンにイブニングドレスを着せたかっただけなのに、どうしてこうなった……?
で、今回はカクテル言葉が出ております。知らない人は是非とも調べていただきたい。カッコつける時等に使えますよ。あと、カクテルは美味しいので好きです。
『テキーラ・サンライズ』実はカクテル言葉を知らないままに書いていたのですが、知ってから最後に絡ませました。
『ゴッドファーザー』は分からず。誰か知ってたら教えてー。マフィア繋がりで登場。リアルの家で作れるのに作っていません(材料は揃ってる)
『サイドカー』と『XYZ』、これは言葉を知ってから入れようと決心。
指揮官が自分で頼んでいるのでちょっとこじつけになっちゃってますが、この2つが指揮官からトンプソンへの返事になっています。
というか書いていて一言。
これ「日常」じゃなくて「恋愛物」に近づいてない?あれれー、おかしいぞー?
まあ、この2人気に入っているんでこのまま加速していきます。
こういうのもいいと思うんだ。時々、戦闘シーンを入れたくなるけど。
つか、ここの指揮官酒強すぎないかな。書いているうちに自分でもツッコミ入れてしまう。なんだかんだで規格外の指揮官になってしまった。もっと普通にしたかったのに。
構成もへったくれもない作品ですが、どうか御容赦ください。
誤字・脱字等ありましたら報告お願いします。