インフィニットオルフェンズ外伝 ~三無を束ねし、煌めきの雲海~   作:IOノベライズ 制作チーム

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#09 昔の牙は抜けきらない(ドント・フォーゲット・メモリー)

「……さて、と。俺らを罠に嵌めるなんざ、どういうつもりか一応聞いておかねえとな?」

 

「本当に、申し訳ありません………」

 

俺と一夏のなっげぇ登山を終えたのち、簀巻きにされたキラの尋問を始める事にした。

当初の目的だった雲海は、俺らがてっぺんにたどり着くころにゃあ、戦闘の風圧やらビームやら爆発やらなんやらで完全に散り散り。今やただの山の風景だ。

 

とりあえずキラはミカに拳銃を向けさせてるし、もうこいつは下手な真似はできねぇ。

 

 

そんなキラにリンがこう聞く。

 

「どうせあの篠ノ之束に言われたんじゃないのー?戦ってこいって?」

 

「まあ…概ね…」

 

「素直に戦ってくれって頼みゃいいのになぁ。ま、頼まれても戦うわきゃねぇけどよぉ」

 

 

イチカもキラにこう質問する。

 

「そこまでして束さんは一体何をするつもりだったんだ?」

 

「データ収集ですよ…。実働のものが欲しいって言いまして…」

 

「ふーん…」

 

とにかく全員でキラを睨む。

……どうも本当にただおつかいを頼まれたみてぇな感触で、その後もしばらくゆすったがあまり良さそうな情報は吐かなかった。

 

 

 

「み、皆さんならお強いですし……」

 

そのキラの言葉に俺は怒りを覚える。

 

「あ?だから良いってか?冗談じゃねぇぞ……。テメェな!シャルが!危ねぇ目に遭ったんだぞ!? ……この落とし前、アンタどうつけるつもりだ?」

 

「ちょっ…オルガ…いいんだよ…。オルガのおかげで無事で済んだし…」

 

シャルはそう言うが、俺の腹の虫は収まらねぇ。ラウラも何か言いたそうな顔をしているが、俺は怒りに任せてキラにこう言う。

 

「いや、こいつはここで何とかしておかねぇと、また次もやる。そうなる前に先にやっとかねぇと、俺ら鉄華団の為にも…!」

 

「オルガっ!!」

 

「ねぇ、流石にやばいって…!」

 

シャルやリンが必死に止めようとする。

 

だが、ミカは違ったようだ……。

 

「……こいつ、撃っていいの?」

 

「ミカ!!」

 

「三日月もオルガもやめろって!!」

 

ラウラやイチカも止めに入る。

 

……が、俺たちは止まらねぇ。

 

鉄華団の邪魔をするやつは敵だ……。

 

 

俺が合図してミカにキラを撃たせようとしたその時──

 

「待ってくれ!!!」

 

シノがそう叫んだ。

 

いっつもイチカに怒るような感じの声音じゃねぇ。もっとマジの時のだ。

聞いた途端、俺やミカ、リンやイチカ達もぴたりと動きを止める。

 

「…な、何だよ…シノ…」

 

「頼む……キラを…許してやっては、くれないか……?」

 

さっきの大声とは裏腹に、今度はうつむいてぽつり、と呟いた。

その豹変ぶりに、俺はだんだんと頭に上っていた血が引いていくのを感じる。

 

「…な、何でだよ……」

 

俺がシノにそう聞く。

 

「オルガ……よく考えてみてくれ。こいつは姉さんの愛弟子だ。今回だって、姉さんに言われてした事だ」

 

「……何が言いてぇ」

 

「今ここでキラに何か起ころうと、ちょっと仕方ないとは思う」

 

「えっ…箒さん?」

 

「でも、こいつは言ったんだ。『あの人についていけるのは自分くらいだ』と。姉さんについて今まで色々言う奴はとても…多かった……。だがコイツだけはハッキリと断言したんだ!あんな人でも自分ならば傍にいられると!」

 

シノはその後もこう続ける。

 

「確かにまた私達に何かやらかすかもしれない。撃ってしまってもいいかも知れない。しかしこれは大きな借りになる。ここであえて見逃しておけばそれは恩になる。こいつは恩を仇で返すようなタイプには見えない。もしまた…いや、今度何か姉さんが、物凄くとんでもない事をしでかそうとした時、傍でこいつが、もしかしたら!止めてくれる可能性だって決して低いわけじゃない筈だ!」

 

「……成程……な…」

 

シノの必死の説得で俺の熱くなっていた頭は急激に冷やされた。

 

「だから頼む!今回はどうか!私に免じてキラを許してやってくれ!」

 

そう言ってシノは頭を下げる。

 

……だよな。そうだよな。『昔』の進み方じゃ、また最初みてぇに全部無くしちまう、か。

 

目についた邪魔な奴を片っ端からただただ潰してった先があのザマだ。

 

もう流石にあんなのは繰り返さねぇし、この世界にそういうのは似合わねぇ。

 

止まらなかった末辿り着いた、『今』の道を崩しちまうとこだったのか…俺は。

 

「……分かった。ミカ、銃を下げろ。こいつは、『許す』。イチカ達も、悪かったな。荒っぽく騒いじまってよ」

 

「…いいの?オルガ」

 

「ああ。いいんだ。…だがそのままってのもすっきりしねえなぁ…どうすっか…」

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

「皆さーん!おべんと、持ってきましたわ~!ぜえ…ぜえ…。まったく、なんでわたくしが持ってく…あぁ、自分で言ったのでした…」

 

適当に安全そうな場所へ置いてきた弁当類を抱えてセシリアがこちらへ手を振りながら走ってきた。

 

見た感じ、どうやら全部無事だったらしい。

 

…で、俺がキラへの処罰をどうすっか悩んでる横で、ミカは大量の弁当袋を提げたセシリアをじっと見つめている。

 

 

 

 

まるで何か思いついたみてぇに。

 

 

 

 

「ねぇ、セシリア」

 

「は、はいっ!なんですの?三日月さん!」

 

「セシリアの弁当、キラが食べたいって言ってるんだけど、いいかな」

 

 

 

……っ!!そういう事か…。

ミカ、お前……。

 

「む、むぅ…。本当は一夏さんや三日月さんに食べて頂きたかったのですが……。三日月さんの言う事であれば、従いましょう」

 

そう言った後、セシリアはキラの方へ向き直り、こう続ける。

 

「それに見た感じ、キラさんは働き詰めであまりお食事がとれていないご様子。ここはワタクシ!セシリア・オルコットの手料理を召し上がる栄誉をお与えいたしますわ!困っている者には分け与える!ノブリス・オブリージュの精神にのっとった清く正しい行いですわ!!」

 

自信満々に胸を張ってセシリアはキラへ弁当を渡す。

 

「え…?ほ、本当にいいんですか?!僕、皆さんにあんな酷いことを……」

 

「ああ!セシリアの飯はうまいぞ。すまねぇな、あんたも疲れたろ。遠慮なく食え!」

 

こうなりゃもう知らねぇ。とことんミカの策に乗ってやる。

当人も自信満々でキラの前で弁当開けてるし、いいだろ。合意の上だ。

 

(うわぁ…。俺、流石に知らねぇぞ…?)

 

(あーあ…。ありゃ死ぬよりひどい目に遭うわよ?止めなくてもいいの?箒)

 

(いや…まぁ…。死なれて姉さんの報復を受けるよりかは…まだ……)

 

(…あの雲、ミカに似ているなー)

 

(容赦ないなぁ…三日月も、オルガも…)

 

後ろでイチカ達が白い目で見ているが、あのまま悲劇を繰り返すのに比べりゃあ…なぁ……。

 

「うわぁ!すごい綺麗じゃないですか!美味しそうですね…!」

 

「ふふふ。そういってくれるだけでも感謝の極みですわ。ささ、どうぞどうぞ。遠慮なく召し上がってくださいな。一流の素材を厳選して作ったお弁当、堪能してくださいまし」

 

「はい!ありがとうございます!いただきます!」

 

お互い満面の笑みでセシリアは箸でキラの口へ弁当の中身を運ぶ。

ああなっちまったらもう誰にも助けられねぇ。俺らはただその様を見守るだけだ。

 

「あーん…あむ。………ッ! これ、すごくおいし…ビィッ?!」

 

「あら!それは本当ですの?!ならもっとお食べなさいな!それ、それそれ!それっ!」

 

「いやもうお腹いっぱいで…んぐっ!ぎっ!がぁっ!ごるぅぅっ!?」

 

途中から食ってる時には絶対に出ねえような悲鳴と絶叫へと変わるが、少しでもウマいといったキラの言葉がうれしすぎたのか、セシリアは一切見向きもせず、

ただひたすらに抵抗できないキラの口へと弁当の中身を押し込んでいく。

 

よく見たら結構な量だ。…やっぱ殺しといたほうが楽だったかもしれねぇな。ありゃ……。

 

 

 

 

とてもそんな、俺らでも耐えられねえようなひでぇ拷問の真後ろでメシなんか食える筈もなく。

 

やがてすすり泣く音さえも消え、おそるおそる目をやると──

 

そこには絶対にこういう顔の奴がしないような苦悶の表情で気絶しているキラの姿があった。

 

「色男になったじゃん」

 

ミカ、お前……確かにある意味色男かもしれねえけどよ……

 

そしてセシリアはその隅で独り、美味しいと言われた余韻に浸っていた。

 

一応キラは息はしているようで、多分俺らは、セシリア飯のおかげで最悪の敵を作らずに済んだらしい。

 

アイツの料理は世界を救ったのかも知れねぇ……。

 

 

 

 

そんなこんなでもうこの場所に用は無くなった。もう単なる山しか見えねぇし。

しばらくしても、更にいくら叩いてもキラは起きねぇので……。

 

「…帰るか」

 

待っていてもしゃーねぇから、そのままキラを山に放置して俺らは帰る事にした。

 

 

――――――

 

 

「……にしても、本当にみんな無事でよかったよ。オルガも、あとキラさんも」

 

「シャルは優しいな。ま、俺ももう昔の俺じゃねぇ。過ちはそう繰り返さねえよ」

 

(……オルガ、昔のことを少し話す時はどこか暗くなってる気がする。戦場に居たみたいだけど……もしかして仲間が……)

 

「シャル?」

 

「あ、うん!続けていいよ!」

 

「お、おう……今回は何とかシャルを助けることができた。だがこれから似たようなことがあっちまったら……」

 

「オルガ…」

 

「俺だけ一方的にボコられてたんだ。今のままじゃいけねえ。もっと強くなりてえ。そして力を手に入れても目的は見失わねえようにしてえ……()()だからな」

 

「…約束……うんっ!」

 

「じゃあ、オルガがもっと頑張れるよう、ISの特訓を増やすことを始めようよ!僕も付き合うから!」

 

「そうだな。ついでに獅電も強化してぇな……」

 

「強化?」

 

「ああ、あのどさくさで奪ったあの大砲、結構手に馴染んだんだ。あんな感じのモン、今度マクギリスの奴とか、整備課の腕のいい奴にでも会ったら増やせるよう、頼んでみるか」

 

「いいね、それ!僕からもお願いするよ!」

 

「助かるぜシャル」

 

「えへへ……」

 

(……僕も今のままじゃ駄目だ……僕ももっと強くならないと!)

 

 

 

 

 

「てか、結局なんだったのよ?アレ。データ収集とか言ってたけど、アタシ達、なんかヤバいもんに手ぇ貸しちゃったんじゃない?」

 

「……そいつは、よくわかんないけど」

 

「……ミカ?」

 

 

 

「あいつも、結構頑張ってたと思う。普段の俺みたいにさ。『殺さないように』」

 

 

 

 

 

その後、今回の一件で、まだ何もかも足りねぇことに気付いた俺は、ようやくこの長い下山を終え、疲れ切ったいつもの面子と共に帰路へとついた。

 

これからも、止まんねぇ限り、道は続く。

 

俺達全員で、ただ進み続ける。

 

今は…いや、これからも…。

 

ここが、俺達の辿り着く場所。

 

だからよ…止まるんじゃねぇぞ……。

 

 

 

 

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