インフィニットオルフェンズ外伝 ~三無を束ねし、煌めきの雲海~   作:IOノベライズ 制作チーム

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#10 彼のいる理由(デスティニー・ロング・アフター)

「た、ただいま…戻りました…」

 

如何なる手段を用いてか、すっかり満身創痍となったキラ・ヤマトはあの後、高い山の頂上で結局夜まで放置され続け、寒さで目を覚まし、ここまで手足を引きずって何とかこの場所まで帰還した。

 

「あっ、キラくん!おかえりー!ねぇねぇ、どうだった?すっごいお疲れみたいだねぇ?大丈夫?おっぱい揉む?私、箒ちゃんよりおっきいよ?」

 

「いや、そういうの…いいんで……」

 

相当弱っているのか、プルプルと震える手でキラは懐をまさぐり、データが入っているメモリを束に渡す。

 

「これを。無事……新型に活かせそうな…実働データが取れたと思います…」

 

「そっかー!そりゃよかったよかったー!ホント助かるよ~。束さんはほら、天才だけど?流石に完全にゼロからだと色々かかるもんねー」

 

 

メモリを受け取った束は、それを手元の端末に挿し、現れた立体映像のスクリーンに映る情報へと目をやる。

 

「…へぇー。私と共同で作ったやつ、真っ先に落ちたんだ。しかもえーと、何だっけ。あの高飛車な奴にか。うーん、自信作だったんだけどねー、へーぇ。流石の束さんも予想外。今度会った時はちょっと良くしたげようかな。他にはー…」

 

「ど、どうですか…?」

 

「うん!いいと思うよ?全ストライカーきっちり欲しい量よりも多いデータが採れてる!一番いいのは砲撃型かな?今度のは射撃多めにしてみよっと!肩に砲とか、ロマンだよねー。やっぱりキラ君お手製のISはいい仕事してるよ。なんたって束さんに勝るとも劣らない天才!

人の望みの集大成、()()()()()()()()()()()()()!スーパーコーディネイター!仮に束さんが天然だとしたら、キラ君は人工…うーん?養殖?野生と養殖の天才だね!」

 

ページを流し見し、次々とめくっていくように採取されたデータを閲覧する束。

しばらく結果を眺め続けていると、突如としてぴたりと指が止まる。

 

「…ところで、キラ君」

 

 

「はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんで手加減したの?」

 

 

 

「……やっぱり、気づきましたか…」

 

「そりゃあそうだよぉ。出るときもストライクは全機ディアクティブモードのまま。結局その後もあの全部乗せのストライク以外は色を付けないで、あれじゃ本来の性能の三分の一が出たか出ないか。戦闘中もオート相手にわざわざマニュアルで命令噛ませて逐次重傷は避けれるように調整。あれの搭載コンピュータじゃキラ君の単純な動きの再現はある程度できても、不殺なんて器用な事そうそうできないからねぇ」

 

束は笑みを殺しながら、こう言った…。

 

「……相当手の凝った手抜き、だね?」

 

 

「はい……」

 

「その辺がなかったらあの機体に『ゴーレムⅡ』のコードを名付けてあげてもよかったのになー」

 

 

そう拗ねる束にキラは素直に謝罪する。しかし、それでも自分の意思は貫き通す。キラ・ヤマトはそういう男だった。

 

「…すみません。でも僕はやっぱり、どうしても殺したくはなかったんです…」

 

「うんうん。いいよ。キラ君そういう子だもんね。データも充分いいものがとれてるし。っていうか、ここまでやってあれだけ苦戦するいっくん達にも問題があるよねー」

 

「彼らも、かなり頑張ってたと思います…」

 

「ま、確かに箒ちゃんはすごくがんばってたね。ほめてあげよう!うん!」

 

と、そう言った束は再び笑みを殺す。

 

「それはそれとして、データはいいけど戦闘結果に、束さんはちょっとおこ。もう少し墜とせたよね?でもキラ君は向こうでお疲れみたいなんで、今日はこれで許してあげるよーっ?」

 

「本当にごめんなさ…へ?え?」

 

そう言って、束は胸の谷間からスイッチのようなものを取り出す。

 

「すいっち~~!ぽちっと!な!」

 

勢いよくそのボタンを押すと、

 

「ぎゃああああああぁあああっ?!!」

 

キラの全身に強烈な電流が流れ出す。

かなり強めの電圧なのか、一から二分ほど流れ続けた間、キラは全身をがくがくと踊るように動かし続け、最後には力尽き果てた。

 

「ヒューッ…!ヒューッ…!ホ、ホントに…死ぬ…うぅ…」

 

「あらら!それは大変!すぐに休ませてあげなくちゃ!ほらほら、ここ。のっけていいよ!」

 

一瞬前の記憶が急に飛んだのか、あるいはわざとか。

本当に生命が危ない時の呼吸をし出したキラを見るなり束は正座し、その膝にキラの頭を乗せた。

 

「あ、ありがとう…ございます…って、束さんがやったんじゃないですか…」

 

疲れとダメージで意識も朦朧としているのか、キラもすんなり受け入れ、礼を述べる。もちろん一応反論もするが…。

 

「でもいつもよりかはお仕置き普通だったでしょ?すでにボロボロだったしー。まだまだキラ君には用事があるからねぇ。私のちょうな…うーん、なんか違うなぁ…。まぁ、可愛い弟?ってところかな?そんな感じだもん!にしてもこれはありがたーい事なんだよ?天才束さんの膝枕とか!いっくんにも体験できないからね!」

 

「はい…ありが………すぅ…すぅ…」

 

膝枕に加えて、ゆっくりと頭を撫でられた影響か、それとも疲れが溜まっていたのか、すぐにキラは眠りへと落ちた。

 

「…ふふ。大丈夫、私の想いが、あなたを守るから…だっけ、ねぇ?」

 

「…ん…くぅ…」

 

 

 

キラが寝静まってもなお、束は膝の上の頭を愛で続け、薄暗くなっていく部屋の中で独り、うつむいてささやき続ける。

 

 

「もうキラ君は安心して、ずっと私と一緒にいよう…?束さんはさぁ、キラ君を()()()()()()んだから。当然だよね。

 

 

 

だってそうでしょ?ここは私の世界みたいなものだし、あんなところとは違う。

 

 

 

 

 

優れた者が大勢作れる世の中で、それでもはびこる凡人達に踏みにじられて。

 

私がもしそこにいたら速攻でコーディネイター主導の世の中にできたのに。

 

やがてはやったやられたでずっと戦争。あいつらってほんと酷いよね。

 

それを無くそうと、無くしていこうと、世界を守ろうって、頑張ってさ……。

 

 

 

その結果が、あんなのなんておかしいよね。

 

 

 

いくらキラ君が無敵でも結局五十年は戦乱続き。

 

コーディネイターは大幅に数を減らして、環境保護団体に管理され、キラ君の戦いぶりや活躍は一切歴史に残らない。

 

守りたい世界に徹底して拒絶され消えていく。

 

そんなこの世界よりも最低な場所から助けてあげた束さんとは、ずーっとお友達でいてね?

 

私はキラ君のぜーんぶ、ちゃーんと、分かってるから…ね?……大好きだよ、キラ君」

 

 

 

 

 

 

コズミック・イラ。転生者、キラ・ヤマトの元いた世界。

そこでは数多の天才が生み出され、そして凡人達が彼らを妬む。

 

終わりの見えぬ種族間戦争に終止符を打つべく、最高の力を持った少年は戦い続け──

 

守りたいと誓った世界は、その行いを徒労に変えた。

 

その事を、『この世界の天才は』、許せなかったのだろう。

自分の半生と重ね、そして無二の友、千冬が辿っていたかもしれぬ、この運命を。

 

己の膝の上で眠るキラを束はただ、愛おしそうに眺め続けていた。

 

 

 

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