インフィニットオルフェンズ外伝 ~三無を束ねし、煌めきの雲海~ 作:IOノベライズ 制作チーム
夏休みのとある日。
アタシ──
「はぁ~~」
そこに朝食を食べ終え、お盆を厨房に返したシャルロット、ラウラ、セシリアが戻ってきた。
「暇そうだね~鈴」
「シャルロットもそうでしょ~?なんか最近さ~。停滞の時期?みたいな?」
「あはは、確かに。近くも行き尽くしちゃって変わり映えしないし、お休みにも飽きてきちゃったよね」
「でも、せっかくの夏休みなんだし、このまま無駄に過ごすのは嫌なのよ~」
「鈴さんの言う通りですわ~」
「うむ~」
「なんっか遊びたいわよね~。あ”ぁ~!暇っ!」
公園もショッピングも、なんか急にイマイチになってきちゃったのよね。
シャルロットもそうみたいだけれど、
セシリアやラウラまで、あまりの暇さ具合に近くのテーブルでぐっでぐで。
というか、こういう枯渇ってここまで一斉になるものかしら。
一夏の奴を誘おうにも、こんなネタ切れじゃあどうしようもないじゃない。
「もう~!!何かしたいのに何も思い浮かばない……!あ~あ!こんな時、丁度いい遊びの誘いとかないかな~っ!」
「鈴、そんな都合のいい話そうそう……」
そんな時だった。携帯を握りしめた箒がとてとてとこっちに走ってきた。
……何?どうしたの?
「はぁはぁ……こ、こんなメールが……来たのだが……」
「ん?どんな?」
箒はアタシとシャルロットの座るテーブルの前に立つなり携帯の画面を見せる。
その内容は……。
「ホントに来たぁーーーーっ!!!」
まさに求めていた遊びの誘いっぽいやつ!!
……一瞬見えた文字だけで判断したから、全文はよくわかんなかったけど。
アタシが大声を上げたからか、箒が目を見開いて驚く。それにシャルロットがすかさずフォローを入れてくれた。
「うわっ!?……ど、どうした急に」
「丁度暇だから、お誘いがないかなーって話してたんだ」
「あぁ、そういうことか!なら確かに丁度いいな!一夏達も含めた全員で来いとの事だ。し、しかも、その…あの……デ、デート…スポット…らしい……」
その箒の言った言葉にアタシとシャルロット、そして横で魂の抜けたみたいな顔で聞いていたラウラも飛び起きて反応した。
「デェ!?」
「トッ!」
「スポォットォッ!だとっ!?」
「何ですの?騒々しい」
この五人の中で唯一「デート」という言葉に無関係なセシリアは放っておいて、アタシとシャルロットとラウラは箒へと詰め寄る。
「い、一体誰から?!そんな美味しい話!どっから持ってきたのよ!?」
「そうだよ箒!」
「説明を要求する!!」
「じ、実はだな……。姉さん……」
「え」
「えっ」
「む…」
「……の!助手の無害そうな奴だ!ほら、私の紅椿を調整していた!あのキラ・ヤマトとかいう、とにかく人畜無害そうな顔をしたアイツだ!」
「それなら大丈夫ね」
「なら安心かな」
「問題なさそうだ」
「……分かってはいたが、激しい落差だな……。ちなみに弁当持参、足代諸込みは向こう持ち、しかも自然の絶景だそうだ」
「うわぁ~、サイコーだね!オルガと一緒に見れたら、いいだろうなぁ~」
「美景か。興味はあまりないが……。嫁が気に入りそうだな…フフ…」
もう既にこの二人は行く気満々ね……。アタシもまぁ、異論はないけど。
「ん?お弁当?箒さん今、お弁当って言いましたか?……お弁当ならワタクシにお任せ下さい!早速準備をしなくては。
今回こそ三日月さんのお認めになるお弁当を作らなくては!」
セシリアも別の方向でヤル気ね……。
「いや、セシリアそれはいいから。……勿論アタシも行くわよ!んで?いつ?」
「明後日だな。しっかり一夏やオルガ、三日月にも声をかけておくんだぞ!あいつら今日はまだ三人共起きていないようだからな。……ん、一夏には私から……言っておくか……」
ああ、どおりで姿を見ないと思ったら……。男共にもこの飢餓が来てるのね……。
しかし、だからこそこのピクニックの話は絶対に乗る筈!
特に一夏なんかは、カメラ持ってくだろうから、まさにこういう時には適任よね!
……あ、でもカメラ担当だったらツーショットが撮れないじゃない。まぁおいおい考えるか。
……なんて考えてたら既に箒が割と遠くへ行っているじゃないの!
「っておーいっ!一夏にはアタシから伝えるのーっ!」
ようやく出来た会う口実!逃してなるもんですか!
そう思い駆け出したアタシと箒をシャルロットが制止する。
「二人共待ってよ!」
オルガなら「止まるんじゃねぇぞ……」って呟くシチュエーションね。確実に。
「……別に一人ずつ話さなくても、お昼ご飯の時みんなで集まって話せば良いんじゃないかな?」
「だな」
「「あっ…!」」
……そうよね。別にそれでいいわよね。
恋に焦りは禁物よ!凰鈴音!!
「まぁだが、ミカ達はそういった物はあまり経験が無いだろう。喜ぶ顔が目に浮かぶぞ!」
「うん!オルガも絶対嬉しがるだろうな~」
……ふん。ヨユーね。リア充は……。
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その日の昼。食堂
俺とミカとイチカはシャルたちに誘われて一緒に昼飯を食っていた。
「あ~。食った食った~。シャルの弁当ももちろん旨ぇが、食堂のもやっぱ旨ぇな!」
「そうだね。最近はこの日本食っていうの?こういう料理にも慣れてきたし」
「何より大盛ランチはボリュームもあるしな!これで午後の自主連も頑張れそうだ!俺ももっと上手く白式を扱えるようにならないと!!」
「ねぇ、みんな!ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
そんな時、シャルが俺たちに来週の休みの日に遠足に行かねぇかって提案をしてきた。
シノの専用機『紅椿』を作ったタバネっていうシノの姉ちゃんの助手をしているキラってやつからの誘いらしい。
金は出すからみんなで来いとのことだ。
「遠足?」
「ふーん」
「ピクニックか?いいじゃんか!行く行く!」
「うん!景色のいいところみたいだよ!」
「うむ!自然に触れるというのはきっと楽しいぞ。期待に胸を躍らせるといい!」
「……へぇ、景色、ねぇ……。いいんじゃねぇのぉ?」
「うん。いいね…それ」
「ワタクシがお弁当を用意しますわ!」
「だから、セシリア……それはいいから……」
「ははは……そういえば、オルガって地理の授業苦手だったよね?」
「あぁ、地球の地理だなんだは疎くてな。まず火星にゃ森とか無ぇし」
「火星?」
「オルガ……その話はまだ……」
「あぁ、わかってる」
おっと、少し口が滑っちまった……。俺たちが異世界から来たって話もいつかはシャルたちにしなくちゃな……。
好きなやつに隠し事はいけねぇ……が、それは今じゃねぇよな。
……とは言ったもののいつ言うべきなのか俺もわかっちゃいねぇ……。
でも……いつかは言わねぇとな……。
「いや、なんでもねぇ。俺もミカも、あんまそういうとこに行かねぇからな。山や森やらに行ったことがない訳じゃねぇんだが、じっくり眺めた試しなんざねぇんだ」
「そうだね。そういえば景色を眺めるなんて事なかったかも」
「そっかー」
「でも面白そうだな!何よりシャルたちの誘いだ。ぜってー行くぜ!ミカとイチカもそれでいいよな!」
「いいよー」
「ああ、俺も大歓迎だ!渡りに船って奴だろ?実は今月ヤバくてさ、金も無くていいってのが最高だ!」
「一体、何にそんなに使ったんだお前は!」
「いや、えっと……色々だ!」
「色々?」
ん?一夏のやつ一瞬……
いや、気のせいかぁ?
「まぁ、一夏が何にお金を貢ぎ込んだのかは気になるところだが……キラには私から連絡しておこう」
「あぁ、頼む。……まぁ、あのキラって奴も苦労してるみてぇだしな。息抜きする仲間とか、欲しいんだろ。きっと」
シャルたちと遠足か~。楽しみだな!
明後日ってことは今日と明日中に準備しねぇとな!……山って何準備すりゃいいんだ?
なんてことを考えていると、隣のミカが何やら険しい顔をしていた。
「………」
「ん?ミカ、あんまり嬉しくねえのか?」
「……別に、でも、あの「タバネ」の助手だからフツーじゃないと思う」
「そうか?アイツは色々と付き合わされてる苦労人のように見えてるからよ……別にあんな変な兎じゃねえだろ?」
「でも」
「ったく……ミカも心配性だな、
「……だと良いんだけどね」
ったく、やっぱミカは慎重派だな……。
まあ仕方ねぇが……。
──そして、当日──
シャル達に連れられ、俺たちは待ち合わせのIS学園を走るモノレールの駅にやってきた。
「ふんふふふーふーふー……僕のベル~が~鳴る~」
「お待たせしました!キラさん」
「……あ。お、お待ちしていました。 皆さん……お、お久しぶりですね……」
暇だったのか、鼻歌を歌っていた今回の主催らしいキラが俺たちの姿を見てそう挨拶をするが……。
「よう。……大丈夫か?随分とやつれてんな」
なんか……キラの奴、ずいぶんとげっそりしてるっつーか。
どういう因果か、あの胡散臭えシノの姉ちゃんの下についてんだ。
いつも相当ひでぇ目にあってんだろうな……。察するぜ。
「ま、まぁ……色々ありましたから……。今日の為に、急ピッチで作業してまして……」
「そっか……。お前も苦労してんだな。ま、今日は楽しもうや」
「は、はい……」
キラの肩に手を置き、励ましながら俺たちはモノレールへ乗り込んだ。
モノレールの車内でセシリアがシノにこう尋ねる。
「そういえば箒さん。今回行くところが自然豊かな場所なのは分かりますが、具体的にはどのようなものなんですの?」
「キラの言が正しければ、これから向かう場所で運が良ければ、雲海、が見られるそうだぞ」
その
……相当、疲れが溜まってるんだろうな……。
「ああ、雲海か~!だから始発なんだね!ボクも実物は初めてだなぁ」
ん?ウンカイ?
ふと疑問に思ったが、俺が聞く前にラウラが同じ事を思ったらしくこうシャルたちに聞いた。
「ウンカイ?何だ、それは」
「高名なお坊さんですの?」
「それは空海だ」
「何よアンタ達。知らないの?…ならすっごくびっくりするだろうから!まあ今は特に考えなくても大丈夫よ!」
女子連中も盛り上がってんな。しっかりと弁当抱えて。こりゃ先が楽しみだ!
雲海ってのも気になるしな。
……ってセシリアも案の定弁当を持ってきてるじゃねぇか……。
きちんと味見してきたんだろうな……?
と、オルガが女子の会話を優しい笑顔で眺めている頃、三日月の異様な気配に気付いた一夏が彼にこう尋ねた。
「どうしたんだよ、ミカ?キラのほうずっと見つめて」
「ん、イチカか。いや、別に」
「ま、俺も最初は驚いたけどさ。そう気を張らなくてもいいんじゃないか?ここは戦場でもないし」
「…それは、どうかな」
「?」
一夏の鈍感力はこういうところでも発揮されるようだ。
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そっから先は、まずモノレールからIS学園の外へ行き、その後キラがチャーターしたらしきバスへ乗り換え。あとは目的の場所までひとっとび。
本当に車か?ってくれぇ変な速度出してたし、運転手の姿が最後までよく分からなかったりもしたが、まあ気にしないでおくか。
「………」
ミカは相変わらず警戒したままだがよ……。
ったく、気を張りすぎると楽しめるものも楽しめなくなるぞ?
そんなこんなで目的地に到着したらしいバスから降りると太いワイヤーに吊られたでっけえ箱型の乗り物が山を上下しているとこへとやって来た。
「お待たせしました。後はこのロープウェイに乗って歩くだけです」
あの乗り物はロープウェイっつーらしい。
モノレールや車でがぶ飲みしていた栄養ドリンクが効いたのか、キラの調子も回復している。
鼻歌も再び歌い始めている
……アイツ、本当にそんな生活で大丈夫か?今日がたまたまこんなだって場合かもだが。
「の、乗り物の連続をこの時間帯からはキツいわね……」
「絶景の下、三日月さんにワタクシのお弁当を食べてもらう為ですわ……耐えるのよ……ワタクシ…!」
「まぁ、実際空気は都会とは全然違うから、多少休めば生き返るような気分だろうな。なんていうか、こう、いかにもマイナスイオンって感じだな!」
一夏の言う通り、ほんの少し前まで街にいた俺たちは今じゃ緑豊かな大自然の中。
目の前のロープウェイ乗り場とその周りの道以外は穏やかな木々が周囲を覆っていて、上の方には山が見える。
街や学園とも違う空気の味が旨ぇ。
そんな感想をオルガが抱いている時、箒はとある事に気付いて、他の人に気付かれないような小さな声でキラにこう質問した。
「……私達以外に人がいないようだが?」
「あぁ、まぁ……。一応、貸し切りです。観光地だから苦労しましたよ」
「……そうか。それは、うん。すごいな。流石は姉さんの助手、か?」
「僕くらいですからね……。あの人についていけるのは……」
「え?ん?それ…相当、希少なのではないか……?」
そして、三日月はラウラにもキラへ警戒を忠告する。
「……ラウラ」
「ん?どうした、ミカ」
「できる限りアイツには警戒しておいて」
「アイツとはキラのことか……。あぁ、わかっている。前のように嫁がやられるようなことは絶対に避けるつもりだ。ミカも気をつけてくれ」
「うん」
「じゃあ、そろそろ乗ろっか」
一夏の声で全員が乗り場へと歩き出す。
奥につくと、さっきまでずっと山を上下していたロープウェイが目の前に停まっていた。
「……そういや、こういうモンに乗るのは初めてだな」
「あれ?オルガ、ISはいいけどこういうのは駄目とか?」
「いや、駄目とかじゃねぇ。単純に乗ったことがねぇだけだ。少なくとも酔ったりはしねぇはずだ」
「そっか、オルガにもまだ経験したこと無いことたくさんあるんだね」
「ああ……色々とな……前まではこういうのに縁はなかったしよ」
「そうなんだ」
(オルガはIS学園に来るまでは戦場とかにいたのかな……福音戦の時とか見てると戦いに慣れてるみたいだったし…)
(……昔のオルガ……ちょっと気になるかも)
「こうして平和に居られるのもあんまりなかったからよ……」
「オルガ………」
しまった、つい湿っぽい雰囲気にしちまった!
えーと…あーと…!
「お、おっとなんでもねえ!とにかく行くぞぉ!」
「う、うん!」
その場にいる全員がロープウェイに乗り込むと、突然シャルが近づき、耳元で
「横、座っても、いい?」
と囁いた。
「お、おう……!?」
急だったんでびっくりする俺だが、なんとか平然を装って返答をする。
「い、いいぜ。…窓、行けよ。こういうの、好きなんだろ?」
「オルガこそ窓際だよ。初めてなんでしょ?すっごくいい景色だから。僕は下りの時でいいから」
「そ、そうか…んじゃ、仕方ねえな……」
シャルに言われた通り、登りは俺が窓際に座る事にした。
すぐ隣にはシャル。やっぱり外をよく見たいのか、座るなり俺の肩に顎を乗せる。
「…んー?」
「…お、おう……」
結構近えじゃねえか……。
そ、そんなに見てえのか…?
数秒か、数十秒。そのまま互いを見つめ合っていると、
「では、そろそろ出発しますよー!」
キラの奴の一声とともにロープウェイは動き出した。
「おう、見ろよ箒!いい景色だよな!」
「そう大きな声で言わなくともわかる、全く……はしゃぎすぎだぞ一夏」
「おっとわりぃ……しばらく自然と触れあってなかったからついな」
「ふん……でも確かに綺麗な景色だな……」
「だろ?」
一夏と箒は一緒に外を眺めている
「………」
「あら、一夏さんの隣を取れずに不満ですの?」
「……別に」
一方の鈴は箒に先を越されたからか少しむくれていた
「……しかし何だが、ISかヘリコプターでも使って飛べばよいのでは?貸し切りで他に誰もいないのであれば問題なかろう?」
「ラウラ、お前は全然何もわかってないな……」
「そうよ!こういうのは、風情よ!風情!」
「……そういう物なのか?ミカ」
「…よく分かんないけど、とりあえず外を眺めておこう」
「うむ。そうしよう」
しばらく三日月とラウラは無言で外の景色を眺める。
とても綺麗な緑に覆われた山の斜面が見える。
「ほう……きっと秋になると「紅葉」とやらをしそうな木々だな」
「「こうよう」?」
「秋になると木は枯れることになるが、その時にその葉っぱの色が変わり、赤や黄色になったりするのだ」
「そしてそれによりこの木々に覆われている山は一面がとても綺麗な黄色や赤色になるそうだ」
「へー……ラウラ、詳しいね」
「ああ!嫁のために自然について色々と調べたからな!」
「クラリッサから聞こうともしたのだが…あまり詳しくは教えてくれなかったのでな…」
「そっか………ありがとう、ラウラ」
「な、なに!これくらい夫の務めだ!」
えっへんと胸を張るラウラ。
「だが……何だか、不思議な感覚だな。空を飛んでるわけでもなし。地に沿ってるわけでもなく」
「そうだね。……こんな風に落ち着いて上から見るなんて。バルバトスに乗ってる時もこんな感じにはならなかった…なんでだろ?」
「さあ……。私にもよく分からんが、いいな。こういうのは」
「……うん、いいね」
「……」
(アイツはどう?)
三日月はラウラに耳打ちをする。
(今の所ただ鼻歌を歌ったりしているだけで怪しい素振りは見えなかった)
(通信をするなどの素振りもなかったぞ)
(…だが、どうにもしっくりこないものだ)
(ん?)
(なぜ大した縁もない私達を急に誘ったのか……それだけがやはり気になる)
(オルガ団長の言う通り「息抜きする仲間が欲しい」というだけなら良いのだが……)
(…………)
そうして、彼らは山へと入っていった……。その先に何が待っているかも知らずに……。
次回は3月23日 17時投稿です