インフィニットオルフェンズ外伝 ~三無を束ねし、煌めきの雲海~ 作:IOノベライズ 制作チーム
霧の向こうから二つの黒い何かの姿が近づき、だんだんと形が見えてくる。
その姿は、まるで……。
「ガンダム・フレーム…?」
後ろに背負ってるモンとか持ってるモンは違ぇが、二機とも黒…いや、
「ガンダムって…三日月君のISもガンダムって名前があったよね?」
「三日月さんのは「ガンダム・バルバトス」でしたわね……オルガさん、なにか知っていらっしゃるの?」
「……いや、あんなもん俺は知らねぇ。……そもそも『つくり』が違ぇ」
「…つくり、ですの?」
「ああ。俺らの知っている奴は、腹の辺りが殆どシリンダーだけだ。だがあの知らねぇモビル…いやISはフレームが露出してねぇ。……多分、似てはいるが俺らの知らねぇモンだ。って、こたぁ……」
≪その通りです≫
スピーカー越しみてぇな音質でキラの声が響く。やっぱりコイツの仕業か。
くそっ!どこから喋ってやがる……。
≪皆さんの目の前にいる無人IS。それらは僕が用意したものです。騙すような事をして本当に申し訳ありません。……ですが、どうかこれと戦ってください≫
本当にすまなさそうな声でそう言うと、二機のガンダムのうち一機が速度を上げ、こちらへ迫る。
何のつもりだか知らねぇが、どうやら避けられる戦いじゃあねぇみてぇだ。
こいつらをとっとと片付けて、キラの奴にこの落とし前をキッチリつけてやんねぇとな!
「行くぞ、シャル!セシリア!」
「うん。行こう!オルガ」
「……え、えぇ!行きますわよ」
「Ride on…」
俺たち三人が一斉にISを展開させる。
そうして、新生鉄華団とキラの操る
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オルガ達の前にいる二機の無人IS。その内の一機は色こそ白黒だが、オルガ達とは別世界のガンダム
──ストライクガンダムの各種装備の中でも機動力に重きを置いた、『エールストライク』
巨大なスラスターと主翼が目を引くその装備は異世界にてストライクがおそらく、最も使用したであろうストライカーパックだ。
そのエールストライクが右手にバズーカを左手にビームライフルを持ち、オルガ達へと向かって突撃してきた。
「相手は二機、でこっちは三人。数は優勢だよ。協力して倒していこう!」
「あぁ、そうだな!……ヴヴッ!」
オルガがシャルロットの提案に肯定したその瞬間、
もう一機の砲撃型装備のストライク──『ランチャーストライク』の肩に搭載された、
ガンランチャーとバルカンの一斉射撃を浴び、何度も何度もワンオフアビリティ『希望の花』を発動させてしまった。
キボウノハナー キボウノハナー キボウノハナー
「オルガッ!!?」
「シャルッ!…クソッ!待てって言ってんだ…ヴヴヴヴヴァアアア!!!」
完全に身動きができず一方的に動きを固められてしまったオルガを助けようと動くシャルロットだが、それをエールストライクが静止する。
「……っ!セシリア!オルガの援護を!!」
エールストライクに阻まれ、オルガの援護に向かえないシャルロットはセシリアへと応援を乞うが、そのセシリアは思考の沼へと沈んでいた。
(あの砲撃型のIS…。先ほどワタクシを狙った物とは少し違うようですわね……。あの砲撃型の持つ大砲とはまた違う超遠距離から放たれたと思しき弾丸。……レールガンかしら?)
「やはり…狙撃…ですわね……。申し訳ありませんが、オルガさん、シャルロットさん。どうやらワタクシのブルー・ティアーズと踊って下さる相手がいらっしゃるようですわ」
「まだ一機隠れてるってこと!?」
「えぇ、そのようですわね。……フフッ、このセリシア・オルコットとブルー・ティアーズに狙撃戦を挑むとは!なんて恐れ知らずなんですの!いい度胸ですわ。お相手してさしあげてよ!!」
セシリアのブルーティアーズが銃を構えた遥か先。
雲海の内に潜む狙撃手の名は、『ライトニングストライク』
装備している超遠距離狙撃用のレールガンの射程はセシリアのブルー・ティアーズのそれを上回っている。
(とはいえ、先ほどの狙撃……。オルガさんが庇ってくださらなければ危なかったですわ……。簡単な解析ではワタクシの最大射程よりも、さらに遠い距離からとお見受けしました。どうやらワタクシ達に対応する相手を用意してあるようですし……ワタクシのみを狙ってくるでしょう……。このブルー・ティアーズの射程内に収めようと接近してはいい的になるだけ。勝負は一瞬。カウンタースナイプ、しかもアウトレンジで挑まなくては……)
セシリアは相手の射撃能力がこちらを上回っている可能性に気付き、それでもなお、銃を握りしめ次の攻撃を待つ。
少しでも威力と射程を稼ぐ為ライフルに殆どのエネルギーを注ぎ込み、全てを賭けた一撃必殺の勝負にて決めるつもりのようだ。
「…どこ…?どこですの…?」
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「はああっ!やあっ!」
箒が駆る紅椿がその左右の手にそれぞれ持つ刀の斬撃は、
白兵戦型のストライク──『ソードストライク』が持つストライク本体の身長に匹敵する大剣──シュベルトゲベールに防がれる。
性能面では流石に第四世代型ISである紅椿には劣っているのか、
このストライクは戦闘開始時からやや防戦に偏った形となっていた。
それでも無人機故か、遠隔操作するキラの補正か、技量までは覆せず、守りに入っているストライクにまともな一撃を加えられないまま、逆に箒はたまに見せる反撃で少しずつ確実に消耗していった。
「ふぅーっ…ふぅーっ…。軽装のように見えるが、堅いな……。思うように攻撃が通らない。厄介な相手を用意してくれたものだな」
「ホントそう!こいつらアタシ達と同じ土俵で戦うつもり?わざわざ戦闘スタイル同じ相手ぶつけて上位互換ぶるとか、趣味悪いわよあいつぅ!…ああもう!もどかしい!なんだってこんな!得意分野で苦戦しなきゃなんないのよ!」
そう叫ぶ鈴と対峙するもう一機のソードストライク。
一撃、二撃、三撃と振るわれるシュベルトゲベールの連撃を避け、時には甲龍の持つ大型の青龍刀──双天牙月で受け流し、大得物同士の削り合いは続く。
「パワーもあれもこれも向こうのが上っ!ホント面倒臭い相手!…でもっ!っぷわっ!」
ぶつくさと愚痴を漏らす鈴の様子などまるで伺う事なく、ストライクの横一閃が繰り出される。
間一髪、瞬時に上体を反らした鈴はこれを回避。
後ほんの少しのところでレーザー付きの斬撃は
「…っぶないわねぇ!切れちゃったらどうすんのよ!私の…その…。~~~~ッ!!えーいっ!ブッ壊す!!!!今、すぐにっ!!!」
何かを自覚させられた鈴は目つきを変えてストライクへ突撃。
迎え撃つ大剣を双天牙月の刃を交え受け、激しく火花が飛び散る。
単純な腕力は無人機であるソードストライクが上回り、鈴は両手で青龍刀を握りしめ耐える。
「…やっぱきっつ……でもねぇ!!……負ける訳にはいかないのよぉぉ!!!!」
そして、一夏の白式が剣を向けた先。
宙に佇んでいるのはシャルロットと対峙したストライクと同じエールストライク。
シャルロットと対峙したバズーカとビームライフルを持つ射撃重視のエールストライクとは違い、一夏の前の機体は片手に大型の実体剣『グランドスラム』もう片方にシールドを装備した近接型だ。
一夏は眼前のエールストライクに雪片弐型を振るう。
「…がっ!ううっ!このっ!」
瞬時にグランドスラムでその一撃は受け止められ、続く二撃、三撃目も盾や剣で止められる。
(…一夏さんの方は……。成程、あれが白式の第二形態…『雪羅』ですか。あれのデータも一応取れ、って言われてたっけ…)
エールストライク「達」を遠隔操作しながらキラがそう思考する。
そんなキラの思惑など露知らず、一夏は自身の持てる力を最大限に振るう。
「……くそっ!なら、こいつは!」
一度距離を取り、今度は白式の左腕に搭載された『雪羅』を起動。
荷電粒子砲を三発ほど放つ。
全弾、命中。敵の無人機は爆煙に包まれる。
「……よし、意外となんとかなったな。って、撃ち過ぎたか?エネルギーは……ん?」
当たりはしたが、その予想は甘かった。
──煙の中で黄色い
その後、煙が晴れるとそこにはシールドを構えたストライクがいた。
まだ目の前に白式がいる事を確認すると、次はこちらだ、と言わんばかりに斬りかかる。
「くっ!やっぱこうなるかーーーっ!」
慌てて防御体勢を取った一夏は、重い金属音を立て、白式と灰色のエールストライクは衝突。
その状態で両機とも空高く飛翔し、雲海の中へと突っ込んでいった。
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「はああっ!」
所変わって、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンと同様の砲撃機『ランチャーストライク(二機目)』の交戦ポイント。
互いの主武装である大型砲『ブリッツ』『アグニ』の撃ち合いは、ストライクが優勢だった。
(くっ…何度も撃ってはいるが、やはり敵の方が出力が上か…。AICも試みたが、奴の弾幕とあのビーム砲の前には効果が薄かった……今のままでは勝てない…。どうすれば……?)
そして、三日月の相手は……。
「アンタが俺の相手……でいいんだよね」
色こそ白黒だが、その特徴はストライクガンダムの種類の中でも、
『パーフェクトストライク』と呼ばれていた形態と一致している。
随伴しているその他『エール』『ソード』『ランチャー』全ての武装を一度に装備した、
ストライク最強の姿。マルチプルストライカー。
一撃一撃が必殺に等しいバルバトスに相応しいとの判断か。
(さっきの通信からして、他のみんなも今戦ってるはず……)
「ラウラもみんなも待ってるんだ。すぐに終わらせてやる…!」