拳を握れ 作:ヒットマン
「貴様は、一夏、なのか?」
震える唇に力を入れて言葉を吐き出す。
ああ見間違うことがあるはずがない。目の前にいる男は、かつての弟の面影を色濃く宿している。
ただ違うのは、若干白い肌にその目が研ぎ澄まされた刃を彷彿とさせることだけだ。
二年、いや三年だったか今の千冬には思い出せないが、その事件は忘れるはずがない。なぜなら肉親である弟が誘拐されたのだ。その事件が起こってから様々な国に援助してもらいながら捜索したがついぞ見つかることは無かったのだ。
だがそんなことはもうどうでもいい。今、目の前に探し求めていた弟がいるのだから。
「ああ、生きていたのか。すまない。すまなかった一夏。苦しかっただろう」
一夏はただ淡々と千冬の話を聞いている。無言でなにかじっと堪えているように。だが
「もう大丈夫だ。お前には私がいる。だからもう私から離れないでくれ」
一夏は下唇を強く噛み締めついにその口を開く。だがその口は千冬が予想だにしなかった事を口にした。
「もういい!黙っててくれ。俺はアンタの
「なっ」
驚愕。千冬はそんな筈がないと首を振る。だって、目の前の男は紛れもなく織斑一夏の顔を持っているのだから。
一夏の顔をした男は一度だけキッと鋭く睨むと俯いて冷静さを取り戻す。
「すまないがアンタの勘違いだ。間違っても俺のことを織斑一夏の名で呼ぶな。それはアイツだけの名前だろ。それよりも早く俺を案内してくれ。今日からここに通わないといけなくなったんだろう?」
千冬はもうこれ以上は時間を浪費できないと考え、本題に入る。
目の前にいる男の名前はウーノ・エスターテというイタリア人だ。といっても孤児らしく、親はイタリア人と日本人のハーフで、日本人の血が色濃く出てたのだろう。
その後里親に引き取られたがその里親はイタリア軍から降りた傭兵らしい。その道では名のある男だったらしいが、数ヶ月前に病気で死亡したらしい。
そして、一人目のISの男性操縦者である一夏の片割れ、織斑千秋が見つかり、続いて彼がISを動かせることが判明したためにこの場所、千冬の勤めるIS学園に入学することになった。
「……迷惑をかけたな。貴様はこの学園で私が受け持つ一組の生徒となっている。貴様も知っていると思うがここには用務員や施設設備などの関係者以外は女性しかいない」
「ああ、分かってるさ、そんなこと」
「そうか身の振り方には気をつけるようにな」
最後の言葉は千冬なりの優しさか、彼女も女子の中に男が二人だけということに同情しているらしい。たまったもんじゃない。ウーノは心の中で盛大に舌打ちした。
「それでは今から貴様を連れて教室に向かう。もうそろそろ2時間目が終わる頃合いだ。着いた時には3時間目だな。まあいい、ついてこい」
千冬は教室につくと廊下で待ってるように言い残して中に入る。教室の中では千冬の登場に驚いて騒がしくなっている。
「な、なんで千冬姉さんがここに、あでっ」
今のが一番目のイレギュラー、織斑千秋だとウーノはわかった。千冬とは家族であるらしく、今は姉と呼んだから叩かれたのだろう。
「騒ぐな、ここでは私は貴様の担任だ。公私混同は許さんぞ」
「…はい、分かりました織斑先生」
「それでいい。ではウーノ、入ってこい」
ウーノは呼ばれたために教室に入る。クラスを見渡せば女子しかいない。そして、己を見つめる視線はどれも好奇の目だ。中には敵意も含まれているのだから笑えない。ウーノは大体の人とは仲良くなれそうにないと悟った。彼は日常では静かな平穏を好むからだ。
織斑千秋と目があった。驚きをあらわにしているのでこの顔についてあとで聞かれそうだ。
「自己紹介を」
「…ウーノ・エスターテと言います。国籍はイタリア。特殊な学校に通っていたので、感覚がずれていると思われますが、どうか寛容に接していただければありがたいです。好きなことは静かに本を読んだり、日向ぼっこすることなので、騒がしい人は苦手です。どうかよろしく」
長ったらしい自己紹介を簡潔に、淡々とまるで読み上げているように言うものだから、みんなポカンと惚けている
ウーノは周囲を毛ほども気にせずに行動する。
「先生。自分の席はどこに?」
「左端の列の最後尾の席だ」
「了解しました」
「それでは山田先生。クラス代表を決めるとしましょうか。説明をお願いします」
山田先生と呼ばれたのは、緑の髪に眼鏡をかけた童顔の女性。身長も低いので見た目では年齢が分かりづらい。
山田先生ははいと返事を返すと話を始める。
「これから決めるクラス代表は、言ってしまえばクラス委員長の様なもので、生徒会が開く会議や委員会への出席を義務付けられ、また学園の様々な行事で中心となってクラスを引っ張るのが仕事です」
「その他にも、クラス対抗戦と呼ばれる5月上旬に行われる行事でクラスの代表選手として戦ってもらいます」
話を終えると千冬に目配せをして、後ろに下がる。それと入れ替わる形で千冬が教壇に立つ。
「クラス対抗戦はあくまで各クラスの実力推移を測るものだからな、誰でも構わないが対抗戦の優勝クラスは褒美も貰えるからな、代表候補生を採用するのもありだ」
クラス中がざわめいている。耳をすませていると、どうやら男子生徒二人を推薦しようとしているらしい。まあ当然といえば当然なのかもしれない。
「はい!織斑くんを推薦します!」
「じゃあ、私はエスターテくんを推薦します!」
「他に推薦はないか?自薦でも構わんぞ」
「待っ、待ってくださいよ!俺は辞退します」
自薦された千秋は席を立って声を荒げる。たしかに面倒な役割を押し付けられてしまったが、それが認められるとは思わない。
「ダメだ。推薦された奴には辞退は認めん。それか、もっともな言い訳があるなら述べるんだな」
千秋はぐっと口を閉じて、何かないかと当たりをキョロキョロと見回して、ウーノと目が合うとまた口を開く。彼の思惑を察したウーノは彼の評価を下げた。
「なあ、エスターテはどうなんだ。お前も不満に思ってるんだろ?」
はあと溜息をこぼすと机に肘をついて返事をする。こんな簡単な事も分からないのかと落胆した様子を隠しもせずに。
「…たしかにクラス代表には面倒な仕事がある。皆やりたくはない筈だ。だからこその推薦というものだろう」
「まあ、そうだけどさ」
「だろう?それを辞退なんてしたら意味がない。どうせここで喚こうとも何かしらで最終決定までしなければならないのは明白だ。高校生なんだ、我儘は見苦しいぞ」
最後の言葉でショックを受けた様子を見せたが、一先ずここで流れに逆らっても意味がないことには気づいたようだ。
「さて、候補は二人。ここで打ち切っても構わないか?」
千冬は話が纏まったのを見て、話を終わりに持っていこうとする。だが何かが気に入らなかったのか、金髪の女子生徒がドンと机を叩いて立ち上がる。
「お待ちください!そのような選出は認められませんわ!」
なにやら面白く思ったのか、それとも興味深く感じたのか千冬は続きを促す。
「そもそも男がクラス代表なんて恥ですわ!ISを男性が扱う事自体おこがましい事であるというのに」
これが社会の癌か、と呑気にウーノは考えていた。この手の輩は今の世の中には沢山いるし、蔓延っている。それこそどうしようもないほどに。
「そもそも私は名誉あるイギリスの代表候補生ですわ。実力からいけばクラス代表に相応しいのはこの私以外におりません。私はIS技術の修練に来ているのであって、低能な人たちの遊びに構う気など毛頭ございませんわ」
「いいですか、クラス代表は他のクラスから舐められないためにも実力トップがなるべきですわ。そしてそれは私ですわ」
ウーノは戦慄する。彼女はそんなにも苦しい競争社会を生き抜いてきたのかと。まあちょびっとしか思っていないようなのだが。
さらに彼は哀れみを込めた視線を金髪の女子生徒に送る。なぜなら彼女は、学校生活最初にやらかしてしまった哀れな人なのだから。
「では、来週の月曜の放課後にISを使ったクラス代表決定戦を行う。織斑は日本政府から、ウーノはイタリア政府から専用機を受領して挑んでもらう、各自用意をしておくように。それでは授業を始めるぞ」
息抜きに更新していくので、不定期更新です。
一ヶ月に一回は更新したいと思ってるよ(願望)