ナイト&クラウン   作:藍沢 七星

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First Clown

「そういえば、そろそろ夏休みだけど、どっか行かない?」

「どっかって?例えば……海とか?」

「あー、海かぁ……私、泳げないんだよねー」

「陸上部なのに?!」

「陸と海では使う技能が違うのだよ」

「なにそれ。顧問のマネ?」

 

狭い喫茶店内に笑い声が響く。

八人ほどの女子高生の集団は、周りの目も気にせず大きな声でしゃべる続けた。

「ねぇ、能々斑さんも一緒に行きましょうよ。ね?」

「そうよ。行きましょうよ。絶対に楽しいですよ」

囲うように声を掛ける女子高生の中に、一際”黒い”女子生徒がいた。

彼女の名前は能々斑 乃々華(ののむら ののか)。黒い制服に黒いタイツに、腰まである長い黒髪。

肌は傷も知らない赤子のようで真っ白。その中に紅一点というように赤い目が、コーヒーカップを見つめていた。

「そうねぇ……でも、やっぱり行けないわ。今年の夏は予定があるから……」

「そんなぁ!!」

「それに、私は暑い場所が嫌いだから……ね?」

一人ひとり、顔を見ながら笑みを返す乃々華。

その姿に、誰一人文句も言わず「仕方ないですね」で済ませてしまった。

「また面白い”お土産”を期待してますよ」

と、彼女は――乃々華は笑った。

 

 

 

 

っというのが、俺が友人から聞いたあいつの最後だった。

その日、、ビルの中でガス爆発が起きた。二階にある焼肉屋でガス漏れをしたらしい。

彼女らが後にしようとした時、事故は起こった。

咄嗟、崩れ落ちてくる瓦礫を避けるように、乃々華は後ろを歩いていた陸上部の女の子を前に引いた。

その結果、乃々華は天井の下敷きになった。

店内の何名かは重症ではあったが一命をとりとめた。が、乃々華は即死だった。

 

幸か不幸か。不交通の幸いか。死人は一人で済んだ。

良かったことなのだろうか。

 

俺から言えることはたった一言。

「自業自得だ」

だけだった。

 

校内・近所・世間体では”可憐なお嬢様”ではあったが、幼馴染の俺、木島 泰斗(きじま はると)からすればとんでもない悪女だった。

あいつとの付き合いは幼稚園まで遡るが、あいつの第一声は「下僕にしてあげる」だった。

それからというもの、事あるごとに様々な事件に巻き込まれては、全て俺が走り回された。

飼育小屋から逃げ出した鶏を捕まえたのも。

野犬が侵入した際、俺の背中にジャーキーをぶら下げ、一日中走り回された事もあった。

 

だが、そんなやつでも悪口を聞くのだけは許せなかった。

あいつが居なくなって一週間もすると、校内では悪口ばかりが往来するようになった。

「あの子、すごい偉そうだったから清々したわ」とか

「なんであの子、あんなに偉そうだったのかしらねー」だとか。

どいつもこいつも思うのが。なんで本人を前にして言わなかったんだろうか。っと

 

「裏でコソコソ言ってどうなるんだかなぁ……」

「気にすんなよハルト。それよか、今年の夏休みはどうするべ?海に行こうぜ海に!!」

「あ?なんで海なんだよ。」

「わかってねぇなぁ。ハルトは……」

腕を首裏にまわし、隠し事のように

「女をゲットするために決まってるだろ」

「あほくさ」

脇腹に肘打ちを入れるとそのまま教室に帰る。

「次、体育だろ?さっさと行こうぜ」

「はー、お前ってツレねぇ男だな」

「女に懲りただけだ」

 

 

 

女ってものを信用しないわけではないが、今回のことももだし、アイツのこともだし。

正直、考えるのも嫌になる。

嫌になる……が――

 

そんな俺も、こんな幻想を持ったこともある。

いつか、ナイトのように女の子を助けたい。

と……

 

まぁ、めちゃ恥かしい幻想なのはわかってる。が、それでも捨てきれなくて、今も胸ポケットの中で忘れ去られたボタンのようにしまってあった。

「なぁ、今日はどっか寄って――」

「――いや、今日も付き合えねぇわ。ゴメンな」

「あぁ、まぁ……仕方ねぇさ。また今度な」

「おう、また夏休みな……」

「ん?それってつまり……」

「いや、ナンパはしねぇよ?」

「なんでだよ!!薄情者!!」

 

 

 

 

 

誰そ彼時、真っ赤な町並みが黄昏るような気持ちにさせる。

野球少年の集団が、鉄のバットにいろいろぶら下げて走り抜ける。

何人かの子供が「こんばんは~」と声を出す。

じわじわと暑くなる季節だというのに本当に元気だ。

 

「そういえば、今日はカレーだったな」

信号待ちの合間、何事もないことがよぎる。

泳ぐ目は、一人の女の子に釘付けになった。

 

場違いな服装。そう、ファンタジーの世界から来たような。雪のような青白い服に、長くてきれいな青白い髪。

そして、今にも走り出しそうに地団駄を踏む。

「なんだ?あの子……」

反対側で釘付けになる俺と

反対側で眼中にない彼女と

 

それが出会いだと言うなら、これはもはや物語なのかもしれない。

 

 

踏み出した一歩、は一緒だった。

急ぐように駆け出し方の女。

それと同時に足が出た俺は、彼女を突き飛ばした。

「きゃ――」

っと小さな悲鳴が聞こえた。

その瞬間

 

 

 

俺の世界は反転した。

 

あぁ、地面が迫ってくるってこんな感じなんだな。

うわ、めっちゃゆっくりじゃん。

 

……もしかして……あいつも……

 

 

 

落ちたときの音って、言葉にしようとすると少し単純になる。

そうだな。やっぱりこれかな

 

 

 

 

グシャ……

 

 

かな。

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