「見えたかしら?ねぇ……」
「えぇ、見えましたよ。フロイライン」
「そう、それは良かったわ。さぁ、始めましょう。さぁ、銃はもったかしら?サンドイッチは?花が見える場所なんて最高じゃない」
「えぇ、楽しくなりそうですね。ですが、今回は”兎狩り”とは行きそうにありませんね」
「あら?それは大変!!私を守ってくれるかしら”セバスチャン”」
愉しそうな声を上げて談話する影が2つ3つ……
「ハートの女王はどこかしら?」
首をはねてしまわないと私が危険だわ。
「――っで……俺に何をしろと?」
「何って?特にないわよ。むしろ”邪魔をしないで”って言いたいかな」
「邪魔をするなって……これから何が起こるかわからねーのにできるかよ」
「そうね、だったらもっと具体的に言うべきかしら?」
「具体的に。というより指示を出せ。従うから……」
「うん?今……従うって――」
「前言撤回!!絶対変なことになるからやめた!!」
「マスター」
話を遮るようにガヴェインは乃々華の前に割り込んできた。
「あなたにしては珍しいわね。いつもの余裕はどうしたのかしら?」
「私が心配しているのはこの男のことです。本気で連れて行くのですか?」
「そんな事?”連れて”行ってなにか問題でもあるのかしら?ガヴェイン」
「あります。こんな足手まといを連れて行って、もし……マスターの身に何かあったらと――」
「ガヴェイン……あなたともあろうものが、万が一でも私を傷つける事がある。とでも言うのかしら?」
「――ッ!!」
ガヴェインが言ってることは、少なからずわからなくもない。
俺の行動一つで、もしかしたら危険になるかもしれない。
”こいつ”が何者かは知らないが、乃々華は信頼して身を預けているわけだし、それだけの実力を持っているんだろう。
「なぁ、乃々華……俺さ、やっぱ――」
「――邪魔だ」
軽々と俺の体を押し飛ばし、ガヴェインは鞘から剣を抜いた。
というか、その剣は一体どこから出てきたんだろうか。と問い詰めたいが……何よりも俺より小さいやつにタックルで押されたということが一番わけわからん!!
「いって――」
「ほら、言ったでしょ?危ないって……」
「言ってねぇ!!いつ言った!!」
乃々華は少しだけ考える”素振り”をすると
「さぁ、いつでしょうね」
とだけ返した。
俺の記憶の中で、そんなことを言われた記憶はない。
というか、こいつが他人を気遣うことをするわけがない。
もしも、誰かを気遣うなら"自分の為に"という理由がつくはずだ。
「マスター、指示を……」
「言わなきゃ戦えないの?ガヴェイン」
「いいえ、マスターが"どのように勝ってほしいか”を"指示"してください。要望に答えましょう」
目を合わせずしゃべるガウェインは遠く遠く先を見ていた。
誰かいるのか?
その疑問を抱く前に、眼前の先がキラリと光った。
「――ん?なんだ?あれは――」
という言葉を言い切る前に、周囲の地面が剥がれた。
「さながら迫撃砲ね。でも全然当たらないじゃない……威嚇射撃だなんて余裕じゃない」
「さぁ、どうでしょうね……ただ単に"下手クソ"なだけでは?」
「ガヴェイン……あなたがそんな事を言うだなんてね……」
「ここまでコケにされたわけですから……」
二人の会話についていけない俺は……ただただ間抜けに口を開けて二人を見ていた。
この非常な出来事を日常に楽しむ乃々華。
この非常な最中でも平常に流すガヴェイン。
――なんだよ……
―――なんだよ!!こいつ等はッ!!
「なら、私が出せる指示は一つね。そんなに難しくはないわ」
緩む口から小唄のように乃々香は言った。
「殺しなさい。首を刎ねなさい。それ以上に指示はないわ……」
「Yes――Your Majesty」
ガヴェインは言葉を唱えると、地面を一蹴りし、真っ直ぐ眼前へと姿を消していた。
一閃の剣の光が、彼の行き先を告げるように残り、静かに消えていった。
「さて、行こうか。ハル」
「――はっ……は?どこに?!」
「どこって……あっちに……」
乃々華は真っ直ぐ指をさす。その指先は、先程光が走った場所。
「は?いやいや、なんでそんな危険な場所に――って、聞いてないし!!」
「ほら、ハルー。置いていくぞー」
わざわざ危険に飛び込まなくても……
「俺はここで待ってるから――」
「殺されても知らないよー?」
「は?なんでだよ……俺が狙われる理由はないだろ?」
「そうかしら?ナイトという存在は"クイーン"有りきで確立されてるのよ?つまり、ハルがいるてことは、近くに"クイーン"が居るってことになるのよ。それなら、先に"剣"を折ってしまった方がいいんじゃないのかしら?」
「ふーん……つまり?」
「さっきみたいに狙われるってこと」
さっきみたいに……ってことは……
「危険が危ないってこと?」
「まぁ、そういうことね。よくわからないけど……ほら、置いていくよ?ハル」
「……どっちにしても危ないんじゃねぇのか?これって……」
「――」
閃光が見えた――
青白い光
目が潰れてしまいそうな輝き。
その後に聞こえたのは、声
聞き慣れた声
酷い声
醜い声
誰だっけ……
思い出せない……
「ねぇ、誰なの?」
見えない目を凝らして、そこに居る人影に声をかけた。
その人影は返事をしなかった。
どこを向いているかもわからない。
ゆっくりと近づいて来る?
「――にげ――フロ――」
ヒューヒューと笛のような音と、聞き慣れた声が届いた。
そこにいるの?貴方は……
底にいるのね。私の――
「――終わったかしら?ガヴェイン」
「えぇ……先程――」
「なんだ?戦闘って言う割にはそんなに激しくな――ゥ」
茂みを抜けた先、赤い花が眼下に広がっていた。
その端に見える赤青黄色に、俺は察してしまった。
「なんだと――これ……」
「三人もナイトがいたなんてね……全く、羨ましい限りだわ」
「それは、私だけでは不満だと言うことですか?」
「あなたは"剣"としてはこの上ないくらい優秀よ?だけど、盾としては不満しかないわ。あなたを満足に震えないだなんてね」
と乃々華は平然と笑った。
ピチャピチャとしぐれた後の様な音をさせながら、小さな亡骸へ歩み寄った。
「首を落とさなかったの?」
「私は執行人ではありませんから……」
「あくまで"騎士"だと言いたいのね。まぁいいわ……」
「――だ」
声として出ない言葉。
「どうしたの?ハル――」
広がる亡骸に目を背けるように眼を上げ、乃々華の姿をした魔女を睨んだ。
「お前は……誰だッ!!」