似たようで違うモノってよくある。
毎年のように出てくる毒キノコを食べて倒れてたり。
パチもんのブランドバックとか。
あとは……そうだな、ドッペルゲンガーとか。
じゃぁ、今目の前に居るのは……
「何を言ってるの……ハル――」
「黙れよ……」
ここに来たときに思った事。
乃々華はもう死んでいるんだ。
眼の前にいる"乃々華のような姿をした誰か"は、一体《一体誰》なんだ?
そうだろ?一体……誰がこんな……
悪趣味な夢を見せているんだ。
眼前に広がる風景。
それを言葉にしようものなら、俺はどこまで正気でいられるんだろう。
見慣れたはずの乃々華の姿は、この中で唯一の救い。のハズだった。
鮮血に広がる花畑の上で、真っ黒い制服姿の乃々華はいつもと変わらず、淡々としていた。
その姿に、俺は違和感を覚えた。
「お前が何者かは知らないが、アイツと同じ姿で、声で、その名前を使うなッ……」
「……」
「おい貴様……戯言は他所で――」
「うるせぇな!!お前は口を一文字にしてろ!!いいか。こんな偏屈な場所で、幼馴染が気の狂ったような男と居るってだけでも頭が痛いっていうのに……なのに……その幼馴染も……」
「"変わってしまった"って言いたいの?ハルキ。だとすれば、それは当然のことよ」
「当然――"当然"だと?!ふざけ――」
「ふざけているのはどちらかしら?気が狂ったのは――どちらかしら?」
瞳が搗ち合う。その刹那で目をそらしたのは俺だった。
乃々華"の姿をした奴"は真っ直ぐに。
強く看做すように語るように俺を見ていた。
「ねぇ……私は嘘をついているかしら?そんなふうに見えるかしら?」
「……わかんねぇよ――」
「嘘。そんなことを言う時は、本質を掴んでいる時。それも、"信じたくない事"が"信じなきゃいけない事実"だってわかった時。昔から私に口喧嘩で負けた時に言ってるし……」
「そんなこと……ねぇし……」
「ほら、そういう風に不貞腐れて下を見るのも……昔とぜんぜん変わらないじゃん」
「じゃぁ、お前は変わったっていうのかよ」
俺が反撃にと差し出した言葉に、乃々華は真っ直ぐにこう答えた。
「変わらなきゃいけない事もあるの。それがこれよ」
そう言って指さした先には、中学生くらいの女の子。
真っ白く愛らしいドレス姿は、鮮血に染まり、ドス黒くなっていた。
「どうして目をそらすの?これが現実よ」
「現実って……子供を殺した悪役だってことか?だったら――」
「それなら――私がこうなってたほうが良かったのかしら?」
顔色を変えず、乃々華のこぼした言葉。
声色は、さっきよりも冷たいような気がした。
――乃々華が……こうなる?
そう思った瞬間、目の前に立っている女の子が、小さな小さな可愛らしい"アリス"へと変わっていた。
その後ろには、真っ黒い塊のようなもの。
――いいや、違う。それを俺は知っている。
毎日学校で顔を合わせ、挨拶も交わさずすれ違ってきた顔だ。
いつも避けてきたはずの顔だ。
「なん……で――」
なんでって……
「……どうして」
どうしてって……
「――ハル?」
「――ッ!!」
鼻先に近づく乃々華の顔と声に目が冷めた。
どうやら立ちながら意識がなかったらしい。
「珍しく考え込むからじゃないかしら?……少し休んだら?」
と、やけに優しい言葉を差し出す乃々華の声に
「いや、大丈夫だ。大丈夫だから……」とだけ答えた。
「大丈夫」という言葉に半信半疑でありながらも、乃々華は再び、小さな女の子の亡骸へと歩み寄った。
「何をするんだ?」
俺は乃々華に声をかけた。
乃々華は俺を見ずに答えた。
「彼女の"クラウン"を奪うのよ。……と言っても、そんなに難しいことはないわ」
そう言い、乃々華は女の子の右手を手に取り、小指についていた指輪を抜いた。
「指輪?"クラウン"だよな」
「これは彼女が指定した"クラウン"を内包したモノよ。これの中に"クラウン"はあるわ。まぁ、見えないんだけどね……」
華奢な指先からハラリと落ちていく指輪は花畑の中へ落ちていった。
「あ――おい……」
何落としているんだ。と言おうとした瞬間。乃々華は指輪を踏み潰した。
パキッ
っと軽い音が聞こえた。
「あっ……壊した……」
「えぇ、これで良いでしょう。ね?ガヴェイン」
乃々華の問に対して、ガヴェインは静かに頷いた。
乃々華は自分の手の甲を見ると、少し安心したような顔をした。
「どうしたんだ?」
「大したことではないわ。"ナイト"を受け入れれる数が増えただけよ」
「ふーん、そうか……」
「その顔は意味が分かってないわね」
「うん」
「うん。じゃない」
乃々華は深くふかーく、ため息をつくと……
「一騎の"ナイト"でもこれだけ強いのよ?二人もいれば攻守ともに役に立つってこと……わかった?」
「おー……おう、なんか判った」
「わかってないわね……まぁ、いいわ」
「でも、それって大したことじゃね?大したことじゃないって言ってたけど……」
乃々華はその問いに対し、待ってましたと言わんばかりの顔をした。
「そうね、そんな話をするなら場所を変えましょ」
と言った。
確かに……
ってっちょっと待て……
「おい、お前、俺の質問に答えてなくないか?」
「何よ、気絶してたくせに……もう一回言わせるつもり?」
そういえばそうだったな……
「だからって俺は……」
「はいはい、信じようが信じまいがどうでもいいけど、私としてはこんな所で"幼馴染"を失いたくはないわね。何より、やっと見つけた玩具だし」
……っと言って、振り向きざまに見せた笑顔は可愛かった。
憎ったらしいけどな……