そして知った三雲ファンの多さ。だが私はミラージュさんが大好きだ。そして彼女のヒロインの作品は無いかと探し…………ない!? そして絶望した。
無いなら…………作ればいいじゃない!
そんなわけで………始まります。
ミラージュ・ファリーナ・ジーナスは久々に夢を見ていた。
いや、夢自体はそれなりに見たりしている。ただ今回見ている夢は彼女の生まれ故郷の実家、それも幼い頃のものだ。何故そう気づけたのかと言えば、自分の視線が低いこと、実家にいるということ、そして何より………目の前に『幼馴染み』いるからである。
夢と言うこともあって自分に自由意志はない。幼い自分に今の自分が重なっていると言うべきだろうか。自分では動くことも喋ることも出来ない。ただ幼い自分が話している様子を主観で見て聞いているだけである。
「ねぇ、みーちゃん。今日は何をして遊ぶ?」
幼馴染みは小さな男の子。真っ黒い髪にニコニコとした笑みを浮かべる可愛らしい子供。その姿は混じりっけ無い純血のマイクローン。それも今は無き『日本』という地球の国の純血、日本人という血統であった。希少ではあるが、別に本人はそのことを気にはしていないらしい。子供からしたら今は無き故郷などと言われても何も感じないからだ。彼にとって今、この場所こそが故郷なのだから。
そんな幼馴染みの問いかけに幼い彼女は楽しそうに返す。
「勿論、正義のヴァルキリーごっこ!」
元気良いその言葉に幼馴染みはうんと此方も嬉しそうに返した。
この年頃子供らしい遊びであり、特に男の子なんかはそうして遊んでいる様子がよく見られる。そういったアニメなんかも放送されているのでその影響だろう。
だが、これはどちらかと言えば男の子向け。女の子はそれよりも『リン・ミンメイ』とかの歌姫の真似事やおままごとなんかの方が好んでいる。
そして彼女は女の子。普通ならそちらの方に意識が向くものだ。それに彼女の家は祖父母の代から続く有名な家系であり、謂わばお嬢様でもあった。そう聞くと尚更歌姫とかに憧れを持ちそうなものだが、彼女はこの年齢のとき所謂ワンパクだったのだ。髪型は今と変わらないものだが、その服装は女の子みたいなスカートよりも短パンやズボンなど動きやすいものを好んで着ていて女の子よりも男の子と良く遊ぶような、そんな少女だった。
だから彼女が幼馴染みと一緒に遊ぶ時、大概遊びは決まってこの『正義のヴァルキリーごっこ』だ。他にも遊びはあったが、この二人は特にコレばかりしている。
「くらえ~、ピンポイントバリア、ぱ~~~~んち!」
「ぐわ~~~~~、やられた~~~~~~!」
彼女のまったく痛くないパンチ、それを受けた彼は如何にも痛そうな顔をして苦しそうに倒れる振りをする。
この遊びに必要なのは正義の味方であるヴァルキリー、そして悪役である。悪役が何なのかは特に必要が無い為、特に何かである必要は無い。だが正義の味方がヴァルキリーであることは絶対だ。だから必ず役が二人分必要になる。
そこで年頃の子供ならどちらが正義の役をやるのかでもめるだろう。だが彼女達は違った。正義は彼女がやり、そして悪役は絶対に彼がやるのだ。その事に不満はないのかと彼女は聞いたことがあるのだが、その時彼は決まって笑いながらこう答えるのだ。
「だってみーちゃんは僕の正義の味方だから。だから僕はみーちゃんの為悪役になるんだ。それにみーちゃんが笑ってくれるんだもん。喜んで僕は悪役になるよ」
その言葉に当時から顔が熱くなった事を彼女はよく覚えている。
そんな二人でよく遊んだ。家が隣同士、しかも生まれたときから一緒で親付き合いもかなり良かったことから家族ぐるみの付き合いもいつものこと。だから幼馴染みというよりも姉弟に近かった。
あの頃は毎日が楽しかった。幼馴染みといつも一緒にいた。どこに行くのも一緒で二人でいつも何かしらをしていた。驚くことに喧嘩なんかしたこともなかった。それはきっと彼が見た目のわりに大人だったからだろう。いつも我儘を言う彼女に彼は苦笑して譲るのだ。それが当たり前になり親に良く怒られたことをよく覚えている。
(あぁ、懐かしい。本当に懐かしくて暖かくて………幸せな夢だ)
今までの人生でもしかしたら一番幸せだったかもしれない。それぐらい毎日が充実していた。
でも彼女は知っている。夢はいつか覚めるものだということを。
そしてこの先にあることを知っている彼女は悲しみに胸が締め付けられた。
彼と彼女、二人は仲良く一緒であったが、ずっとではなかった。
少しして、親の仕事の関係で他の銀河の移民船団に行くことになったのだ。
当然家族は悲しんだし彼女はわんわん泣いた。彼女にとって彼は謂わば己の片割れと言っても良いくらいの仲だったから。友人以上なのは確実だろう。当時は意識していなかったが好意を抱いていたと今なら断言できる。
泣きじゃくる彼女に彼は泣きそうになるのを堪えつつ、何とか顔に笑みを浮かべてこう声をかけた。
「これでずっとお別れってわけじゃないよ。だから向こうに着いたら絶対にお手紙出すから。だから泣き止んで………ね、みーちゃん」
その言葉に何とか励まされた彼女は泣き止み泣きそうになるのを堪えながらうんっと返すのだった。
だが、彼女は知ってる。この約束が果たされることはなかったということを。
幼馴染み達が移動先の銀河の移民船団に向かっている途中、反統合政府組織のテロによて死んでしまったから。彼等が乗っていた宇宙船は爆発し搭乗員の約九割が死亡。残り一割も真空状態に投げ出された上に行方不明。生存は絶望的であり実質的壊滅。
幼馴染みの両親は死亡確認が取れたが幼馴染みは行方不明。どのみち死んだことに変わりない。
この時、彼女は大切な幼馴染みを失った。悲しみのあまりしばらく泣き叫んだのはいうまでもなく、その事実を受け入れるのに相当掛かった。
とても幸せで不幸な、そんな夢だった。
「久しぶりに何でこんな夢を見てしまったんでしょうか、私は………」
目を覚まして見ていた夢を思い出して彼女、ミラージュは苦笑を浮かべる。
既に過ぎてしまった後悔を今更に思い出す自分に呆れたのかもしれない。来ていた寝間着が妙に汗を吸ってしまって素肌に張り付く。その感触にに不快感を感じながら彼女は動き出す。
シャワーでも浴びようと思って起き上がった時、やっと自分の左頬が濡れていることに気付いた。触ってみれば左目から涙が伝って来たことがわかる。
そんな自分に彼女は後悔と自虐と自嘲を含んだ苦笑を浮かべた。
「何を今更。だってあの人は………アキトは死んでしまったというのに」
真っ暗な闇が支配する宇宙空間。そんな中、一つの戦闘機がいた。
真っ黒いボディーに所々紅色が散りばめられている。機体の形状から察するにVFー19だがきっとその通りではないだろう。何せその機体は今では一部でしか運用されておらず、統合軍では一般兵にはVFー171、そしてエースにはVFー25等が配備されているからだ。また一部ではVFー31といった最新機種も扱われている。つまりVFー19は若干世代落ちというものであった。故にこの『戦場』にVFー19がそのまま出ているはずがない。
そのコクピット内にて一人の男がいた。真っ黒い髪に黒い瞳。黄色人種らしい肌にとんがっていない耳はまさにマイクローンである証明だ。彼が今はなき日本人であるということを知るのは彼自身以外いない。だからといって彼自身見たこともない土地に哀愁など感じるわけもなく気にする必要も無い。
彼が気にするのは目の前に広がる光景だ。下手をすれば50を超えかねないほどに多い戦艦の数々、そしてそこから発進するバルキリーや戦闘ポッドの数は軽く100は超えている。これら全てが反統合政府組織。そして彼にとっては……『獲物』だ。
それら全てに悪意と戦意があり、それらの全ての殺意は自分一人に向けられている。常人は勿論、強者の軍人でも怯えて逃げ出す程に酷いソレを全身に感じ彼は自分の口元がつり上がるのを感じた。
「いけないいけない、あまりはしたないのは良くないよね」
獲物を前に舌なめずりは三流がすることだと誰が言っただろうか。自分がどんな顔をしているのか分かっている彼は自重の意を込めて自らを窘める。
彼がこれからするのは戦闘ではない。
「別に君達に恨みがあるわけじゃないし、嫌いなわけじゃない」
彼は静かに語り出す。通信は一応繋げているだけに向こうにも伝わっているだろう。だがこれは『降伏勧告や交渉』ではない。彼はそれを告げられるように言われたとしてもつげないだろう。
「挙げてるお題目は立派なのかも知れない。それによって救われる人がいるのかも知れない」
だからといって賛成しないし反対するわけでもない。
「でも僕はそういうおべっかはあまり好きじゃないかな。だって君達はよく言う『悪役』だろ? だったら一々言い訳をお題目に掲げるのは良くないよ」
彼は知っている、『本当の悪』というものを。それを穢す『偽悪者』は彼からすれば悪党以下の三流小悪党。同じ悪としてはあまり好きじゃない。
その彼の反応に周りの者達は緊張しながらターゲットロックを彼が乗るVFー19にかける。
ロック警告によって画面が真っ赤に染まり音がやかましく鳴り響く中、彼は笑う。
「本当の悪役なら、そこはもっと欲望に忠実でないと。やりたいことに言い訳をつけなきゃ出来ないくらいならやらない方が良い。それはただの欺瞞だよ。僕はそういうの、好きじゃないな」
それが彼の在り方。自分が正義の味方だなんて思った事は一度も無い。何せ彼は『彼女の為の悪役』なのだから。故に彼はこの戦場にいる全ての者に告げる。彼女以外に自分を倒す者はいないし死んでやるつもりもない。自分を倒したのは彼女だけなのだから。
「だから僕は君達にこう告げよう。さぁ、お前達を斬らせろ、そしてその血を吸わせてくれ。僕が僕であるために、僕があるべき形であるために、僕が斬りたくて、殺したくて堪らないから、だからお前達は僕に斬り殺されろ」
彼がするのは戦闘ではない……………鏖殺だ。
彼の言葉が放たれると供に、まるで津波のように押し寄せるミサイル。絶対不可避だということを機体が警告するが彼はまったく慌てない。
自分の背中にある『コネクター』を座席に接続する。その瞬間彼の認識が変わる。世界が変わり彼は一本の『刀』へと変わった。
「では…………村正、抜刀する」
その言葉と供に彼のVFは発進する。中身がいじくられたであろうステージII熱核タービンエンジンは異常な推力を叩き出し、弾丸のように弾けるかのように飛び出すVFー19。その先にあるのはミサイル群であり、機体は一斉に爆発した爆炎に包まれた。
誰がどう見たって過剰としか言い様がない剛火力。VFなど最新機種がピンポイントバリアで守ろうと粉々に砕けるだろう。
爆発の衝撃と爆炎でこの宙域が震える。誰もが終わったと思った。中にはやり過ぎたと反省する者もいたかもしれない。
ただ…………それが杞憂だということを教えてくれたのは一番先頭にいたVFだった。
いつの間に現れたのか、そのVFの前にそれはいた。
真っ黒い装甲に散りばめられた紅。その手に持つのはVFではまずあり得ない自身の背の三分の二はあるであろうブレード………否、刀。
その顔はVFではあり得ない翡翠色に輝くツインアイ。頭部に本来装備されているはずのレーザー機銃はなく。二本の強化センサーは米神辺りから前に突き出すように装着されている。
その姿を見た者は総じてこの言葉を口にした。プロトカルチャーによって様々な異星人が作られた中、それでも存在しない幻想を。
「お、鬼神(オーガ)………」
その姿に彼等は地球は今は亡き日本、その幻想にいた神に近き化物を見た。
そしてその言葉を最後にVFは息絶える。中のパイロットは自分の見ている光景が二つに分けられずれていくのを見ながら死に絶え、VFは機首からエンジン部まで綺麗に『真っ二つ』にされた。
今のこの世界に於ける軍事に於いてあり得ない破壊をされたことに周りが驚愕する中、鬼神はファイター形態を取ると再び弾けるかのように爆進し始め、ガンポッドが装着されているであろう場所に装着されている刀が真下に展開され、まるで撫でるかのように戦闘ポッドの真上を通過する。それによって斬られた戦闘ポッドは綺麗に分かれ一拍置いてから爆散した。
速すぎる速度で一気に間合いを詰め、たった一本の刀のみで全てを斬り裂く姿は黒紅い凶星。乱戦状態になりミサイルが銃弾が四方八方から襲いかかる中、このVFー19はまるで人間が動くかのように生々しい動きや人が乗っていてはあり得ないような動きで銃弾の雨をかいくぐり、ミサイルの雨は刀で斬り裂き無効化していく。
たった一機で敵を片っ端から斬っていくその姿は異端。この銃器全般の戦闘常識において異常としか言い様がないその姿は非常識そのもの。
だから皆が信じられなくなる。目の前にある現実があまりにも狂っているから。
だがその元凶たる彼はコクピット内にて笑う。
楽しい、嬉しい、喜ばしい。まるでこの戦場において場違いな感情を彼は浮かべる。まるで子供のように無邪気に、狂人のようにおかしく。
そして戦闘という名の鏖殺はその宙域にいる動くもの全てを動かなくなるまで続いた。誰もVFー19を捕らえる事無く終わり、皆すべからく斬殺された。
「う~~~ん、結構楽しめたかな」
全てが息絶えた戦場にて、彼…………アキト・切島は軽く伸びをする。その様子はまるで軽い運動をした後に腕の筋を伸ばすかのように似ている。その様子は先程まで戦闘をしていた様には見えない。まるで日常生活の一コマのように、その姿はリラックスしている。
彼がこんな事をした理由は簡単に一つだけ…………仕事だ。
彼はこう見えても会社員。それも所謂傭兵だ。見た目が如何にも人が良さそうな感じでしかも少しおっとりしてる所からそうは全く見えないが、それでも彼はPMC(民間軍事会社)に所属している。ただし、その会社の知名度は低い。理由は単純に知る者が少ないから。ただしその戦果だけはある意味有名だ。
このPMCの傭兵はたった一人で行動し戦場に現れる。そして『たった一つの近接兵装のみで敵を殲滅する』。戦場においてあり得ないそれは信じられない嘘にしか聞こえないし、聞かされれば笑えもしない冗談だろう。だから誰も信じられない。
だがそれを見た敵でない者、もしくは依頼者のみ。
その成果によってそれは証明される。有名にならないのは非常識な存在だからとしか言い様がない。
それは会社内でもそうであり、アキト達傭兵の雇用形態もまたおかしい。
基本会社から提示されるのは依頼の案件のみ。収入は給与制であり振り込まれる額はボーナス以外に上下しない。アキト達はそれらの依頼から好きなものを選び実行するだけ。機体の整備等は会社がやってくれるので会社の系譜の店に預ければ大抵やってくれる。自身でも『自分の身体』を把握しているので大体は自分でも出来る。弾薬費が掛からないのが特徴。チームを組むことがないのがまた特徴であり、過去に依頼が敵味方双方にあって両方受けた場合は互いに殺し合いに発展したことがある。故に単独行動であり、基本同じ星系には派遣されない。
まぁ、そんな胡散臭いのがアキトが所属するPMCである。名前もまた平凡なものなので名乗る必要もないだろう。寧ろアキト達の機体名にして通り名を名乗る方がまだ通る。
なのでここでアキトの事を改めて名乗ろうか。
『VFー19Σ ムラマサ(村正) アキト・切島』
これがアキトの機体の名にして自身の名でもある。故に彼等は自身を武具だと名乗る。それが彼等の在り方でもあるからだ。
アキトは村正、斬り殺したくてたまらない妖刀、それが彼だ。
そして彼は一仕事終えて次にどうしようかと考える。別に機体に酷い損傷はない。整備も自分で出来る範囲であり会社に寄る理由もない。
なら新しい依頼を受けるのがいいだろう。別にここで適当に休むのも良いのだが、如何せん『斬りごたえ』がなかった。満足などすることがない欲ではあるが、少しばかり満たしてやらないと如何せん餓えてしまう。なのでもうちょっと斬りたかった。
ならばと自分の携帯端末を弄くり来ている依頼を確認するアキト。
「う~~~ん、どれもこれもぱっとしないなぁ。はぐれゼントラーディーの討伐に護衛の依頼かぁ。あまり面白そうなのはなさそうだな…………んぅ?」
依頼案件を流し読みしているとき、アキトは一つの依頼に目が付いた。
『ブリージンガル球状星団にて民間企業ケイオスの所属する戦術音楽ユニット(ワルキューレ)の護衛任務』
別に世間に疎いわけではないアキトはそこで流行っている正体不明の病である『ヴァールシンドローム』のことは知っている。その抑止力こそがケイオスのワルキューレだということも有名な話だ。だがそこにアキトの興味は無い。彼が興味を示したのはそのワルキューレの護衛部隊。ケイオス・ラグナ第三航空団所属のVF小隊であるΔ小隊だ。そこのデルタ4ことΔ小隊の紅一点。見知っている彼女の名を見てアキトはソレまでの不気味なものとは違う暖かな笑みを浮かべた。
「そっか………みーちゃん、頑張ってるんだなぁ」
アキトにとって彼女は大切な幼馴染み。そして同時に『未だに好きな初恋の女の子』。
そんな彼女の名を見てアキトは少し困った顔をしてしまう。
「どうしよう、困ったなぁ。僕は悪役だからね、欲に忠実でないと。あぁ、どうしよう、みーちゃんに会いたくなっちゃった」
そう言いながらも答えは決まっているとアキトはその依頼を受諾した。
「きっと素敵な女性になってるんだろうなぁ、みーちゃん。会えるのが楽しみだよ」
そして彼はその宙域からフォールドした。
書いてしまた、後悔はしていない!