新しい依頼を受けることにしたアキト。依頼の内容は『ブリージンガル球状星団にて民間企業ケイオスの所属する戦術音楽ユニット(ワルキューレ)の護衛』というもの。既に依頼受諾の報は会社を通じて先方に連絡済み。だからこのまま向かうのみなのだが…………彼はまだケイオス・ラグナ第三航空団の拠点である惑星ラグナに着いていなかった。
「うわぁ~、熱いなぁ」
アキトがいるのは砂漠が殆どの惑星アル・シャハル。ブリージンガル球状星団の中の惑星の一つであり、惑星ラグナから30光年程離れた距離にある比較的ご近所の星。
何故こんな所に寄り道をしているのかと言えば、それはアキトが間抜けなポカをやらかしたからである。
PMCというのは傭兵なわけであるが、会社なのだ。確かに中には傭兵らしい者達もいるのだが、アキトは見た限りではそんな雰囲気は微塵も感じさせない。寧ろ若い新人社員と言えば誰もがそうだと思うだろう。そんな見た目なわけもあって彼は自分が傭兵であるという意識はあまり強くない。確かに依頼とあれば本性を露わにして殺しに掛かるのだが、それで自分は傭兵だと胸を張るタイプではない。アキトの意識では彼は『会社員』なのだ。仕事が人斬りというだけの会社員。物騒極まりないがそれがアキトという男だ。
そんな会社員である彼、この度の依頼の契約期間が一年と長いこともあってアキトとしては雇われているというよりも出向というのが近い感覚。だからここで彼は考えた。
(あ、あいさつに菓子折用意しないと)
実にアキトらしいと言うべきか、のんびりとした考え。彼としてはこれからしばらくよろしくする相手に失礼があってはいけないという気配りなのだが、PMCの傭兵としては如何なものかと周りが聞いたら思うだろう。それぐらい間の抜けた考えであった。だがそれを突っ込む者などいない。彼はあと一回フォールドすればラグナに着くというところで急遽進路を変更しこうしてアル・シャハルに来たのであった。
その理由はただ単純に近かったから。それとラグナでは無さそうなものがありそうだと何となく思ったからである。こういう土産物というのはその土地では中々食べられないものや珍しいものが好ましい。そんな理由であった。
そうしてアキトはアル・シャハルにある観光都市シャハルシティに来て土産物を物色している。甘いものやら塩辛いものやらと食べ物をメインに選んでいる理由は物品よりも気軽に渡せるからだ。重い奴だと思われては今後の人間関係に影響が現れかねない。普通の傭兵ならここはビジネスライクにドライな対応を取るものだが、アキトは基本のほほんとしていることもあって仲良く出来るならそれに越したことはないという珍しいタイプであった。まぁ、大好きな女の子の勤め先で変な感じになりたくないというのが本音なのだが。
そうしてあっちこっちを彷徨うこと約一時間弱。アキトは両手が塞がる程度に土産物を持って歩いていた。
「どうしようかなぁ、もう少し買うべきかな? 荷物を入れるスペースは村正にまだあるけど、僕の許容量がそろそろまずいかも」
相手がどれくらいいるのか良くわからないからこその悩みというべきか、実に平和に悩んでいた。もっと買ってもよいがそろそろ荷物の所為で視界が塞がれかねない。だからどうしようかと悩みながら歩いていると、何やら前方から慌ただしい雰囲気を感じた。
「まったく、美雲さんときたら………どこに行ったんですか、もう~」
相手は歳若い女性なのだろう。声の雰囲気からして少し怒っているといった感じか。それかもしくは呆れているのか、せかせかとした感じだ。周りの人達は特に気にすることはないようで普通に通っていく。だからまったく気にしなかったのだろう。
ただアキトの両手は荷物で塞がり視界も効かない。そして相手は焦りが先行して注意力が散漫している。人の混雑により進行方向が限られていると言うこともあって……………。
「うわぁっ!?」
「キャッ!? す、すみません!?」
物の見事にぶつかってしまった。
アキトは衝撃で荷物を落とし、女性はアキトと正反対に倒れ込み尻餅をつく。周りは何事かと気にするが混雑の中での衝突などよくあることなのか気にしなかった。
そして両者が対面する。アキトの目に映ったのは紅い長髪をした綺麗な女の子。歳は自分と同じくらいだろう。尖った耳がマイクローンでないことを教えてくれる。アキトにとっていくら成長していても見間違えることなど絶対にない、彼の正義の味方がそこにいた。
口元に笑みが浮かんでしまう。だって仕方ないじゃないか、会いたかったのだから。
アキトは再会に喜び声をかけようとしたのだが、向こうはそんな感じではなかった。
「あ………………」
アキトの顔を見て彼女は思考が停止したような顔………驚き過ぎて考えることを放棄してしまったような、そんな顔をしていた。
アキトは知らないから仕方ない。彼女からしたら『死んでしまった幼馴染みに似ている人』とぶつかってしまったのだから。少し前に見た夢もあってその顔はより鮮明に見えた。
だけど彼女は慌てて過ぎった思考を停止した。
(彼が生きているはずないんだから)
あの絶望的な状況で生存出来るわけがない。だから目の前にあるのはただの他人のそら似だと決めこんだ。借りに幼馴染みですかと聞いて外れていた場合は相手に酷い迷惑と不快感を与えることになる。それは宜しくない。故に問えない。問いたくなるのを必死に堪える。
アキトはそんな彼女の百面相を見て懐かしさから笑みが浮かんでしまう。成長して綺麗になっても彼女はまったく変わらないと思った。
だから彼女に声をかけようとしたのだが運が悪いと言うべきか、彼女の懐から何やら電子音が鳴り始めた。
彼女はそれに慌てて懐から携帯端末を取り出すと耳に当てる。そしてアキトに申し訳無さそうな顔を向けつつ話をして通話を切った。
「ぶつかってしまって申し訳ありません。正式に謝罪をしたいのですが、緊急の用件で急がないと行けなくなってしまって。ですので正式な謝罪はをご所望の場合は広報までご連絡下さい」
そう言って彼女は慌てながら立ち上がると散らばった荷物を急いで纏めてアキトに自分の名刺を差し出し風のように去って行った。
そんな彼女にアキトはクスクスと笑ってしまう。自分の事を気付かなかったのは少しばかりショックではあったが、彼女が昔とまったく変わらないことがアキトにとって嬉しかった。彼女は相も変わらず一生懸命で可愛いと、年頃にそう思って笑みを浮かべる。
「ふふふ、変わらないなぁ、みーちゃんは。やっぱり格好いい」
そんな再会にアキトはより楽しそうに笑う。これから先が楽しみだと、そう年頃の笑みを浮かべながら荷物を回収して再び歩き始める。焦る必要などない。何せもうすぐ再び会えるのだから。
その後も再びアキトは買い物を続けていた。せっかくの再会で上機嫌になったこともあり、もっと土産を用意しようと思ったのだ。そこで二人の男女に再びぶつかりかけられ荷物を散らかすことになる。その後脱走犯だなんだと騒ぎがあったのだが、アキトは二人に手伝ってもらって荷物を回収した時点で別れたので関係なかった。
そのまま後はこの惑星を離れてラグナにフォールドすればいいだけになり帰り支度を始めるアキト。だがここで予想外の事態が発生した。
突如鳴り響く警報が町中に響き渡り、それに伴い各所で爆発が起こり破砕音や倒壊音が轟く。そして人々の悲鳴が湧き上がり辺り一面が混乱の坩堝となった。
周りを見渡せばゼントラーディーのバトルスーツ『クァドラン・レア』や『一〇六式リガード』などが暴れ回っている。その様子と燃えさかる炎を見ればこの光景が地獄であることが窺える。
ここで常識的に考えればささっとラグナに向かうためにこの光景を無視するのが正解だ。アキトは正義の味方ではないし、今はまだ正式に雇われてはいない。期間に入っていないのだ。だから戦う必要は無い。
だが…………それは『正しいだけ』の選択だ。
目の前で血が飛び散り芳しい香りが鼻腔をくすぐる。人斬りたる刀がそれを我慢できるかと言われれば答えはNOである。
それに彼女に再会したのだから、彼女は絶対この戦場に現れる。ヴァール警報が鳴り響いていることからきっとワルキューレも来ているはずだ。ならそこに彼女がいるのも当然である。
なら彼女の活躍を見ようと思うのは当たり前であった。
故にアキトの行動は決まっていて自分の『片割れ』に呼びかける。
「行くよ、村正。彼女の活躍を見るために、邪魔なものは全部斬ろう」
その声を聞き彼の機体はエンジンに火を入れ飛び上がる。遠隔操作による起動、そして発進。町の近くの砂漠にカモフラージュして隠してあったそれはカモフラージュネットを撥ね飛ばすとファイター形態に変形しシャハルシティに向かって飛び始めた。
そしてアキトに銃口を向けるリガードがその引き金を引く瞬間、アキトは嗤った。
(遅いよ)
唇がそう動くと供にリガードの真上をそれが凄い速度で通過。その音が少し遠くに離れると共にリガードのコクピット部分が真横から綺麗に分かれ、まるで魚の開きのようにその中身を倒れながら晒した。真っ赤な血が溢れ出す中、それは再び戻りアキトの前でガウォーク形態に変形し着陸した。
「さぁ、斬り殺そうか」
アキトは嗤いながら片割れに乗り込み、そして上着を脱ぎ捨てる。上半身裸になったアキトのその背には通常の人間ではあり得ないコネクターが露わになった。普段はその上に邪魔にならないように加工されたパイロットスーツを着込むのだが、今回は緊急にてそれはなし。もとよりパイロットスーツなどアキトにとって大した意味は無い。コネクターを座席に接続できればそれで良いのだ。
ソレさえすれば…………妖刀は引き抜かれる。
「さぁ……村正、抜刀する」
そしてアキトが乗り込み統一された『VFー19Σ 村正』がその凶刃を閃かせる。
ステージII熱核タービンエンジンによって叩き出された常識外の推進力を使ってファイター形態からの突撃。戦闘機が飛んでいるというよりも矢が敵に向かって飛んでいるのではないかと思わせるほどの速度で飛び、敵が此方を攻撃しても機体を若干傾けるだけで弾丸をすれすれにかわしていくという神業を普通に行使する。そのすれ違いざまに居合い切り宜しくに刀を展開、その一刀を持ってして相手に絶対の死を与える。
それを直に相手にしている者達からすれば悪夢だろう。撃った弾丸を躱すのに最低限の動きで躱すその様子は端から見たら気付けるものではない。まるで弾丸が機体をすり抜けるよう見えるその姿は幽霊のようだ。どんなに撃っても弾丸がすり抜け、近づかれた瞬間には自分の肉体が機体ごと斬られているというのだから。
弾丸と爆炎が渦巻く戦場にて、アキトは村正として飛び込んだ。
当然アキトの姿を見れば襲ってくるクァドラン・レアやリガード。此方を見るなりその砲火を向けてくる。村正はバトロイドに変形すると刀を正眼で構え、そこからまさに人が踏み込むかのような動作で間合いを詰めると右上段からの一閃にてクァドラン・レアを袈裟斬りにすると、今度はリガードに向かって接近する。
接近する村正に向かってリガードが距離を取るべくミサイルを放ちながら離れるが、村正はそれを全て斬り払いながら更に前に進む。ツインアイが爆炎の中で翡翠色に輝く様は鬼火のように見えるだろう。その姿は刀を持った一体の鬼神であった。
そしてこの戦鬼が相手を逃すわけがない。脚部のブースターを噴かせながらの宙を舞い、そして地上では生々しい歩法で一気に距離を詰める。そして脇構えからの振り上げによりリガードを両断した。
「まだまだこれからだ。まだ斬り足りない、血が欲しい」
口元がニヤリと嗤うアキト。そこにあるのは普段の彼ではない。文字通り妖刀『村正』であった。
そして抜かれたからには血を求めるのが村正だ。ファイターに変形し戦場の空へと飛び、獲物を見つけては斬りかかる。ファイターですれ違いざまに一閃し、バトロイドで両断し、ガウォークで横に凪ぐ。
ヴァールで暴走しているのは新統合軍ゼントラーディ海兵隊。暴走しているだけであり彼等が悪いとは言えないが、それは関係ない。だって既に妖刀は抜かれたのだから。
ならば斬る以外何もない。アキトは妖刀となりて目の前で自分に攻撃を仕掛ける敵を全て斬っていく。斬って斬って斬りまくって、血とオイルに機体が濡れていく。返り血を浴びたVFー19Σは悪鬼のようであった。その様子を見た者は戦き畏れ、暴走している者達であっても一瞬だけ躊躇させる。その一瞬に斬り裂かれ、残るのは斬り捨てられた死体のみ。
そのまま斬り進んで行くアキトがそれを耳にしたのは騒ぎの中心に近づいていく時であった。
「歌………だねぇ、これ」
聞こえてきたのは聞き慣れない歌。だがそれを誰が歌っているのかということは既に分かりきっている。この戦場で歌を歌う存在など一つしか無いのだから。
『戦術音楽ユニット(ワルキューレ)』
ヴァールを沈める為に歌っているのだろう。その旋律が辺り一面に流れ、その歌う様子がホログラムで彼方此方に投影されている。歌うのは華美華麗な衣装に身を包む女性達。その姿は戦場であっても恐れる様子はなく堂々としている。
そして彼女達を守る戦士こそがΔ小隊。最新鋭のVF-31四機が空を舞い、飛び交うミサイルを撃ち落とし、そして暴走している者達を無力化していく。
その光景の美しさと見事な腕に皆が感動するだろう。事実、見ている者達から感嘆と希望に満ちた歓声が上がる。
「これがワルキューレ、そしてΔ小隊か」
戦場で随分と派手な事をするなぁと関心するアキト。これがこの先護衛の任務対象なんだとみることに。皆が一生懸命なことが窺えることに好印象を覚える。巫山戯たり怯えたりという感情は見られない。皆が頑張っている。
「うん、良い人達だね」
アキトにとって彼女達は善人に見えるようだ。真面目な人達だと言っても良い。そういう『真面目な人』をアキトは好きだったりする。この依頼は案外悪くないかも知れないと思うアキト。
そしてΔ小隊で彼女が乗っているであろうVFー31を見つけて笑う。
「う~ん、やっぱりみーちゃんの操縦は格好いいなぁ」
赤紫のラインが入ったVFー31は綺麗に空を舞う。その様子は無駄があまりなく、まさにVF乗りらしいと言えるだろう。自分の操縦と比べればある意味雲泥の差がある。まさに格好いいという言葉に尽きるとアキトは思う。彼女が引き金を引きミサイルを撃ち落とす度に歓声が出てしまうのは惚れた弱みだけではないだろう。その姿が格好いいのだ。
なら自分もとは思わないが、彼女の勇姿をずっと見ていたい。その為に………。
「邪魔するのは許さないよ」
地上から彼女を狙うリガードに即座に距離を詰めると気付かれる前に神速の一刀を持って命を終わらす。爆発はない。あるのはただ斬られ倒れて血を噴き出すのみ。
そんなふうに村正は相手を斬っていく。ワルキューレの歌に乗ることなく、Δ小隊の邪魔になる奴らを片っ端から斬り殺していく。出来上がるのは血で出来た川、そして斬り殺された死体の山。歌とはまったく合わない地獄がそこに出来上がる。
そんな地獄が作られれば嫌でも周りは気付かされる。既にΔ小隊やワルキューレに連絡が行ったのだろう。此方に一般のコードで通信が入る。
『そこのVFー19、今すぐ武装を解除して降伏しろ。降伏しない場合は撃墜する』
未確認の相手に随分とお行儀が良いことだと思いつつ、その誠実さにアキトは笑う。やっぱり真面目な人達だなぁと。通信を送ってきたのはどうやらΔ小隊の隊長機らしい。ならここで変な真似をして関係を拗らせるのはよくない。
なのでアキトは普通に通信を返した。
『こちらはVFー19Σ 村正。民間企業ケイオスに所属する戦術音楽ユニット(ワルキューレ)の護衛任務を受けたものです。既にそちらに受諾の報告が行ってるものだと思いますが、確認お願いします』
その言葉に隊長機から少しばかりの間が空き、そして返答が来た。
『確かにその報告が来ているな。だがこの戦闘にどうして参加しているんだ?』
『偶々ですよ。そちらに向かう前に菓子折の一つでもっと思って用意しに来たところ巻き込まれましてね。自衛というには少しアレですが』
苦笑交じりにそう返すと向こうからも苦笑が帰ってきた。災難だったなと返す言葉には同情が確かに込められていた。
『事情は分かった。ならこれからは俺達の指揮下に入ってくれないか。下手に行動されても困るからな』
向こうの言い分ももっともな話であった。この場で第三者が勝手に動いては場に混乱を与えるだろうというのは当然の話であった。
だがアキトはそれに返し少しばかりの抵抗を見せた。
『指揮下に入るのはお断りします。これは僕の戦い方の問題もありますが、貴方達も僕を使うことが出来ないと思いますから。でも下手に行動することはしないし邪魔もしません。お願いされたら素直に聞きますよ』
『そうきたか。まぁそれでもいいだろう。これからよろしくやる仲だ。無駄に軋轢を生むようなことはしない方が良いからな』
『ご理解感謝です』
そんなやり取りをしている間に既に鎮圧も終わりを迎えつつある。ヴァールも落ち着き始めライブもそろそろ終わりそうだ。
だがそう終わる物でもないようで、更にΔ小隊に緊急の連絡が入る。
『悪い、村正。アンノウン数機がアル・シャハル守備隊を撃破しこちらに向かっているらしい。協力してくれないか』
『アンノウンですか?』
アキトがそう問いかけると供にレーダーが大気圏を突入してきた可変戦闘機と思われる機体を捕捉する。それも此方の小隊の数に比べその数はその倍以上だ。
見たことのない機体が編成を組んで跳んでいる様子から相手は明らかに訓練された存在。故に相手はそこらのチンピラや暴走した存在などより余程脅威であることが窺える。
その存在に警戒を深めるΔ小隊に対しアンノウンは苛烈な攻撃を仕掛けてきた。
ブースターだと思われる部分がパージされたかと思えばそれが独自に動きミサイルを吐き出す。腕もそこいらのVF乗りなんかよりも良く、しかも数も多い。ワルキューレという護衛対象がいる以上下手には動けない。状況は圧倒的に不利であった。
その光景を見ているアキト。その顔は如何にも困ったといった様子だ。
『あっと、え~と………隊長さんで合ってるかな』
『ん、あぁ、それで合ってる』
『僕が連中を斬っても良いんですよね』
『それは出来れば助かるが、そんな簡単に…』
そこまで聞ければ十分だ。アキトは嗤った。
「じゃぁ………斬らせてもらう」
そして弾かれるようにVF-19Σ 村正が飛び出した。
飛び出した村正に当然アンノウンは攻撃を仕掛けるべくロックをかけようとするが、その
警告が出た途端にアキトは嗤う。
「それじゃ僕は捕らえられない」
その瞬間…………村正は消えた。文字通り姿形、その存在すら消えたのだ。
ロックしていた対象が消失したことにロックしていたアンノウンのパイロットは驚きを隠せず動揺した。自分はまだ何もやっていない。撃墜したわけでもなく、そもそも引き金すら引いていない。何より目の前で相手が消失しロック対象を見失ったことを自機から知らされているということがその真実を確かにする。
そして言葉を発しようとした瞬間、パイロットの目の前にソレは現れた。
「まず一つ」
どこか楽しそうにアキトはそう呟きながらその腕を振り下ろす。
持っていた刀は上段で構えられそこからの振り下ろしにてアンノウンをコクピットから真っ二つにする。
斬り裂かれた機体は空中へと投げ出され、そして地上に落ちると供に爆発した。
その光景は相手に恐怖を与えるに十分だろう。急遽現れた村正に動揺する様子が伝わってくる。
『お前さんのソレは?』
『一応会社の機密ですので詳しいことは。まぁ単純にフォールドしてるだけですけどね』
これが村正が刀一本でこの弾丸飛び交う戦場を渡り歩く術の一つである。
この機体はあることを出来なくする代わりに別の機能が付けられている。それは今現在どの戦艦には標準で付いている『フォールド』、それを高速で尚且つ短い距離で行えるというものである。その名を『ハイスピードショートフォールド(HSSF)』。小難しい話だが要は瞬間移動が可能だということだ。
これこそが村正が刀一本で戦える理由の一つ。この機能の前に距離は意味を成さない。入るのも高速なら出るのも高速。関知した瞬間にはすでに目の前にいて刀が振り下ろされている。発動すれば絶対に回避出来ない魔剣である………ただし短い距離でしか出来ないので注意が必要だが。
それに加え独自の操縦機構によりこの機体は従来のVFとは一線を化す。より人間に近い動きを可能にし、同時に人間ではあり得ない程の動きを繰り出す。魔改造という言葉がこれほどしっくりくる機体もないだろう。
これらを持ってして妖刀『村正』は完成する。一度抜けば血を見ずにはいられない、斬り殺したくて溜まらなくなる妖刀。
そして抜かれたからには相手が誰であろうと斬るのみ。
相手が警戒を露わにするとミサイルの雨を降らせるが、そんなものに恐れるアキトではない。そのまま突っ込み迫ってくるミサイルをい片っ端から斬るという離れ業を相手に見せつける。
その光景に再びアンノウンに恐怖をもたらし、その動揺する姿にアキトは嗤う。
「殺し馴れてないのが丸わかりだよ………二つ……いや、三つか」
そのまま足のブースターを全開で噴かし、槍の如く動揺の抜け切れていないアンノウンの一機に激突。突き出された刀によって串刺しとなったアンノウンをアキトは気にせず更に押しだし後ろにいる機体も巻き込んだ。見事に2機を串刺しにしたアキトは爆発する前に刀を引き抜き蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたアンノウン2機は敵集団の真ん中で爆発し、その爆発に気を取られてしまっている機体達に更にアキトは襲いかかった。
「そんなことに気を取られてる暇なんてないよ………四つ」
特殊なフォールドをしなくても爆発的な加速は十分にある機体である。空中でも間合いを詰める速度は伊達ではない。
一気に間合いを詰めると加速を乗せた刀による上段からの袈裟斬りで斬り捨てた。翼も本体も足も斬られた機体に助かる術はない。黒煙を噴かしながら落下し、そして爆散した。
一気に4機も潰されたアンノウンは流石に不味いと思ったのだろう。散開してから村正を狙うものとΔ小隊やワルキューレに襲撃をかけるものとで別れ始めた。
ワルキューレが襲われ歌が止み再びヴァールが活性化したりもするがΔ小隊がカバーに入り同時に撃退に入る。
その間にエースボーカルの付近でミサイルが爆発したり何故かVFー171が現れて武器無しに動き見事な動きでリガード2機を蹴り飛ばしたり、その後空に飛んでアンノウンに落とされり、またアンノウンの中でも格段に良い動きをするエースがΔ小隊のエースとぶつかり合っていたり様々だ。
そしてアキトはと言えば……………。
「こんなのじゃまったく足りない。機体は良いけど乗り手が駄目だ。みんな『初心者』じゃないか。こんなんじゃまだこの間の反統合政府の艦隊の方が歯ごたえがあったよ」
向かってきたアンノウンを全て斬り殺していた。
彼の足元に転がっているのは全て斬られた残骸。皆コクピット事斬られ、生きている者は一人もいない。
アキトはこのアンノウン達と戦って気付いた。確かに腕は良いのだが、相手を殺すということに馴れていない気配を感じさせるのだ。つまり訓練だけを積んできたエリートであるということ。確かに操縦は上手いのだが、殺し合いの駆け引きや馴れというのがまったくない。下手をすれば初陣かもしれないというくらいに顕著に出ていた。
だからこその不満。これなら古強者の方が余程歯ごたえがあると。
故にアキトの目はさらに向こう、Δ小隊が戦っている方へと向いた。狂気に満ちた目がエースが戦うアンノウンの方へと向き、口元がニヤリと嗤う。
「なら今度は…………お前の血を吸わせろ」
そして消える村正。次の瞬間にはΔ小隊のエースであるデルタ2とぶつかり合っていたアンノウンの前に現れその凶刃を振るった。
「なっ!? こいつ、風を斬り裂いただと!?」
そのアンノウンは咄嗟に機体を変形させると機体を横に反らし掠る程度で躱すことに成功したが、それでも機体の翼に線がしっかりと刻み込まれた。
そこで止まるわけがないのが村正だ。更に追撃のために二の太刀を放つ。
「嘗めるなよ、地球人に与する者が!」
放たれた凶刃に対し、アンノウンは横にバレルロールすることで躱す。
躱された村正は更に追撃をかけようとするのだが、そこでデルタ2からの追撃がアンノウンを襲う。ソレすら避けたアンノウンは再びデルタ2とのドッグファイトを始め、アキトはそれを見て自重する。
「いけないなぁ、相手の獲物を横取りするのは。いくらつまらなかったってそれはよくないことだ。もうちょっと我慢を覚えないとね」
それまでが暇だったため、若干暴走気味であったことを自重するアキト。
若干冷めてしまった目で辺りを見回し、そこで紅紫のラインが入ったVFー31が飛んでいるのを見かけた。そしてその背後で彼女を狙おうとしてるアンノウン目掛けて腕を振り上げる。
「ロクデナシの僕でも守りたいものくらいあるんだよ。お前如き小悪党が彼女を害するな」
槍投げのように投げられた刀はアンノウンのコクピットに見事に突き刺さり、コクピットから血が吹き出るのが見えた。
それに気付いた紅紫のラインが入ったVFー31が機体を変形させて此方を見る。
既にアキトのことは知っているのだろう。ただしそれはこの機体のこと、そして今回の依頼を受けたということだけだ。
だから此方に普通に通信が入る。
『援護感謝します』
その言葉にアキトはえへへっとくすぐったそうに笑った。彼女からの感謝は久しぶりで嬉しいから。
そして戦闘は終わりを迎える。
アンノウンはその部隊の約半数を失い撤退、ヴァールはワルキューレの活躍で見事に鎮圧された。
辺りは倒壊が激しく町の彼方此方が燃えている所を見るにあまり良いとは言えないが、住民は皆命が助かったことに歓喜しワルキューレを崇めていた。
その一カ所にてあつまるΔ小隊とワルキューレ、そしてVFー19Σ。そこで撃墜されたVFー171に乗っていた男が降りた後にミラージュに怒られるという事があったりした。
そして彼女はガウォーク形態に変形しているVFー19Σの前に行く。
そこで改めて先程の礼を言おうとしたのだ。さっき彼女は自分の後ろにいるアンノウンに気付かなかった。もしもあの時彼がやらなければ殺されていたのは自分だと分かるから、だからこそちゃんとお礼を言いたかったのだ。
そして開かれるキャノピー。そこから出た降下用ワイヤーに足をかけて降りてきたのは上半身裸の男。真っ黒い黒髪に真っ黒い瞳をした彼女と同じ年頃の男がそこにいた。
いつもの彼女ならその格好に突っ込むかも知れないが、その顔を見て顔が固まった。
彼女にとって見知った顔。幼い頃にいた大切な幼馴染みの顔。そして死んでしまって二度と会えない人の顔。
だからミラージュは固まる。もう死んでしまったのだから彼は違うのだと、他人のそら似だと思い込んで何とかお礼を言おうとする。見れば見るほど似ている彼に余計な迷惑をかけまいと。
だが、ここで彼女はそれまでの努力を全て台無しにさせられた。
彼はミラージュの姿を見てホンワカとした笑みを浮かべてこう言ったのだ。
「久しぶりだね、みーちゃん。元気みたいで安心したよ」
柔らかな春の日差しのような笑顔を浮かべ、幼馴染みしか知らない呼び名を呼んだ。
その衝撃にミラージュは呟くように彼に問いかける。
「あ、あーちゃん………なの?」
まるで信じられないと震えるミラージュにアキトは嬉しそうに頷いた。
「うん、そうだよ、みーちゃん」
その瞬間、ミラージュは自分が何をしたのか分からなかった。
ただ第三者であるワルキューレやΔ小隊の他の隊員が見たのはアキト懐に飛び込んで子供のように泣きじゃくるミラージュがいて、そして胸に飛び込んできたミラージュにアキトがあわわしながらあやすように優しく抱きしめ返していたという光景であった。
こうして再び彼の正義の味方と彼女の為だけの悪役は再会した。
やりたかったのはZOEのゼロシフトですね。