マクロスΔ 全てを斬り裂く妖刀   作:nasigorenn

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戦闘が難しく、そしてやっぱりミラージュがデレただけでした


第五話 模擬戦(おにごっこ)

 午後になり模擬戦の時間を迎える頃、アキトとメッサーの二人はコクピットに乗り込み待機していた。既に互いに準備は万全であり問題は無い。

 今回の模擬戦に於いてのルールではミサイルは禁止でペイント弾のみとなっている。そのためメッサーはVFー31のミニガンポッドだけだ。それに対し、そもそも射撃兵装を一切積んでいないVFー19Σの武装は急遽作られた特注のペイントナイフ(大太刀)となっている。斬れはしないが丈夫であり、ナイフよりも無茶が効く。ペイントの名の通り、斬り付けられた痕は赤いインクが線を引く仕様となっているものだ。

 それを携えたVFー19Σと背に死神のペイントを施されているVFー31。供に格納庫にいる光景は何やら不気味に感じられる。

 

『準備はいいか、アキト少尉』

 

 もう少しで模擬戦開始という時刻となりその少しの間だけの暇つぶしなのだろうか、メッサーがアキトに通信を入れてきた。その様子は普段と全く変わらない冷静沈着な様子である。

 そんなメッサーにアキトは普通に答える。

 

「はい、大丈夫ですよメッサーさん」

 

 此方は打って変わってホンワカした様子だ。まるで緊張が感じられない。リラックスしているというよりも平常心という所なのだろう。気負っている様子は一切無い。その証拠にメッサーのことを未だに階級付けで呼ばないところがその証明だろう。先程も語ったが、とてもこれからデルタ小隊のエースと一対一の模擬戦をするようには見えない。

 

『一応ルールの確認をする。互いに致命傷となる部分にペイントすればそこで終了だ。それ以外の部分でも被弾したり攻撃が当たったりすればその箇所がコンピューターに認識され損壊ありと判断されて性能低下がされる。その事を念頭においておけ』

「はい、わかりました。つまり実戦と変わらなくていいんですね。ありがとうございます」

 

 メッサーのルールの説明にアキトはニッコリと笑ってお礼を言った。その笑顔の所為でメッサーは若干調子が狂ってしまう。仮にも戦士としてその様子はどうなんだと聞きたくなってしまうのを何とか堪える。

 そんなメッサーに対しアキトは丁寧で真面目な人だと思った。これから戦う相手にそこまで教えてくれるのだ。これが丁寧で真面目でなくてなんとなる。別に教えなくても良いのに教えてくれるというのだから、きっと優しいのだろう。そうとさえ思った。

 それぐらい彼は『甘い』のだとも。

だからアキトはその気持ちに応えることにした。彼が望むように『戦おう』と。

『殺し合い』でも『鏖殺』でもない『戦いごっこ』をしようと。

 

「じゃぁ遊ぼうか………メッサーさん」

 

 そう呟くアキトの口元は小さく嗤っていた。

 

 

 

『制限時間は10分、審判はアーネスト艦長がする。各機左右に展開、すれ違ったら模擬戦スタートだ』

 

 その通達が行われるブリッジにて、飛行している二機を見つめるデルタ小隊とワルキューレ、そしてマクロスエリシオンのブリッジクルー。

 通達通りVFー19ΣとVFー31は左右に旋回し、そしてすれ違った。模擬戦の開始だ。

 

「大丈夫でしょうか、アキト」

 

アキトが心配なのだろう、ミラージュは不安そうにモニターを見ていた。そんな彼女と比べ、この模擬戦を興味深そうに見つめているワルキューレメンバー。彼女達はVFに関わる技術者もいるのだが、それでもVFの戦闘に関しては素人だ。故にこの模擬戦がどれだけ『おかしい』のかわかっていない。

 それに対し分かっているのは艦長とアラドであり、それ故に二人はそういう観点も込みで興味深く見ている。チャックはミラージュと同じように不安そうではあるが、持ち前の明るい気前さもあってアキトに頑張れと応援を送っていた。

 すれ違った二機は互いに動き合う。VFー31はすれ違うと共に急旋回してVFー19Σの背後を取ろうとする。

 それに対し、VFー19Σは急上昇して一気に上がるとそこでエンジンを切り慣性制御で機体を一回転させ、そこで再び点火しフルスロットルで此方に向かってくるVFー31に向かって急降下し始める。

 互いに機首が向き合いVFー31からペイント弾が発射されると、VFー19Σはそれを機体を僅かに揺らす程度で紙一重に弾を避ける。

 その技量にVF乗りや軍人である者達は感嘆の声を上げ、それに後押しされるかのようにVFー19Σは高速でVFー31に襲いかかる。真上を通過する通り抜け様に真下に装着されている刀を展開し斬りかかったのだ。

 その強襲にVFー31は足だけを変形させ咄嗟に弾けるかのように回避して見せた。その攻防は紙一重であり、それだけで胸が詰まるほどに濃密なものだった。

 そこから始まるのは通常のVFの戦いとは異なる代物。機動が変わり動きが変わる。その様子におかしさを感じたミラージュは上司であるアラドに問いかける。

 

「隊長、どうしてアキトは後ろを取らないんですか?」

 

 VFなどの戦闘機に於ける基本、それを真っ向から否定するかのように真正面から攻めるVFー19Σの行動に疑問を感じる。そんな彼女にアラドは少しだけ驚きを混ぜた声で返した。

 

「取らないんだろうなぁ。何せ武器がまったく違いすぎる」

 

その言葉に捕捉を入れるかのようにアーネストが言葉を重ねた。

 

「通常VFなどの戦闘機の戦闘は『尻追い戦(ドッグファイト)』だ。その性質状真後ろに隙が出来る戦闘機はVFになったとしてもそこはあまり変わらなかった。真後ろに攻撃が出来るようになった今現代でも視界の問題や武器の自由度、その方向性などからやはり前面に集中する。故に射撃がメインである以上VF同士の戦闘では後ろの取り合いが基本となる。だがVFー19Σが装備しているのは刀だ。近接兵装である以上接近しなければならない。だからVFの基本通りに後ろの取り合いをしていても何も出来ない。攻撃するためには相手と真正面から向き合うしかないんだ。差し詰め『猪突戦(ブルファイト)』といったところか」

 

 武道に嗜んでいるアーネストならではの言葉に現状如何にアキトが不利なのかを理解するミラージュは更に不安そうに俯いた。

 

「無理だけはしないで下さい、アキト…………」

 

そう呟きつつモニターを見つめるミラージュの顔はただ一途に心配する乙女の顔であった。

 そんな顔を見てはしゃぐワルキューレ達。チャックはそんな不利で大丈夫なのかよと唸り声を上げている。

 

「だが寧ろ……いや、これは予想外だな。まさかここまでメッサーの攻めを捌くとはな」

「持っている武器からして予想していたが、アキト少尉は武術の経験があるな。それも最近の軍隊格闘技じゃない。柔道と似たような………剣道? いや、剣術と言うべきか。飛び道具相手に対する接近戦技能が群を抜いている。あの見切りは神がかってるぞ」

 

 アラドとアーネストはただ只管感心させられていた。前者は機体性能では大体互角でも飛び道具を有しているメッサーが攻めきれないということに、後者は相手の攻撃を全て紙一重で躱して反撃をしていることに対してだ。実戦を知り殺し合いに馴れているからこそ分かるアキトの強さ。それは現状の不利を物ともしない程に凶悪であった。

 

「凶刃の銘に偽りなし、てか」

「クラゲの中にサメをぶち込むとどうなるか………」

 

 その結果はしばらくして出ることとなった。

 

 

 空中に幾度となく線が交差していく。一つは白と青の矢の如きVFー31。その動きは鋭く疾く、まるで相手の命を刈り取る断罪の鎌のようだ。もう一つは黒と赤のVFー19Σ。此方も負けず劣らず速いが、そこにぶれることのない刃の煌めきを見せている。妖しく輝る刃は敵の命を斬り裂かんと振られ、その斬閃が迫る度にメッサーはひやりとさせられていた。

 

(くそ、接近戦しか出来ないとはいえ侮れない。気を抜けば殺られる!)

 

 武装では有利なはずなのに、攻撃がまったく当たらない。まだこれで相手が大きく回避行動を取るのならわかる。だが相手は殆ど動かない。避ける際は本当に僅かに動くだけであり、直に対面している側としては此方の攻撃が全てすり抜けていくようにしか見えないのである。死神と呼ばれる身ではあるが、それをしても向こうの方が常識外だとメッサーは思う。

 

(これが天才というものか………いや、そんな綺麗なものじゃないな。これは化物というべきだろう。それぐらい禍々しい)

 

 すり抜けるかのように避けられ、そしてすれ違い様に繰り出される一閃は確実に此方を殺しに来ている。これが模擬戦だと分かっているのにメッサ-は冷や汗が止まらなかった。

 そんなメッサーの心情を察してなのか、アキトは目に映るVFー31に笑いかける。

 

「このぐらいで驚いていたら遊び飽きちゃいますよ。遊ぶならもっと遊びましょうよ、メッサーさん」

 

 この模擬戦が始まって既に5分以上が経過している。未だにお互いに致命傷はなし。アキトとしては中々の歯ごたえがある相手であり、正直気に入った。高速戦闘では正直向こうの方に分があるが、回避では此方の方が上。そのまま続けるのもそれはそれで楽しい『鬼ごっこ』ではあるのだが、そろそろ『タッチ』はしないと駄目だろう。観客が飽きてしまう。これは模擬戦、当然他の人が見てる。自分が演劇家だとは思わないが、それでも飽きられるのはそれはそれで面白くない。

だからこそ…………。

 

「ここからはもう少しタッチに集中しようかなぁ」

 

 アキトはそう言いながら嗤うと、VFー19Σをファイターからバトロイドに変形させる。 

 

「メッサーさん、今度はこっちからも行きますよ」

 

そのままバトロイドで上段の構えを取るVFー19Σは重力に引かれる落下速度を込めてVFー31に斬りかかった。

それに対しVFー31はペイント弾を発射するが回避される。人型になっても紙一重の回避は健在らしい。何故そこまで操れるのかという理不尽を飲み込みメッサーは迫り来る刀を必死に避ける。

 そのネタばらしは阿頼耶識である。機体を自分の身体同然に動かせるということは言い換えるなら、自分が戦闘機になると言っても良く、戦闘機としての動きを自分の感覚で行えるということだ。故にアキトは『VFー19Σになる』のである。アキトがVFー19Σを動かすのではなく『VFー19Σになる』。これが重要なのだ。故にこの機動、それを可能にするのが阿頼耶識なのである。

 そこからはさらに戦いは熾烈を極めていく。バトロイドになったVFー19Σは攻撃角度の深さや回数が増え、流石にメッサーも擦り始めて来たのだ。

 それだけならまだしも…………。

 

「なっ!? 弾を斬り払っただと!」

 

 VFー19Σは自分に向かってくるペイント弾を刀で斬り払ってきたのだ。そこにあるのは最早時代劇にある光景にしか見えない。現実ではまずあり得ないそれを目の前で見せつけられれば誰だって魅入られるだろう。

 

「アキト、こんなに凄いなんて…………」

「アイツ、本当にあのアキトかよ!」

「ビシビシくる」

「きゃ、きゃわわ?」

「VFってこんな動きが出来るものなの!?」

 

 上からミラージュ、チャック、レイナ、マキナ、カナメである。三雲は何故か怖がっているかのように何も言わなかった。

 

「そろそろアレを出すんじゃないか?」

「アレと言うと?」

 

 接近戦技能が既に神がかっていることに呆れて良いのか感心して良いのか判断に迷うアラドとアーネスト。そんな二人の会話の答えが皆の前に現れた。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 メッサ-が咆吼を上げながらVFー31をファイターで突進させ、VFー19Σの前で突如ガウォークに変形。そこから宙返りを決めてVFー19Σの背後に回ると同時にバトロイドに変形する。これまでに掛かっている時間は2秒にも満たない超高速変形を行ったVFー31は振り向くと供に腕のミニガンポッドを突きつけた。

 

「これで終わりだ!」

 

 そしてVFー19Σが此方に振り向く前に引き金を引き、ミニガンポッドからペイント弾が吐き出され…………それは弾けることなく空を切った。

 

「奥の手は取っておかないと………ね」

 

 確かにVFー19Σはメッサーの前にいた。だが、次の瞬間に…………消えたのだ。そして次の瞬間には既にVFー31の後ろにいて、そして振るった刀によってVFー31の右肩から左脇下にかけて真っ赤なラインが引かれたのだった。

 その光景に皆が驚き何でだと騒ぎ始める。誰もが決まったと思っていたのだ。それがまさかのどんでん返しに驚かざる得ない。

 だがその答えを知っている者達はその答えを合わす。

 

「『ハイスピードショートフォールド(HSSF)』だったか」

「近接兵装のみで戦い抜くために作られた鬼札か。確かにこれは凄まじいな。理論的には分かるが…………人間が使えるものなのか、これが」

 

 

 

 

 アラドとアーネストがそう言う間にアキトとメッサーは帰還する。そして格納庫にてメッサーはアキトに向き合い話しかけた。

 

「話に聞いていたが、まさかあんな近距離でも出来るとはな………正直やられた」

 

疲労もあって疲れた様子を見せるメッサーにアキトは普通に笑いかける。

 

「お疲れ様です、メッサーさん。とても楽しかったです」

「た、楽しいのか、あれが」

 

自分がここまで疲れているというのにまったく疲れた様子がないアキトにメッサーはなんと言って良いのか困った顔をする。正直プライドがへし折られかけたが、相手がまだ本気出ないことがVF乗りとしての自分に火を付けた。負けっ放しではいられないと思ったのだが、相手がこうでは気落ちもする。

 そんなメッサーを気にしていないのか、アキトは楽しそうに話し始める。

 

「昔、みーちゃんとよく鬼ごっこした時を思い出しましたよ。あの時もこんな感じで楽しかったなぁ。みーちゃん、鬼になると必死になって追いかけてくるんです。あの時のみーちゃんも可愛かったなぁ」

 

楽しそうに語るアキト。アキトを出迎えようと思い格納庫にきた彼女、そんなアキトを見た…………ミラージュは、

 

「な、何言ってるんですか、アキト!」

 

 恥ずかしさで真っ赤になりアキトに怒りながら近づくとメッサーにそんなんじゃないですからと必死に言いながらアキトを怒っていた。

 確かにアキトは強い。だが、結局ミラージュの前ではただの『幼馴染みが大好きな男の子』でしかなかったのだった。

 

 

 

 

「あ、あーちゃん、今度一緒に模擬戦、しませんか?わ、私だってもっと強くなりたいですし」

「うん、いいよ、みーちゃん。僕が鬼でやろうか」

 

真っ赤な顔で恥じらいながらそんなお願いをするミラージュを見て、アキトはやっぱり可愛いと思った。彼女との『鬼ごっこ』はやっぱり楽しかったとか………。

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