彼がこのラグナに来て少し経ち、今ではもう十分に馴れてきた。そんな頃合いを見計らったかのように最近の惑星ラグナ、その防衛の要でもあるマクロス・エリシオンが騒々しい。
そうなるのも無理はないのかもしれない。何せこの原因はワルキューレにあるからだ。何とこの度、ワルキューレは新メンバーの応募をかけた。その為ワルキューレのなりたいと銀河ネットワークで繋がっている各銀河系、各星の女性達が挙ってやってきたのだ。その予選オーディションをクリアした者達がこの度ここにやってきている。皆がワルキューレになるために訓練を積んできた歌姫の卵だ。容姿供にレベルが高く、誰がなってもおかしくないと素人身に判断するだろう。その裏にある条件など知らずに………。
そんな彼女達を見えない上の階から見下ろす一団が一組。
「んぅ~、可愛子ちゃんが一杯だぁ。もうみんな合格でいいんじゃねぇ?」
そう告げながらラグナ名産である海リンゴを囓るのは、デルタ小隊のデルタ3であるチャックだ。その言葉から真面目に考えているということはなく、ただ単純にそう言ったことが窺える。
そんなチャックの言葉に少し呆れつつ、同時に眼下ではしゃぐ女子達にも呆れた視線を向けるのは此方も同じくデルタ小隊のデルタ4にして紅一点であるミラージュである。
「本当に分かっているのかしら。戦場で歌うということの意味が」
彼女の言葉の意味がどういうことなのか、それを護衛しているが故に知っている面々としては理解していない者達はただのお気楽な愚か者にしか見えないのだろう。
そんな者達をみながらもここで場違いな事を言い出す者がいた。
「そんなに可愛いかなぁ? 僕は絶対にみーちゃんの方が可愛いと思うけど? みーちゃんは正義の味方だから仕方ないけど、少し勿体ないなぁ。もしそうじゃなかったら絶対にこのオーディション勧めてたのに。みーちゃんだったら絶対に合格間違いないしね」
そう言ったのは一人の青年。真っ黒い髪に真っ黒い瞳をした完全なマイクローン(人間)。このデルタ小隊に出向という形で護衛依頼をされた傭兵であり、ミラージュの幼馴染みであるアキト・斬島だ。
アキトにそう言われた途端にミラージュは顔を真っ赤にしてアキトを睨み始めた。
「な、何を急に言いだしてるんですか、アキト!? た、確かにそう言われると嬉しいですけど、それにアキトがそう言ってくれるのはもの凄く嬉しいですけど、それでもその…………私は軍人ですから!」
「うん分かってる。でも僕はみーちゃんが一番可愛いと思うから」
「もう、アキトは………」
真っ赤な顔で必死にそう言うのだが、その顔は恥ずかしいけど嬉しいといった感情が隠しきれない。そんな顔をしている同僚とさせたアキトを見てチャックは呆れ返る。アキトがここに来てからよく見られる光景であり、今でも嫉妬を燃やしはするが馴れてきたやり取りであった。
「お前さん達、またかよ。よくもまぁ、懲りないねぇ………リア充爆発しろ」
そんなチャックの言葉にミラージュは恥ずかしがりアキトは普通に笑う。この二人がこうしてイチャつくのはいつもの話であり、その度にミラージュは顔を赤らめる。その為最近では女性らしさが上がり男性人気も上がってきているらしい。
そんな馬鹿ップルをとモテない男の三人組であるが、何故ここにいるのかと言えばただ単純に興味があったからである。仮にこのオーディションで合格者が出れば、その時はその新人も立派な護衛対象になるのである。それを見たおこうというのあり、まぁ単純に世間話的なこともあった。特に気負う様子無くただ見に来ただけ。物見遊山といっても良い。野次馬というには少しばかり真剣味があるが。
そんな3人の耳に突如として大きな声が響いた。
「ふえぇええええええええええええええええ! オーディション受けられんて、どういうこったね!!!!」
その声に驚きつつも、その発生源に目を向けるとそこには一人の少女が受け付けに食いかかるように身を寄せていた。
「ですから、今日は最終選考でして」
どうやら彼女は予選があったことを知らなかったらしい。その為こうして驚き必死に何とかしてくれと懇願し始めた。その様子に付き添いらしい男性も驚きと呆れが混じった顔を浮かべている。
そんな彼女達を見てミラージュは何か気付いたらしく下の階に下り始め、アキトとチャックもそれに連なって後を付いていく。
そしてミラージュを見ていると、どうやら彼女は何やらその問題の女子と顔見知りらしい。
「貴女達、どうして」
そう声をかけるミラージュに向こうも反応する。そこで見覚えがあったのかチャックもアキトも反応した。
「あぁ、こいつが例のダンスする奴」
「あ、あの時荷物を拾ってくれた人だ」
そこで向こうも気付いたらしい。性格に言えばアキトにだが。この二人は以前シャハルシティでアキトとぶつかり荷物を地面にばらまいてしまい手伝ったことがあるのだ、その事で改めてお礼を言うアキトに向こう男性は別にいいってと苦笑する。
若干ホンワカとした雰囲気になったが、ミラージュは少しきつく言ったこともあって警戒しながら問いかける。
「まさか私に苦情を言いに」
彼女自身苦情があるなら広報に連絡を入れろと言っていただけにこうして直に言いに来てもおかしくないと判断したらしい。
そう言われた男性は鼻で笑いながら答えた。
「自意識過剰」
そう言われてミラージュが怒ったのは言うまでも無く、食ってかかろうとするのだが、そこで今まで俯いていた少女がミラージュに泣きついてきた。
「ふぅあぁぁああ、デルタ小隊の人、オーディション受けさせてくれんかねぇ!」
「え、えぇえぇえええ」
突然泣きつかれ困惑するミラージュ。そんな二人に困惑する周りではあるが、どうやら上の方で何か指示があったらしい。結果、この少女はオーディションを受けて良いとのこと。その報告に少女は今まで興奮していた分脱力してしまい座り込んでしまう。
これで終わりかと思ったのだがまだ続きがあるようで、受付席の女性がそれまで話に関わってこなかった男性に話しかけた。
「それとぉ~、ハヤテ・インメルマンさん?」
「そうだけど?」
男性……ハヤテ・インメルマンと言うらしい彼は自分の名前が知られていることに若干警戒心を見せつつ応じる。
「デルタ小隊のアラド隊長がお会いしたいと」
「隊長が?」
その言葉にデルタ小隊のメンバーが反応したのは言うまでも無いだろう。
その後受付席の女性の案内を受けてハヤテはアラドの元に行き、少女………フレイヤ・ヴィオンはオーディション会場へと向かった。
ミラージュとアキトは野外スペースの一角にてアラドの呼び出しのことで話し合っていた。
「どうして隊長があの男に会うなんて」
何やら不機嫌な様子のミラージュ。どうやらハヤテと以前何かあったらしい。
「みーちゃん、何かあったの?」
心配そうにしつつ頭を優しく撫でるアキトにミラージュは何とも言えない顔をする。甘えたいけど怒りが収まらないというような、そんな複雑な顔。ミラージュとしては正直アキトに話して甘えたいなんて気持ちもあるのだが、自身のプライドの問題もあって言えないようだ。
そんなミラージュにアキトは苦笑しながら話しかける。
「アラドさんがそんな事を言う辺り、大方スカウトだと思うけど」
その言葉にミラージュは不機嫌に答える。
「どうしてあーちゃんはそう思うんですか?」
二人だけで甘える気でいることもあってあーちゃん呼びなのだが、アキトはそれが嬉しくてクスクス笑いながら答えた。
「VFでダンスをするなんて人は聞いたことがないからね。そんな才能がある人ならスカウトしてもおかしくないと思うよ」
「でも結局堕とされてたじゃないですか。そんなんで戦士が務まるとは思えません」
「別に兵士としてスカウトするわけじゃないんじゃない。パフォーマーとしてなら十分素質があると思うよ」
ミラージュはそれを聞いてアキトに縋るような、甘えるような目を向ける。それに内心アキトがドキドキしたのは仕方ないことかも知れない。
「だったらあーちゃんがやればいいじゃないですか。あーちゃんならきっとアイツ以上に踊ることだって出来ます。それにあーちゃんの強さなら兵士としても合格です」
それは案にワルキューレと一緒にアキトもパフォーマンスすればいいじゃないかという提案。正直ミラージュとしてはその方が嬉しいのだが、アキトはソレを聞いて少しだけ悲しそうな笑みを浮かべた。
「みーちゃんのその気持ちは嬉しいけど、それは少しばかり駄目かな。確かに僕なら彼以上に踊れるかも知れない……ダンスは踊ったことないけど。でもそうじゃないんだ。僕のこの動きは、村正の動きは斬るためのものなんだ。村正を引き抜いたら、僕は人斬りにしか成れない。だから僕ではそれは無理なんだ。人に魅して良いものではないんだよ」
大人が幼子をあやすような、そんな優しい声をかけながらミラージュの頭を撫でるアキト。二人っきりで甘えているミラージュはそんなアキトを見て少し悲しくなったが、それが彼だと言うことを知っている。アキトの苦悩を知っているが故にそれを否定することは出来ない。
「そこまで言うならわかりました」
そう言ってミラージュはこてんとアキトの方に身体を預けた。
「でしたらその代わり………今はあーちゃんに一杯甘えさせて下さい。それとこの後の訓練に一緒に付き合って下さい」
顔を赤らめつつも身を寄せるミラージュがあまりにも可愛らしく、彼女から香った香水のような淡い香りがアキトの鼻腔をくすぐった。それが更に心臓の鼓動を早める。
「わかったよ、みーちゃん。今は取り敢えず………そうだね、一緒にひなたぼっこでもしようか」
「……………うん」
こうしてへそを曲げかねたお姫様な正義の味方は悪役によって大人しくなった。
のだが………………。
「私の機体に触るなっ!!」
訓練に付き合う約束をしたアキトがミラージュと一緒にフライトデッキに向い見たものは、アラドとメッサー、そしてミラージュのVFー31に触ろうとしているハヤテであった。
その所為でミラージュは落ち着いたはずの怒りの炎が再び燃え上がり、アキトはそんなミラージュに困った顔をしていた。