目の前で様々なマニューバを熟すVFー31を見ながらアキトは苦笑を浮かべて困っていた。
ことの発端と言えばミラージュとハヤテ・インメルマンの確執が原因であるが、それがどうしてこのような形となったのかは誰もが予想出来なかっただろう。
ミラージュとアキトの二人は一緒に訓練すべくフライトデッキに上がったのだが、そこでアラドとメッサー、そしてハヤテを見つけた。そこで何かを話し合っていたらしいのだが、その後何かを決めたらしいハヤテが近くにあったミラージュの機体に触ったのだ。それに我慢が出来なかったミラージュが怒りを露わにして怒鳴り込む。
VF乗りにとって自機は自分同然。その身体をメカニック(主治医)以外に触られるのは我慢ならない。それも戦場に立つという覚悟もない者ならば尚のこと。故にミラージュは怒っているのだ。その言葉には戦士としての覚悟を問いかける意味がある。
その言葉にハヤテはきっと理解出来なかったのだろう。自分はただ飛びたいだけだと、そう語る彼にミラージュはついに堪忍袋の緒が切れた。
「だったら味あわせてあげますよ! 空を飛ぶことを!」
そして始まったのはハヤテ同乗による飛行演技。ミラージュは後部座席にハヤテを乗せると普段以上に激しい航空機動を行っていく。その光景は目まぐるしく、誰がどう見ても無駄が多いように見える。見ようによっては思い思いに空を飛んでいるようにも見えるので、ある意味ハヤテの願いを叶えているとも取れるのだが、後部座席という戦闘機動を前提にしていない予備席であのように振り回されるとなると………正直持たないだろう。一昔前ならスプラッターなことになっていてもおかしくない。今ならそんなことにはならないのだが…………身体が正常でいられるわけはないだろう。
その結果は飛行訓練を終えた彼女達を見れば分かる。
「う、うぇぇぇえええええええええええ………」
激しい機動に耐えきれず酷い飛行機酔いで今にも倒れそうになるハヤテ。その顔は真っ青であり、今にも盛大に吐き出しそうである。
そんなハヤテを見てもミラージュは尚怒りが収まらない様子だ。
「これでわかったでしょう」
その言葉がどういう意味なのかなど分かりきっている。これが彼女達が『空を飛ぶ』ということなのだ。ただ飛ぶのではない。戦うために飛ぶということは肉体を酷使して飛ぶと言うことだと。そんな生温いものではないのだ。
そんな彼女が未だに怒り続けているのは実は自業自得な部分もあった。何故なら…………。
(せっかくのアキトとの訓練が……………自分でやったとは言えそれでもやっぱり………はぁ)
アキトと訓練できなかったことでの落ち込みであった。彼女にとってアキトとの時間はとても大切だ。出来れば今まで会えなかった分を補うかのようにずっと一緒いたいというくらいに。正直ベタ惚れであるが、それを本人にいったら慌てて否定するだろう。それを信じる者などこのケイオスラグナ支部には誰もいないというのに。
自分が我慢できなくてしたことだが、それでアキトとの時間を過ごせなかったのは残念で仕方ない。それもこれも悪いのは全部この目の前にいる『半端物(ハヤテ)』の所為だと。それが余計に彼女の怒りに拍車をかけるのだ。例え自業自得だとしても、我慢できなかった。
そんな彼女を見ながらやれやれと呆れるアラド、そして少しは共感できるため黙っているメッサー。アキトは困った顔をしていた。
そんな中、アラドからとんでもない発言が飛び出した。
「そんなわけでミラージュ、お前にハヤテ候補生の訓練教官を命じる」
「はぁ!?」
その言葉に信じられないと怒りを燻らせながら反応を返すミラージュにアラドやアキトは少しだけビクッとしてしまった。
それを悟られないようにもう言うことはないといった感じでアラドが背を向ける。
「一月で使えるようにしておけよ」
「ま、待って下さい、アラド隊長!」
呼び止めようとするもアラドは既に去ってしまい、メッサーも気付かれないようにささっと消えてしまっていた。
突如として決められてしまった教官に困惑するミラージュ。そんなミラージュに今度は苦笑しながらアキトが話しかけた。
「みーちゃん、ちょっとやり過ぎだよ」
まるで駄目なことをした子供を叱るかのように、メっと言わんばかりに注意するアキト。そんなアキトにミラージュはなんだかバツが悪いのか視線をそらす。彼女だって正直そう思わなくはないのだ。ただ許せなかったのと、アキトとの時間を取られてしまったことに我慢が出来なかっただけで。
「わ、私は悪くない………です」
子供の言い訳のようにそう返すミラージュ。そんなミラージュにアキトはもう仕方ないなぁと困った笑み浮かべながら彼女の頭にそっと手を添えて優しく撫で始める。
「僕は別にみーちゃんが悪いなんて思ってないよ。我慢できなかったんだよね。自分の機体を他人に触られるのが嫌だった。みーちゃん達がどんな覚悟を持ってこの空を飛んでいるのか理解していないで好き勝手言うのが嫌だったんでしょ」
「…………はい」
アキトにそう言われ、ミラージュはしゅんとしながら小さく頷く。
「それはVF乗りだったら誰だって思う当たり前のことだよ。だからみーちゃんは悪くない。でもね、いくら怒ったからってあそこまで酷い目に遭わせるのはやり過ぎだと思うよ。後でちゃんと謝らないとね」
「それは………いやです」
ハヤテに謝りなさいと言うと幼子のようにいやいやと首を小さく振るミラージュ。そんな彼女にアキトは暖かな目を向けながら話しかける。
「みーちゃん………ごめんなさいは?」
「…………………ごめんなさい」
「それを彼にもちゃんと言わないと……ね」
そう言われてもどこか納得がいかないのか行動に移らないミラージュ。そんな彼女にアキトはクスクスと笑ってしまい、それでミラージュが少し拗ねてしまう。
「なんでそこで笑うんですか?」
「だってみーちゃん、昔とまったく変わらないんだもの。昔みーちゃんの家のガラスを割っちゃったときも同じ感じだったよ。だからあの時と同じようにしようか」
そう言われたミラージュは羞恥から顔を赤くする。
(なんであーちゃんはもう、昔のこともちゃんと覚えているんですか!)
昔のこともすっかり覚えられていることに恥ずかしいが、同時に嬉しいと感じてしまうのは乙女心というものだろう。確かに恥ずかしい出来事ではあるのだが。
そんなミラージュにアキトは笑顔を向ける。
「この後一緒にケーキ屋さんに行こうか。みーちゃんが大好きな銀河イチゴが一杯載ったケーキでも食べに行こう」
「は、はい!」
アキトからの誘いにミラージュはさっきまで落ち込みようは何だったのかと言わんばかりに喜びを露わにする。
そんな彼女は誰が見ても分かるほど恋する乙女のそれであり、もしワルキューレのメンバーが見ていたらハシャぎ騒いでいただろう。それぐらい今のミラージュは可愛かった。
こうしてミラージュの機嫌も何とか戻り後はハヤテに謝るだけとなったのだが………・この後更なる悲劇が起った。
二人が振り返った先には、何とか立ち上がったハヤテがいた。その顔は未だに真っ青であり足下もおぼつかない。
「俺は………絶対………空に…………」
そう辛うじで呟きながら此方に向かい、そして耐えられないかのように口元を抑える。その頬は膨れあがり、如何にも何かが充填されていた。
その後どうなのかなど誰もが想像が付いただろう。そしてこのまま行けばミラージュに直撃するということも。
故にアキトはミラージュをそっと押した。
「みーちゃん、危ないよ」
そっと押した割には力が強く、押し出されたミラージュは助けてくれた事と同時に自分の所為で自責の念に駆られ、そして……………。
「アキトォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
吐瀉物をぶっかけられる幼馴染みを見た。