ヤンデレCDからこぼれ落ちたストーリー集   作:オオシマP

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週末の間に出来るだけ書いておきたい。


track.9 亀裂-3

広い…。

わかってはいたけれど、この研究所は女の子が歩き回るにはいささか広すぎる。

 

綾小路人工知能研究所は、三棟の建物から構成されている。

西館はこの研究所の主目的である人工知能の開発棟、東館は外部の工場から届けられたハードウェアに人工知能を搭載しての運用試験場、本館はお義兄様のお部屋である所長室やユーミアさんの副所長室、そして応接室や会議室などの多目的ルームがある。

ちなみに私の病室は東館、先ほどお義兄様と食事をしていた職員食堂は本館内の施設だ。その他、スパや美容院、スポーツジムや小型の映画館などの施設も本館に入っており、職員は格安で利用可能とのこと。

職員の皆さんを見ていると本当に忙しそうだけど、そんな職員さんたちのためにこの研究所の設備はびっくりするくらい充実している。そのためか、職員さんたちは皆明るい顔をして働いている。

お義兄様によると、この研究所では世界中の人たちがあっと驚いちゃうようなすごいロボットを開発しているらしい。どんなものかは詳しく教えてくださらなかったけど、きっと職員さんたちもそんな発明に携われることに誇りを持っているのだろう。

 

さて、お義兄様を探さなくちゃ。

お義兄様に会いに行くならまず所長室と考える所だが、お義兄様はほとんど所長室にはいない。大体は西館と東館を行ったり来たり、というのはユーミアさんから聞いている。私もお義兄様とお会いできるのは定期健診の時と、お食事の時だけだ。お義兄様は、昼食と夕食の時間だけは私のために空けてくれる、朝食の時間は…眠ってらっしゃるみたい。

 

本当はこんな風にゆっくり食事をとっている時間は、桐夜様にはないのです。義妹である咲夜様のために桐夜様はわざわざスケジュールを調整して、無理に時間を割いてくれているのですよ。

 

ユーミアさんは私にそう言った。

うーん…お義兄様がお優しいということを言いたいのだろうけど、少しだけ棘を感じるのは気のせいかしら…。

 

食堂からロビーに移動し、受付のお姉さんにお義兄様の所在を訊いてみる。端末を使ってお義兄様に連絡を取ってもらったが、反応はないようだった。ごめんなさい、と受付のお姉さんに謝られる。

私はお礼を言ってその場を離れた。

望みは薄いけど、まずは所長室を訪ねてみようかしら…。

 

サクヤ……

 

え?

 

あれ? 誰かに呼ばれたような…。私は周りを眺める。しかし、視界に映るのは忙しく走り回る職員さんだけ、誰も私を呼んだ様子はない。

 

サクヤ……サクヤ……

 

頭の奥に声が響く。

やっぱり…誰かが…呼んでる…?

 

サクヤ……アイタイ……サクヤ……

 

何これ…壊れたスピーカーが発しているような、雑音交じりの奇妙な声……。

 

サクヤ……コッチニ……キテ……

 

私は、先日おかしな女の子に襲われた件を思い出す。また誰かが私を攫いに来たのだろうか? 「会いたい」とか「こっちに来て」とか、人攫いの方法としてどうなのかと思うけど、用心するに越したことはない。ユーミアさんはもう大丈夫と言っていたけど…正直あの人の言うことをあまりあてにはしたくなかった。

 

…部屋に戻って大人しくしていよう。私は本館のエントランスを出て、東館に向かって駆け出した。しかし、東館のゲートにIDをかざして館内に足を踏み入れた途端、再び声は私に話しかけてきた。

 

ソノママ……オリテキテ……オネガイ……オネガイ……

 

どうやら声の主は、この東館のどこかにいるらしい。オリテキテ…降りて来て? ということは、地下フロアのどこかにいるのかしら。

 

「あなたは誰なの? どうして私に会いたいの?」

 

オネガイ……モウ……ジカンガ、ナイ……

 

「…仕方ない…か」

 

相変わらず聞き取りにくい雑音交じりの声だったが、どこか切羽詰まったものを感じるのは確かだった。それに…ここは私が襲われた屋外じゃない、たくさんの秘密を守るため厳重に警備された研究所の中だ。きっと大丈夫だろう…たぶん…。

 

「それで、どこに行けばいいの?」

 

私は小声で呟く。

 

オリテキテ……ズットシタマデ……オリテキテ……

 

先ほどと同じように、降りてきてと声の主は言う。私は溜息をついてエレベーターホールに向かい、空いているエレベーターに乗り込む。東館の地下は3階までだ、ずっと下まで、ということは最下層の地下3階でいいのだと思う。

エレベーター内のフロア案内を確認する。地下3階は機材搬入用の大型駐車場で、実験施設のあるフロアではない。エレベーターが地下3階に辿り着くと、するすると扉が開く。しかし私は不安を感じ、そのままエレベーターの中に立ち尽くしていた、地下駐車場には…誰の姿も見えない。

 

まずいかも…こんな場所で誰かに襲われたら…、やっぱり来るんじゃなかった。

私は怖くなって地上4階のボタンを押そうとする、4階には私の病室がある、早く帰ってお義兄様に相談…

 

オリテキテ……ズットシタマデ

 

再び私の頭に声が響く。私は天井を睨みつけて震える声を振り絞る。

 

「なに言ってるの!? 東館の地下は3階までだしこれ以上は降りられ…」

 

【マスターコードオープン、最下層マデ直行シマス】

 

え?

今の声は…?

 

私をここまで連れてきた奇妙な声じゃない、もっとクリアな機械音声が、エレベーターの階数パネルから聞こえたのだ。エレベーターのドアは閉じられ、ガコンと軽く揺れた後、更なる地下に向かって下降を開始した。

私は驚いて回数表示パネルを見上げる。

 

B3……B5……B9……B15……

 

うそ、東館は地下3階までのはずじゃ…。私は呆然としながら、刻々と増えていく数字を見つめていた。

 

B57……B58……B59……B60

 

どこまで降りていくのか不安で押し潰されそうだったが、地下60階でエレベーターは停止する。たぶん下降しているのは数分の間だと思うけど、私はその数分が数時間のように感じていた…。

 

エレベーターの扉が開くと、そこには赤い非常灯に照らされた薄暗い通路が真っすぐに伸びている。私は恐る恐る足を踏み出した。

地下60階…? そんな地下があるなんて聞いたことない…。でも…私が知らないだけで、秘密の実験場みたいなものはあるのかもしれない、だってここは、お義兄様や職員の方たちが、とても立派な研究をなさっている場所なのだもの…。

 

歩みを進める私は、通路の終わりで扉に突き当たった。大きな機械式の扉だ。その傍らに真っ白なプレートが掲げられている。

 

人工進化研究所――

 

プレートには、黒々とした文字でそう書かれていた。




地下ですが、エヴァのセントラルドグマを想像してください。つーか人工進化研究所ってそのまま過ぎた。あまり意味はないです。
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