ヤンデレCDからこぼれ落ちたストーリー集   作:オオシマP

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track.14 不思議の国の咲夜-3

気がつくと、私は月明かりに照らされた薔薇の庭園ではなく、元いた部屋に一人ぼっちで立っていた。

もう誰も私に話しかけてはこなかった。どこからか…ぶーん……という、何かの機械が発するくぐもった振動音が響いている。

 

…どれくらい、凍りついたように立ち尽くしていたのだろう。いや、文字通り私は凍り付いていた。

わからない、数分かもしれないし、数時間かもしれない。時間の流れは私にとってはもうどうでもいいことだった。

 

私はそのままの姿勢で目の前の虚空、一点だけを凝視し続ける。しかし実際には何も見てはいない。

わからない、あの子が…A-2(エーツー)が言っていたことが、私には何一つとして理解できない。

 

私の身体が機械で出来ていて…それをしたのがお義兄様で…ユーミアさんが脳を機械に載せ替えて、お義兄様にも同じことをしようとしている…?

 

は、はははははははは…。

 

なんという荒唐無稽な話だろう。今どき、三流のSF小説でももっと気の利いた設定を作る。

そうだ、きっとこれはお義兄様の悪戯なのよ。ユーミアさんも人が悪いから、お義兄様をけしかけたのね。お義兄様ったら、妹思いで優しくて私は大好きなのだけど、ユーモアのセンスだけは足りないみたい……うふふ、あははは。

 

あはは…さあ、帰らなくちゃ。もう何時になるのかしら? お夕食はお義兄様と一緒に食べるの、時間に遅れたりしたら大変だわ…。

私はようやく頭だけをわずかに降る。首が、錆びついたような軋んだ音を立てる。

 

そして、私は視界の端に目を留める。

入ってきた時よりも、部屋が広くなっていることに気付く。

壁があったはずの場所の奥に、空間が出来ている。

 

そこは、コンクリートが剥き出しの寒々しい部屋。左右の壁それぞれに簡素な鉛色のベッドが並んでいる。金属の足は錆つき、シーツにも汚れが目立つ。左右の壁際にそれぞれ4つ、合わせて8つのベッド…。

 

誰かが…ベッドに横たわっている。数は…6人? 8つのベッドのうち、6つが使われている。病室…?

私は恐る恐る、ベッドに近づく。

 

A-2(エーツー)…そこにいるの?」

 

小さな声で問いかけるが、答えはない。

 

「ねえ、さっきの話は冗談なんでしょう? お願い…嘘だと言って…ねえ…答えてよ…A-2(エーツー)…」

 

私はベッドの傍まで近づき…言葉を失う。

私の喉はカラカラに乾いて、ひゅーひゅーと掠れた音を発している。

目を背けたい、でも、目の前にあるものから、視線を外すことが、出来ない。

 

そこにいるのは…いや、そこにあるのは…人間の形をしたガラクタだった。服は着ていない、14、5歳くらいの女の子…。

私は喉元までせり上がってきた吐き気と必死に戦う。

思わず手で口元を覆う。

膝が身体を支える力を失い、コンクリートの床に崩れ落ちそうになるのを必死でとどめる。

 

右腕が千切れかかっている。肘のところで関節がねじ切れ、わずかな肉と皮膚で辛うじて上腕に繋がっている。

誰かに助けを求めようとしたのだろうか、差し出されたその腕は、ベッドの脇にだらんとぶら下がっている。

左足が潰れている、太ももから下が、万力で挟まれたようにぺしゃんこになっている。もう足としての用を成すとは思えない。

薄汚れたベッドシーツには、乾いた血糊がこびり付いている。血だけではなかった。赤、青、黄、紫…その他よくわからない色をした色の液体が、その子の身体を染めている。

胴体も傷だらけだった、皮膚は裂け、身体中に切開の跡が見て取れる。

裂けた肉の間から垣間見えるのは、骨ではなかった。何かの機械だ、肉の下から様々なコードに繋がった機械がのぞいているのだ。

 

首から上を…見たくはないけど…しかし、もうそこに向ける自分の視線を止めることが出来ない。

 

首に…小さな銀色のプレートがかかっている。

そこには、【TYPE SAKUYA A-2 No.001】と刻まれている。

 

ああ…A-2(エーツー)…嘘でしょう…これが…あなたなの…?

 

私は知らないうちに涙を流している。とめどなく溢れ出す涙をもう止めることが出来なくなっている。

 

右目が無くなっている。右目があるはずの場所は、ただの虚ろな空洞だ。

顔の左半分の皮膚が焼け爛れている。皮膚と筋肉がずるりと剥がれ落ち…やはり骨ではなく…頭蓋のような金属が…。

ああ…でも…わかる…わかってしまう…こんな…恐ろしい惨状だけれども…。

 

この顔は…私だ…私の…顔だ…。

胃の中のものを全てぶちまけたいという衝動と、悲鳴を上げたいという衝動が、同時に私を襲う。

 

彼女が動く気配はない、いや、どういう種類の気配も感じない、これは…もう…動かない…。

どうして…一体これは何なの…わからないよ…私はどうすれば…。

 

私は残りのベッドに目を向ける。他にも誰かが寝ている…。

A-2(エーツー)のほかに、誰が…。

 

薄暗い部屋で、涙に濡れた目を凝らす。

それそれのベッドに5人が寝ているのが見える。

それは全て…A-2よりももっと酷い…ほとんどバラバラになった…私自身…。全部で6つの私の死が、ここに、ある。

 

 

 

私は今度こそ絶叫する。

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