僕はベッドサイドにあるスイッチを切り、照明を落とす。
開け放したベランダから降り注ぐ柔らかな月明かりだけが、僕たちの身体を照らしている。
時間が停止したかのような深い静寂が、僕たちを包んでいる。
咲夜が仰向けに寝たままの僕の服を、ゆっくりと脱がせていく。その衣擦れの音だけがやけに大きく部屋に響いている。
僕は一切の抵抗をしない、咲夜の好きなようにさせる。
どうして咲夜を制止することが出来るだろう? そんな資格は、僕にはない。あるわけがない。
これは――妹を人ではないバケモノに変えてしまったことへの――僕の贖罪だ。
やがて――僕は一糸纏わぬ姿で、咲夜を見上げている。咲夜も同じように、僕を見下ろしている。
咲夜が身をかがめ、僕に口づけする。
彼女のあたたかい涙が僕の頬に零れ落ち、その宝石のような雫は頬を伝ってベッドシーツを濡らしていく。
咲夜の舌が僕の唇を優しく押し広げる、咲夜の舌と僕の舌がお互いを求める二匹の蛇のように絡まりあう。
僕たちは何も言わず、お互いの唇を、舌を、求め合う。
咲夜の身体に腕を回し抱きしめようかと少し迷い、すぐにその考えを放棄する。
全ては――咲夜の望むままに。
僕はこの世界の流れに身を委ねる。
咲夜が身を起こし、そっと僕のペニスを手に取る。咲夜の小さな手のひやりとした感触がペニスを通して僕に伝わってくる。それは咲夜の手の中で、僕とは関係のない独立した生き物のように熱く硬く脈を打っている。
僕に馬乗りにまたがっている咲夜は少し腰を上げ、それを躊躇いなく自分の中に導いていく。
陰毛のない作りたての陶器のようなつるりとした下腹部が、僕のペニスを飲み込んでいく。
咲夜の涙が朝露の雫のように滴り落ち、僕の腹をあたたかく濡らす。
咲夜はゆっくりと腰を動かしていく。
その動きにあわせて、咲夜の未成熟だけど形の良い胸がかすかに震えるのがわかる。
咲夜の熱く湿ったヴァギナが僕のペニスを優しく包み込み、吸いつき、そして締め上げていく。
僕は――性的な興奮を全く感じていなかった。
肉体的な快感はもちろん感じているのだと思う。
しかし、これは肉体を遠く離れたところで起こっているのだ、もっと、精神的な行為だ。
これは――ある種の儀式なのだ。
咲夜は傷を付けてくれと言った、一生残る、深い深い傷を…と。
それが咲夜の望みであるのなら…、僕はそうしよう。
あたたかい泥の中に身を沈めているような感覚の中で、咲夜と僕はとても静かに交わりあう。
…どのくらい長く、僕たちは交わっていたのだろう。
どこか遠くから、かすかに太鼓の音が聞こえる、そのリズムにあわせた笛の音も。
僕は目を閉じてそっと耳を澄ませる。遠い、遠い音楽…。
暗く深い太古の森の奥から、その音は聞こえてくる。
それが僕らにとっての福音であればいいと、僕は強く祈る。
いつしか、僕は射精している。
強く、何度も、咲夜の身体の中に、僕という人間を刻みつけるように。
* * *
僕は相変わらず仰向けに寝そべったままだ。咲夜は両腕を僕の右腕に回し、しがみつくようにして僕の腕に顔をくっつけている。おかげで僕からは咲夜の形の良い小さな頭しか見えなかった。
「ごめんなさいお義兄様…私のわがままを聞いてくださって」
「いいんだ咲夜…、いいんだよ…」
僕は左手で咲夜の頭を撫でる。愛おしい僕の妹…、僕が君に対して犯した罪は、どうやっても贖うことは出来ないだろう。だからせめて、僕に出来ることならば、何でもしてあげようと思う。
「お義兄様…全て…教えてください。何もわからないのは、もう嫌です…」
咲夜は身を起こして、僕に真剣な眼差しを向けた。その瞳は強い意志を宿していた、昔の、記憶を失う前の咲夜のように。
「もう一人の咲夜に…A-2に全て聞きました、でも、お義兄様の口から真実を知りたいんです」
「A-2…? そうか、咲夜はあそこに…地下の人工進化研究所に行ったんだね…」
「はい…あの娘が、私を導いてくれたんです…あんな…酷い…ぼろぼろの状態で…死にそうな身体なのに最期の力を振り絞って私に…」
「最期の…? ちょっと待ってくれ咲夜、A-2は…破損しているのか? あの子は量産型AIを搭載した機体の試作型だ。データ収集後は機能を休眠されて保存されているはずだよ?」
「あれが保存ですって!? 身体中ずたずたにされて、腕は千切れて、足だってぺしゃんこで…何の処置もされずに打ち捨てられていたんですよ! あの子たちに一体なにをしたんですかお義兄様!?」
僕は咲夜の言葉に衝撃を受ける。
あの子たち…? 確かに量産型AIと機体の相性、純粋な機体強度、身体を得たAIの動作反応などの実験のために8機のA-2を用意した。しかし実験は全て問題なく進行し、8機全て標本として保存されているはずだ。どういうことだ…。
「咲夜は…あの子は…魂は心の中にあると言いました…それを信じてるって…最後にそう言って…死んでいきました…勝手に作って、利用するだけ利用して、あんな最期だなんて…酷すぎる…」
「落ち着くんだ咲夜…、研究所に戻ったらどういうことなのか調べてみる。
「お義兄様…すみません、取り乱してしまって…」
一体どういうことだ…? ユーミアなら何か知っているはずだ。実験にのめり込み過ぎると暴走しがちなのがユーミアの悪い癖だ。また何かしでかしたのかもしれない…。
「お義兄様…私ね…」
「な、なんだい咲夜…?」
僕は思考を中断し、咲夜の話に耳を傾ける。
「私ね…人にはきっと魂があると思うんです。もう一人の私もそう言っていたの。私は機械の身体になってしまって、脳だけがこの頭の中にあるのだとしても…」
咲夜は自分の頭を小さな手で触れながら言葉を続ける。
「きっと、ここに…私の魂は宿っている…、だから…私は…自分をまだ…人間だと信じたいのです…」
そう言って泣き笑いを浮かべる咲夜を見て、僕は…言葉を失った。
咲夜は、まだ知らないんだ…自分の身体が機械だと理解しても…
僕は咲夜を抱きしめた。
「きゃ…お…お義兄様…どうなさったの…」
すまない…すまない咲夜…、今の咲夜に…真実を告げることはとても出来ない…!
でも…僕はお前と一緒にいるよ…咲夜が寂しくないように…ずっと、咲夜が僕を許してくれるまで…。例え真実を知った咲夜が怒りと憎しみで僕を殺してしまうとしても、その瞬間まで僕は…
遠い音楽、ZABADAKで一番好きな曲です。
あと、なんか赤い色で評価が付きました。このサイトのシステムがどういう仕組みなのかまだよくわからんけど、ありがとうございます。