ヤンデレCDからこぼれ落ちたストーリー集   作:オオシマP

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むかし構想していた話と全然別モノになってきてます。これを第5弾としてCDにするのは無理だったろうな。


track.18 覚醒の咲夜 prestage

お義兄様が私を抱いてくださった夜、私はベッドの上でこれまでに私に起こった全ての出来事を聞いた。

それはとても長い話だった。

 

今から5年前、当時15歳だった私は通っていた学園の下校途中、何者かに拉致された。下校途中というか、それは学園敷地内での出来事だったらしい。綾小路家の令嬢である私には、当然登下校の際に厳重な警備体制が敷かれる、しかし犯人はそれらの警戒を完璧に出し抜き、私を連れ去った。

 

即座に綾小路家による徹底した捜索が行われたが、私が発見された時には私の身体は犯人によって無残に切り裂かれ、もう手の施しようがなかったらしい。首から上は全くの無傷だったが、その身体は死ににくい箇所から刃物を入れられ、想像を絶する拷問が行われたことは明白だった。

犯人は逃走、綾小路と警察による懸命な捜索にもかかわらず、未だ犯人確保には至っていない。

 

当時の綾小路家総帥である綾小路錬蔵(れんぞう)――私のおじい様は、激怒した。

私の両親は私が幼いころ、事故によって亡くなってしまったらしい。そのぶん、おじい様は孫娘である私を溺愛していた。

愛する孫娘の命を救うため、おじい様は同じく孫であり天才医師として名を馳せていたお義兄様と、その右腕である四季島ユーミア博士に、私の延命を命じる。

 

いかなる理由があろうとも咲夜の命脈を尽きさせることは許さない、()()()()()()()()()()()咲夜の命を救え…と。

 

しかし、現実問題として私の身体は死んでいるも同然だった。事態はお義兄様が天才であろうとなかろうと関係のない段階に入っていたのだ、不可能はどこまでいっても不可能でしかない。それを成し得るのは神の御業のみ。

しかし、お義兄様は諦めなかった。

お義兄様は苦肉の策として、私を冷凍保存する。身体はもうどうやっても修復不能、しかし脳はまだ無傷――。

 

お義兄様とユーミアは、ここに至って悪魔の選択をする。

 

つまり、人間の身体がもう使えないのであれば、方法論としては新しい身体を用意すればいい。そして二人は幸か不幸か、それ以前から綾小路の超極秘プロジェクトととして、民間での実用化を前提とした人型アンドロイドの研究を進めていた――。

 

お義兄様とユーミアは、当初はAIを搭載するはずだった最初の試作機の仕様を変更し、人工知能(AI)の代わりに人間の脳を司令塔として搭載する人類初のアンドロイドを誕生させた。

それがこの私…綾小路咲夜、機体名称“TYPE-SAKUYA A-1α”、通称“A-1”である。

 

そういう話だった。

 

 

* * *

 

 

付け加えると、おじい様は私の目覚めを心待ちにしていたのだが、2年前に老衰で亡くなったということだった。

綾小路家は、私のもう一人のお義兄様(会ったことはまだない、桐夜お義兄様のお兄様)である綾小路凍夜(とうや)がその跡を継いだ。

 

お義兄様がお話している間、私は裸のまま膝を抱えて俯いていた。

色んなことがぐるぐると頭を駆け巡る――

 

誘拐されて――拷問された? 誰が、何のためにそんなことを…?

綾小路という血統が狙われる理由だったのか、いや、身代金の要求などは一切なかったという。最初から拷問することが、いや、いたぶって恐怖を刻み込んでから殺すことが目的だったんだ――

異常だ…、常軌を逸しているとしか思えない。

 

いや…それを考えるのは後よ咲夜…。

今は…もう一人の私が伝えてくれたユーミアさん…いえ、四季島ユーミアについて考えなくては…。

そう、犯人のことは、後でいい。

この私に…、綾小路咲夜に…よくも舐めた真似をしてくれたわ…、見つけ出して、必ず…必ず殺してや…

 

「咲夜…? 大丈夫かい?」

 

…っ!?

 

「は、はい、お義兄様…、ごめんなさい、一度に色んなことを聞きすぎて…少し混乱しているみたいです」

「そうか…今夜は色々あった…もう休んだほうがいい」

 

私はお義兄様に頷きで返しながら、しかしその実、何も聞いてはいなかった。

 

いま、私は何を考えていた…?

 

何か…とても…とても怖いことを考えていたような…。

だめ、違う。今は、そんなことを考えている場合じゃない。

 

お義兄様に伝えなければ…、あの女…、四季島ユーミアの正体を。

 

「お義兄様、最後に伝えなくてはいけないことがあります」

 

 

 

* * *

 

 

 

「ユーミアが…脳を移植…だって…?」

「はい…もう一人の私が、お義兄様に危険が迫っていると警告してくれました。ユーミアさん…いえ、四季島ユーミアは、私という研究例が成功したことで、そのデータを利用して自分も人間の身体を捨て、自らの脳をアンドロイドに移植するつもりです。いまユーミアは休暇を取って研究所にいないとおっしゃいましたね? 恐らくは…、いえ、もう既にそれを自分に施しているはずです」

「馬鹿な…! いくらユーミアでも、そんな危険な真似を…、いや、しかしユーミアなら…、彼女ならあり得る…か…? でも、そんな」

 

お義兄様は信じられないといった表情で私に言う。

 

「ユーミアは確かに…科学の徒としては狂信的な面もないわけじゃない、それは認めるよ。しかし、百歩譲ってそれが本当だとして、それが僕の危険とどんな関係があるんだ?」

「まだわからないんですかお義兄様!? ユーミアはお義兄様を愛している…、あれを愛と呼んでいいものかどうかわかりませんが、愛しているんです。つまり…お義兄様の身体にも、同じことをしようとしているんです! お義兄様と共に人間の身体を捨てるつもりなんです!」

「なん…だって…?」

 

お義兄様は呆然とした表情で私を見つめている。

信じさせなければ、お義兄様に! 私のような身体になんてさせない、あの女の思い通りには絶対に…!

 

「お義兄様はユーミアとずっと長く一緒にいたのでしょう? それならユーミアがそう考えてもおかしくないことくらいもうお気付きなのではないですか? 私は…目覚めてからしかあの女のことを知りません、でも! あの女が狂っていることくらいはわかります! あいつの私を見る目…、今になってようやくわかった、あれは…殺してもいい実験動物を見る目だった…。私のことなど何とも思ってないのです、データのために喜んでその身を捧げろくらいにしか考えていないんです! たぶん、ユーミアがもう一人の私を…いえ、私の記憶を持ったあの子たちを…実験と称して嬲り殺した…」

「ユーミアが…彼女が…そん…な…」

 

お義兄様はしばらく頭を抱えてうなだれていた。時々ぶつぶつと独り言を呟いている。

私は、そんなお義兄様をじっと見つめて見守っていた。

 

「咲夜…」

 

お義兄様がようやく口を開く。

 

「明日、朝一番でここを出るよ。…今日はもう遅い、ゆっくり休みなさい」

「お義兄様…あの…大丈夫…ですか?」

「ああ…まだ頭の整理はついてないけど…大丈夫だよ。これでも僕は打たれ強いんだ…。それと咲夜、これは最も重要なことなんだけど…」

「はい、お義兄様…」

 

今、この場で重要なこと…。まだ何か、私の知らない恐ろしい秘密が…?

私は覚悟を決めて、お義兄様に真剣な眼差しを向ける。

 

「寝る前に、何か着ておくれ…」

 

私は…顔を真っ赤にして頷いた。




ここから終盤戦に入ります。感想などあればぜひお寄せください。
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