ヤンデレCDからこぼれ落ちたストーリー集   作:オオシマP

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track.20 STRIKE BACK その2

研究所に到着した私たちは、すぐにお義兄様の自室である所長室へ向かった。予定では、ユーミアは今日まで休暇中ということになっている。

 

あの女は既に私と同じアンドロイドと化しているのか、それともまだ調整中なのか。すぐにお義兄様を拐かし脳移植を施すのか、しばらく様子を見るのか。そして、あいつにとって最早用済みでしかない私を、どの段階で排除するつもりなのか――。

あらゆる状況を想定して、対策を講じなくてはならない。

 

「駄目だ、やはりユーミアから応答がない」

 

お義兄様は端末を使ってユーミアへの連絡を試みていた。

 

「もういいですお義兄様、あの女の身体はまだ完成していないのかもしれません、こちらの時間に余裕が出来たと思っておきましょう」

「ねえ咲夜…やはり何かの間違いで、ユーミアはただ単にどこかに旅行に出かけているとか…」

「そうでないことはお義兄様ももうご承知のはずです。お義兄様、今さら現実逃避しても始まりませんよ?」

「そ、そうだね、ごめん咲夜…」

 

もうお義兄様ったら…大事なところでだらしないんですから。

そのぶん義妹の私がしっかりして、お義兄様をお守りしなくちゃ…!

 

「お義兄様、それより連絡を取ってほしい方がいるのですが、お願いしてもいいですか?」

「ん、いいよ。誰に連絡すればいいんだい?」

「私のもう一人のお義兄様…綾小路家の現総帥、凍夜(とうや)様です」

「兄さんに…? それは構わないけど一体何の用なんだい? ユーミアの拘束を頼むつもりなら、それは無理だよ。TYPE SAKUYAシリーズは綾小路がおじい様の代から長い年月をかけて進めてきたプロジェクトで巨額の資金が投入されているし、その投資に見合うだけの莫大な利益が還元されるのは、もう目前なんだ。ユーミアの計画が立証出来ない現在の状況で、兄さんがプロジェクトの中枢であるユーミアに危害を加えるような真似をするとは思えない。いや、仮にそれを立証出来たとしても、利益と僕を天秤にかけた場合に兄さんがどちらを選ぶかなんて目に見えて…」

 

私はお義兄様の言葉を遮って言った。

 

「違いますお義兄様、私はそんなことをお願いしたいのではありません。大丈夫です、お義兄様にご迷惑はかけません、ですから凍夜お義兄様に連絡を」

「わ、わかったよ咲夜…少し待っておくれ」

 

お義兄様が凍夜お義兄様に連絡を取っている間に、私はお願いすべき内容を頭の中で整理する。そして、私が研究所の敷地内で“人形遣い”を自称する暴漢――姿は見ていないが、声は女の子のものだった――に襲われた時のことを思い返す。

ユーミアがどれほど危険な存在に変貌を遂げているのか、今の私たちには想像もつかない。打てる手は全て打っておかなくては。

 

「ちょっと待ってくれ兄さん、咲夜に代わるよ」

 

お義兄様は通話を保留にして、私に端末を手渡してくれた。

 

「咲夜、凍夜兄さんだよ。兄さんへのホットラインは衛星を介した独自回線を使用している、盗聴は不可能だ」

「ありがとうございますお義兄様」

 

私は端末を手に取って、通話ボタンを押す。

 

「凍夜お義兄様ですか? 私です、咲夜です」

「ヴラボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ! 咲夜! 僕の可愛い末妹の咲夜! ようやく声を聴くことが出来たね! 咲夜が目覚めてから数週間、連絡もせずに悪かった。桐夜がまだ面会謝絶なんて言うもんだからお見舞いにも行けなかったよ! あの陰湿メガネめ、自分だけ咲夜を可愛がろうと僕をのけ者にしていたんだ! のけ者はいけないことだよ! なのに長男である僕をのけ者にするなんて酷いとは思わないかい咲夜?」

 

…陰湿メガネ? それってお義兄様のことかしら…。あと、この気に障るウザったいテンションは…。

 

「あの…凍夜お義兄様? 落ち着いてください…」

「ノンノン咲夜、愛してやまない妹の君とお話出来るんだ、僕はこの時をずうううううううううぅぅぅっっっっっっっっと待っていたんだよ! 兄としてこれが落ち着いていられようか! いや、出来なああああああああああああああい! ま、まさか咲夜!? 桐夜にヘンなことされてないよね? お医者さんごっととか言って咲夜のまだ蕾のような可憐な胸をいじられたり、二人でどっかにお泊りしてめくるめく愛欲の一夜を過ごしたりなんか…!? ああ! 僕も咲夜をぺろぺろしたあああああああああああああああああい!!!」

「凍夜お義兄様、うるさいです」

 

私は凍夜お義兄様を黙らせた。この人、まさかどこかで見てたんじゃないでしょうね…。

相変わらずこの男は人を疲れさせる喋り方をする、総帥の座についても進歩というものが微塵も見えない。

しかし、軽薄でウザくて鬱陶しい態度は全てフェイク。過剰なリアクションで本心を覆い隠す、凍夜お義兄様特有の話術。

 

「私が目覚めてそれはそれは嬉しいことでしょう。これで厄介なおじい様の厳命は果たされ、お義兄様とユーミア博士は本来の目的であるプロジェクトにようやく専念出来る。凍夜お義兄様は私がどうなろうとどうでもよかったのでは?」

「…どうでもよくはないさ、じいさんの命令は死後も最優先事項であり続けた、忌々しいことにね。咲夜がさっさと目覚めてくれればプロジェクトはもっと早く進行出来たはずだ。まったく…兄をさんざん焦らして待たせ続けるとは、悪い子だよ咲夜は」

 

私の直球に対し、凍夜お義兄様の苛立たしいテンションは鳴りを潜めた。

 

「それはどうも。可愛い妹の不貞寝だと思ってください」

「ははは。記憶を無くして性格が変わったと聞いてたけど、そんなことないみたいで安心したよ」

 

私はそこで言葉に詰まる。そうよ…おかしい…()()()()()()()()()()()()()()()()()、これは…。

駄目だ、それは今考えることじゃない!

私は気持ちを引き締めて通話を再開する。

 

「無駄話はこれくらいにしましょう、凍夜お義兄様もお忙しい体でしょうから。まず私の個人資産ですが、おそらく今は凍夜お義兄様が管理なさっていますね?」

「その通り。心配しなくても1円たりとも手を付けてないよ」

「当たり前です。権限を私に戻してください」

「もちろんいいとも。すぐに手配しよう」

「それと、私が研究所で何者かに襲われたことはご存知ですね。凍夜お義兄様に心当たりはありますか?」

「それは難しいな、心当たりが多過ぎて特定出来ないというのが正直なところだ。どれだけ秘匿しても機密が漏れるのを完全に防ぐのは難しくてね」

「違います凍夜お義兄様、私の言い方が悪かったです。黒幕に興味はありません。私が知りたいのは、私を襲った暴漢についてです」

 

私は静かに深呼吸して話を続ける。

 

「恐らく表沙汰に出来ない案件のみを扱う、足のつかない裏家業の専門家…ですよね。綾小路だって綺麗事ばかりしてきたわけじゃない、彼らの手を借りることもあったはずです」

「それで?」

「連絡先、教えていただけません? 出来れば私を襲った本人が良いのですが。人形遣いを名乗っていた、たぶん女の子。あの方、なかなか腕が立ちそうです」

「そのための個人資産てことね…、なるほど。まあ咲夜が自分のお金で何をしようと自由だよ、綾小路の直系であるお前には、それをするだけの権力が与えられている」

「まだお返事をいただいていません、凍夜お義兄様」

「わかったわかった、後で桐夜の端末に送っておこう。咲夜の快気祝いということにしておくよ。ただし、何をどうしようと咲夜の勝手だけど綾小路の利益を害することだけは許されない。言うまでもないことだけどね」

「わかりました、肝に銘じておきます。最後にひとつだけ教えてください」

「僕に答えられることなら、なんなりと」

「四季島ユーミア博士…あれは一体何者なんです? 私を襲った暴漢と対峙し引き下がらせたのは警備部ではなくユーミアです。普通の人間にそんなことが可能でしょうか?」

「ああ…それね。うーん、残念ながら個人情報に関わることには答えられないかな。というよりも、僕はまだ死にたくない」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。さ、お話はここまでだ。近いうちに本家に帰っておいで、咲夜の部屋はまだそのままにしてあるから。そしてね咲夜…、君はやはり桐夜よりも僕に近いよ、頼もしい妹が帰ってきてくれて嬉しい限りだ」

 

通話が切れる。

どっと疲れが押し寄せてきた。もう当分の間、凍夜お義兄様とは口をききたくない。

私は端末を握りしめながら考える。

会話の途中で気が付いた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

でも、私はそれを当然のことのように会話を進めていた。

これって…記憶が戻りつつあるということなのだろうか…。

 

「咲夜、今の兄さんとの話は一体…これから何をするつもりなんだ?」

 

心配するお義兄様に寄り添い、私はお義兄様の身体に両腕を回す。

 

「心配なさらないでお義兄様。さあ、お食事にしましょう。お腹がすいては戦は出来ませんよ?」

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