まさか咲夜と奏のかけあい漫才を書くことになるとはw
※人工知能研究所(この話の舞台)と人工進化研究所(東館の地下の廃棄施設)の表記が混同している個所が、これまでに多々ありましたので修正しました。ごめんなさい。
ユーミアはお義兄様を確保した、恐らくどこかにある自分の研究施設に逃げ込んで、そこでお義兄様への施術を実行しようとするはず。
事態は一刻を争う、まずはユーミアがどこへ消えたのか探し出さなくては…。
「奏、ユーミアの追跡は可能?」
「当然。あんたのお兄ちゃんとあんたと同じ顔したデク人形に私の糸を付けてある。ユーミアに気付かれない限り跡を辿れるわ」
「デク人形と呼ぶのはやめて。あれでも…ユーミアに操られる前は、きっと“私”だったのよ…」
「はあ?」
「なんでもない…それより、ユーミアがその糸に気付く可能性は?」
「そりゃ遠からず察知されるわよ、引退したとはいえあの女も死季嶌書房の末席だからね。ま、その前に追いつきゃいいのよ、ユーミアはあたしが参戦したことに相当焦ってる。隠れ家に向かうことに集中している今が追跡のチャンスよ」
グズグズしてはいられないということか。
私と奏は所長室を出て外に出ようとするが、すぐに奏は立ち止まった。
「どうしたの? 急がないと…」
「いや、そうなんだけどさ…さっきから糸が下に向かってる…それも、かなり深いとこまでいってるわ」
奏が首を傾げている。下…? どういうことだろう? まさか…東館地下に隠されていた人工進化研究所と同じような地下施設が…。
「奏、ちょっと待ってて。この施設の構造をサーチしてやつらへの最短距離を計算してみる。上手くいけば目的地がわかるかも」
「は…? あんた、何言って…」
「集中するからちょっと黙ってて、それと私の名前は咲夜よ。私が雇い主なんだから咲夜様と呼びなさいよね!」
「うぇ!? う、うん…」
奏を待機させて、私は瞳を閉じた。
私は心の中で――そんなものがあればだけど――苦笑した。
* * *
私の脳は
私の感覚器は私の意志で制御可能だとお義兄様はおっしゃった。視覚も聴覚も人間を超越しているが、それを自分の意志で制御することは可能なのだ。
ならば、私の脳と繋がる
わかってみれば簡単なことなのだ。それはただ単に認識の問題。
私は人間でなくていい、血の通っていない鋼鉄の機械でいい、ユーミアを殺す一個の機能でさえあればそれでいい。ユーミアに人間の尊厳を踏みにじられ、豚のように蔑まれ、耐えがたいほどの屈辱を与えられ、あの女を必ず殺すと、そのためならもう人でなくても構わない、そう決めた時…、私はこれまで感じたことのない圧倒的に巨大な感覚と繋がった気がした。
まだ全容は把握しきれないが、これが本来の私の…いや、私の脳と繋がる
そうだ、私はユーミアをこの世から消し去る機械でいい、
私は…咲夜…綾小路咲夜だ、この国の支配構造の末端に連なる誇り高き血統・綾小路に連なる者、それを侮辱した身の程知らずを絶対に許すわけにはいかない。ヤツから与えられた屈辱を万倍にして叩き返してこそ、私の誇りは保たれる…!
「ねえ咲夜…あんた、前と比べると雰囲気変わったね」
検索に集中している私に、奏が話かけてくる。
「そう…? 現状をありのまま認識しただけよ…、私は私だわ、それ以上でも以下でもない。よし、内部構造のダウンロード完了…解析開始…だめね、これはダミーの設計基か…いや、プロテクトがある…?」
私の脳裏に研究所の全体構造が投影される。でも…そこに隠された裏口があるのが私には瞬時に理解できた。
「ふーん、そういうもんかな…。初めて会った時はどこにでもいる大人しくて可愛らしいお嬢ちゃんて感じだったけど」
「それはどうも。あと、今でも可愛いっつーの。…よし、第三…第四防壁解析…、あ、くそ…こっちはトラップか…いやらしいわね…」
裏口から侵入すると、当然のように何重もの壁が私の進行を阻んできた。おそらくユーミアが仕掛けた防壁だ。
ちょっと奏、いま忙しいから少し黙っててくれないかな…。
「見たとこユーミアと三角関係みたいだけどさ…あれってお兄ちゃんなんでしょ? 禁断の愛ってやつなのかな? かな?」
「かなり物騒な三角関係だけどね…そのうち二人は人間やめてるってのが笑えるわ。第十三防壁突破…これ何枚あるのよクソっ…」
奥に進むにつれて防壁からの攻撃が激しさを増してくる。さすがユーミアが構築した防壁だわ、
奏…だから、黙ってろってば…。
「ユーミアに勝つのはかなり大変よ、あの女、アタマは狂ってるけどクレイジーサイコビッチだけあってすんごいナイスバディだもんね…ああいうのトランジスタグラマーって言うんだっけ? とんでもないおっぱいしてるわよね。あれは女のわたしでも揉んでみたいって思うわ、悔しいけどさー。咲夜ちゃんの慎ましい体じゃちょーっと厳しめかなあ。やっぱ男ってなんだかんだ言ってもおっきいおっぱい好きだもんねー。私もそこまで立派なモノは持ってないけどさ、13歳って年齢考えるとまだまだこれから成長の余地はあるんだよ? まあちっちゃい胸が好きって男もいるけど、それってやっぱロリコンの気があったりするのかな? ところでさ…これすごく大事なことなんだけど、お兄ちゃんとは…もう…エッチしちゃったの?」
「うるさああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!! いま計算してんだからちょっと黙ってなさい!!!」
まったく…奏ってこんな性格だったの…? その辺の猿みたいな女子中学生と同じレベルじゃない…。
そして質問に答えるのならば、ばっちりヤったわよ! 恥ずかしいから教えてあげないけど!
「あたしは今の咲夜のほうが好きかも、ちょっちあたしに似てるかもね」
「だから黙ってなさいって…よし、全防壁突破、サーチ開始」
ユーミアの仕掛けた防壁を解除した私は、この研究所の本来の構造に辿り着いた。
やっぱり…、表向きの構造とは別に、地下にかなりの広さの施設が隠されてる! ユーミアのやつ…ここで自分に施術したんだ。そして、お義兄様にも同様にここでそれを…。灯台下暗しとはこのことね…!
「あのさあのさ、初めてってどんな感じだった? あたしも今は家柄もあるしこんな血生臭いお仕事してるけどさ、でも人並みに恋だってしてみたいんだ。いつかね、私の作るお人形の素晴らしさを理解してくれる素敵な王子様が…」
奏…こいつはー…。
「だからうるさいっつーの! それよりここの内部構造を解析出来たわ! お義兄様の元に急ぐわよ!」
「はいはい、続きは道中でゆっくりと」
「真面目にやんなさい! ギャラ削るわよ!」
この子、ホントに大丈夫かしら…?
若干の不安を感じつつ、奏の糸と私が入手した研究所の地下構造を照合し、私たちはユーミアの追跡を開始した。