そして、エレベーターは下降を止めた。
低い駆動音を立ててエレベーターのドアが開いていく。
「咲夜、あたしの前に出ないで。“楽園”の後ろにいなさい」
奏がそう言った時には、既に私の前にマントを羽織った大男……、いえ、これは……ここに来る前に見た“断罪”と呼ばれていた人形とは雰囲気が違う。もっと豪奢な、そう、高位の司祭のような装飾に身を包んだ人形が出現していた。
多分、私のガードのためにこれを出してくれたんだ。
「うげ……マジか」
奏のげんなりした声が聞こえる、奏は“楽園”の前にいるので表情は見えないけど、口調で何か異変が起きているのはわかる。
「どうしたの奏?」
奏は私の呼びかけが聞こえなかったのか、それともそれどころではないのか、返事をしてはくれなかった。
「アレは指の負担が大きいんだけど……この際しかたないか。しかしユーミアもいい度胸ね、とことんドールマスターにケンカを売るつもりか……。あっそう、ふーん、カラダを機械にしたくらいで序列がひっくり返るとでも思ってるんだ、へえ……、引退した勘違い女が、現役にどれだけ抗えるのか見せてもらおうじゃない……」
「か、奏……? 何言ってるの? エレベーターの外はどうなってるの?」
「あんたは見ないほうがいいと思う。これはあんたのためを思って言ってるのよ。」
「はあ?」
何言ってるの? 何を言ってるのかわからないし、何がエレベーターの外にあろうと私は奏のクライアント、危険を避けるために状況を報告するのは奏の役目でしょうが!
「これ以上ないくらい危険よ、黙ってなさいお嬢様」
「んぐっ!?」
いきなり私の身体の自由が奪われる。これは……骨!? 骨みたいな腕が私の身体の自由を奪っている。後ろから羽交い絞めにされてるの……?
首は自由に動く、振り返った私が見たのは、ここに来る前に見た……。
「“断罪”…」
「そう、よく覚えてたじゃん? 咲夜は“断罪”と“楽園”がガードする。しばらくそこでじっとしてて。大丈夫、咲夜が自分でぶっ潰したいユーミアは、まだここにいないみたい……」
「じゃあ……何が問題なのよ!? エレベーターの外に何がいるの!?」
私は叫ぶ、私を守らなくてはいけない状況になっているんだ。ユーミアがいるなら、私が対峙したい、それは奏にも言ったけど、ユーミアがいないなら、なにが問題なの!?
奏に問いかけようとする前に、奏は言った。
「そろそろ開演の口上が必要か……いいわ、ドールマスターの開幕宣言が何を意味するか、アイツはわかっているはず……ふっ……くくくくくくっ……ははっ……あははっはははははっははは! そこまで自信があるならやってやるわぁ、同業者と殺りあうのは久々よねぇ……」
「か、奏……?」
“楽園”の陰になって姿は見えない、そもそもエレベーターの外がどういう状況なのか全く把握出来ない。奏は一体何を……。
私が状況もわからず混乱する中、奏は開幕を告げた。
「亜桜人形劇団の出張公演にようこそお越しくださいましたああああああああ! こんなにたくさんのお客様にお越しいただけるとは、演者として感泣・感涙・感激でございまああああああす! 今宵の演目、皆さまにご満足いただけると良いのですがあああああああああああああああああ! それではご覧くださいませ……ドールマスター朝倉奏の殺戮人形劇“世界の終わり”を! 終劇までお楽しみくださいませえええええええええええええええ!!!!!」