ベッドから起きて窓際に立った私は、すぐそばの病室の窓から青空を眺める。東京の湾岸エリアにあるというこの施設からは、特にキレイとも言えない海…東京湾が一望できた。頭をからっぽにして空と海をぼうっと眺めていると、はやる気持ちが少し落ち着いてくる。
このまま何も思い出さないわけにはいかない…早く…早く思い出さなくちゃ…色んな人に迷惑かけちゃう…、お義兄様の…そう、桐夜さんの笑顔を曇らせるのは…もう…いや…。
コンコン、と病室のドアがノックされた。
「咲夜、調子はどうかな」
長身に白衣をまとったお医者さん…桐夜お義兄様が、優しそうな微笑みを浮かべて私に質問する。
「は…はい…あの…悪く…ないです…」
「そうか、それは良かった、健診するから、ベッドに座っておくれ」
私は大人しくお義兄様の指示に従う。
「じゃあ上着を脱いで」
私の心臓がドキンと大きく脈を打つ。
私が今着ているのは、薄いピンクの病院着。セパレートで上下に分かれている。
問題は…上に着ているのはそれだけで…その下は…素肌…。
これで、2回目…。昨日の健診の時は状況がわからずとても混乱していて、お医者様の指示には従わなくちゃと思っていたのだけど…、今は…少し…その…裸体をさらけ出すのは…恥ず…かしい…
「咲夜? …どうしたんだい?」
なかなか上着を脱がない私に、きょとんとした表情のお義兄様が問いかける。きっと私の顔は、耳たぶの先まで真っ赤になっているに違いない。
どうしよう、ヘンな子だと思われる。
私が返事も出来ずにおどおどしていると――
「桐夜様、咲夜様はおっぱいを男性に見せることを恥ずかしがっていると思われます」
ひ!? そ、そうなのだけど、お、おっぱ…ぃ…って…
いつの間にかお義兄様の後ろに立っていた、美しい金髪の女性の言葉が、私をさらに狼狽させる。
「え…? あ、ああ! ご、ごめん咲夜! デリカシーがなかったね、咲夜も女の子だもんね!」
「わざとやっていたのではなかったのですか? ユーミアはてっきり桐夜様がちっぱい妹との変態お医者さんごっこプレイに目覚めたものと思っておりました」
「な、何を言うんだユーミアああああ!?」
「ユーミアのぽよんぽよんでたぷんたぷんのゆるふわおっぱいには飽きてしまわれたのですね、ユーミア、マジショック」
「バカ! 飽きてなんか…いや、そうじゃなくてだな!」
もしかして…私いまバカにされました?
聞き捨てならない単語が聞こえた気がするけど、聞こえなかったフリをして二人のやり取りを眺める。
お医者様は…、昨日説明されたところによると、私の義理の兄、綾小路桐夜さん。
眼鏡の奥の優しそうな瞳で私に微笑みかけてくれる…、とても、安心出来る方。その秀逸な頭脳を活かし、綾小路人工知能研究所の所長を務めている。
もう一人は…正直、どう説明すればいいのかわからない。
歳は16だと聞いた。金髪のショートカット、透き通るような碧い瞳、白磁のような白い肌、恐ろしいほどの美人で最初は外人かと思ったけど、どうも生粋の日本人らしい。
そして…自分でも言っていたが、男性の目を惹かざるを得ない、たっぷたぷの…その…おっぱ…胸。
そこまではいい。
でも…この奇抜と言うか、おかしな(アタマが)服装は何なんだろう?
胸の谷間を強調したフリフリの黒いメイド服…そもそもメイド服って、こんな短いスカートでいいのかしら。その…下着が…見えそうなんだけど…。しかも、どうしてメイド服の上に白衣?
真ん丸で大きな眼鏡はまだしも、頭には猫耳を着けてらっしゃる。私だったら、こんな服装で外に出るのは死んでもイヤ…。
名前は
「咲夜様。いま何か失礼なことを頭に浮かべませんでしたか?」
「い、いえ、そんなことは…ははは」
いきなり心の中を見透かされて少しびっくりする。
と言うか…あなたも私のこと、“ちっぱい”って言いましたよね…。
「桐夜様、ちっぱいでも咲夜様は立派なレディーでございます。健診はユーミアが」
「あ、ああ。そうだね、頼むよユーミア」
ちょっとおおおおおおお!? いま、ちっぱいって言いましたよね! はっきりと!
「さあ咲夜様、慎ましやかなお胸でも同じ女性同士です。恥ずかしがらずに脱いでくださいませ」
この人…私にケンカを売ってらっしゃる…?
私は強張った笑みを無理やり浮かべながら上着を脱いだ。ユーミアさんは手のひらサイズの端末の液晶部分を私の身体に当て、胸のあたりからお腹まで、ゆっくりと移動させていく。
「特に問題はないですね、正常にさど…いえ、お体に異常はありません。もうそのちっぱいを隠してよろしいですよ」
あの…病室に入ってからあなた何回“ちっぱい”って言いました!?
私、ユーミアさんに何か嫌われるようなことしたの!?
「それじゃ咲夜、僕は仕事があるからもう行くけど、ランチは一緒に食べよう。後で迎えに来るよ」
「は…はい…お待ちしてます…お義兄様…」
お義兄様とユーミアさんは連れだって病室を出て行った。
はあ…お義兄様の前だと、緊張して上手く喋れない…。
昔の私は…どうやってお義兄様に接していたのかしら…?
私は何らかの事故に遭いほとんど死にかけの状態だったらしいが、お義兄様たちの懸命の努力で何とか命だけは助かったらしい。
身体にはもう傷ひとつないが、失ってしまったものがひとつ。
それが――私の記憶だ。
常識的な記憶――例えば、この星が地球で、この国が日本だとか、ユーミアさんのファンションセンスが壊滅的に異常だとか、そういったことは問題ない。
ただ、自分に関するあらゆる事柄、名前から生い立ち、年齢に至るまで、一切合切が思い出せなかった。
お義兄様に聞いた私の名は――咲夜。綾小路咲夜。
お義兄様の義妹であり、国内有数の大財閥・綾小路家の令嬢だ。
ヤンデレCD第5弾のために作っておいた設定。
名前:綾小路 咲夜(あやのこうじ さくや)
身長:142cm BWH:70cm/48cm/68cm
性格:従順、借りてきた子犬のように大人しい
日本有数のコングロマリット・綾小路財閥のお嬢様。とある事故のために大怪我を負ってしまい、意識不明のまま数年間に渡り入院していた。事故から数年、治療の甲斐あってようやく意識を回復した咲夜だが、目を覚ました時、彼女は自分に関する全ての記憶を失っていた。
自分が何者かわからず、世界との関係性を維持出来ないことに恐怖する咲夜だったが、異母兄である桐夜(綾小路総合病院の院長、咲夜の主治医)の献身的な看護により徐々に落ち着きを取り戻していく。異母兄への感謝と敬意は、いつしか深い愛情へと変わっていくのだった。
事故前はかなり傍若無人な性格だったらしいが、記憶を失った影響か、意識を回復してからはとても大人しく素直で可愛いらしい女の子。
名前:四季島 ユーミア(しきじま ゆーみあ)
身長:156cm BWH:89cm/56cm/85cm
性格:恋人である桐夜の前ではそれなりに可愛い
桐夜の同僚兼恋人の天才科学者、現在16歳にして数々の博士号を所有している。綾小路総合病院院長補佐、および綾小路人工知能研究所副所長。
ミニスカメイド服の上に白衣、さらに猫耳カチューシャという、常人にはいささか理解しがたいファッションセンスの持ち主。
科学の発展を自らの手で加速・促進させることが人生の至上命題であり、志を同じくする桐夜と意気投合し、やがて恋に落ちた。現在は桐夜と婚約しており、ユーミアが18歳になった時点で結婚予定。
桐夜が発案した■■と■■の分離理論を技術的に実践した。
科学の発展と桐夜のためなら猪突猛進(盲信)、手段のためなら目的を選ばない系の、ちょっと危ない女の子。