サークルのほうにわけわかなんない文句が来て、イライラを創作にぶつけてもうた。
でも、あの人は設定だけだったので絶対に出したかった! 結果オーライ。
「おや……? そういえばもう御一方いらっしゃったんですわね」
虹月アルトが奏からわたしに注意を向ける。
よくもまあ一連の騒動の中心であるわたしを蚊帳の外に置いて、自分たちだけ盛り上がってくれたものだわ。
彼女らの演奏(?)によって身体の自由を奪われたらしい奏が苦虫を噛み潰したような声でわたしに文句をつける。
「咲夜……、あんたは黙ってて! 連中個人のターゲットはあたしだけど、依頼としての標的は咲夜なのよ! あんたを殺してこその依頼達成、クライアントは大人しく後方で……」
「ごちゃごちゃうるさい!!! 知ったこっちゃないわよそんなこと! 奏、“断罪”と“楽園”を下げなさい。これは命令よ!」
「……了解」
わたしの気迫を感じてくれたのか、奏は渋々ではあるが二体の人形のガードを解く。もっと駄々をこねるかと思ったけど……あんた、やっぱ結構わたしのことわかってくれてるのね。
いや、それよりも褒めるべきは……十王なんちゃらが動きを止めているのに、“断罪”と“楽園”は動いている。ギリギリの状況下でもあたしのガードを第一に考えてくれてるとは、あんたは本当にプロなんだわ。そんな奏の働きに、クライアントとして、綾小路の直系として、わたしは応えなくてはならない。
わたしは言う。
「高名な虹月幻想オーケストラと亜桜人形劇団の共演を目の当たりに出来るとは。まさに眼福と言ったところです。付け加えると……死季嶌書房のシナリオなのでしょう? 役者、音楽、シナリオ、まさに三者が溶け合った最高の舞台ですね」
「シナリオは違います!!!」
「シナリオはちげーよ!!!」
「シナリオは違うもん!!!」
アルト、ピアノ、カノンの3人が同時に見事な三重奏で即座に否定する。あー、完全にハブにされてるわよ、相当な嫌われようねユーミア。
場の空気が緩んだところで、わたしは打開策を提案する。
「虹月がどれほどの報酬でユーミアからの依頼を受けたのかは知りません。しかし……あの女は“死季嶌書房”を離れた身。わたしがこれから提示させていただく金額を上回ることはないと思うのですが……いかがでしょう?」
「買収ですか?」
「買収かよ?」
「買収なの?」
……アタマが痛くなってくるわねこの姉妹、一度に答えないでくれないかしら。
あたしの表情を読み取ったのか、アルトは姉妹たちに促した。
「ピアノ、カノン、少し黙ってて」
「あいよ」
「はーい」
交渉のテーブルにつく気になったか……。
「なるほど……。さすが綾小路家のご令嬢ですね。わたくしたちの戦闘を目の当たりにしながら臆せずネゴシエートを仕掛けてくるとは。でも……綾小路……咲夜さん、でしたか? 虹月……いえ、“七罪”にも優先順位というものがあります。報酬の多寡で依頼人を裏切るというのは……あまり業界内で褒められた行為ではありませんの」
さすがに飛びついては来ないか、そりゃそうだ。でも、アルトは会話を続けてくれている、ならば……! わたしの出来ることは全力で「攻める」のみ。ここで突破しないと……いくら奏でも後がないのはわかってる!
「でも金額だって重要でしょう? ユーミアはこれまでココの主要ポストを務めていたしウチが雇ってたんだから個人資産はなかなかのものでしょう。でも、わたしは雇い主である綾小路の直系です。虹月に対する風評被害なんてものともしない金額をあなたがたに提示することが……」
そこまで言って、わたしはそれ以上を続けることが……出来なかった。
いつの間に接近したんだこいつ……!
虹月アルトはわたしの眼前で、わたしの喉元にタクトを突き付ける。ピアノとカノンもその両翼に控えていた。
奏が叫ぶ。
「音よ咲夜! 惑わされないで! こいつらの“音”は効果範囲の無機物有機物を思い通りに“演出”する! あたしたちの感覚はこいつらの支配下にあるの!」
なんだそりゃ……奏もそうだけど“七罪”ってホントにデタラメーズの集団なのね。でも奏、ここが踏ん張りどころよ。
「穏やかじゃないわね? わたしだって命は大事だし、事ここに至っては虹月の希望通りの額面を即金で用意するつもりで……」
交渉を遮って、アルトが確信を突く。
「咲夜さん。あなた、わたくしたちの演奏を聴いて、どうして喋れるんです?」
ちぇ……即バレしたか。
さすがにこれ以上は無理だ。
「奏ぇ!」
わたしは叫んだと同時にその場にしゃがんだ。
その瞬間、後方に控えていた“楽園”が、法衣の下の重火器群から猛然と射撃を開始する。同時に“断罪”が巨大な大釜を振るい、虹月三姉妹に斬り込んだ。
しかし、“楽園”の掃射も“断罪”の斬撃も連中を捉えることは出来ない、避けたと言うより、3人同時にこちらの攻撃範囲外に移動した!?
「大丈夫、咲夜!?」
奏がわたしを抱き起してくれる、良かった……、奏にちゃんと通じてた……。
わたしは奏の手を取って身を起こす。
「助かったわ、わたしの機能が奏までカバーしてくれるかわからなかったけど、上手くいったみたいね?」
「お礼を言いたいのはこっちよ咲夜、やつらの演奏効果は解除された、もう動けるわ。あんたの能力だか何だか知らないけど、それがユーミアと戦えるって断言した機能かしら?」
「それはまだ内緒よ……、ホントに自信なかったんだから」
わたしたちは虹月三姉妹に改めて対峙する。
「これは驚きましたわ! なぜ、どうしてわたくしたちの演奏を打ち破れたのですか? 虹月の演奏と“ダイレクトヴォイス”の混合だというのに」
「アル姉、注意! この仕込みは“ドールマスター”じゃねえ、あのツインテのほうだ!」
「おかしーなーおかしーなー、なんでカノンの“歌声”から逃げられたのー?」
なんでもへったくれもない、出来ればここからわたしたちのターンにしたいところだけど…。“これ以上をユーミアに見られたくない”! あいつは必ずわたしたちのこの状況をモニターしているはず。現状でもネタバレしてるのに……!
どうする……? 全てをさらけ出しやつらを倒すか、それとも……。
睨み合うわたしたちと虹月三姉妹の均衡を破ったのは――、わたしたちの間に突如として吹き荒れた大量に舞い散る薔薇の花びら――。
「な、なにこれ? 奏!? なんかした!? か、奏?」
奏は直立したまま動かない、震える唇で、彼女は呟く。
「お祖母ちゃん……!」
は……? お祖母ちゃん? ……だって、奏のお祖母ちゃんて……。
わたしたちと虹月三姉妹に向けて、恐ろしく幼い少女の声が優雅に自己紹介する。
「ごきげんよう皆々様方……“マエストロ”朝倉弦月、老体をおして今宵の舞台に参上いたしました……。どうかこの舞台が、皆さまの素晴らしき想い出になりますように……」