バケモノって顔でわたしを見てるわね奏。
まったくもう、仕方のない孫ね。まあ、今の奏のレベルでは想像することすら難しいか……。それに……奏には“辿り着いてほしくない”というのも本音だわ。奏にはこんな外法ではなく、まっとうな技術で“マエストロ”に辿り着いてほしいもの。
「こんな舞台に“マエストロ”朝倉弦月様がいらっしゃるなんて……、わたくしたち虹月三姉妹、光栄の至りでございます。お孫さんとの心温まるお話もよろしいのですが、そろそろわたくしたちも混ぜていただけます?」
わたしと奏の会話にしびれを切らしたのか、長姉のアルトが割って入ってくる。うふふ、先代からだけどこの連中は我慢を知らない不調法者だこと。わたしは答える。
「ええ、よろしくてよ? 虹月のチンドン屋さん」
わたしの挑発に連中は顔色を変える。
「チンドン屋とは随分な言いぐさですね“マエストロ”? いくら“マエストロ”と言えど……わたくしも虹月において今代の“コンサートマスター”を拝命する身、そして妹たちとの演奏は序列三位と言えども“七罪”最強と自負しております。舞台に上がるおつもりなら……こんな機会は滅多にございません。弦月様の称号、今宵この場を持ってお譲りいただきます」
「あたしの最高のピアノ、堪能してくれよなぁ」
「カノンの美声もね!」
アルトはタクトを振り上げ、指揮の体勢をとる。ピアノは眼前に出現させた巨大なピアノの鍵盤に指を乗せる。アルトの指揮によるピアノの演奏が始まれば、カノンはその凶悪な歌声を発するのだろう。
うふふ、素晴らしいわ。いいでしょう、他血統を教育する機会にはなかなかお目にかかれない。“マエストロ”朝倉弦月、あなたたちを教育して差し上げます。
「お祖母ちゃん、ここはあたしが……!」
奏が声を上げる。
「うるさいバカ、あなたはクライアントとターゲットを追いなさい。言っておくけど……“試演”の使用は禁じます。四王を回収して速やかに死季嶌を追い抹殺するのよ。それが奏の仕事でしょう?」
「……わかったよお祖母ちゃん……、行くわよ咲夜」
「え、でも……弦月さん、相手は3人……」
クライアントの咲夜さんがわたしを心配してくれる。優しい子ね、奏も心を許してるようだし、綾小路にこんな子がいたとは……。虹月の演奏を打ち破るくらいだから、普通の子ではないのね。大体の予想は付くけど……この子に幸在らんことを。
「大丈夫ですよ咲夜さん? わたしは“マエストロ”。こんなガキどもが何人集まろうとも、わたしの相手にはならないの。それよりも、急ぎなさい」
「ありがとうございます、奏のお祖母様……! 追加料金入れておきます!」
「まあ、それは嬉しいわ」
奏は咲夜の手を引いて、虹月三姉妹に注意を払いつつこの場を離脱していった。その間、虹月三姉妹はわたしから一瞬たりとも目を離さない。いいわね、その判断は正しい。“マエストロ”を前にして、標的を両天秤にかけようなど驕りが過ぎる。
「では、新たな舞台の幕を開けましょう! 今宵の主演は朝倉奏に代わりまして朝倉弦月が努めます。恋愛人形劇『七人の薔薇乙女』! どうぞ最後まで……」
前口上の途中で、わたしのアタマは吹き飛び宙を舞っていた。
あれ? 身体が……爆散……した……?
首から千切られ、くるくる回るわたしの頭。
あらあら……三姉妹が三重奏を始めた瞬間にこれとは……。先ほどまでの“妨害演奏”ではなく“攻撃演奏”に切り替えたわね。
アルトの指揮による“舞台演出”が、ピアノの奏でる音響兵装とカノンの超能力“大天使の歌声”(ダイレクトヴォイス)を増幅している。
宙を舞っていたわたしのアタマは地に叩きつけられ、血まみれのままアルトの足元に転がっていく。
「やったなアル姉」
「やったねアルトお姉ちゃん!」
アルトがわたしのアタマをサッカーボールのように踏みつけた。
「どんなものかと思いましたが……“迦陵”に次ぐと言われる“マエストロ”虹月弦月ですらこの有様とは……。ではピアノ、カノン、奏さんを追いましょうか」
あらあら、それはダメでしょう? 舞台の幕は上がったばかり。
踏みつけられたアタマだけのわたしは、アルトを呼び止める。
「ふふふ……恋愛人形劇の幕は上がったばかりですよ? 演奏を止めてはいけません、さあ、これから最高の舞台を創り上げましょう!」
アルトが驚愕の眼差しでわたしを見つめた。