わたくしの足元に転がってきた“マエストロ”朝倉弦月の頭部を踏みつけ、勝利を確信したのは早計だったのかもしれない。
しかし、あまりにも想定外です! 千切れた頭が、何の問題も支障もなく喋っているですって……?
「ふふふ……恋愛人形劇の幕は上がったばかりですよ? 演奏を止めてはいけません、さあ、これから最高の舞台を創り上げましょう!」
わたくしに踏みつけられた、血塗れの頭のみの朝倉弦月はそう言った。紡がれる言葉に一切の淀みはなく、その瞳は光を失っていない。首だけになってもなお、その機能を失わず喋っている……!?
わたくしは弦月の頭部を蹴り飛ばし、タクトを振り上げピアノに命じる。
「ピアノ! 破壊しなさい!」
「りょ!」
愛妹・ピアノの主武装、通常のピアノの3倍以上の大きさを誇る音響兵装“ベーゼンドルファー”が放つ指向性振動波を、わたくしの指揮による“演出”で増幅。トーキングヘッドと化していた「それ」は粉々に吹き飛んだ。
肉片と化した弦月の残骸を見て、ようやくわたくしは息をつく。
「……一体なんなのあのバケモノは……? 気持ちの悪い……」
「まあいいんじゃねアル姉? えれえことべっくらこいたけど“ベーゼンドルファー”でバラバラに吹っ飛ばしたんだ、これで“マエストロ”の称号はあたいらの……」
ピアノの声を遮り、カノンが警告を発する。
「アルトお姉ちゃん! ピアノお姉ちゃん! 違うよ! カノンの歌唱範囲内に反応が七体、要警戒!」
……なんですって?
朝倉弦月は確か「恋愛人形劇」の開幕を宣言しようとしていた、そして「七人の薔薇乙女」とも……。カノンが感知した数と合致している?
操演者である弦月を倒したにも関わらず、自立して稼働する人形? いいえ、カノンにしか感知不能な人形が、しかも主を失ってそこまでの精密動作を出来るわけがない。
もしや……いま殺したはずの朝倉弦月は……!?
いや、それしか考えられない、まさか……朝倉弦月! あれが人形だったのか、しかも生身を素体にした“生体人形”!
「ピアノ! カノン! 弦月は生きていますわ! さっきの幼女は生体人形の可能性がある、ヤツはどこかに隠れ、七体の人形でわたくしたちに攻撃を……」
妹たちへの指示は、彼女の声によって遮られた。
「それだけでは赤点です“コンサートマスター”」
そして、そいつらは……。
「七人の薔薇乙女」とやらは姿を現す。
彼女たちは……、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
それぞれの色のドレスを身に纏い……先ほどわたくしたちが倒したはずの……金髪碧眼の幼女。すべてが同じ容貌、同じ顔だ! いま眼前にいるのは……七人の朝倉弦月……、いや違う! どこかに操演者である本物の、おそらく全く別の容姿の朝倉弦月がいるはず……!
正体を隠し、人形のみを前線に出す。戦略としては間違っていませんが。これでタネは割れました。妹のカノンが“大天使の歌声”(ダイレクトヴォイス)能力者なのが運の尽きですよ弦月様。
必ず見つけ出し、わたくしたちが“マエストロ”の称号をいただきますわ……!