綾小路人工知能研究所、所長室。
時刻は…深夜零時を回っている。
照明を落とした薄暗い部屋の中で、私――四季島ユーミアは、生まれたままの姿に仕事着である白衣だけをまとっている。シャツの乱れを直している恋人、そして婚約者である綾小路桐夜(あやのこうじきりや)様の背中に、私の豊満かつ柔らかさに自信のある胸をぎゅっと押し付けるように両腕を絡ませる。
「こら、ユーミア…服が着れないよ」
「なら…もう一度行為に及べば良いのでは? ユーミアは白衣を脱ぐだけで準備完了です」
「ダメだよ、休憩は終わり、まだ仕事が残ってるだろ?」
おっぱい攻めは功を奏さなかった。溜息をついた私は、しぶしぶ身体を桐夜様から引き離す。確かに私たちの仕事は山積している。桐夜様はもちろん、この私個人に与えられた仕事は、いや、責務は、私の一生を捧げても終わることはないだろう。
――
「確かにユーミアたちは多忙、という言葉では表現不能なほどの業務がございます。ただ、咲夜様もようやく目を覚まし、計画は大きな一歩を踏み出しました。今夜くらい、ユーミアの身体を気絶するまで昇天させて、溜まりに溜まった白く濁ったストレスをユーミアの子宮の奥に遠慮なくぶちまけていただいても結構なのですよ?」
「あのねユーミア…、君のその無尽蔵の性欲はどこから出てくるんだ? 自分で強精剤でも作ったの?」
「失礼な、ユーミアの性欲は自前です。それに、ユーミアがそんなものを作り服用してしまったら、桐夜様が文字通りの搾りカスになってしまいます」
「そんな怖いモノ作るより、計画に専念してくれ」
「もう、つれないお方…」
桐夜様は性欲が旺盛なほうではない。むしろその慎ましさは草食系男子と言って過言ではない。私に対する性行為は、恋人である私を満足させるための奉仕行動であると言える。
もっとも、私自身も性行為を特に強く欲しているわけでもない。せっかく女性として恵まれた身体に生まれたのだ、私の身体を使って愛する殿方に満足してほしいと思うのは当然の論理的帰結だ。
性行為よりも、私たちにとって遥かに重要なこと。
それは、科学の発展――ただそれのみ。
男女の営みなど言わばデザートのようなモノ。いかに肉体的快楽が魅力的であろうとも、私たちの崇高な悲願には到底及ばない。
「そう言えば、兄さんに…本家に呼ばれたんだって?」
すっかり仕事の支度を整えた桐夜様が私に尋ねる。
「それ先週の話ですよ…TYPE SAKUYAシリーズの進捗状況を、ユーミアの口から直に聞きたいとのことでした。性格破綻者であろうと倒錯性愛者であろうと、凍夜様は綾小路家の総帥たるお方。召集には応じねばなりません」
「いや…兄さんが倒錯性愛者だなんて聞いたことないんだけど!?」
「ユーミアも詳しく知りませんが…あの方であればそれくらい不思議ではないかと」
「君は僕の兄さんを何だと思ってるの?」
冗談です。そう言って、私は脱皮するようにスルリと白衣を床に落とす。一糸纏わぬ姿になった私は再び桐夜様に、今度は正面から抱き付いた。
「こらユーミア…」
「もうすぐです桐夜様…。もうすぐユーミアたちの願いが叶うのです」
「そ、そうだね…。A-1は起動に成功した。量産型AIを搭載したA-2の起動実験も間近に迫っている。僕たちは…最も人間に近いヒトガタを作り出す、最初の研究者になれるんだ」
私は抱き付いたまま背伸びして、桐夜様の耳元で囁く。
「それはただの
「え――なんて言ったのユーミア?」
私は桐夜様から身体を離し、桐夜様のために所長室のドアを開け放つ。
「なんでもございません桐夜様――。さあ、A-2のボディが桐夜様の調整を待っています。ユーミアも後から参りますから、お先にどうぞ」
「あ、ああ…。じゃあ先に行ってるよユーミア」
桐夜様が所長室を出て行く後ろ姿を見送り、私は微笑む。
ふふ…うふふ…、
く…くはははははは、あああああああははっははあはっははっはっははっはっはっはははあああはははっあはははっっははっははっはははあっははっははははぎゃっはははっはっはっはっははっはっはははははははあははは!!!!!!!
無意識のうちに、微笑みは笑いに代わり、その笑いは抱腹絶倒の狂笑に達する。
まだ気付かないのですか桐夜様?
咲夜様が目を覚ました…それはつまり、桐夜様の理論が完璧であったという証左!
私たちは…私と桐夜様は…神の域に到達できるのですよ…!
あのお可哀そうなモルモットのおかげで、私も決心がつきました。
もうすぐ…私と桐夜様は…この世界に…永遠に君臨できるのです…。
すみません、前の話で桐夜の読み仮名間違えてました。桐夜(きりや)が正しく、その兄が凍夜(とうや)です。