ヤンデレCDからこぼれ落ちたストーリー集   作:オオシマP

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言い忘れていた。
ヤンデレCD2作目において、咲夜は水橋かおりさんに演じていただきました。読むときの脳内ボイスの参考にしてください。しないでもいいです。


track.7 亀裂-1

「あの…お義兄様? どうかなさいました? 突然黙ってしまって…」

 

私の口元を拭いてくれた後、お義兄様が俯いて黙り込んでしまった。

やだ…、私、また何かお義兄様を失望させてしまったのかしら…。

 

「いや、何でもないんだ咲夜、ちょっと疲れてるみたいだ。ごめんね」

「そんな、謝らないでくださいお義兄様。でも、毎日働き過ぎなのでは? お休みはちゃんと取ってらっしゃいます?」

「大丈夫だよ、こう見えて身体は丈夫なんだ、ほら」

 

お義兄様は上腕をグッと曲げて、力こぶを見せようとする。男性にしては細身と言うかやや頼りなげな体型のお義兄様、力こぶが出来ているようには見えないけれど、きっと私を元気付けるためにおどけてくれたのだろう。

お優しいお義兄様…。そういうところが…好きです…。

 

「ところで咲夜、暴漢に襲われたあと身体に異常は無いかい? 何かあれば言っておくれ」

 

先ほどとは打って変わって心配そうな表情で私に聞いてくる。

「大丈夫です、ケガもしていませんから」と答えた私だったが、ひとつだけ気になっていたことがあり、お義兄様に聞いてみることにした。

 

「実はあの時…その…女の子…いえ、暴漢が…私にガスを吹き付けたんです」

「ガス…だって?」

「ええ…。即効性の睡眠薬だって言ってましたけど、何の効果もなかったんです。その暴漢は、私は薬物に強い体質なのかって言っていたけど、そうなんでしょうか?」

「…そのとき他に、何か変わったことはなかったかい?」

「ええ…。あ、そうだ。私を気絶させようと、首に手をかけられて…とても痛くて泣いてしまったんですけど、その後に驚かれてしまって…。何で気絶しないの、と…。あの…お義兄様?」

 

お義兄様は私をじっと見つめて何か考え込んでいる。眼鏡の奥の鳶色が、不安そうに私を見つめていた。

いやだ…また私、おかしなことを言ってしまった?

 

「ごめんなさいお義兄様、何でもないんです。忘れてください…」

「咲夜、ちょっと聞いていいかな?」

「はい?」

 

何かしら…。お義兄様を心配させないようきちんとお答えしなくちゃ。

 

「うん、ちょっとしたテストなんだけど…入口に近いテーブルあるだろう、こことは反対側の。あそこにウチの職員が3人でお喋りしてるんだけど、何を話しているか聞こえるかい?」

 

お義兄様は20メートルほど離れたテーブル席を指さす。研究所の社員食堂はとても広く、空いてはいないが混み合っているというほどではない。私たちがいる食堂奥のテーブルとお義兄様が示すその場所は、食堂内のほとんど対極に位置していた。

 

私は頑張ってお義兄様の質問に答える、テストなら…良い成績を取らないとね。

 

「はい…ええと 『…のストロークをもっと長くとった方がいいんじゃないかそうだな3次テストの結果を見ると膝主関節のダブルスイングシステムに負荷がかかり過ぎているかもしれないまさか今から新しいパーツの見積もり取るのかよ勘弁してくれメインフレームとエンジンのマッチングから見直さなきゃいけないじゃんか仕方ないだろう品質を落とすわけにはいかないんだから強度計算頼むわうっそだろまた徹夜かよ俺新婚だぞ結婚なんかするからだよバーカじゃあお前らも結婚してみろってんだ文句言うなってそれだけの給料もらって』」

 

「わかった、咲夜。ありがとう」

 

お義兄様が手を振って私の言葉を遮った。

 

「あの…お義兄様? テストは合格でしょうか?」

「あ、ああ…、すごいな咲夜は。じゃあ次のテストだ」

「はい」

 

今度はどんなテストだろう。お義兄様が褒めてくださると嬉しいな。

 

「…西暦1591年の7月27日は何曜日だったかな?」

「土曜日です、お義兄様」

 

私は即答する。

 

「正解でしょ? お義兄様。もう、誰でもわかるクイズなんて人が悪いです」

「正解は…CMの後だよ」

 

お義兄様は微笑みながら右手を私の頭に伸ばし、髪をワシャワシャと撫でる。

 

「きゃっ、いやだお義兄様ってば」

 

真面目なテストだと思ったのに…お義兄様ったら私をからかったのね。

 

「おっと、すまない咲夜。急な用事を思い出した…すぐに仕事に戻らなくちゃ」

 

お義兄様はいきなり席を立ちあがった。

 

「え、お義兄様?」

「ごめん咲夜、この埋め合わせはするから。今度は…そうだな、そろそろ外に出てみようか。近くをぐるっとドライブなんてどうかな?」

「ホント? ドライブデートなんて嬉しいですお義兄様!」

「よし、近いうちに車を出そう。じゃあね、夕食の時間まで大人しくしてるんだよ」

 

お義兄様はそう言うと、慌ただしく食堂を後にした。お義兄様のお使いになったお皿の脇に、ハンカチを一枚残して。

 

「お義兄様ってば…。案外慌てん坊さんですね…よし」

 

私はお義兄様のハンカチを綺麗に畳んで、大切にポーチにしまった。

残ったオレンジジュースを一口含んで、私も席から立ち上がる。

 

「さて…午後はお義兄様を探して研究所を冒険ね!」




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