M@gica デレマス×魔法少女   作:心技休

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魔法少女(ヒーローアイドル)、誕生!

「変身した……すごい! 本物だ! 本物のヒーローだ!!」

 

 

「空から降ってくる黒い化け物に、ヒーローに変身するアイドル……もう、何がなんだか……」

 

 

 

 2人の目の前で有香は眩い光に包まれる。

 視界が晴れた時、そこにはサイバネティックなステージ衣装を身に纏ったアイドルの姿があった。

 心なしか、表情も凛々しく見える。

 

 

 

 

「まぁ、有香さんかっこいいですねぇ♪ 可愛い後輩ができて浮かれているんですかぁ?」

 

 

「う、うるさいですよまゆちゃん!」

 

 

「うふふ♪ それじゃあまゆも♪」

 

 

 

 ポーズまでしっかり決めている有香の横にそろりと近寄り、耳元で囁くまゆ。

 完全に図星だったようで、顔を真っ赤にしながら両腕をパタパタさせている。

 思わず出た反論も、囁き声に対しては全く意味のない正反対の内容で、余計に可愛らしさが増している。

 

 相方をからかい満足した様子のまゆ、自らもと愛しい人に贈り物をするように両手を前に掲げ、有香と同じ呪文のような言葉を唱える。

 

 

 

「スタージュエル、コンバート。セルフ・イグニッション」

 

 

 

 両手の中に虹色に輝く星形の結晶体、有香の掌に現れたのと同じ物が現出。

 まゆはこれを抱きしめ自分の中に取り込み、こちらも同じく眩い光に包まれた。

 真紅の薔薇を模したステージ衣装を身に纏い、光の中から現れる。

 

 

 

「まゆさんもヒーローだったの!?」

 

 

「うふふ♪ そうですよぉ♪」

 

 

「詳しい話は後でしますので、2人はここから避難してください」

 

 

「わ、わかりました」

 

 

 

 光にとっては夢のような光景であろう、目の前で2人のアイドルが憧れのヒーローに変身し、人々を守る為悪と戦おうとしているのだから。

 

 しかし、悪の存在は待ってはくれない。

 空を覆った黒い影は小さな影を点々とデパートの屋上へと降下させ、着地した小さな影は徐々に4足歩行の動物のような形へと姿を変えていく。

 

 嬉々としてまゆに話し掛ける光であったが、有香に避難を指示されると渋々恭二と共に出口の方へ駆けていった。

 

 

 

「タイプドッグを複数確認、凡そ30体」

 

 

「わんちゃんならまゆにお任せですよぉ」

 

 

「一般の人たちの避難が最優先です。私が先導しますから、まゆちゃんはフォローと遊撃をお願いします」

 

 

「了解です」

 

 

 

 答えてすぐさまトンッと地面を蹴りふわりと宙に浮き上がったまゆ、ピンク色の粒子がその腕に纏われる。

 勢いよく両腕を振るえば粒子の中から真紅のリボンが放たれ、乗り物やステージを上手く避けながら黒い犬たちを叩いていく。

 リボンに打たれた犬たちは順々に霧散し、数を減らしていく

 

 片や有香は怯える一般人に避難を呼び掛けながら出口へと誘導していた。

 

 

 

「皆さん、ここは危険です! 早く避難してください! 出口はこちらです!」

 

 

「ママー!!」

 

 

 

 母親とはぐれてしまった子供が必死に助けを求め叫ぶ。

 母親はそれに気付くが距離が遠く、しかもすぐ後ろに黒い犬が1匹猛スピードで近付いてくる光景が見えてしまった。

 懇願するように母親は子供の名前を呼んだ。

 

 

 

「たっくん!!」

 

 

「グルァ!」

 

 

「わぁぁぁあ!!」

 

 

 

 黒い犬は咆哮を上げて勢いをつけ、大口をあけて子供を飲み込もうと飛びかかった。

 恐怖のあまり腰を抜かしてしまい、その場にへたり込んでしまった子供は絶望の叫びを上げ目を瞑った。

 

 しかし、体のどこにも痛みは無かった。

 それどころか暖かな腕に抱かれ安心感を覚えた。

 伏せていた顔を上げると、不思議な障壁に阻まれ身動きがとれなくなっている黒い犬と、自らを包み込む優しいアイドルの姿が目に入った。

 

 

 

「もう大丈夫です、安心してください」

 

 

「アイドルの……お姉ちゃん?」

 

 

「はい♪」

 

 

 

 助けを求める叫びを聞いて一目散に駆け出していた有香、怯えてへたり込む子供を抱きかかえつつ片手を突き出し魔法の障壁を作り出していた。

 子供を安心させる為アイドルらしい可愛い笑顔を見せると、子供も自然と笑っていた。

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

 障壁を発生させている手を一旦引いて拳を作り、黒い犬に向かって改めて撃ち放つ。

 拳から出た衝撃は自らが出した障壁ごと黒い犬を空へと吹き飛ばし、障壁が砕けると同時に影を霧散させた。

 

 

 

「ありがとう! アイドルのお姉ちゃん!」

 

 

「ありがとうございます! このご恩は一生……!」

 

 

「お礼は後で伺いますので、今はお子さんと逃げる事を優先してください。」

 

 

「……はい!」

 

 

 

 子供をお姫様抱っこで抱え上げ母親の所まで送り届ける有香。

 まだ恐怖の感情は拭いきれていないようだが、子供は尊敬の眼差しで有香にお礼を言った。

 母親は我が子の無事に涙を浮かべながら何度も頭を下げようとするが有香に制止され、1度だけ深くお辞儀をすると子供の手を引いて出口へと走っていった。

 

 走りながらも振り向いて有香に手を振る子供、その姿が見えなくなるまで有香も答えるように手を振り笑顔で見送った。

 

 

 

「ハァ……ハァ………ふぅ……よし」

 

 

 

 まだ戦いは始まったばかり、しかし有香は自分の息が思いの外上がってる事に違和感を覚えた。

 戦えるのは自分とまゆの2人だけ、音を上げる訳にはいかないと気合いを入れ直し呼吸を整えると、残っている一般人がいないか探す為再び走り出した。

 

 

 

「くぅぅぅ!! 有香さんめちゃくちゃかっこいい! やっぱり本物のヒーローはかっこよさが段違いだ!!」

 

 

「テンション上がってる場合か! 避難しろって言われただろ!?」

 

 

「ここに隠れてれば大丈夫だって。それに本物のヒーローの活躍がこんなに近くで見れるなんて滅多にないんだ。ここで逃げるなんてもったいないよ!」

 

 

「少しは身の危険も考えた方がいいと思うんだが……」

 

 

 

 有香の救出活動の一部始終を出口付近の物陰から見ていた光、相変わらず憧れのヒーローの活躍に目を輝かせて一向にその場から離れようとしない。

 スカウトしてこいと言われた手前放っていく訳にもいかず、同じように物陰に隠れて説得しようと試みるが光の心は揺れ動かない。

 

 1体、また1体と迫り来る黒い犬を蹴散らしていく有香。

 まゆの援護もあり順調に事が進んでいるように見えたが、

 

 

 

「なぁプロデューサー、有香さんの動き……どんどん鈍くなっていってないか?」

 

 

「え?」

 

 

 

 光の言う通り、有香の動きにはキレがなくなっていた。

 まるで全身に重りでも巻いてあるかのようや鈍重な動き、素早い黒い犬に徐々に翻弄され始める。

 

 

 

「くっ……何とか、しないと………あれ……ピントが、合わ……」

 

 

 

 有香の視界はぼやけ意識も朦朧としだした時、黒い犬はその隙を見逃さずタックルを繰り出した。

 

 

 

「! 有香さん!!」

 

 

 

 光が叫んだ声は届かず、ダンッと鈍い音と共にタックルを喰らった有香は無惨に地面に転がった。

 

 ピンク色の光が有香を包んだ後ボワンと湯気のように立ち上ると、先程までのサイバネティックな衣装が消え私服姿に戻っていた。

 

 

 

「変身が……解けた……? マズいよプロデューサー!」

 

 

「いや俺に言われても!?」

 

 

 

 恭二の胸元掴んでブンブン振り回す光、慌てた表情で誰にもぶつけようのない不安をぶつける。

 有香を倒した黒い犬は勝ち誇ったように咆哮を上げ、倒れている有香を眺め舌なめずりしている。

 

 咆哮に呼応してか空に浮かんでいる影から更に小さな影が多数投入され、順々に黒い犬に変化していく。

 

 

 

(有香さんの変身が解けている!? しかもこの状況で増援なんて……まゆは有香さんのパートナーなのに!)

 

 

 

 空中からリボンを操り出口から遠い敵を優先して各個撃破していたまゆ、有香の変身が解けた事に気付くも敵の増援で避難中の一般人に襲い掛かる数が増え、援護に手が回らない様子。

 多くの悲鳴が上がる中上空にいるまゆの焦りの色を見て光も状況を察したのか、プロデューサーを掴んでいた手を離し駆け出そうとした。

 

 その手を恭二が掴む。

 

 

 

「バカかお前は! この状況で出て行ってどうすんだよ!」

 

 

「どうするって助けるに決まってるだろ!」

 

 

「あんな化け物相手に何ができんだよ!」

 

 

「何か、何かしらできるはず!」

 

 

「何かしらって何だよ! お前は“変身”できねぇだろうが!」

 

 

 

 背中を向けたまま激しい口論を繰り広げ何度も腕を振り解こうと足掻いていたが、“変身できない”という言葉を聞いて動きが止まった。

 掴まれていない方の手に握り拳を作り、もどかしい感情を抑えて言葉を絞り出す。

 

 

 

「アタシを……ヒーローにしてくれるんじゃ……なかったのか……?」

 

 

「それは……アイドルとして活動する為の方針がそうなんであって……」

 

 

「アタシはアイドルじゃなくてヒーローになりたいんだ! 困っている人を助けて、悪い奴らをやっつける。今行かなきゃヒーローを目指してるって胸を張って言えなくなる、アタシ自身が許せなくなる!」

 

 

 

 瞳にうっすら涙を浮かべながら恭二の方へ振り向いて熱く訴えかける光、恭二もその気迫に圧倒され言葉を見失う。

 

 

 

「アタシはアタシのヒーロー精神を貫く! たとえそれで……死んでしまっても構わない!!」

 

 

「! 待っ、光!?」

 

 

 

 掴む力が緩んだ手を振り解き、光は駆け出した。

 

 舌なめずりをしていた黒い犬がついに大口を開け有香を飲み込もうと襲い掛かった。

 

 

 

「でぇぇやぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 気合いの入った掛け声と共に走り込んで来た光、単身かと思いきや両手で買い物カートを押しながら猛突進、ガシャーンッ! と大きな音を鳴らし有香を飲み込もうとしていた黒い犬をカートごと吹き飛ばした。

 カートと一緒に転がっていった黒い犬は全身を打ちつけられ、ぐったりと横たわっている。

 相手を吹き飛ばしたのを確認するとすぐさま有香の元へ駆け寄った。

 

 

 

「有香さん! 大丈夫ですか?」

 

 

「光、ちゃん……どうして……?」

 

 

「アタシも有香さんみたいなヒーローになりたくて……だから来ました!」

 

 

「早、く……逃げ、て……」

 

 

「逃げるなら有香さんも一緒に連れて行きます!」

 

 

 

 普段から鍛えているのだろう、自分より大きい有香を軽々と抱きかかえ出口に向かって脚を伸ばしていく。

 

 だが黒い犬もゴーストの端くれ、現代兵器では対処できない奴らに対しただの物理攻撃ではほんの僅かな時間稼ぎにしかならない。

 身体に乗っかったカートを振り払い顔をブルブル震わせた後、背を向けて逃げ出そうとしている2人に再接近する。

 

 

 

「速い……追い付かれる……!」

 

 

 

 光も足は速い方だが有香を抱えて走っている為、ハイエナのように猛スピードで走ってくる黒い犬にあっという間に距離を縮められた。

 2人いっぺんに飲み込もうと更に大口を開け、本能の赴くままに飛びかかった。

 

 

 

(嗚呼……アタシ、ここで死んじゃうんだな……でも、いいや……これがアタシの目指したヒーローの……)

 

 

 

 

 

 

 

「うちの新人にぃ! 手ェ出すなぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 まるで(ヒーロー)の再来だった。

 2人を飲み込もうとした黒い犬の横っ腹に買い物カートで突撃、当たると同時にカートを蹴り上げもろとも遠くへ吹き飛ばした。

 

 

 

「ハァ……ハァ……俺だって男だよ……ヒーローに憧れた事くらいあるに決まってんだろ……!」

 

 

「プロデューサー!」

 

 

 

 つい1・2分前まで一緒にいた、自分はヒーローになれると言ってくれた(ような気がする)人物がピンチを救ってくれた。

 光はその事実に歓喜の声でその相手を呼んだ。

 

 プロデューサー、芦原 恭二である。

 

 光の呼び掛けに応えニッと笑って見せるが、相当な覚悟と気合いを入れて飛び込んで来たのであろう、肩が激しく上下するほど息が上がっている。

 胸に手を当てながら何とか呼吸を整えると、吹っ飛んだ黒い犬に注意を払いながら言葉を絞り出す。

 

 

 

「……27年生きた俺だって、死ぬのは怖ぇんだ。たとえ考えた上でも、死んでいいなんて言うな」

 

 

「……うん……わかった」

 

 

 

 光は恭二のその言葉に確かな重みを、実感が籠もっているのを感じた。

 命を粗末にしてはいけない、そう考えを改めるような体験をしたのか、或いは死の淵に直面したことがあるのか、何となく察する事はできた。

 

 

 

「よし! じゃあ有香さんを連れて早く出口へ!」

 

 

「プロデューサーは?」

 

 

「2人が逃げる時間を稼ぎながらまゆさんの援護を待つ、かな」

 

 

「……急いで戻ってくるから!」

 

 

「そうじゃねぇだろ! ったく……」

 

 

 

 近くにあったパイプイスを拾い構えながら光に逃げるように言うが明後日の方向に捉えられたようで、有香をおんぶする態勢に変え出口へ向かって全力疾走しながら叫ぶ形で光からの答えが返ってきた。

 小さく溜め息を零した後、被さったカートを思いっきり吹き飛ばしこちらを睨み付けてくる黒い犬と対峙する。

 2度も同じ手で邪魔をされ相当怒り狂っているようで、牙を剥き出しにし口から湯気が溢れ出ている。

 

 頼みの綱であるまゆは増援に手こずっているようで、恭二と光の姿は確認できても余裕がないように見える。

 更に不運な事にカートをぶつけて吹き飛ばしてしまったせいで、黒い犬はライブステージの陰に隠れる形でまゆからは死角になってしまっていた。

 

 

 

「こりゃ、終わったかもな。ははっ、ホント不運も不幸も続くもんだ……まぁでも、アイドル2人を助ける為にこの3年間生かされてたんなら……悪くはない、か」

 

 

 

 運良く黒い犬たちに見つからず出口まで辿り着けた光と有香。

 買い物カート置き場の近くに有香を下ろし恭二の元へ戻ろうとするが、制止するように有香が口を開く。

 

 

 

「ダメ……光、ちゃん……」

 

 

「有香さん!?」

 

 

「今、戻った、ら……共倒れ……新人さん、の意志を……無碍に、しちゃ……」

 

 

「そんな……すぐ戻るって約束したんだ、アタシは行くよ!」

 

 

 

 外に出ようとする光の手を今度は恭二ではなく有香が掴み止める。

 

 

 

「ダメ……!」

 

 

「有香さん離して!!」

 

 

 

 恭二と黒い犬の姿は2人のいる出口からでも見えた。

 怒り狂った黒い犬は恭二の構えたパイプイスに喰らいつき、1回の噛み付きでへの字にへし折った後持ち手から奪って放り投げた。

 一瞬で武器を失った恭二には最早勝ち目はなく、戦意も喪失していた。

 死を悟ったような表情が光にも見えた。

 

 

 

「……いい訳、ないよな……」

 

 

「プロデューサァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正義の心は奇跡を呼んだ。

 

 光の身体から虹色の輝きが迸り、溢れ出す。

 放たれた輝きは一直線に恭二の元へ突き進み、更に輝きを増す。

 黒い犬はこれを嫌い距離をとるため何度も後ろに跳び退いた。

 

 恭二の元へ辿り着いた輝きはゆっくりと収束し携帯端末の姿に、三葉が持っていたあの端末と同じ形へと変化した。

 

 

 

「な、何だこれ……PHS? 玩具か何かか? とりあえずあの化け物は嫌がってるみたいだけど……」

 

 

「アタシの中から何か光るものが、ええ!?」

 

 

「あれ、は……マギ、デバイス……!」

 

 

 

 何が起きているのかさっぱり理解できず困惑している恭二と光。

 ぼやける視界の中で一瞬だけピントが合い、その端末を目にした有香は“マギデバイス”と言葉に表した。

 有香はその形をよく知っていた。

 

 

 

「マギデバイス?」

 

 

「光ちゃん……今な、ら……“本物のヒーロー”、に……」

 

 

 

 弱っている身体に鞭をうち、更に言葉を振り絞る。

 

 

 

「新人さん、を……助けて……あげて……」

 

 

 

 

 

 

 

『IGNITION』

 

 

「今度はなんだ!?」

 

 

 

 恭二が目の前に届いた端末を手に取るや否や、端末から音声が流れ虹色の輝きが放出され光の元へ戻っていく。

 光の腰に巻き付くように輝きが纏われ、光の憧れるヒーロー御用達の変身ベルトに形を成した。

 驚きとワクワク、そして正義のヒーローとしての使命感が入り混じった感情。

 複雑だがこれが光の大好きな気持ち、高ぶっているのが一目でわかる。

 

 

 

「これが……アタシの力……!」

 

 

「光……ちゃ……」

 

 

「! 有香さん!」

 

 

 

 意識も体力も限界が近いのか、最後の力を振り絞って光の名前を呼ぶと少し態勢を崩しよろけてしまう。

 素早く有香を支えると有香の胸元からピンク色の粒子が滲み出て小さな玩具のような形を成した。

 光はこれを手に取ると有香と視線が合い少し不安そうな顔をするが、有香は優しげな表情で頷いた。

 あなたなら大丈夫、そう言っているかのようだった。

 

 

 

「今のアタシにはこれの使い方がわかる……! 有香さん、拳の力、お借りします!」

 

 

 

 有香を楽な態勢に持ち直し、安心させるように今度は光が笑顔を見せた。

 

 立ち上がった光は有香から授かった玩具、変身アイテムであるそのボタンを押した。

 

 

 

『ラァヴナッコォウ!!』

 

 

「変身!」

 

 

『ステージオン、フォームサバイヴ!』

 

 

 

 今時喋る変身アイテムやベルトは珍しいものではない。

 シリアスなシーンでもやかましく叫ぶ事はザラにある。

 

 音声を発した変身アイテム、ややドスの聞いた声が流れ淡く輝きだす。

 光の腰に巻かれたベルトにはいかにも此処に差し込んでくださいと言わんばかりに挿入口が付いていた。

 決めポーズと同時に変身アイテムをベルトに装填、ピンク色に輝く粒子が溢れ出し光の身体を包んでいく。

 

 バァンッと纏った光が弾けると、中から出てきたのはマギカとして覚醒した光の姿。

 トリコロールカラーのステージ衣装、各所に施されたサイバネティックな発光体、眉間の赤いV字が特徴的なゴーグル、そして風に靡く青いマフラー。

 光の思い描いていたヒーロー像そのものであった。

 

 

 

「光が……変身した……?」

 

 

「プロデューサー、後ろ!」

 

 

 

 呆気に取られていた恭二の背後から諦めの悪い黒い犬が4度目の襲撃をかける。

 光の叫び声に気づいて振り返ると、もう目の前に狂暴な牙が迫っていた。

 咄嗟に両腕で顔を守ると、手に持ったままのマギデバイスが再度輝きを放ち、黒い犬はこれに弾き飛ばされ今回の攻撃もまた失敗に終わった。

 

 

 

「プロデューサー、無事か?」

 

 

「何とかな……わかんねえ事だらけでまだ混乱してっけど」

 

 

 

 駆け寄ってくる光に対し、恭二は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「じゃあ選手交代だ。プロデューサーは有香さんの傍についていてあげてよ」

 

 

「あぁ、わかった。頼んだぞ、ヒーロー!」

 

 

「! おう!!」

 

 

 

 空いている左手で握り拳を作って光の前へと突き出し、ニッと笑って見せる恭二。

 その笑顔に期待と信頼が乗っている事を光は感じ取った。

 応えるように光は右手の拳を恭二の拳とかち合わせ、同じく笑顔で返す。

 マギデバイスも少し輝きを増したように見える。

 

 出口へ駆け出す恭二を背に、光は決めポーズを取りながら名乗りを上げた。

 

 

 

「正義のヒーロー、南条 光! ただいま参上! ここからはアタシが相手だ!」

 

 

「光ちゃん?」

 

 

 

 宙に浮いて迎撃していたまゆも、一般人の避難がほぼほぼ終わり多少の余裕ができたようで、その声と姿に気付いた様子。

 

 声量は申し分なく高らかな雄叫びは屋上一帯に響き渡り、残存している黒い犬たちの視線が一手に集まった。

 カートにパイプイスに謎の輝きと何度も吹っ飛ばされた正面の個体が合図すると、呼応した同族たちが次々と光に飛びかかっていく。

 

 

 

「てい! はぁ! せぇやぁぁ!!」

 

 

 

 脇を締めて気合いを入れると両の拳にピンク色の粒子が纏われる。

 ゴーストに有効な魔力を伴った打撃が繰り出せる拳になり、迫り来る黒い犬たち1匹ずつに、正拳突き、手刀打ち、掌打、と空手の演舞を披露しているかの如く流れるように打ち出し撃破していった。

 

 合図を出した黒い犬は1匹その場に取り残され、牙を剥き出しにして悔しさを露わにし唸っていた。

 

 

 

「さぁ、後はお前だけだぞ、犬っころ!」

 

 

 

 もう勝負は着いたも同然、追加で動員したゴーストたちも光の拳が全て打ち砕き、圧倒的な力の差を見せ付けた。

 最後は1対1で決着をつけるのかと思いきや、再び天へと咆哮を上げるリーダー格の黒い犬。

 それに呼応したかのように空を覆う巨大な影が蠢き、螺旋を描きながら黒い犬の元へと落下してくる。

 太陽の光がデパートの屋上に舞い戻ってくるが、光の前には黒い犬を取り込んだ巨大な影の塊が、バチバチと稲妻を走らせながら鎮座していた。

 

 その稲妻は辺りに飛び散りライブステージや乗り物などを直撃、吹き飛ばしたり部分的に破壊したりと危険なのは火を見るよりも明らかだった。

 

 

 

「きゃっ!」

 

 

「まゆさん!」

 

 

 

 稲妻の一筋が浮遊しているまゆを掠め、態勢を崩したまゆは屋上のコンクリートに叩きつけられる……事はなく、ヒーロー根性全開の光が咄嗟の判断で滑り込み、意図せずスライディングお姫様抱っこという稀有な形をとって事なきを得た。

 

 

 

「ぁ……ありがとうございます」

 

 

「へへっ、ヒーローとして当たり前の事をしたまでだよ」

 

 

 

 王子様にお姫様抱っこをしてもらう、少女であれば1度くらいはそんなシチュエーションに憧れたりもするだろう。

 自分の危機を救ってくれる笑顔の素敵な王子様、今まゆはそんな夢のような体験をしている。

 残念ながら相手は王子様ではなく新米のヒーローで、そもそも自分より年下の少女であるのだが。

 

 1人の少女の危機は去ったものの、大元の危機は去っていない。

 稲妻を帯びていた巨大な影は姿を変え、腕の大きな人の形を成していく。

 腕の大きさに反して脚は短く、身体は岩肌のようにゴツゴツしている。

 

 

 

「犬っころから人型に……!」

 

 

「タイプゴーレム……鈍足大型は有香さんの領分なのに……」

 

 

 

 名は体を表す。

 その剛腕を振り上げて地面に叩き付け、ギロリと光を睨み付ける。

 落ちてきたまゆにはまるで興味がない様子。

 

 スッとまゆを降ろすとゴーレムの方に向き直り、再び拳を構える光。

 隣に立つまゆも戦う姿勢をとるが、何かを感じ取ったのか申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

 

「光ちゃん……どうやら私はここまでみたいです」

 

 

「えぇ!? 何で急に!?」

 

 

「スタージュエルで供給できる魔力には限りがあります。いつもなら大丈夫なんですけど、有香さんの離脱、想定以上の援軍で、もうほとんど使い切ってしまいました。プロデューサーさんがいれば話は別なんですけど……」

 

 

「プロデューサーならいるぞ?」

 

 

 

 光は出口の方を指差した。

 有香を介抱しながら光を見守っていた恭二は、突然指を指され少々困惑している様子。

 

 

 

 

「誰でもいい訳じゃないんです! 自分のパートナーになったプロデューサーさんがいないと継続的に魔力の供給を受けれないんです」

 

 

「なるほど」

 

 

「……単刀直入に言います。今の状況、光ちゃんだけが頼りです。私たちを、守ってください」

 

 

 

 そう言い終わるとほぼ同時にまゆの変身も解けてしまい、ピンク色の粒子が霧散し変身する前の私服姿に戻った。

 

 

 

「ああ! 任せてくれ!」

 

 

 

 光は心も身体も滾っていた。誰が見ても一目瞭然と言えるほどに。

 

 

 

「待たせたなゴツいの。ヒーロー側が話してる間待つのはいい悪役だ。でも、悪い奴には変わりない……だから、ここでお前を倒す! このアタシ、正義のヒーロー、南条 光が!」

 

 

 

 数歩前に出て再び拳を構え、お得意のヒーロー名乗りを上げたところでゴーレムも動き出す。

 剛腕を振り上げ、アームハンマーの如く光目掛け振り下ろす。

 対する光は左手で受け止めるように掲げバリアを展開、ガキンッと金属同士がぶつかるような音を立てながら剛腕を受け止める。

 しかし威力は相当なもので、光の足下のコンクリートに入ったヒビ、受け止めた光の少し歪んだ表情と小刻みに震える左手、それらがこの一撃の重さを物語っている。

 

 

 

(こんなのが何発も打ち付けられたら建物が崩れる……有香さんもまゆさんも、プロデューサーも、下の階にだってまだ人が残っているかもしれない……なら)

 

 

 

 右手を引いて拳を作り魔力を集中させる。

 ピンク色の粒子がその拳に纏われ、更に輝きを増していく。

 

 

 

「一撃で、決める!」

 

 

 

 ただ支えるだけでもキツいであろう左手、それでもヒーローとしての使命がその手と光の心を突き動かす。

 剛腕を受け止めていたバリアをその腕ごと突き飛ばし、役目を終えたバリアは空中で砕け散った。

 自慢の剛腕を返されたゴーレムは、短足でアンバランスなのも相まって大きく仰け反り、尻餅をつくような形で態勢を崩し、膨大な隙間を晒してしまう。

 

 

 

「今だ! いっけぇ光!!」

 

 

「はぁぁぁぁああ!!」

 

 

 

 これだけ大きくあからさまな隙なら素人にでもわかる。

 見守っていた恭二も同様、ここぞとばかりに光にエールを送った。

 それに反応してかマギデバイスの輝きが少し増し、光の拳に纏われた粒子も膨張していく。

 

 ヒビの入ったコンクリートを蹴り、破片を散らしながらゴーレムの懐に飛び込む。

 纏った力を解き放つべく、ゴーレムの胸元に勢いよく拳を撃ち放った。

 

 

 

「グルァァァ!!」

 

 

 

 己の持つ剛腕よりも強力な全身全霊の一撃に耐える術もなく、岩のような身体はバラバラに砕け地面に落ちた後、他のゴーストと同じように霧散した。

 

 スタッと地に降りた光はほんの少し余韻に浸った後、ゴーレムを倒した拳を空に突き上げ恭二の方へ振り向き、満面の笑みで勝ち誇った。

 

 

 

「正義は、必ず勝つ! だよな、プロデューサー!」

 

 

 

 

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