M@gica デレマス×魔法少女   作:心技休

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対面する正義と悪(偽)

 ー翌日ー

 

 

 

「菜々さん」

 

 

「は、はいっ」

 

 

 

 跪いて菜々よりも目線を低くし、紳士的な面持ちで菜々の手を取り恭二は甘く囁く。

 元々ルックスはいい方なので様になっている。

 目線が合った菜々は予想以上の紳士ぶりに思わず上擦った声で返事をし、どぎまぎと小恥ずかしい様子。

 

 

 

「これから毎日、俺の為にコーヒーを淹れてくれますか……?」

 

 

「えっと……はい、それがナナのお仕事ですので」

 

 

「っしゃぁぁぁぁあ!!──いてっ」

 

 

 

 拳を握り締め歓喜の声を上げる恭二の脳天に、三葉の鋭い手刀が振り下ろされる。

 朝の事務室、いわゆる仕事場で堂々とアタックしに行く弟の姿に我慢ならなかったのだろう。

 どことなく不機嫌そうにも見える。

 手刀を喰らった頭を両手で押さえながら背後に立つ三葉の方に振り向き、理不尽な暴力に意を唱えるべく恭二は口を開いた。

 

 

 

「ちょ、頭はダメだって知っ──」

 

 

「加減はしたわよ。まったくいちいち大袈裟なんだから」

 

 

「……ホントだ、痛くない」

 

 

「ほら、分かったらさっさとこれ種類別に分けて」

 

 

 

 鋭いと言ってもあくまで見た目だけで、頭部に当たった後その衝撃が伝わらないように放たれたある意味キレのある手刀であり、恭二の頭部には柔らかい何かが軽く当たった程度の事だった。

 痛みがない事に気付いた恭二は途端に冷静になり、三葉に促されるまま書類整理を始める。

 その温度差に菜々は苦笑いしながら珈琲を淹れに向かった。

 

 

 

「菜々さん、私にも一杯ブラックでお願いします。そこのコーヒーサーバーのもので構いませんので」

 

 

「はい、わかりました」

 

 

 

 その途中マキノから追加注文が入り、せっせと準備を進めていく菜々。

 お給仕の仕事が楽しいのか、心なしか浮かれているように見える。

 対してマキノは小さく溜め息を零し、やや疲れがたまっている様子だった。

 

 

 

「寝不足?」

 

 

「少し。昨日の騒動は思った以上にネットに広まっていましたから、対応に時間が掛かりました」

 

 

「まきのんにしか出来ない事とは言え、いつも任せっきりで悪いわね。何か手伝える事があればいいんだけど……」

 

 

「それが私の仕事ですから、お気になさらず。それよりも今回の件、余りにも多くの人の目についてしまいました。ネット上のデータは処理できても人の記憶までは改竄出来ませんから」

 

 

 

 マキノの元に歩みより声をかける三葉。

 

 小さな変化や違和感などにすぐ気が付けるのは三葉の長所であり、このプロダクションの成功と拡大の要因でもある。

 実際プロダクション内で彼女を嫌う人間は1人もおらず、お気楽そうに見えても皆からは信頼され慕われている。

 マキノも辛辣な態度を取る事も多いが、互いの信頼関係があるからこそ出来る事なのである。

 

 おそらく今日に日付が変わってもまだ行っていたであろう昨日のゴースト騒動の隠蔽工作、取り出したノートパソコンの画面にはマギカとして戦う光や有香の姿が写った画像が映し出されていた。

 総画像数が表示される場所に3桁の数字が並んでいる事からも、事態の大きさとマキノの苦労が見てとれる。

 

 

 

「現場の処理は国防省のおっさんに任せてるけど、さすがに隠し通すのも限界が近いわね」

 

 

「公表に踏み切りますか?」

 

 

「とりあえず要相談ね。あのおっさんと話すのホント嫌だけど……どうやったらあの頑固じじいから出来のいい優男君が生まれるのかしら」

 

 

「同意はしますが、一応仕事場ですので抑えてください、社長」

 

 

 

 国防省絡みの話をせざるを得ない状況になると三葉はあからさまに不機嫌になり、マキノがそれを諫めようと冷静に言葉をかける。

 

 

 

「書類整理終わりましたー」

 

 

 

 恭二のダルそうな一声で三葉はマキノの元を離れ書類の回収に向かう。

 

 

 

「私の事務所だからってだらけないの。もう少しシャキッとしなさいよシャキッと」

 

 

「え、あ、はい……」

 

 

 

 少し乱暴に書類をかっさらうと本当に見ているのか疑わしい速度で確認していく三葉。

 機嫌が悪かったのは事実、タイミングが悪かったと言えばそうなのだが、恭二に当たっているように見えなくもない。

 恭二の自覚が足りないのもまた事実ではある。

 当の本人も困惑しながらも反省はしている様子。

 

 

 

「んじゃ次なんだけど……移動するわよ、菜々ちゃんも付いて来て」

 

 

「あ、はい。分かりました」

 

 

「移動ってどこに?」

 

 

「いわゆる“プロジェクトルーム”ってやつよ。あんた中心のね」

 

 

 

 促されるままデスクから立ち三葉の後について行く恭二。

 先に入ったブラックコーヒーをマキノに届けた後、菜々は三葉の呼び掛けに答え事務室を出る2人に追従する。

 廊下を歩いて移動する最中、記憶に新しい小柄な少女の姿が恭二の目に入り、相手も気付いたようで3人の元へ駆け寄ってきた。

 

 

 

「光? おはよう、ずいぶん早いな。予定の時間までまだ30分以上あるのに」

 

 

「おはようプロデューサー。なんだかじっとしてらんなくて」

 

 

 

 えへへ と照れ笑いを浮かべる光に父性本能をくすぐられたのか、恭二も笑顔を返し自然と頭を撫でていた。

 微笑ましい光景に後ろの2人も和んでいる様子。

 

 

 

「じゃあ光ちゃんも一緒に行こっか、秘密結社のブリーフィングルームに」

 

 

「うん! 行く!」

 

 

「え、プロジェクトルームじゃ……?」

 

 

「似たようなもんよ」

 

 

 

 合流した光に同行するよう求める三葉、やはりと言うか光が好きそうな言い回しで、まるで扱い慣れていると言わんばかり。

 自分の立場や地位を驕らず、誰とでも分け隔てなく接する事が出来るのも三葉の長所である。

 飄々とした態度を取るのも新人たちに接しやすい人物だとアピールしているのだろう。

 第一印象こそあれだったが、翌日の今日で既に懐いている。

 

 そして疑問符を投げ掛ける恭二に対して、首から下げたクローバーのネックレスを摘まみ上げマギカ関係だと暗に伝える。

 察した恭二も ああ と納得の声を漏らし、歩を進める三葉の後を皆と共について行く。

 

 

 

「プロジェクトルーム(仮)……まんまだな」

 

 

「プロジェクト名、と言うかユニット名ね。光ちゃんと、あと麗奈ちゃんだっけ? 2人と相談して決めてね」

 

 

「りょーかい」

 

 

 

 件のプロジェクトルーム前、(仮)の部屋名プレートが入り口横に差し込まれていた。

 近くで見ると縁にうっすら埃が積もっており、随分前からこのルームを確保していたのが分かる。

 

 恭二の返答を聞いた三葉はプロジェクトルーム(仮)の扉を開き、3人を中へ招き入れた。

 

 

 

「今日からここが恭二たちの拠点になるルームよ。設備もバッチリ整えておいたから好きに使ってちょうだい」

 

 

 

 3人は驚愕していた。

 プロデューサーとアシスタントのデスク、団欒用の大きなテーブルが2つとそれを囲うように置かれたソファー、50インチは優に超える大型液晶テレビ。これだけでも十分な設備にも関わらず、メーカー違いの最新ゲーム機が各2台ずつとコントローラーはそれぞれ4人分、ウォーターサーバー・コーヒーサーバー・ドリンクサーバーに至っては2台、そして3ドア冷蔵庫にオーブンレンジに流し台、パーティションの向こう側には折り畳まれた卓球台とそれを広げるフリースペースらしき空間、もはやひと家族が生活していけるありとあらゆる物が揃っていた。

 

 

 

「わぁ……ホントにこれ全部好きに使っていいの?」

 

 

「もちろんっ」

 

 

 

 これだけの設備を見れば萎縮しそうにもなるが、光はワクワクの方が勝っているようで、三葉に確認を取ると二つ返事で返ってきた事でより一層目を輝かせている。

 

 

 

「私ここに住みたいです」

 

 

「住み込みはちょっとねぇ……泊まりでお仕事もさせたくないし」

 

 

 

 菜々はこのルームの住人になる気満々の様子。

 1人暮らしのアパート等と比べれば正に雲泥の差、ぶっちゃけ一流ホテルと一流マンションを足して2で割ったようなルームなのだから、住みたいと思うのも仕方ない。

 

 

 

「経費の使い方間違ってねぇか? ドリンクサーバーとかゲーム機とかいらんだろ」

 

 

「飲み物の種類は多い方がいいし、アイドルと交流を深めるのにゲーム機があってもいいでしょ? あ、飲みたいドリンクがあったら言ってね、発注しとくから」

 

 

「アタシ、ファンタオレンジ!」

 

 

「ナナは桃の天然水が欲しいです」

 

 

「りょーかい♪」

 

 

「順応すんの早過ぎだろ」

 

 

 

 最早恭二のツッコミは追い付かない。

 光は嬉々としてゲーム機と大型液晶テレビの方に向かい、菜々は流し台や冷蔵庫のある給湯室チックな場所へ、恭二はあれやこれやと疑問をぶつけてみるがそれっぽい理由でサラリと受け流され、三葉がドリンクのオーダーを聞けば2人は即答、昨日の時点で姉から無茶ぶりを受けたり常識から外れた発言や行動を見てきた恭二は、悟りに近い何かを感じていた。

 ツッコミたい気持ちはあるが文句や不満がある訳ではない。

 寧ろこの好待遇を恭二は有り難く思っていた。

 

 

 

「それじゃ早速、恭二はあっちのフリースペースに行って特訓ね」

 

 

「特訓って何の?」

 

 

「昨日説明したスタージュエルの生成よ。コツを掴めばポンポン出せるようになるけど、そこまでが難しいから余裕がある時に練習しておかないとね。それに光ちゃんに1つは渡しておきたいし」

 

 

 

 人差し指を立てスタージュエルについて説明しながら三葉はフリースペースに向かい、恭二にもこちらに来るよう手招きする。

 意図を理解した恭二は なるほど と頷きながらその後をついて行く。

 

 

 

「アタシも見てていい?」

 

 

「いいわよ。ただ時間になったらレッスンに行ってね」

 

 

「うん!」

 

 

「よし、光が見てるって言うんなら、いっちょカッコいいとこ見せますか!」

 

 

 

 特訓と聞いてすぐさま踵を(ひるがえ)し2人のいる場所に駆け寄ってきた光は、目を輝かせいつものワクワク顔を見せていた。

 表情をキリッとさせ気合いを入れた恭二は、右腕を伸ばし掌を上にして開くとその掌に先程の気合いを集中させていく。

 

 

 

「おぉ……!」

 

 

「来たわよ来たわよ」

 

 

「何か光ってる! すごい!」

 

 

 

 伸ばした恭二の掌に虹色の光りを発する光球がフワフワと漂いだした。恭二は驚きと期待の声を上げ、三葉は順調に事が運んでいる事に喜び、光は興味津々に恭二の掌と光球を眺めていた。

 

 

 

 

 

 -30分後-

 

 

 

 

 

「だぁーー! 全然できん!」

 

 

「魔力は出てるから、後は結晶化させるだけなんだけど……まぁセンスはあるっぽいから、その内出来るようになるわよ」

 

 

 

 あれからひたすらスタージュエル生成の特訓をしていた恭二だったが、光球は毎回出てくるものの一向に固まる気配が無く、ただただ魔力を放出し続けただけに終わってしまう。

 全く進展のない結果に恭二は思わず溜め息を零した。また幸せが逃げてしまう。

 光もずっと声援を送っていたが、その甲斐虚しく時間が来てしまった。

 

 

 

「ごめんプロデューサー、アタシそろそろレッスンに行かないと」

 

 

「ああ……悪いな、あんな大見得切っといてこの有り様で」

 

 

「いいって、最初から上手くいく事の方が少ないし。出来るようになったらちゃんとアタシにも見せてくれよな!」

 

 

「……おう、約束だ!」

 

 

 

 落ち込んでいた恭二に光は励ましの言葉を送り、ニッと笑って見せ右拳を恭二の前に突き出す。

 担当アイドルに気を使わせてしまった事を心の中で悔やみつつ、向けられた厚意を有り難く受け取り同じように右拳を突き出し、コツンと互いのそれを軽くぶつけ合う。

 

 

 

「あんたたち、昨日会ったばっかなのにすごく仲良いわよね」

 

 

「「ヒーロー好きに悪い奴はいないからな!!」」

 

 

「あはは……何か納得したわ」

 

 

 

 三葉の問い掛けに2人は息ぴったりの返答。

 さすがの三葉もこれには何も言い返せない様子。

 

 

 

「じゃあそろそろ行くね」

 

 

「おう、また後でな」

 

 

 

 恭二に声を掛けた後ルームを出ようと出入り口まで駆けていく光。

 もうすぐといったところで出入り口の扉が勢い良く開き、光は驚いて急ブレーキをかけぶつかる直前で停止した。

 

 

 

「レイナサマの重役出勤よ! みんな崇め讃えなさい!」

 

 

 

 レイナサマのお声がルームに響き渡る。

 しかし、麗奈の求める讃美の言葉は聞こえてこず、辺りは静寂に包まれていた。

 光は驚きのあまりその場に固まってしまい全く状況を飲み込めずにいた。

 

 

 

「だ、誰?」

 

 

 

 そう思うのも無理はない。

 突然ルームに入ってきて讃えろだの何だの言ってふんぞり返っている同年代の少女がいきなり目の前に現れたのだから。

 三葉と菜々は何となく察してはいるようだが、突拍子もない行動に呆気にとられ、目を点にして同じく固まっていた。

 

 顔も声も知っている恭二は深く溜め息を零し呆れかえっている様子。

 無論、最初に静寂を破ったのは恭二だ。

 

 

 

「重役出勤って良い意味の言葉じゃないからな、むやみやたらに使うなよ」

 

 

「遅くなったのを偉そうに言いたかっただけだし、意味もちゃんと分かってるから問題ないわ!」

 

 

「お前の態度には問題あるけどな」

 

 

 

 恭二のツッコミが冴え渡る。

 

 

 

「レイナサマって事は君がアタシの相棒になる小関 麗奈ちゃん?」

 

 

「ちゃん付けなんてやめなさいよ気持ち悪い、呼ぶなら様付けよサ・マ・付・け。で、相棒って何の話?」

 

 

 

 恭二が話し掛けた事で空気が和らぎ、光も勇気を出して声を掛ける。

 初っ端からそうだったが麗奈のやたら傲慢な態度と口振りに、さすがの光も眉間に皺を寄せていた。

 

 

 

「あぁ、アンタがアタシの手下候補のマギカなのね。これからアタシの野望の為に働ける事を光栄に思いなさい! アーッハッハッハ……ゲホッゲホッ」

 

 

「なっ、手下だって!? アタシはヒーローを目指してるんだ! 悪い奴の手下になんかならないぞ!」

 

 

「ちょっと恭二、麗奈ちゃんはいい子って言ってなかった?」

 

 

「性根はいい子なんだよ、いやホントに。ただここまで悪役キャラ立ててくるなんて思わなかったんだよ」

 

 

 

 昨日恭二からマギカ関連の話を聞いていた麗奈は、相棒 という言葉からその事だと察し、これでもかと言わんばかりの悪人面をしながらまたふんぞり返って高笑いを上げた。勿論むせた。

 手下と言えば悪の組織しか出てこないであろう、光はこれに猛反発。高笑いする麗奈を睨み付けた。

 2人の視線はバチバチにぶつかり合う。

 

 聞いていた話と違うと三葉が恭二に問い詰めるも、恭二もこの展開は予想外だったようで、額に手を当てながら困り果てている様子。

 

 光と麗奈、2人の第一印象は互いに最悪だった。

 

 

 

「まあまあ皆さん落ち着いてください。クッキーを焼きましたから、この辺りで少し休憩にしませんか?」

 

 

 

 ここまでずっとなりを潜めていた菜々が、焼き立てクッキーを盛り付けた大皿を手にキッチンスペースから姿を現した。

 場の雰囲気なぞ知らんと言わんばかりの満面の笑顔、まさに空気など読むなを体現しているかのようだ。

 

 

 

「アタシの為にお菓子を用意するなんて殊勝な心掛けね。アンタも手下にしてあげるわ!」

 

 

「お菓子はみんなで食べるんですよ。その方が美味しいですし」

 

 

「他のヤツらはアタシが食べきれなかった分をひもじく分ければいいのよ!」

 

 

「じゃあ麗奈ちゃんの分は無しですね」

 

 

「えぇ!? ちょ、待ちなさいよ!」

 

 

 

 こんがりと焼けたバターの香り。そしてふわりと漂う甘い匂いに誘われて皆が集まってくる。

 恭二と三葉はピリピリとした空気を変えてくれた菜々に心の中で感謝していた。

 

 お菓子となれば子どもたちは食らいつくもの。

 麗奈は我先にと菜々の元に一番にたどり着き、相も変わらず傲慢な態度をとった。

 が、菜々はこれに一歩も退かず、まるでクッキーを人質にとるような言い回しで麗奈を翻弄。自分の分だけ無くなると聞き慌てふためいて、麗奈は菜々に食い下がった。

 

 

 

「分かったわよ! みんなで分ければいいんでしょ!」

 

 

「分かればよろしいっ」

 

 

 

 この反応に菜々も満足した様子。

 麗奈は納得していないようだが、思いの外すんなりと菜々の要望を受け入れている。

 

 

 

「……と、まぁ、ちゃんと話せば分かってくれる子なんだよ」

 

 

「いや、あれは菜々ちゃんがすごいんだと思うわよ」

 

 

「……俺もそう思う」

 

 

 

 改めて菜々のスペックの高さを実感した2人は、菜々に誘われるがまま団欒スペースへと歩いていく。

 これからレッスンと言った手前、光は素直に向かう事が出来ず、しかし鼻孔を擽る甘い匂いに足は固まったまま動こうとしなかった。

 その表情からも誘惑と戦っている事が見て取れる。

 

 

 

「光ちゃんも一緒に。トレーナーさんには私の方から事情を伝えておきますから、安心してください」

 

 

「え……いいの?」

 

 

「もちろんですよ♪」

 

 

 

 ここで菜々から助け船が出され、光の表情は明るいものに変わり、固まっていた足も床から剥がれ皆の元へと駆けていった。

 

 テーブルに出されたクッキーを囲むように各々ソファーに腰掛け、思い思いに手を伸ばし安らぎの時間と甘いお菓子を食していく。

 その間にも菜々はお給仕を率先して行っていた。

 光と麗奈にはオレンジジュースを、恭二と三葉にはコーヒーをそれぞれいれて配給していった。

 コーヒーサーバーから淹れたコーヒーだったので、恭二は少し不満げだったが、この時間を思えば些細な事であろう。

 

 

 

「ほら、アンタもチョコ味のヤツ食べなさいよ」

 

 

「え? あ、ありがとう……」

 

 

 

 向かい側のソファーに座っている光に、麗奈はダイヤの形をしたチョコ味のクッキーを差し出す。

 光は戸惑いながらそれを受け取り、頬張った。

 

 

 

「アンタ蜂蜜バター味ばっか食べ過ぎなのよ。アタシだってそれ食べたいんだから」

 

 

「ご、ごめん……」

 

 

「分かったら1つよこしなさい」

 

 

 光の戸惑いは増すばかり。言葉は刺々しいが先程までの悪役ぶりがまるで嘘のよう。

 同じように光もハート型の蜂蜜バター味のクッキーを1つ取り、麗奈に差し出した。

 その様相に満足したのか、麗奈はニマッと妖しげな表情を浮かべながら、差し出されたクッキーをかすめ取り口の中に放り込んだ。

 

 

 

「やっぱり手下から献上されたクッキーは格別に美味しいわね!」

 

 

「なっ!? だからアタシは手下になんて!」

 

 

 

 クッキー1つで大騒ぎである。

 

 

 

「あっという間に仲良しさんですねぇ」

 

 

「さすが菜々さん、オカン力が高い」

 

 

「だぁれがオカンですかぁ!!」

 

 

 

 手下だヒーローだと騒ぎ立てる2人を見て、目を細めて和む菜々。

 そこに恭二がポツリと一言零す。

 歳を気にしている菜々にとって聞き捨てならない台詞に、持っているお盆を振り上げて怒りを露わにしていた。

 

 勿論本気で怒っている訳ではない。冗談だと分かった上でリアクションを取っているに過ぎない。

 だが恭二にとっては嬉しい反応だった。

 普段ツッコミばかりの恭二がボケに回ったのは、菜々との距離を縮める為。

 いきなりデリケートな部分に触れてしまったかと、不安に思っていた様子も伺えたが、以前テレビで見た菜々のキレ芸(?)を拝む事ができ、それも杞憂に終わったようだ。

 

 

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