静かに暮らさせてください(願望)   作:ピチョンプスッ!

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久しぶりに筆が乗ったので投稿。次回も気分と筆が止まらなければ書きます。
あと今回逆転要素は少なめ。

修正入れました(11/7)


主要キャラは大抵何かしらの過去がある模様。

 見るに耐えない惨状が生み出される。耳障りな虫の羽音が鳴り響く。不動を良しとして、痛みを与えてくる卑劣な存在を幾多も存在する。他者より遥かに凌駕した生命力と寿命を持つ僕に、生物の本質というものを嫌でもぶつけてくる。

 

 僕は干渉をしていないし、されないよう秘境に鎮座している。それなのにどうしてお前たちの営みを僕に見せつける。

 

 …………うるさいなぁ。

 

 虫どもの勝手な都合で邪魔されるのは、もうウンザリだ。

 

 この醜悪な環境を改善しようと行動を起こすのは当然の行為である。そして、目の前の喧騒が起こる根本的な原因が両者に差があるからだと推測した。

 他者より劣っているからこそ勝ろうとし、他者より後ろにいるからこそ前に進もうとする。そんな両者の差が原因だとするならば、その差を無くすことが問題の払拭に繋がるに違いない。

 

()()()()()()()()()()()()。全ての差を均等に平し、争うこと自体が無意味だという世界を作り上げなければならない。それは外面的なものだけではない、思考も、精神も、肉質も、骨格も、内臓も、全てだ。

 

 そして僕は天に向かいその力を行使した。この浅はかで愚かな答えが、きっと全てを解決来てくれるだろうと信じて、後先の事など一片たりとも考えずに、ただひたすらに、その力を世界にへと向けたのだ。

 

 

 

 

『Balancer!!』

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 何とも言えない複雑な心境で俺は目を覚ます。

 周期的に見るクリューヌの過去は、たった一つの行動で世界の行く末が変化する天変地異と言っても過言ではない存在だと言うことを再認識される。そしてソレを憑依させている俺を、いつも不安にさせる。

 

 そして最近はその周期も早まって来た。当初は一月に一回が、今では一週間に一回。またソレに比例して青髪への変色も際立ってくる。いよいよクリューヌに乗っ取られるのではないだろうか? 

 

(まぁ、夢の続きを見ないだけでも十分か)

 

 この夢はまだ終わりではない。ほんの少しだけ、クリューヌが天に吼えた後の続きがある。

 けれどソレを朝から見るには余りにも悍ましい。何度も俺は見ているが、いくら経っても慣れない。いや、慣れたら負けだ。

 

 クリューヌへの畏怖を再び覚え、ベッドから出る。

 

「んじゃ、今日も頑張りますか」

 

 今日も一日、女性からの視姦に耐えるべく気を引き締めて台所に向かった。

 

 一人暮らし故に培われた家事スキルをふんだんに駆使した朝食は毎日の楽しみ。それを糧に、今日も一日が始まる。

 

 

 

『…………zzZ』

 

「本当にあの夢はコイツの過去を指しているのか…………?」

 

 締まりないかわいいイビキに、その様な疑問を持ってしまった俺であった。

 

 

 ▼

 

「…………ストーカー?」

 

 駒王学園、校門付近。マンモス校と言っても過言ではない当校は、どの時間帯に登校しても人だかりが激しい。しかし俺たち男性にはそれが適用されない。理由は単純、普通に登校するだけで周りの女子生徒がモーゼの十戒の様に割れるからだ。

 

 毎度のことながら慣れないながらも、俺は松田と元浜と登校していた時にふと話題に出た言葉が「ストーカー」だった。

 

「俺たちの幼馴染の兵藤一美の事なんですが、どうも最近ストーカーに悩んでいるらしくて…………」

「いや、もちろん嘘だと思う気持ちは分かるんですけど、それにしては必死に助けを求めている様で…………」

 

 俺はその相談に驚愕の意を隠せなかった。けれど驚いたのはストーカーではなく、その被害者が兵藤一美だという部分にだ。

 

 恐らく、これは原作開始の合図だ。

 もちろん完全に原作の通りとは行かない。何故なら原作キャラTSしているのだから。そしてそこから生まれた差異が彼女ではなくストーカーなのだろう。

 

「確か、兵藤が言うにはこの前––––––」

 

 松田と元浜から言うに、兵藤が受けているストーカー被害は相当なものだ。自己満足なポエムが届く事はもちろん、誰にも見られていない筈の行動を読まれていたり、この前なんか()()()が届いたと言うではないか。

 

 聞けば聞くほど悲惨なソレに思わず耳を塞ぎたい。

 

 当然、助けたいという気持ちが湧いてくる、しかし俺が介入する事で起こる原作乖離も恐ろしい。

 

 俺が思うに、原作とは辛うじて立っている石柱の様なものだ。

 もしもあの時に仲間が裏切ったら、もしもあの時に主人公が挫折をしたら、もしも主人公が存在しなかったら、もしも、もしも、もしも––––––。

 そんな幾多も存在する『if』から見つけ出したハッピーエンドである唯一の終着点、それが原作だ。

 

 それに俺が介入する事でifに別れバッドエンドに直行してしまったら、俺は責任が取れない。

 男女の価値観と主人公TSの時点で原作の“げ”の字も無いが、これ以上過度な介入は危険だと判断した。

 

 

 結果、俺からは関わらない。しかし向こう側から関わりを持ったらその都度対処する。

 

 これが俺の本心と懸念事項の双方が納得する妥協案。それにこの体質だ、俺は逃げられない。逃げたところで修正力が働いて悲惨な目に遭うだけだ。

 

 自分に納得をしながらふと横を教室を見れば、兵藤が友達に過剰なボディタッチに勤しんでいるのが目に入る。

 まるでストーカー被害に遭っていないかの如く振る舞うソレに、俺は本心が懸念事項を少し上回った様に感じた。

 

 

 ▼

 

「昨日、田中先輩に運命を感じました」

「あのね小猫、その話––––––」

「でも、その後淫行に走ってしまいました…………」

「だからね小猫、その話はもう––––––」

「だって、あんなに優しい言葉を掛けられたら誰でも発情しちゃうじゃないですか! 私はもう先輩と合わせる顔が…………」

 

 我らがオカルト研究部の部室にて、リアス・グレモリーは小猫の惚気話を苦笑しながら聞いていた。

 小猫とは長年の付き合いであるから分かることなのだが、彼女は無口であまり感情を表に出さない。しかしそれがどうだ、今まで聞いたことのない饒舌な口調で同じ愚痴を既に10回はこぼし、その表情は常に世界の終わりの様に絶望している。

 

「私だって…………私だって女性なんです! この学園に来て先輩を思わない日々は有りませんでした、授業中も常に思い続けていました! 先輩の事を思って慰めたことも––––––」

「それ以上は止めなさい、色々と尊厳が無くなるわよ」

 

 リアスの忠告を最後に、小猫はテーブルにへと項垂れ沈黙した。

 

 ようやく解放されたリアスは一時の安息につくも、すぐに思考を切り替える。

 

 ––––––田中太郎。

 

 この学園で知らぬ者はいない。学生は裏で彼を白馬の王子様、ラノベの主人公、夢物語のヒーローなど、様々な呼び名で呼んでいる。

 男尊女卑なこの世界において、何不自由ない生活を約束されている男性はその環境から傲慢になりがちだが、彼は違う。誰にでも分け隔てなく接し、会話をし、低俗なものでも差別をしない、まさに絶滅危惧種と言っても過言ではない『紳士』である。

 

 しかしワザとなのか無知なのかは分からないが、その行動や言動一つ一つが我々女性を誘っている。リアス自身も胸がときめく瞬間を何度か味わい、その度に勘違いしそうになった。ハッキリ言って一日中お側にいるとしたら、翌日は愛液の洪水を起こすだろう。

 そんなインキュバス染みた彼は人間であり、私たちは悪魔。容姿は酷似しているものの、種族はまるで違う双方。

 故にいかに好意を持とうとも、純粋無垢な彼には裏の世界は知って欲しくないし、関わらせたくない。無理矢理転生させるなど以ての外だ。

 

(それでも、もし()()()()()()()()()()()狙っていたかしら…………?)

 

 リアスのその笑みは、まさに勝者の余裕そのものであった。しかしその笑みもすぐに途切れる。

 

(さて、この件はどうするべきかしら…………)

 

 魔王の妹と言う事もあり、いずれは大衆を導く立場に着く彼女は手始めに駒王町を管理、同時に人間界への進学の条件でもあった。

 管理者という立場上、無法者は厳しく取り締まるのが普通であり、義務である。しかしその無法者もただで捕まるわけでもなく、狡猾に隠れたり抵抗を続ける。

 そしてリアスが悩んでいるのは前者、狡猾に隠れ続け被害を出し続けている堕天使の存在であった。

 

(被害者は全員男性、共通しているのが顔の損傷が激しい事。現段階では悪魔技術で治療し、記憶改竄も施したけど、いずれ限界は来る。早く解決しないとこの町から男性が消えてしまうわ!)

 

 いかに不慮の事故として処理したとしても、傷を負ったという事実までは消せない。それが続くことで貴重な男性が駒王町を出て行くというのは重大な損害でしかない。

 

 そしてもう一つ、この法則性で行くなら我が駒王学園の王子である田中太郎も被害を被る可能性が高いのだ。

 

(それだけは阻止しなければならないわね…………)

 

 これ以上被害を出さまいと、強く決心するリアス。しかし現状相手が上手であり、炙り出さないのも事実であった。

 

「私の下僕もそうだけど、生徒会にも救助要請を出すしか無いわね…………。とにかく男性を監視して、捜査網を拡大しなきゃ…………。えぇっと、田中君には誰が––––––」

 

 

 

 

「––––––私がやります」

 

「…………へ?」

「私が田中先輩を華麗に守って、昨日の失態を上書きするんです。そして華麗に守った後、田中先輩はこう言うのです…………『あぁ、俺には小猫しかいないよ、是非結婚してくれ!』と。あぁダメです先輩、悪魔と人間という禁断の恋が–––––––––」

 

 …………やる気はともかく、このキャラ崩壊は田中太郎の魅力がなせる技なのか。小猫の護衛兼監視任務に一抹の不安しか感じないリアスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ▼

 

 帰路。俺は通過道である公園で一人佇んでいた。

 別に何の変哲もないただの公園、いつもなら思うところも無く素通りするのだが、先日小猫と逢った所為からか、ここが原作の始まりという事を実感していた。

 

 確かこの場所で正史の兵藤が殺害され、リアスの手により蘇生、悪魔へと転生する。そう言った意味で此処は聖地。不謹慎だが、初めてきた時は感慨深い何かを感じ取った。

 

「…………ん?」

 

 少し長居してしまったと思い、すぐに公園から出ようと足を踏み出した瞬間だった。誰かが駆ける音が聞こえ背後振り返ると、件の兵藤が走っているのが見えたのは。

 

「兵藤…………?」

 

「た、田中先輩!?」

 

 兵藤一美は俺の存在に気付き、安堵の表情を見せる。

 しかしその前の表情はダイエットの為のランニングだとか、見たいアニメに出遅れそうだとかそんな生易しいものではない。

 

 まるで何かから逃げてきたかの様だ。

 

(…………ストーカーか?)

 

 今朝松田と元浜に話を聞いていた俺は、その推測を下すのに時間は掛からなかった。

 今さっきまで兵藤はストーカーに付け回されていたのだろうか。だとすれば、俺はこの体質に心の中で苦笑いを零す。

 

『いいのますたぁ、助けなくて。僕の力が有ればチョチョイのチョイだよ?』

 

 いや、まだ確定では無い。もしかしたら度重なる変態行為に痺れを切らした被害者が追いかけ回しているだけかも知れない。

 俺はありきたりな言葉で兵藤に挨拶を送った。

 

「何か有ったか分からないが、走って転ばない様気を付けてね」

 

「は、はい…………」

 

 あっちゃあ、これは確定かな? 

 

 微かに見えた兵藤の表情に確信しつつも、早々に兵藤は公園から立ち去ろうとして––––––

 

 

 

「ふぎゅっ!?」

 

 ––––––兵藤が、公園から出られなかった。

 

 見間違えで無ければ、兵藤は今、公園の外に出るのを拒まれたかの様に公園の内側にへと弾け飛ばされた。

 

「兵藤、大丈夫か!?」

 

「痛た…………。な、何か分からないんですけど、壁にぶつかった感触がして…………」

 

 壁? 何の話をしている、そんなの普通に考えて有り得ないじゃないか。

 

 そう思いながらも公園の出口を見て、俺はハッとした。

 

 

 

 薄いベール状の何かが、公園を覆うように展開されている。まるで「逃がさない」と言わんばかりの意志がヒシヒシと伝わってくるそれは、すぐに結界と気付いた。

 

『…………マスター、警戒して』

 

 普段の「ますたぁ」呼びから一転、クリューヌの真剣味が伺える。それもそうだ。この結界は人避けに加えて結界内の存在を閉じ込める術式が有る。俺もクリューヌに憑依されてから裏世界について勉強したから分かる。取り敢えず、ただの人間では絶対に脱出出来ない代物だ。

 そして現在、この公園には俺と兵藤の二人しか居ない。少なくとも先に来た俺が入る時、俺もクリューヌも何も反応しなかったから、その時点ではこの結界は貼られていなかった。ならば必然的に兵藤が来た時点で貼られたと見るべきであり、加害者の目的に兵藤が関係しているという推測も容易に立てられる。

 

 そう自覚するともう一つだけ知覚できるものが有った。俺だって神器(セイドリック・ギア)を持つものだ、当然身の安全を守る為に鍛錬はする。

 

 だから分かるのだ、背後から刺すドス黒いギラギラとした殺気が。

 

「はぁ…………」

 

 俺はふと首を傾げる。

 

 刹那、首のあった場所に何かが通り抜けた。

 

 ズドォンッ!! 

 

「…………へ?」

 

 兵藤が間抜けた声をするのも仕方ない。たった今、その飛来物が兵藤の背後の木々を消しとばしたのだから。

 

「なんだとっ!? 僕の槍を避けるなんて!?」

 

 飛来物を俺に打ち込んだ加害者と思わしき声の方へと向く。そこには烏の羽を生やした男––––––堕天使がいた。

 容姿は中の上と言ったところでだろうか、化粧や服装込みで。けれど化粧や服装に手間暇かけている分、本気でモテたいという意志は伝わってきた。ただ、そんな顔も驚愕の表情で崩れかけているが。

 

「あぁ、貴方は「うるさい! 話しかけるな下等生物が!」…………」

 

 なんだこいつ。

 

 理不尽な罵倒に青筋が立ち始める。が、ふと胸部に意図しない振動が起こる。何かと思って見れば、恐怖のあまり震えている兵藤が、俺の胸にしがみ付いていた。

 そしてそんな兵藤に気が付いたのか、堕天使は先程とは打って変わって甘い言葉で話しかけてきた。

 

「あぁ…………お迎えに上がりましたよ、婚約者(フィアンセ)よ」

 

 エセ臭いフランス語に寒気を感じながらも、そのフランス語の部分の意味に唖然とする。

 …………こんやくしゃ? 

 

「…………兵藤?」

 

「違います! 私だって今初めてこの人の顔を見ましたよ!」

 

 確認を取るが違うと断言される。

 なんだ、狂言か。

 

「そんな、我が婚約者(フィアンセ)よ。私の愛の言葉をあんなにも受け止めてくれたというのに!」

 

「受け止めたって…………。もしかしてあのラブレターの事を指しているの? …………じゃあハッキリ言わせて貰うけどね、あんなの寒すぎて氷河期が再来したのかと思ったよ!」

 

「なっ!?」

 

 恐怖を怒りで誤魔化したのだろうか、ブチ切れた兵藤はストーカーの狂言を次々と論破していく。そしてその度にストーカーの顔が崩れるというメシウマ光景。

 俺があの立場なら二度と立ち直れないね、なんて緊張感のない感想を持つ。

 やがて俺を挟んだ口論は終わりを迎えたのか、堕天使が言葉を震わせながら俺を標的にし始めた。

 

「…………貴様だな」

 

「…………ん?」

 

「貴様が我が婚約者(フィアンセ)を誑かし、至高なる私を貶めようとしているのだな!!」

 

「…………はぁ!?」

 

 再来する理不尽に思わず声を上げる。

 あまりにも酷い言われ様に反論しようとするが、それは堕天使が投合した数本の光の槍が許さなかった。

 しかしソレに当たるわけにもいかず、兵藤を抱いたまま難なく避ける。

 

「貴様ぁ…………この私を愚弄して!」

 

 おぉおぉ、青筋が立ちまくって顔全体が皺寄せたみたいになってる。そしてその増幅する怒りは収まるのを知らないのか、殺意が光の槍に載せられ次々と投合される。

 

 何というか、ここ数日でやたらと態度の悪い男と出会う。鯛焼き屋然り、現在然り。

 そしてソレはこのご時世が生み出してしまうのだろう。希少な男性、チヤホヤされ、挫折や恐れを知らない、全てが自分を中心に回っているという短絡的思考。

 そしてそれを無関係な人たちにぶつける。余りにも突然で、理不尽な仕打ちが。

 

 …………ムカつくな。

 

 俺は何でコイツに命を狙われているんだ? 

 コレが仮に俺の因果応報なら納得できた。自分の蒔いた種、そこから生まれた何かを自分で受け止めるのは道理だからだ。

 だが、コレはなんだ? 俺はたまたま兵藤の隣に居ただけだ。何故イキナリ命を狙われないといけないんだ? 

 

 光の槍を避け続ける中で、俺はある衝動が湧き上がってきた。

 それはあの夢に見た、過去のクリューヌと近い衝動。理不尽な仕打ちに憤慨し、その元凶を取り除かんとする余りにも短絡的な衝動。その後の被害など考えない、無計画な衝動。

 

 

 身体が興奮してくるのが分かる。

 

 血流が早くなり、アドレナリンが体全体に染み渡る。

 

 ストーカーが次に何をするのか、どんな方向に投げるのか、一手一足が鮮明に見える。

 

 歯の隙間から溢れた荒い吐息はまるで『龍』の様なもの。

 

 

 

 登校時の結論に従えば、これは紛う事なき向こう側からの接触。そして俺は巻き込まれた。

 ここで抵抗しなければ千日手、もしくは死だ。

 これはもうやるべき事が––––––決マッタンジャナイカ? 

 

 

 

 

 

 

『冷静になってマスター! それじゃあ夢の僕の様に––––––』

 

 …………それに、いい加減兵藤が目を回して放心し始めたからな。早く終わらせないとえらい羽目になっちゃうじゃないか。

 

「…………きゅう(お目目グルグル〜)」

 

 ふと見下ろせば、そこには状況を飲み込めず、お目目グルグルな兵藤が為すがままに俺に抱き付いていた。

 やった、思いがけない役得やん!? おっほ、兵藤の豊満なお胸ムネムネが押し付けられて…………。

 

『…………あぁ、うん、その調子じゃあ大丈夫みたいだね』

 

 大丈夫、俺、冷静。目の前の、こいつとは違う。

 

「くそ、くそくそクソォォォ––––––!」

 

 さて、俺は未だ光の槍を投げ続けるストーカーに怒りを通り越して呆れの感情が湧き出てきた。

 こうしてみると、俺が相手にしているのは自分の思い通りに行かなくて癇癪を起こす赤子の様にも見えてくる。化粧や服装に気を使った大の大人(こども)…………ブフッ! 

 

 さて、そんな赤子には躾として現実を見せなければならない訳だが…………。

 

 

()()()()()()()()()?」

 

『もっちろん! むしろ待ってたよ〜!』

 

 上機嫌になったクリューヌの声とともに、俺は右手を掲げる。顕現するは淡い碧の滑らかな籠手、久方ぶりにシャバに出たかの様にクリューヌがはしゃいでいるのを感じた。

 

「なっ! そ、それは–––––神器(セイドリック・ギア)!?」

 

 ご明察、だけど気付いた時にはもう遅い。

 決して無敵ではない、けれど使い様によっては絶対に負けることのない俺の神器(クリューヌ)

 

「じゃあ、行くぜ––––––?」

 

 俺の声に呼応するかの様に、籠手に埋め込まれた蒼の宝玉が光り輝くのと同時にソレは発せられた。

 

 

 

『Balancer!!』

 

 




正直に告白致しますと、1.2話は酒の力で書き上げたもの。そしてこの話は酒の力無しで書き上げたもの。
………次回はどっちでしょうか?

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