料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 作:昼猫
あの日の後の事を私はよく覚えていない。
いつの間にか異国の地に来ていたから。どうやって家を、故郷を後にしたか今でも全く思い出せない。
だが、過去を振り返るなど、もうどうでもいい事だ。
私は罪人だ。私は贖罪の道を征かねばならない。陽と霞の二人の分まで多くを救わなければ。
それから私はただただ救い続けた。被害出すのが犯罪者であろうと、モンスターであろうと、思い上がった冒険者であろうと。
ダンジョンの恩恵を受けていないオラリオ以外のモンスターや冒険者は幸いレベルや強さが低いので、技が出来上がっている私でも駆け引き含めればなんとかなった。ただの犯罪者は語るまでもない。
しかしこの身は一つだけ、救い続けてどうにもならない事がある事も知った。それは割合だ。
救うべき対象が僅かならばいい。だが数が多ければ?全てを救おうとすると一割は必然的であり、二割三割と次々にこの両手から零れ落ちて行く。最悪四割五割と零れ落ちて行くこともあった。
だから私は割り切った。この身は罪人故に全てを救う義務があると最初に課したにもかかわらず、自分一人では限界があるから出来るだけ多くを救えれば良いと言う名の大義名分で自分を誤魔化した。
最初から一割二割を切り捨てる或いは諦める方向で救い上げようとすれば、今まで以上よりも上手く行った。
ならばと、大を生かす為に小を切り捨てるを全力で実行していった。
それからだ。私は効率よく確実に助けて行けるようになったのは。
助ける。救う。助ける、救う、助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う助ける救う――――。
ただ繰り返して行くが、それでも体への負担は徐々に蓄積されていき、しまいには各部位から悲鳴が上がるようになったがそれでも無視して体を動かし続けた。
そして私は着いたのだ。世界の中心、迷宮都市オラリオに。
意図したものでは無い。故郷を飛び出した時と同じく何時の間にか来ていた。
だが同時に体の限界も来た。無理し続けたツケが私を襲い、路地裏で倒れた。
――――ああ、此処が私の死地か。
身も心もズタボロ。奴の言う非業の死とはかけ離れているが、私に相応しい無様な末路。
そうして意識を失い死ぬだろうと思った直前、赤い髪の少女と金髪の女性が私を見下ろしている様に見えた。そして意識を今度こそ手放した。
―Interlude―
暖かな空気が覚醒の兆候として促していく。
「――――んぅ・・・?」
私は目を見開いた。そこに広がる景色は地獄では無く、簡素な部屋の空間。そこで私はベットの上で寝ていて事を把握した。
「此処は・・・・・・?」
「――――目覚めたのですね。フフ、良かったです」
私に声を掛けて来たのはブリュネットのロングヘアの美女。おっとりとした佇まいでありながら凛々しさを兼ね備え、ある一つ芯を軸とする麗しき方。それが私の第一印象だ。
と言うかこれ程の存在感を私は知っている。
「神・・・様・・・?」
「ええ、合っていますよ。神アストレアです。貴方のお名前を聞いても良いですか?」
「・・・・・・ゴジョウノ・・・輝夜・・・です」
「フフフ、良いお名前ですね」
そこへ、最低限の互いの自己紹介を終えたタイミングよく偶然にも赤毛のポニーテールの少女が入って来た。
「アストレア様、どうですかって、もう起きてるじゃないですか!教えてくれてもいいのに!」
「彼女は今起きたばかりですよ、アリーゼ」
アリーゼと呼ばれた赤毛の少女が神アストレア様の話に納得してから私に対して怒涛の勢いで近づいて来た。
「私の名前はアリーゼ・ローヴェル。宜しくね!」
これが私とアストレア様とアリーゼの最初の出会いだった。
その後、私の体調が良くなるまで看病してくれた上に、動けるようになってから自分達のファミリアに誘われた。
だが私は罪人だ。こんな眩しく見える二人に私がかかわっては迷惑がかかる。この思いから逃げない為に断ろうとすると、アストレア様から断罪の光を浴びせかけられる様に懺悔を促されて話してしまった。
あの日からの全てを告解すると、妬みからの呪詛は悪しきことだが、その程度であれば人の子も神であろうとも誰もが一度は脳裏によぎり考える事。真の意味で私に咎は無いと断じて下さった。それでも罪の意識が消えないと言うのであれば、私のファミリアに成りませんかと誘ってくださった。
このオラリオには野心や夢を叶える為に世界中から多くの人が種族関係なく集まるが、今は
贖罪の道の途中だと言う事が分かった上での誘いの私は悩んだ末に――――応じた。
神アストレアの眷属の一人として契約し、恩恵を得たのだ。
そこから先は駆け続けるような日々だった。
一日でも早く多くの無辜の人々を守れるようにと、鍛錬鍛錬また鍛錬。ダンジョンに潜って経験値上げに懸命に勤しみ続ける。そんな日々にも変化が訪れる。
アストレア様の信義に同調して仲間が増えて行く。私が入ってからはアリーゼとの二人だけだったが、仲間が増えて行くのは嬉しいモノだった。
ドワーフのアスタに
あまりに急激に彩られて行く日々に私の心は踊った。
それこそ自分は罪人なれど、どんな罪を犯したのか忘れるくらいに。
恐らくは此処で無意識に封印したのだろう。自分の罪の詳細とフジヤマ・陽の存在を。
だがゴジョウノ・輝夜、お前は罪人だ。お前に幸せになる権利など無いと突き付けられるような事件が起きた。
団員の半分以上がレベル2へとランクアップしてから数ヶ月経過した頃、ダンジョン内の賞金首の強化種のモンスターの討伐で想定外が連続した。仲間が気絶し、アリーゼが殿と言う名の犠牲となり、私達はゴライアスによってあわや全滅寸前まで追い込まれた。
だがそれも1人の男――――エミヤ・士郎によって全て救われた。
殿の役目を請け負い、高い可能性でもう二度と会えないと思った
救われた仲間は全員、エミヤ・士郎に感謝したが私だけは違った。
仲間を助けてくれたことは感謝している。アリーゼすらも救ってくれて恩に感じなくもない。
だがどうして!どうして私を
此処で終わっていれば近い将来振りかかるだろう悪夢を見ずに済んだかもしれないのに!
予感だ。
歪んだ昔の記憶からの推測とも言える。思い出せるのは私に罪を擦り付けて苦悩を植え付けた奇人。
明言は避けていたが、奴は世界の中心で主に活動していると言った。つまりこのオラリオでだ。
奴を見つけなければと思う反面、遭いたくないと言うのが本心でもある。今のこの彩られた日常を破壊されるのではないかと言う恐怖だ。だからこそ死にたかったのに!
そしてもう一つ。それは悉くを救った事だ。
仲間を救ってくれたことは何度も言うが感謝している。だがその結果を見ると、まるでいとも容易く成し遂げられたようで、私としては苛立ちを抑えられない。
まるで今までの私の苦悩や努力、覚悟と決断を嘲笑われた様で不愉快極まりなかった。
最後にもう一つ。それはあの時、ゴライアスの前に立ちはだかる様に見せた大きな背中だ。
その背中が誰かの背中とかぶる。思い出さなければならないと思う反面、思い出したくないと言う忌避感が生じる。葛藤の末に胃が歪み、吐きそうになる。
だからこそ私はエミヤ・士郎を嫌悪する。
あの時、お前との巡り会わせが無ければ――――
これが今までの私の記憶。
だが今この意識と無意識の狭間で漂いながら強く思う。なんて情けなく無様だろうか。
罪を忘れ、日常に溺れ、
-Interlude-
「――――醜いな」
「ん?」
狭間から意識を覚醒させた私は呟いた。気配であの男、エミヤ・士郎が居ると気づいていながら。
「大丈夫か?」
「ああ。すまないな迷惑を掛けて」
「困った時はお互い様だと思うが・・・本当に大丈夫なのか」
私の身を心から案じて来るエミヤ・士郎の態度からは今までの私の無礼な対応に気にした素振りは見受けられない。恐らくは餓鬼の癇癪程度にと、受け流されていたのだろう。
この事実であるとほぼ確信できる推測に私は余計に自己嫌悪に陥る。だが何時までも気にしたままではいられない。念押しの確認に大丈夫だと返してから今までの事について謝罪する。
「今まですまなかった」
「む?」
「謝罪しておいて詳細は省かせてもらうが、私はお前に身勝手に八つ当たりをしていた。助けてくれておいて実に理不尽な事だとは今は自覚している。勿論この程度の謝罪で済むわけもないと理解している。私の出来る事の範囲であればどんなことも受け入れるつもりだ」
垂れていた頭を戻して真正面から士郎と向き合う輝夜。自分がどれだけ本気なのかを理解してもらう為らしい。
対して士郎は輝夜の本気の顔をただ見つめ返す。そしてあっけらかんと言う。
「いや、別に何も」
「な、何!?」
「正直その手の理不尽くらいは経験上慣れているし、輝夜くらいのモノであれば可愛いモノだ」
どうやら矢張り自分の八つ当たりは餓鬼の癇癪・駄々程度に受け取られていたらしいと勝手に解釈する輝夜は、今迄の自分の行動を改めて恥じる。
だが士郎の言葉には続きがある様だ。
「でもそうだな、敢えて言わせてもらえば」
「・・・・・・」
どんな要求でも受け入れる気である輝夜は士郎の次の言葉を待つ。
「光栄だったかな」
「は?」
「これは俺の持論だが、八つ当たりとは気の許した者にしか行わない甘えの一種だと捉えている。だとすればこの短期間でゴジョウノみたいな美人から気を許された上に甘えられるなんて、光栄以外の何物でもない」
「っ!?」
コイツは何を言っている?この男は一体何を言っているんだ!?八つ当たりが気を許した者への一種の甘えだと!?コイツは頭が狂ってないか?どんな生き方をすれば、そんな持論が出来上がるんだ!
しかも美人だと!?確かに自分の容姿には一定以上の自信はあるが、この男あんなキザな台詞をサラッと言いやがった。その上照れもせずにあっさりと。
「ど、どうかしたか?」
まるで自分は何もおかしな事は言っていないとばかりの態度に、また腹立たしく思えて来る。だが抑えろ、私!此処でまた怒鳴り付けたら、昔の事をしっかりと思い出して向き直れた上で謝罪した事の全てが無為となる。
「なんでもない。取りあえず謝罪を受け入れてくれたことは感謝する」
「そんな大げさな・・・」
「い・い・ん・だ!」
「う・・・わ、わかった」
結局最後に言葉を強くしてしまったが今のは是非もないとする。
「あとはすまないが、太刀の件は無かった事にしてくれ。受け取る資格が無い」
「む?」
「勿論代金は払う。迷惑料も兼ねて」
本音であり、これが筋と言うモノだろう。亡き陽の太刀の“暁”の代わりを用意するのは簡単ではないが仕方ない。自業自得だ。
「何言ってる。迷惑だと思うのなら直の事受け取ってくれ」
「ぬ、しかし・・・」
「アリーゼの紹介で元々来たのなら、渡せなかったら俺が怒られる。――――何よりも
「?」
困ると言う箇所に首を傾げる思いをしながら、輝夜は渋々依頼していた太刀を鞘ごと受け取る。
「確認してみてくれ」
促されたので鞘からゆっくりと刀身が徐々に見える様に抜く。
「!」
抜き放った刀身の煌めきに思わず唸る。これ程鋭くかつ、輝いて見える刀身は見た事が無かったからだ。此処までのモノを仕上げるには鍛冶師として相当な腕が必要だと察して、自分と同い年で有名となったとされるエミヤ・士郎に失礼ながら初めて感心する。
「一応、銘は“星彩”と名付けたんだが・・・・・・ゴジョウノが気に入らないなら好きに改名してくれていい」
輝夜は思わずムッとした。
これ程綺羅びやかな太刀は見た事が無い。この刀を一目で見惚れた上に銘も中々響きが良いと感じれたと言うのに・・・・・・。
「ならば、代金を払えば私の物。どの銘で呼ぼうが私の勝手と言う事で良いな?」
「もちろん」
「だったらこの太刀の銘は星彩。異論は受け付けん!」
自分目掛けて力強く答える輝夜に心なしか頬が緩む。
「む、そこまで気に入ってくれたのか。何と言うか、面映ゆいな」
「クッ・・・・・・それにしても、星彩を銘にした理由は?」
「もちろんゴジョウノの個人名を勝手ながら参考にさせてもらった。良い名前だよな」
「フン、皮肉にしか聞こえんぞ?どうせ私には不釣り合いな名だ」
「何所がだ?闇夜に浮かぶ凛々しい輝きは多くの人を照らして導く。ゴジョウノにピッタリじゃないか」
「ッッ!」
コイツ、またそんなキザなセリフを何の臆面もなく・・・!
「正直、ゴジョウノの名前には及ばない熟語を銘にしたが、気に入ってくれたのなら何よりだ」
「お前・・・・・・!」
なんか腹が立って逆らいたくなるところだが、先程異論は認めないと言ったのも私だ。チクショウ!
「ど、どうした?」
「なんでもない!」
怒りを抑えられずに叫んでしまったが仕方ないだろう!?
「むぅ、何やら機嫌が悪そうなところ申し訳ないが、もう一つ言わなきゃならない事がある」
「今度はどんなキザなセリフだ!」
「キザて・・・・・・いや、なんでさ。そうじゃなくて、代金を少し安くする代わりに全く新しいモノを“星彩”に組み込んでおいたんだ」
「は?」
キザなセリフを警戒していたものだから、予想外の言葉に輝夜は間の抜けた声を漏らした。
-Interlude-
此処はダンジョンとは完全に別のオラリオの地下施設の下水路。その無数にある区画の一角。
そこには十人にも満たない負傷した冒険者たちが仰向けやうつ伏せの違いあれど、倒れていた。
「クソ、クソッ、チクショウ!」
「痛ぇ、痛ぇよぉお・・・!」
「血が、出血が止まらねぇ!」
「死にたくない。死にたくねぇよぉ!」
傷のほどは軽傷から重傷の者達だが、そんな中全く動かずにいる者もいた。
「・・・・・・・・・・・・」
どうやら死んではいない様だが、動かないのではなく動けないらしい。両足首が切断こそされてはいないが、傷深く歩けないほどに見える。腕や上着が相当汚れているところから察するに、此処まで這いずって辿り着いたようだ。
――――フン、分かってはいたがクズばかりだな。冒険者になるなら死を覚悟してから成れと言うのに、全く・・・。
彼らの傷はモンスターによって攻撃で受けた事により出来た傷では無い。同じ冒険者の敵派閥との戦いで負った傷だ。
今のオラリオは
そして此処で呻いている彼らは全員ギルドから邪神指定された
やりたい放題するために暴れまわり、冒険者でも無い罪なき無辜の人々も躊躇なく襲う故にこの末路は因果応報・自業自得と言われても仕方ないだろう。
死ぬことならあの神と契約してから既に覚悟済みだからいい。だがこのまま
「
如何やら彼はフレイヤ・ファミリアの若き団長と戦い、敗れて命からがら此処まで逃げ延びた様だ。
そしてこのままでは出血量も多い為、死ぬのも時間の問題。傷を癒す回復魔法の使い手もいない。アイテムも使い切っている。
このまま屈辱の血だまりの中で死ぬのかと苛立っている所に誰かがすっと現れた。
「私が手を貸そうか?」
「誰だ!?」
フレイヤ・ファミリアの追撃かと思ったが、見たこともない奇人だった。
彼は知る由もないが、この奇人はアストレア・ファミリアの副団長の輝夜の故郷を荒し、多くの犠牲者を産み出した黒幕本人だ。
「諸君らが契約している邪神達全員には既に自己紹介は済ませたが、まだその眷族一人一人とは終わらせていないから私の事を知らなくても無理はない。よし、君たちにも名乗っておこう」
このままでは遅かれ早かれ死ぬことを避けられなかった彼らからすれば救いの神であろうが、その姿は真逆のお伽噺に登場する魔王そのもの。
「私は神――――いや、邪神トライヘキサだ」