料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 作:昼猫
「フゥ」
「どうかしたのですか」
士郎を切っ掛けとした邂逅により、以前よりも交流が増えた神ヘファイトススと神アストレア。
二柱は本日、たまたま空いた時間が重なったので少々遅めの昼食を共にしていた。
ちなみにヘファイストスは単独で、アストレアはアリーゼ同伴である。
「ごめんなさい、変なため息ついてしまって。大した問題じゃないから気にしないで」
「そうは言っても・・・・・・また、彼・・・士郎の事ですか?」
アストレアは最初こそ士郎の呼称を君付けしていたが、本人の好きに呼んでくれて構いませんと言う言葉と自分の
「あら?分かる?実はそうなのよ。あの子ったらもぉ~」
「・・・・・・」
あくまでも自分はアストレア様の護衛だと言う事で御伴していたアリーゼだが、士郎の話題となったのでつい意識と耳を僅かにヘファイストスの言葉へと向けた。
「あの子のダンジョンの到達階層数、31階層まで行ったのよ」
「それはそれは・・・・・・1人でと言う事ですよね?」
「ええ、また性懲りもなくね」
「確かに危険ではありますが、もちろんお説教はしたのでしょう?」
「え?してないわよ。折檻ならしたけれどね」
「そ、そうですか」
黒いオーラを携えて満面の笑顔で言ってきたヘファイストスに若干引くアストレア。それに心の中で合掌するアリーゼ。
「ただ問題はこれで終わりじゃないのよ。あの子がさらに先に行かずに帰ってきた理由は何だと思う?」
「それ以上は1人での探索が困難になって来たからでは無いんですか?」
「いいえ。その時点で帰らないと鍛冶師としての仕事に支障をきたすから、ですって・・・」
呆れた態度を隠そうともしないヘファイストス。アストレアは友神の言葉の含むところにあっと気づく。
「逆に言えば、仕事に支障をきたさなければ、そのままさらに奥へと突き進んでいた事に呆れているのですか?」
「・・・・・・そうなのよ。あの馬鹿・・・!」
まるで吐き捨てるような言葉だったが、顔色はあまり良いとは言い難くて不安そうにもしている。
「あの子を見てるとね。何だか生き急いでいるみたいに思えて
「ヘファイストス・・・」
友神の心情を察して慰め様とする言葉を探すアストレアだが、どうやら見つけられずに悲しげな視線を送るだけにとどめてしまう。
アリーゼはアストレアとは違い、士郎が生き急いでいると言う言葉に心を痛ませる。それが友人としてか、はたまた別の理由かは定かではないが。
友神達の視線に気づいたヘファイストスは軽く謝る。
「昼食時にする話題では無かったわね。うちの問題だから忘れて?」
ヘファイストスはこうは言うが、矢張り友神として何とかできないかと悩むアストレア。
それに二柱の神々の間に割って入る様にアリーゼが提案する。
「でしたら私に任せてもらえませんか!」
アリーゼのいきなりの提案に二柱はキョトンと顔を見合わせた。
-Interlude-
「――――と言う事だから今日こそ年貢の納め時よ、士郎!」
「・・・・・・・・・・・・」
アストレア・ファミリアを率いてやって来たアリーゼは、ダンジョンの入り口があるバベルの近くにいた士郎を捕まえての開口一番が今の一言である。
何なんだと思ってアリーゼの後ろ側に居るアストレア・ファミリアの先頭に居る輝夜にアイコンタクトで尋ねると、彼女は大げさに解らんと言うポーズで応えた。
「ちょっと、私と話してるんだから後ろの輝夜と目と目で通じ合うの止めなさい!」
「誤解を招く発言には断固として抗議させてもらうぞ、団長。私とエミヤはそんな関係では無い」
「そうだぞ。俺と輝夜の関係はアリーゼと同じく鍛冶師としての契約であって、そんな良い仲じゃない。そもそも、俺なんかと輝夜が釣り合うわけないだろ?」
士郎としては輝夜のフォローをしたつもりだったのだが。
ブチッ。
途端に輝夜の機嫌が急激に悪くなる。
「うふふふふ♪ええ、ええ!確かに確かに仰られる通り私とエミヤ様との関係は鍛冶師の専属契約を結んだだけのモノですから。そんな仲が良いなどといった関係ではありませんわ♪」
急に剣呑なオーラを漂わせながらも丁寧な口調に仕草に変わった輝夜に動揺する士郎。
「か、輝夜・・・・・・?」
「あら?あらあらあら?あのエミヤ様が私の名を呼び捨てして下さるなんて光栄の極みですわ。専属契約の関係でしかありませんのに。あまりに嬉しすぎて私、貴方様を――――切り刻んでやろうか?」
「っ!?」
あれだけ丁寧だったのに口調を戻して露骨に怒気を見せる輝夜の態度に士郎は気付いた。彼女の今の姿はあの遠坂凛に非常に被る。猫を被る所も怒りに震えるところも。
だが遠坂凛の時もそうだが、士郎は彼女たちの怒りを露わにしている理由までは今も直分からずにいた。
そんな2人のやり取りに、アストレア・ファミリアの麗しき使徒達で目聡い者はある事に気付き、鈍い者は気付かずに輝夜の理不尽な態度に
そしてアリーゼはと言うと。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女にしては珍しく苛立っていた。自分の発言が切っ掛けとは言え話を中断された上に目の前でイチャイチャとされては堪った者じゃ無かった。実際にはメンチ切った輝夜に士郎が追い詰められてるだけなのだが、少なくともアリーゼにはイチャついているかの様に見えたからだ。
「そろそろ本題に入っていいかし、らっ!」
ついに耐えかねたアリーゼは二人の間に割って入る様に会話を中断させる。
あまりに新鮮かつ初めてのアリーゼからのアクションに二人共面を喰らって黙った。
二人を黙らせたアリーゼが漸く本題を切り出す――――筈だった。
「なんだアリーゼ。そんなにイライラしてるなら糖分補給すればいいぞ。俺が丁度持ってた新作のケーキでも食べて落ち着いてくれ」
などと言って所持していた手提げ袋から箱を取り出し、さらに箱の中からその場で食べられるタイプのケーキを取り出してアリーゼに渡す。
「あら?何時も悪いわね。有り難く頂くわ!士郎の作るモノはどれも美味しいし」
「それなら良かった。それじゃ」
「ええ!」
言って士郎がアリーゼの視界から外れようとした所で。
「――――って、違うわよ!」
「む?」
「何勝手に話終わらせてるの!まだ本題も話していないのに!そもそも何なのよこのケーキは!私は食いしん坊キャラじゃないわよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・違うのか?」
士郎からのまさかの一言で一時停止するアリーゼ。だがそれも一瞬の事。
「ちょっと待ちなさい。まさか今まで私の事そんな風に見てたの?」
何とも言えない空気に縋りつくような質問。
これに士郎は空気を読んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そんな訳無いだろ」
「・・・・・・ッッ!!」
目を泳がせて視線を合わせない態度で空気を読んだ言葉も全て台無し。
確かな精神的ダメージを受けるアリーゼだが、彼女はこの程度では屈しない。
「と、兎に角私は健啖家じゃないから!そこのところ誤解しないでよね?」
「うん。まあ、分かった。それでアリーゼの用件はそれだけか?」
「そんな訳無いでしょう!本題は此処からよ」
言って、互いの主神様方の話し合った事を説明してから自分が提案した事を言う。
「これ以上貴方に単独行動させに為に、これから先は私達とダンジョンに潜るの!異論は認めないわ!」
この考え、実はアリーゼは仲間の誰にも事前に話していなかったので、彼女の後ろに居る輝夜含めた仲間達も全員驚いていた。
「・・・・・・・・・どうしてもか?拒否できないのか?」
「異論は認めないって、言ったでしょう!それともなに?私達とダンジョンに潜るのがそんなに嫌なの~?」
アリーゼは自分の提案に自信を持っていた。だから士郎の疑問に軽く苛立ちを持ちながらの揶揄うような質問をした。
「ああ、当然嫌だ」
「・・・・・・・・・・・・」
だからこそ士郎からこんな言葉を言われるのは完全に想定外だった。
アリーゼは基本的に自分の心に素直な女の子だ。思った事考えた事はため込まずに即座に実行していく。それこそあと先考えずに。
だからこそ彼女は自信のある提案を、とても親しい友人から素の拒絶を受けると。
「うぅぅ・・・・・・グスッ」
泣きが入る。
「ど、どうしたんだアリーゼ!何で泣く?」
アリーゼが何故泣き出したのか分からずに狼狽え始める士郎。まさか自分の言葉でショックを受けているとは夢にも思っていない様だ。
「エミヤ。団長はお前の拒絶の言葉でショックを受けてるんだ。だが、お前の事だ。理由があるんだろう?」
士郎の言葉はアリーゼのみならずアストレア・ファミリアのほぼ全員が怒りやら悲しそうにした。リューにいたっては軽蔑の視線を向けている。
彼女たちの中で士郎の言葉を気にしていないのは二人だけ。まずはライラ。彼女は士郎もあんなことを言うんだなと意外そうにしている。
そしてもう一人は輝夜だ。専属契約をしてから士郎への感情は相当な信頼へと傾いている。だからか、なんの意味もなく拒絶の言葉を使わないことを彼女は確信しているからこそ平常を保っているのだ。
「ぬ?そう言う事か。けど嫌なモノは嫌なんだ!だって男女比率が違いすぎるだろっ」
「へ?」「ほ?」「なに?」
「男女比率?」
「・・・・・・うぅ?」
士郎の言葉に全員が反応した。
「当然の事だが、俺とアリーゼたちがパーティー組めば女性十一人男一人になるだろ?居心地が悪いんだよ男は俺一人と言う所が!その上全員美人ぞろいと来た。目にやり場にも困るし、俺は自分以外のパーティーメンバーが全員女性で気楽に喜べるほど剛の者じゃないんだ。ホント勘弁してくれ」
士郎の本音に一転してほぼ全員照れるアストレア・ファミリアの麗しき使徒達。
軽蔑の視線を送っていたリューも。泣きが入っていたアリーゼもだ。
唯一照れずにいるのは輝夜だ。彼女は士郎の言葉のチョイスにまたかと呆れている。
「・・・・・・・・・ふ、ふ~ん?そう、士郎から見て私達全員美人に思えるんだ?」
「ああ、だから・・・・・・」
「だからと言って士郎の単独行動を見過ごすわけには行かないわね!ヘファイトス様も貴方の行動に心痛めているんだから」
「そ、そんな無体な!」
言葉届かず拒否を許されない士郎。
「リュ、リューはどうだ?」
「はい?」
いきなり白羽の矢が立ったのが自分だったので間抜けな返事をしたリュー。
「俺みたいな無神経な男とパーティー組みたくないよな?」
「いえ、特にそんなことはありませんが」
「何!?」
「先のアリーゼへの拒絶の後は一瞬だけ軽蔑しましたが、先程の真意が理由なのでしたら特にこれといって異論はありません。その上アストレア様の御友神の神ヘファイトスの心労を取り除けるなら喜んでアリーゼの提案を支持します」
「そんな・・・馬鹿な」
最後の頼みの綱として当てにしていたエルフにも見捨てられて崩れ落ちる士郎。
そんな士郎を勝ち誇ったようにアリーゼは見下ろす。
「そもそも、士郎がヘファイストス様のご注意を聞き入れないのが悪いんだからね?リオンも賛成したし、これ以上の異論は今度こそ認めないわよ!」
「がふっ」
断罪の剣は落とされた。士郎には最早逃げ場は無かった。
士郎のあまりの姿を見かねた輝夜が憐れむ様に声を掛ける。
「決まってしまったものは仕方ないが、今後お前にも私達にも何かあれば変わるだろう。それまで耐え凌ぐしかあるまい」
「ぬぅ」
「だが今日は良いんじゃないか、団長。エミヤは今ダンジョンから上がってきた所だろうからな」
輝夜の言葉を裏打ちする様に、士郎が持っているもう一つのバックの中の隙間から上層で入手できるはずのドロップアイテムが幾つか見えた。
「そうね、輝夜の言う通りね。今日は勘弁してあげるけど次からダンジョンに潜る時は私達に同行を求める事。い・い・わ・ね?」
「・・・・・・分かった」
諦観の境地に至った士郎は力なくアリーゼからの命令に頷くだけだった。
「さて、私達はこれからもうしばらくパトロールを続けるけど、士郎もついて来る?今後私達に慣れる為のお試し期間みたいな感じで」
またも悪戯心を発揮するアリーゼだが、シロウの一言で直に撤退する事になる。
「悪い。これから鍛冶師とは別の仕事が入っている」
「鍛冶じゃない仕事・・・?」
-Interlude-
此処はオラリオでも冒険者では無い一般人が多く住んでいる住宅街。
そこにはいくつもの酒場が有るが、新しくできたにしては一際の存在感を放つ店が在った。
豊穣の女主人。
ある女性ドワーフが女将を務めているのだが、この店が開店したばかりなのに存在感を強く出しているのは彼女の存在が大きく関わっている。
何を隠そうこの女性ドワーフ、つい少し前までフレイヤ・ファミリアの団長を務めていたLv6の第一級冒険者で
とある理由から主神の美神フレイヤと折衝を続けて半脱退状態と言う形でファミリアから足を洗い、この酒場を構えたのだ。
だがそんな店にも開店早々問題が在った。人手不足だ。
営業時間は夕方から深夜にかけてと短く、客入りがそこまで多くなければなんとか回せるのだが、お客が多くなれば忙殺モノに豹変する。
この問題には流石のミアも頭を痛めた。
そんな時にドワーフの間でのみ繋がりで知った情報で、ヘファイストス・ファミリアのある新入りの成り上がり鍛冶師が中々の料理の腕前を持つと耳にした。これにミアは躊躇なく飛びつき、椿を介して新入り成り上がり鍛冶師の男を緊急時のみと言う条件で雇い入れる事に成功したのだ。
そして今日は条件の
「来たかい。今日は頼んだよエミヤ」
「任せて下さい」
料理の腕前には一定以上の自信を持っている士郎は、力強くミアの期待に応える言葉を口にしたのだった。