料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」   作:昼猫

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 そろそろアリーゼとリュー以外のアストレア・ファミリアの二つ名も考えないとなとは思っているんですが、どうにもなぁ。


第12話 人形姫との出会い

 「あっ、ひあっ・・・・・・ハッ、はっ・・・・・・っ!」

 

 男は傷を負いながら逃げていた。ダンジョン内で自分に反応して襲い掛かって来るモンスター達も無視してひたすらに逃げていた。どうしても邪魔なのは切り捨てていった。

 

 「おえっ・・・げはっ・・・・・・ぎゃは・・・ぎょは・・・」

 

 逃げる事だけに集中しているからか、無意識的に呼吸困難に陥りかけているにも気づかない。

 暫くして足が限界を迎えたのか、そこから一歩も歩けずに壁に手を置いて全身で呼吸を整える。

 

 「・・・こ、此処まで、来れ、びゃっっ!!?」

 

 安心したのもつかの間、男の真後ろで何かが爆発。衝撃に苦悶しながら吹き飛んでいった。

 

 「あぎゃっ!がっ・・・がっ、はっ・・・・・・ま、まじゃか・・・・・・!」

 

 壁に激突し痛みもあり、息も絶え絶え状態だと言うのに状況把握を優先する様に爆心地である土煙が舞っている場所を注視する男。

 土煙が完全に晴れる前に何かが出て来た。

 

 「見つけたぞ」

 「ぴ、ビぃイイっッ!!?」

 

 出て来たのは別の男。逃げていた男を追いかけていたのは如何やらこの男の様だ。

 

 「待ちぇ、待ってくりぇ!どうして俺を、俺達を襲うんだ!俺達は同じ闇派閥(イヴィルス)の仲間だろうがっ!?」

 

 悲鳴じみた懇願する男に、心底下らなそうに見下ろす男。

 

 「仲間?俺はお前らの様な死ぬことも覚悟せず、神と契約した貴様らを仲間だと思った事は一度たりとも無い。勝手にひと括りにまとめるな、愚図共が」

 「ひ、ピィィっ・・・!!」

 

 恐怖のあまり倒れたままそん場を離れようとするも背後は壁で止まる。

 

 「だが確かに、オッタル(あのクソ猪野郎)に復讐をしたいと言う意味であれば同じ志を持つ仲間――――同志と言えるかもしれん」

 「だ、だろ?だ、だから・・・!」

 「だがお前達では正直言って足手まといだ。その上忌々しい事だが、今の俺でも奴を殺すにはまだ力が足らない。その事を邪神トライヘキサに相談したら愉快な事を教えてくれた」

 

 直後、見る見るうちに男の体が変化していく。それを見せつけられる男は恐怖で顔が引きつり、怯えている。

 

 「邪神トライヘキサから貰った薬はお前らのモノと違って俺のは強力な分、意識してないと体に異常をきたして変貌してしまうらしい」

 

 邪神トライヘキサから受け取った薬と言うのは、以前輝夜の故郷で多くの冒険者を異形に変貌させたモノだ。

 彼らの話から推察するに以前のモノとは違いかなり安定している様で、どうやら何かしらの力を上げる薬の様だがあまり強力なモノでなければ体が異形へと変貌する事はない様だ。

 だが襲撃した男が貰った薬は強力な分、意識していないと体の輪郭が崩れて異形の怪物に成り果てるリスクを持つ様子だ。

 実際男は、輝夜の故郷を荒らした時に変貌した元人間達の外見以上に醜悪に成り果てた。

 

 「それでな、俺がこれ以上強くなるにはお前達が貰った薬を取り込まなきゃならない」

 「だ、だけどもう、俺、俺達もうあれは使っち」

 「ああ、ああ。理解している、承知している。みなまで言うな。だがな、お前達の薬を取り込みさえすればいいんだ(・・・・・・・・・・・・・)

 「へ・・・・・・あ、ま、まさか・・・!?」

 「お前達ごと取り込みさえすれば問題ないだろう?」

 「ヒッ!?」

 

 異形の男の凶悪な笑みに逃亡していた男は、恐らくは、そして信じがたい信じたくない未来を考えてしまい戦慄して怯える。

 

 「俺はお前達を糧として。お前達は俺の一部になってオッタルに復讐を成就させる。そうだろう?同士達よ」

 

 言って、異形の男は口を大きく大きく開ける。到底人間では開けない口の大きさはまるで蛙の様。口の中は剥き出しの鋭い歯と何もかもを飲み込むかのような舌がうねっている。まるで鰐の様。

 

 「ま、待て!よ話っ、ぎゃっあああああああああああああああぁああああああああああああああああ!!!」

 

 喉が裂ける程の苦悶と絶望を形にした悲鳴。同時に何かを噛み砕く激しい擬音と共に血飛沫が宙を舞う。

 少しの間その残虐(行為)が終わるまで、噛み砕き続ける擬音が鳴り響き続けて血飛沫も舞い続けた。

 

 「――――うぷっ。あと4人か。待っていろよオッタル・・・!」

 

 同志を取り込み終えた男は異形から正常の外見に戻り、その場を後にした。残ったのは僅かな血だまりだけ。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「フッ!」

 

 星彩の一刀がモンスターの頭部と体を泣き別れさせた。

 アストレア・ファミリアの麗しき使徒達は、全員が今日も今日とて己の器を底上げし昇華にまで至らせる為にダンジョンに潜っていた。

 

 「皆ー!魔石拾い終えたー?」

 「はい、団長!」「勿論」「こっちも確認」

 

 アリーゼからの呼びかけに答えて、魔石拾いを終えてから移動する。

 

 「それにしても士郎の奴、あれから一回もダンジョン潜ってないんだってな?」

 「男1人だけになるのがきついからって、露骨に避けられるとかちょっと傷つくわよね?」

 「大丈夫ですか?アリーゼ」

 「なによリオン!私はショックなんて受けてない!勝手に憐れまないで!」

 

 彼女たちの会話の内容通り、士郎はあの日以来ダンジョンに一度も潜らずいる。理由も恐らくは内容通りだろう。本人は仕事が溜まっているからと言い訳しているが、品質に手を抜かずかつ早く仕上げるを信条にしている士郎にしてはとても見苦しい言い訳でしかなかった。

 だが、ともあれ士郎本人がダンジョンに行かないなら彼女たちも無理強いは出来ないと言う事だ。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 士郎の件を話題にしている仲間たちの内容に耳だけ傾けながら星彩をじっと見る輝夜。

 この星彩は今はまだただ(・・)の名刀級の業物。だが士郎は今までの常識を破壊するような特殊武装(スペルオルズ)を組み込んでいる。発動する時が来れば、必ずや私の大きな道しるべとなるだろう。

 

 「!」

 

 その時輝夜は助けを求めている声を僅かに聞こえたと確信する。

 輝夜は故郷からオラリオに辿り着くまでの間に多くの人を助けた時の経験値のおかげで、どんなに遠くから聞こえそうで聞こえない助けを求める言葉も聞き取れる様になったのだ。

 

 「団長、助けを求める声が聞こえた」

 「何所から!?」

 

 輝夜の言葉に疑問を持たずに聞く。誰よりも早く助けを求める声を感じ取れるのは何時も輝夜だからだ。

 

 「向こうから!」

 「行くわよ皆!」

 

 輝夜の指示する方角に向けて仲間を声で引っ張り速足で駆ける。

 暫くすると輝夜以外にも助けを求める声を耳に入れることが出来た。救助者が近づいている証拠だ。

 さらに近づこうと探すと、近くから怪我を負った男が這いずる様に現れた。

 

 「ひ、人?冒険者・・・?た、助かった・・・?」

 「大丈夫!?何所をやられたの!」

 

 救助者を見つけて、保護。事情を聴く。

 仲間は恐らく全員やられて無事なのは自分だけ。恐らくと言うのは推測に近い確信。秘密裏に落ち合う場所が幾つかあったが誰も現れなかったとの事。そしてこの怪我は仲間を恐らく全員殺した奴から受けて命からがら逃走する事に成功したと言う事らしい。

 これらの話を聞いてアリーゼを始め、何となく察した少女達が訝しむ。

 

 「貴方まさか、闇派閥(イヴィルス)冒険者(構成員)?」

 「ああ、そうだ。頼むから助けてくれ!このままギルドに連行してくれてもいい!知ってる事も何でも喋る!だから・・・・・・」

 

 その程度の覚悟で闇派閥(イヴィルス)に参加した以前に冒険者をやってるのかと苛立つか何人かの少女達だが、今は拘泥している場合では無いと戒めた。

 

 「だったらまず最低限の事を此処で喋れ。ギルドへの連行はそれからだ」

 「クソ、分かったよ・・・」

 「まず始めにどんなモンスターに襲われた?」

 「モンスターじゃねぇ!俺たちの仲間――――先輩様だよっ!」

 

 この事に驚くアストレア・ファミリアの麗しき使徒達。だが裏切っての仲間殺しをするのは相応の理由がある筈だ。

 

 「その先輩とやらにお前ら何をした?」

 「何もしてねぇええよ!いきなり『お前ら雑魚は俺の糧になれば良い』とか言って襲ってきたんだよ!」

 

 声を荒げる説明に必死さから嘘では無いと判断する。

 

 「では次だ。仲間は全員やられたと言うのに、どうして貴様は生き残れた?」

 「スキルだよスキル!俺に発言した唯一のスキル!自己保存(セルフ・プレゼヴェーション)だ!」

 

 スキルの効果はこうだ。命の危機にが近づくと脳内に生存へ向けての計画書が瞬時に浮かび、同時に逃走の為に脚力が一時的に上昇し、気配も僅かに薄くなると言うものだ。

 ただ、計画書に反するアクションを取ると生存出来なくなる可能性が急激に高まる。

 なお、このスキルはその時が来たら自動で発動するのであって、任意による発動は不可能。

 また連続発動はせずに、次の計画書発動まで最低半刻のインターバルが必要。

 なお、計画書の精度は対象者のレベルで変動する。

 

 説明を聞いて何とも後ろ向きなスキルだと呆れる少女達だが、ライラだけは違った。欲しいと。アタシにピッタリのスキルじゃないか、どうしてこんな奴にと不満も抱いたそうな。

 

 「それで?この近くで助けを呼べば助けが来ると計画書にでも載っていたのか?」

 「そうだ!けどまだだ。今すぐダンジョンから出るんだ。それで助かる筈なんだ!だから早く!」

 

 懇願じみた言葉だが、アストレア・ファミリアの麗しき使徒達にはそうはいかない。

 

 「そんな危険な輩を地上においそれと上がらせるわけには行かん。此処で迎え撃つ」

 「フッざけんな!逃げるのが吉なんだよ!だから早く・・・!」

 「私達はいずれ必ず台頭するアストレア・ファミリアよ?こんのところで逃げるわけには行かないわね」

 「そんなに逃走したければ貴様だけでいくといい。別に未だ拘束していないのだ。とっとと失せろ」

 「っっっ!!?」

 

 自分の思い通りに動かない女達に苛立ち、さらに怒声を張り上げようとするが脳内に浮かんでいた筈の計画書が溶けて消えた。それはつまり。

 

 「来ちまっただろうがよぉおおおお!!?」

 

 男は怯えながら指を指す。

 指差す方向に向けて全員一斉に振り向くと、剣呑なオーラを纏わせた一人の男が到着したのだった。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 アストレア・ファミリアが男達と邂逅する少し前、士郎は今夜もヘルプとして豊穣の女主人の料理人をしていた。

 今夜のヘルプの理由はロキ・ファミリアが客としてくるために、圧倒的な人手不足になる事を見込んでの事だ。

 

 「フン・・・!」

 

 おたまを握り鍋を振るう。火の熱にも負けず汗だくになりながらも振るい続ける。同時に暇を見つけてはかまどをチェックしながら、また別の鍋を振るう。自分の手の届く範囲の調理器具を支配して、ただ一人で多くを並行処理していく。

 

 「フフ・・・!」

 

 たった一人で十人分以上の仕事をこなす士郎に満足そうに見守るミア。

 そこへ客たちが賑わいを見せていた方から物騒な物音と同時に悲鳴が彼女の耳たぶを打った。

 

 「アイツ等っっ・・・!!」

 

 穏やかな笑みから一気に苛立つ怒気へと表情を変貌させたミアが出撃する。

 少しして。

 

 「――――この、アホンダラがっぁああああああああああああああ!!!」

 

 同時に凄まじい衝撃が厨房にまで伝わって来た。

 士郎はその前兆を感じ取っていたのか、衝撃が来る直前で全ての火を消し、衝撃が失せる余韻で再び火をつける。

 直に調理の再開をしていると未だに苛つきが収まっていないミアが帰還。士郎が調理している料理の鍋の一つを使い出した。

 

 「エミヤ!アタシとこいつ等で暫く厨房はやっておくから、アンタは人形姫の様子診てやんな」

 「「「えぇええええ~~~!!?」」」

 

 今もただでさえ大変なのにこれ以上仕事を一時的でも増やされたら死んでしまうと言う正式な料理スタッフ達の悲鳴が鳴り響く。

 しかしミアは彼女たちの反応を無視して士郎を行かせる。

 背中を押されて大テーブル席に来た士郎は一人の幼女を囲う様な人集りに声をかける。

 

 「すいません」

 「ん?なんや少年?」

 

 士郎の呼びかけに答えたのはなんとも独特な衣服の女性。糸目の猫っぽさを感じられるのに圧倒的な存在感。人ならざる者。恐らくは超越者(デウスデア)――――神の一柱で、彼らの下に居ると言う事は彼女こそが主神ロキなのだろう。

 

 「ミアさんから人形姫ちゃんを診てやんなと言われて来たんですが」

 「人形姫ちゃんて・・・・・・」

 「な、なんです?」

 「此処は女将含めて全員女性だけの筈やのに、なして男の自分がおるん?」

 

 神ロキは極度の男嫌い――――と言う訳ではないが、女好きと言う事もあってこの店を将来に渡って行きつけにしようと考えていた。なのに男のスタッフが要るモノだからと、カウンターを喰らった感じで訝しんでいるのだ。

 勿論士郎は神ロキの趣向など知らないが、怪訝な顔をされたのでヘルプであり正式なスタッフじゃない事などを説明した。

 

 「成程な~、それなら納得や」

 「ご理解いただけたなら良かったです。それでそこの女の子の介抱ですが・・・」

 「この子の回復ならもう済んでいるぞ?」

 

 士郎の行動に待ったをかけたのは容姿端麗の美人だと一目で判るエルフだ。

 

 「そうですか。ですがまだ目を回しているように気絶しているのはお酒でも飲ませましたか?」

 

 士郎の質問に怯むロキ・ファミリアの面々。特に調子に乗ってアイズに酒を勧めた団員達。

 彼らも解っているのだ。幾ら恩恵の効果があるとはいえ、十歳にも満たない子供に飲酒をさせてしまった意味が。

 

 「あまりこの子ぐらいの子供に飲酒をさせるのは感心しないんですがね」

 「あ、いや・・・」

 「まあ、今はこの子の酔いを醒ますのが先決ですね。少しその子に触らせてもらっていいですか?」

 「構わないが、そんな事出来るのか?」

 

 人形姫の近くの場所を士郎に譲りながらエルフが聞いた。

 

 「ええ、まあ、そう言う事に応用できる技術は修得済みですから」

 

 言って両肩に手を置きながら説明する。

 

 「人にもこの星にも力と言うか気と言うか、エネルギーの流れと言うモノが有ります。その流れを外部からの要因によって乱れることがあります。その流れが乱れると人も土地も正常ではいられません。この子の今のケースは酒が原因ですね。ですからこのように」

 

 士郎は幼女の肩から首のつけねのツボにちょっとした魔力を流し込んだ。

 

 「・・・・・・んぅ」

 「すれば流れを正常化させて酔いから醒めると言う寸法です」

 

 徐々に幼女から覚醒の兆候が見られた。

 この結果に自分達の迂闊さに反省して、士郎に感謝するロキ・ファミリア(面々)

 

 「すまないな少年」

 「いえ、ミアさんからの指示ですし。こんな状態の子供放って置けませんから」

 「今のは魔法かスキルの類なのかい?」

 「いえ、半分以上マッサージの領域です。俺はそれに少々アレンジを加えただけですから」

 「ほぉ~?」

 

 感謝するとともにロキ・ファミリアの数人から質問され続ける士郎だが、厨房から悲鳴が上がる。

 

 『士郎早く帰って来てぇええええ!!』

 『死ぬぅうううう!!?』

 『喧しい!口じゃ無く手を動かしなッ!!』

 『『『ひぇええええええええ~~~!!?』』』

 

 これをちゃんと聞いていた士郎は苦笑して厨房に戻りますと言った。

 それに対して面々はどうぞどうぞと促す。

 

 「あっ、そうだ。この子の好きな食べ物嫌いな食べ物有ったら教えてもらいますか?」

 「?構わないが・・・・・・」

 

 士郎からの謎の質問に訝しみながらも答えて行く。その間も厨房からは悲鳴が上がる。

 

 「―――で最後だ」

 「ありがとうございます」

 「アイズの好き嫌い知って、何する気や?」

 「その子が気絶した経緯は聞きました。ですがこの豊穣の女主人はいい店ですから、この事で苦手意識を持って欲しくないんです。ですから、このお店に来れば美味しいモノが食べられるよと印象付けるために気に入りそうなのを作ってきます。みなさんがお帰りになるまでには間に合わせますので、失礼させてもらいますね」

 

 もう用は済んだのか、さっさと厨房に引っ込む士郎。

 少しして入れ替わるように出て来たのはミアだった。

 

 「なぁ、なぁ、女将」

 「なんだい。忙しいんだよ、手短に言いな」

 「さっきの少年、誰なんや?」

 「足運びと言い、一般人じゃないよね?」

 

 士郎の挙動を終始観察していた小人族(パルゥム)の団長、フィン・ディムナもロキの質問に乗っかって来た。

 対してミアは鼻を鳴らしてめんどくさそうに答える。

 

 「ヘファイストス・ファミリアの一年半目の新入り鍛冶師だよ。料理の腕が高いって噂聞いて、椿の奴を介して話をつけたのさ」

 「ほぉ~?ファイたんの・・・・・・」

 「そう言えば椿の奴から聞いたのぉ。面白そうな新入りが入ったと。既に達人鍛冶師(マスター・スミス)の腕を持つ規格外ぶりなのに、作る飯が妙に美味くて工房に暫く籠る時は保存食を作って貰うと」

 「下級冒険者の下級鍛冶師の身でマスター・スミスの腕持ちか。それに既にあの動き、彼は冒険者としても大成出来るだろうね」

 

 自分達にとって何処までも格上かつ組織の幹部の方々から、ここまで興味を持たれる先程厨房に引っ込んだ少年に嫉妬を隠せない団員達。

 

 「何勘違いしてんだい?既にエミヤはLv3だよ」

 

 ミアからのまさかの言葉にロキ・ファミリアほぼ全員が目を剥いた。

 

 「先程一年半目の新入りとか言ってませんでしたか!?」

 「オラリオに来てからの話だ、アホンダラ共。来るまでに別の神と約一年くらい契約してたらしいね。しかも契約してから僅か半年ほどでLv2にランクアップしたくらいのデタラメぶりだ。都市外でその能力を腐らせておくにはもったいないってことでオラリオ(此処)に来るのに背中押されたらしいね」

 「「「「「~~~~~~~っっっ!?!?」」」」」

 

 ミアの言葉に驚きが止まらない団員達。

 団員達程ではないが、主神一柱と幹部三人も十分驚いていた。特にロキなど下界の住人(子供)達の口にする言葉の真偽を容易に見抜けてしまうので、フィン達以下団員以上といった所だ。なので。

 

 「お、女将!その話もうちょい詳しくっ!!」

 「喧しい!アタシは忙しいって言ってんだろ!もう十分話したのに、これ以上手間かけさせるならその首引っこ抜いてやろうか」

 「ひ、ひぇええええ~~~!か、堪忍してや~!?」

 

 主神がピンチでも見向きもしないフィン達。少なくとも彼らの興味の対象は厨房に引っ込んだ士郎だけに向いていた。

 

 「椿の話の通り、規格外だね彼は」

 「本当だとしたら、な」

 

 下界の子供たちは誰一人として神に嘘は付けない。だからミアの説明には疑いはかけていない。であれば、エミヤと呼ばれた少年がミアに嘘をついた可能性はある。ミアを眼前にして嘘をつければの話だが。ガレスの疑いは単なる皮肉。ミアの言葉を素直に信じたくないガレスなりのポーズである――――と言うのはフィンもリヴェリアも見透かしていた。

 

 「む、アイズが目覚めたぞ」

 

 そこで漸く目を覚ましたアイズ。これにより宴再開。アイズはエミヤの杞憂通り、ミアを視界に入れる度にびくっと反応して恐がり、あまり楽しそうでは無くなっていった。

 そこで多くの団員が酔いによって宴を閉めようかとした所で宣言通り、士郎が厨房からデザートらしきモノを持って出て来た。

 団員達の視線が集まる中、士郎は気後れすることなくアイズの前に立つ。

 

 「あ、あの、私・・・・・・」

 「ハイ、これ」

 「?」

 

 いきなり目の前に置かれた見た事もないデザートに戸惑うアイズだが、士郎は食べてみて欲しいと言うジェスチャーで促す。

 促されて恐る恐る口に運ぶと。

 

 「っっ!!」

 

 何の味か判別できないが、兎に角甘い美味が口の中で広がり幸福感を齎して来る。その感覚を消さないためにと、次々に匙を使って口の中に投げ込む。

 

 「気に入ってくれたかな?」

 

 リヴェリアから説明を受けた私を起こしてくれた人が聞いて来るので、私は食べながら頭を数回上下に振る事で応える。

 

 「実はね、アールヴ様から」

 「様は要らないぞ少年。あと、リヴェリアでいい」

 「では、リヴェリアさんから教わった君の嫌いなモノで全部構成されているんだそのデザートは」

 「っっっ!!!?」

 

 先ほど以上の驚きを受けるアイズは思わず匙を止めて士郎を見上げて来た。

 

 「どんな食材も工夫次第で美味しくもなるし不味くもなる。態度やルールもだ。このお店のルールさえ守ってくれるならお兄ちゃんがいる時に限るけど今みたいなのや、別の美味しい料理も食べさせてあげるからこのお店を苦手にならないで貰えるかな?」

 

 よくは憶えてはいないけど、元はと言えば私が暴れてしまったのが原因だと言う事くらい分かっている――――つもりだ。だからこの人からのお願いに答える前に。

 アイズは席から離れてミアに近づいた。

 

 「なんだい」

 「えっと・・・・・・覚えていないけど暴れてごめんなさい」

 「ほお、ちゃんと謝罪するとは良い心がけじゃないか。なに、これから先うちのルールさえ守れば良いのさ」

 「は、はい」

 

 あのミアが素直に謝罪を受け入れるはと、意外感を示しつつ感心するロキ・ファミリア一堂。

 

 「それに、壊した物は全部アンタの保護者達に弁償させるから構いやしないよ!」

 

 これにロキ・ファミリア全員がうぐっ、と唸る。

 

 「何だいその反応は?まさか天下のロキ・ファミリアともあろう者達が、自分達のとこのがやった不始末のケツを自分達で拭かないつもりじゃないだろうね?」

 

 最後は言葉にドスが効いていて、幹部以外が怯み、正論故に幹部達であるフィンたちも黙った。さらには怯んだ者達の中には調子に乗ってアイズに酒を勧めた者達は誰よりも頭を垂れた。正しくこれこそ、ぐうの音も出ないと言う奴では無いだろうか?

 

 「ま、まあ、兎も角ちゃんと謝れたのは偉いぞ?」

 「は、はい」

 

 変な空気になったので誤魔化すようにアイズを撫でながら褒める士郎と、それを甘んじて受けるアイズ。

 その撫で方が凄く懐かしくて気持ちよくて、気が緩んだアイズはつい言ってしまう。

 

 「わ、私の名前はアイズっていうんだけれど、貴方のお名前は?」

 「ん?そう言えば自己紹介してなかったな。良い名前だな透き通った水面を表している様で。うん、兄ちゃんの名前は士郎って言うんだ。エミヤ・士郎。よろしくなアイズちゃん」

 「ちゃんはい、いらない。アイズで良い。そ、その・・・・・・」

 「俺の名前も好きに呼んでくれていいぞ、アイズ」

 「う、うん。士郎。起こしてくれて、美味しいデザートまでありがとう」

 「どういたしまして」

 

 言いながらもアイズの頭を撫で続ける士郎と、気持ちいのか甘んじてそれを受け続けるアイズ。

 何とも言えない空気からあの二人だけの話で士郎に話を聞くタイミングを失したフィン達。

 

 ――――それにしても。

 

 なでなで。

 ふみゅう。

 なでなで。

 ふみゅう。

 なでなで。

 ふみゅう。

 

 士郎と名乗ったあの少年、アイズを撫で過ぎではないだろうか?

 フィン達の誰かが或いは全員がそう考えた時だった。

 

 「ア、アカン・・・」

 「ロキ?」

 

 人は神に嘘をつけない特性を利用して、この空気の中でも士郎と言う少年に質問するのだろうかと考えた時。

 

 「今やアイズたんはうちのカワエエカワエエ子供の一人や。そんなアイズたんの貞操喪失の危機!」

 

 いきなり何をと止めようとしたが時間が間に合わずアイズと士郎(二人)に跳びかかって行くロキ。

 

 「アイズたんの大事な操はうちが命をかけて守っ、とぶふっ(喧しい)っ!!」

 

 奇行に走ったロキを死なないようにかつ素早く強引に殴って止めたのは、他でもないミアだった。

 

 「アンタらもう帰るんだろ?壊した物品の弁償は後日で良いから、この表六玉をとっとと連れて帰りな」

 「わかった、すまんのぉ」

 

 こんな時ばかりは素直にミアの言葉にを受け入れるガレス。勿論気絶したロキを背負う。

 

 「士郎。バイバイ」

 「ああ、おやすみアイズ」

 

 そして最後にまた撫でる受け入れる。

 士郎に聞きたい事が在ったフィン達も、今日は止めてもうホームへと帰還する事にして豊穣の女主人を後にした。

 

 「全く面倒な連中だね」

 「独特な方が多いとは感じましたけど」

 「まあ、いいさ。そら、厨房に戻るよ」

 「はい」

 

 ロキ・ファミリアを見送った後、直に店内に戻る二人。

 暫くして常人やそこらの冒険者では聞き取るのは難しい距離で士郎とミアだけが気付いた。

 

 「また誰か暴れてますね?」

 「闇派閥(イヴィルス)のクソ共だね。もう片方は・・・・・・」

 

 聞き覚えがある士郎は少ししてから気付く。

 

 「まさか、アストレア・ファミリアの麗しき使徒(アリーゼ)達?」

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