料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 作:昼猫
ギルドの受付では何人もの冒険者が机を乱暴に叩き付けて受付嬢に怒鳴っていた。
「この手配書は一体どうなってやがるっ!」
「強化種が一体だけの筈が四体なんて聞いてねぇぞ!」
「そ、そんな筈は・・・!?調査を依頼した別のパーティーの報告では確かに一体だけですと・・・」
「そんな筈もあるかクソッタレ!」
「俺のパーティーはその、そんな筈の誤情報で半壊状態なんだよっ、どうしてくれる!!?」
誤情報と言う理不尽に踊らされたからの激昂状態の冒険者達と、必死に宥めるように抑える受付嬢の混沌とした光景がギルドの玄関で繰り広げられていた。その光景を秘密裏に設置してあるマジックアイテムの
「まただなウラノス。ここ最近で何度目だ?」
「・・・・・・・・・」
ギルドの真の頂点であり、オラリオの創造神たる神ウラノス。それとこのオラリオでも極々一握りの者達にしか存在を認知されていない黒いフードに身を包んだ性別・年齢不詳の怪人で非公式の神ウラノスの私兵兼側近の
「強化種の出現。これ自体は珍しい事ではあるが、ないわけではない。だがここ最近の事前調査の時点で判明していない強化種の増加はあまりに異常過ぎる。ウラノス、貴方はどう思う?」
「・・・・・・・・・何者かの昏き意思、いや神意を感じる」
「もしや、
「或いは全員が裏で糸を引いている可能性も否めないな」
僅かに沈黙が場を支配する。だがそれも一瞬の事。
「危険ではあるがリド達にも動いてもらう。構わないかウラノス?」
「・・・・・・・・・」
その沈黙は肯定の意であろう。確認したフェルズはリド達に動いて貰うべく、オクルスで早速連絡を取ろうとする時にダンジョンの入り口に仕掛けていたオクルスから異常事態が見える。
「あれは、冒険者――――アストレア・ファミリアが入り口付近で何者かと戦っている?」
それはアストレア・ファミリアの戦闘の光景だった。彼女達はお互いを庇いながら一人の男と戦っていた。その時。
「なにっ?」
オクルスから見える光景には男が醜い化け物に変貌した。
「ウラノス、神威はっ!」
「破られていない、オルクス越しだが彼は人間だ。少なくともモンスターではない」
「スキルや変身魔法・・・・・・には見えなかったが一体何が起こっている?」
最初から全知の神であったウラノスにも、昔は賢者と呼ばれた生きる亡霊の五百年分の知識を治めたフェルズでさえも後手に回る事態が起きていた。
唯一予感できるのは、今も直混沌とした時代を更なる闇がオラリオを静かにだが確実に蝕もうとしている事だけだった。
-Interlude-
ダンジョン内で一人の男相手に総出で戦っていたアストレア・ファミリアは、ダンジョンの入り口である地上のバベル前まで後退を余儀なくされていた。
「っ!?」
本来であれば互いを庇い合い攻防にも鋭さを持たせたアストレア・ファミリアの連携は、目の前の敵を圧倒は出来ずとも徐々に押し返して戦いを有利にすることは出来た筈だった。
出来ずにいる原因は主に二つ。
一つは自分達が保護した奴が邪魔過ぎた。拘束していればと後の祭りよろしく後悔したモノだが、彼は中途半端に回復しては地上へ向けて逃げ、倒れる。暫くして回復しては逃げて倒れるの繰り返しをして彼女たちの陣形を大いに崩した。
「邪魔だ、小娘共ォオオオオオオオオオオオオッッ!!」
敵の狙いはあくまでも、彼女たちが保護した厄介者であり、敵にとって彼女たちはそれを阻む路傍の石ころと言う認識でしか無い。
「がはっ、ハァハァ・・・・・・」
「輝夜っ」
「輝夜の事は今は放っておきなさい!」
そしてもう一つの原因が彼女たちの仲間で、現時点で誰よりも技の冴えが鋭い輝夜の戦闘不能状態にあった。別に敵に早々にやられて大怪我した訳では無い。事実彼女は途中まで誰よりも敵に肉薄して、膂力で負けている分は技の冴えでたった一人で敵の攻撃の六割を防ぎきっていた。あの男が醜悪な化け物に変貌するまでは。
「ハァ、ハァ・・・・・・クソっ」
輝夜は自分の脆弱な心が憎らしかった。肝心な時に立ち上がれず屈辱だった。立ち上がり仲間達と共に敵を打倒したくても出来ない自分を恥じた。どうしても出来ないのだ。トラウマが起きたせいで。
――――恐れながらも探した証が私の目の前で顕現した事で。
胃が捻り曲がる様な幻痛が私を蝕む。なんて私は惨めなんだ。
「………っ」
そんな輝夜を仲間達は皆気にしながらも戦い続ける。中でも一番気にしているのは他でもないアリーゼだ。彼女と女神アストレアのみが輝夜の過去を本人の口から聞いていた為、その戦闘不能状態から目の前の敵が元凶がオラリオに来ている証であり、手がかりなのだと理解もしたのだ。出来れば生け捕りにしたいがそんな余裕もない。
「フッッ!!」
早くもアガリス・アルヴェンシスを発動させているアリーゼは、そのまま
「なっ!!?」
敵の隙を突くために仲間に協力してもらい、両腕の防禦が間に合わない様にした瞬間を見極めて喰らわせられる必殺――――の筈だった。相手の動作速度の催促を戦いながらも観察し続けたにも拘らず、絶対の間に合わない腕が彼女の燃え上がり続けるレイピアの切っ先を確かに掴み取っていたのだ。
「あっっちいんだよぉおお!クソ女がぁああああああああああああああああ!!!」
「ああっ!?」
「アリーゼ!?」
もう片方の腕でアリーゼを馬鹿力で突き飛ばした醜悪な敵。それを目にしていた保護されている厄介者は、またも怯えながら逃げ出した。よりにもよって一般市民の住宅や宿屋、酒場が多く在る
「馬鹿!?」
「いけない!」
「何でそっちに逃げるのよっ!!」
「邪魔だ小娘共ぉおお!!」
走る場合は醜悪な状態よりも元の姿の方が速いからか、人間の姿に戻った敵の男はアリーゼが抜けて崩れた陣形の隙をついて本来の標的を追った。
「大丈夫ですか団長!」
「私の事はいいから!追うわよ!!」
アリーゼの掛け声にほぼ全員頷いて彼らを追った。唯一戦闘不能状態だった輝夜は、脆い心に鞭打ってなんとか追随したのだった。
-Interlude-
西地区。
「こんのぉ!」
魔法やスキルを駆使して、追いつくどころかなんとか追い抜いた彼女たちは、今は結果的に厄介者を守る陣形になってはいるが、それを切り捨てる事にした。
「此処から・・・!」
「出て行けェええ!!」
この西地区の一般住民の人命を最優先する事にしたのだ。だが。
「邪魔だぁああ!!」
「ぐっ!?」
敵の体当たりでリュー・リオンは突き飛ばされた。そして倒れ込んだ場所は
「今、リューの声がしたようなって・・・・・・・・・リュー!?」
外が騒がしいので様子を見に、表へ出てきた士郎は彼女を直ぐに抱き寄せて介抱しようとする。
「触るっ、て、エミヤ・・・さん・・・・?どうして此処に?」
「鍛冶以外の仕事を非常勤でしてるって言ったろ?って、今はそんな事はいい!どうした・・・・・・と」
事情を聞こうとした所で、辺りを見ておおむね理解する士郎。
「どうだったんだいエミヤ?って、何だいその覆面?」
続いて現れたのは不機嫌そうなドワーフの女店主、ミアだ。
「彼女はファミリアが違いますが俺の仲間で・・・・・・」
「ああ、いい。大体わかった。アイツかぁ・・・・・・」
士郎と同じく周囲の状況から直にミアも騒ぎの元凶を目に留て理解した。
その元凶は今まさにどこの誰か判らない、服装からして冒険者だろう男に襲い掛かろうとしていた。
だがそれを止める者がいた。それは正義感からだろうか?いや、違う。仲間を傷つけられた怒りと、商売を邪魔してくる怒りの二つだ。
「ヒィイイ!!?」
「これで終わっ!?」
食うためにまたも醜悪な化け物へと変貌しようとした直前、自分の斜め前の左右に一組の男女が突然出現した。
「俺の仲間を傷つけておいて好き勝手に暴れてるんじゃねぇ――――」
「アタシの店の近くで暴れやがって、営業妨害だ――――」
「「――――よっっ!!」」
文句が先か攻撃が先か、元凶に向けて、言うと同時に士郎は強烈な蹴りを鳩尾に突き刺すように放ち、ミアは並外れた膂力が籠った握り拳を遠慮容赦なく顔面に突き刺した。
「ごぺきゅっっっ!!!?」
元凶は鳩尾への蹴り技によって多大な内臓への負荷へ繋がり、その反動で血反吐を思い切り吐こうとした。だが顔面への攻撃により鼻の骨は砕け続け多くの歯も砕け散り、顔面は変形して無理矢理気道が一瞬封鎖されて、血反吐を吐く以前に呼吸すらままならくなった。が、それも一瞬の事。
「ぶろろぉおおおおおおおぉおおおおおお!!!!?」
士郎の蹴りとミアの拳が元凶の体から離れた。否、自分の体が衝撃で後ろの吹っ飛んでいっただけ。皮肉にもそのおかげで血反吐を吐きながら気道も確保できた。
そうして吹っ飛んだ元凶は何度かバウンドしてから地面引きずる跡を作ってから止まり地面に沈んだ。
「まったく、なんだったんだい?」
下らないと吐き捨てながらミアは店の中に戻って行った。
見送った士郎はリューを始め、アストレア・ファミリアの麗しき使徒達に手を貸す。
「大丈夫かアリーゼ?」
「私よりも敵の拘束をお願い」
「む、わかった・・・・・・と?」
アリーゼからの頼みで、吹っ飛ばした敵を拘束しようと立ち上がろうとした所で、男を包み込むように術式が展開されて。
「っ」
「消えた?」
彼女たちや衆目の中、散々暴れて気絶した男は術式と共に消失した。
――――あれは転送・・・?
この場で士郎だけがあの現象を正しく理解出来た。
「団長こっちもです!あの男、約束破って何処かに逃走してしまったかもしれません!」
「くっ!」
「何の話だ?」
流石にこればかりは事態の把握が出来ずに尋ねる士郎。
「それが――――」
-Interlude-
あの後事情説明を聞いた士郎を残してアストレア・ファミリアのほぼ全員で、約束を反故にしたであろう男の捜索に駆り出ている。唯一ホームに帰還しようとしていたのは輝夜だけだ。これは団長命令であり、休むのも勤めの内だと言われては仕方がなかった。
「・・・・・・惨めだ」
あの話し合いが終わる前に何とか追いついたが、士郎と目が合った。アイツは私を心底心配そうに近づこうとしたが、私が目で拒んだ。今は構わないでくれと。
士郎はそんな私の気持ちを汲んでくれた。だがそれが余計に自分はさぞ惨めだったろうと客観的に思えてしまったのだ。
沈んだまま輝夜がホームの扉を開けると。
「あら、お帰りなさい輝夜」
「ア、アストレア様・・・」
帰還直後、広間に居たのは彼女たちの主神アストレアだ。
彼女はすぐに輝夜の暗い顔である程度察した。
「今の貴方がすべきことは休む事ね」
「・・・・・・はい」
「後でホットミルクティーを持って行くから大事にしていなさい」
「ありがとう・・・ございます」
アストレアの気遣いを受けて自室に戻る輝夜。ベットに腰を掛けて俯く彼女は机の上のみ覚えのない一通の手紙に気付いた。
「・・・・・・何時の間に。誰からだ・・・・・・?」
立ち上がり机の傍に行き、手紙を取り中を開けてみると。
『久しぶりだね輝夜君』
大きく記された文字に誰からだろうと訝しむこと数秒。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま、さか!?」
私のこれまでの人生で、呼称に君付けをしてきたものは一握りしかいない。まずオラリオには誰もいない。心当たりはない。とすればオラリオに来るまでの誰かだが、その中の誰もが結果的に全員既に故人だ。ある一人を除いて。
だがこの文章だけでは判らない。手紙は蛇腹降りとなっており開けばすぐに解る。
「嫌だ」
開きたくない。続きを読みたくない。だが此処で手紙を破り捨てても恐らくなにも変わらない。
塔の屋上から投身自殺する思いで手紙を全て開くと。
『約束通りオラリオに来てくれて嬉しいよ。宣言した通り私は今もこのオラリオの何処かに居る。此処に来たと言う事は、私の戯れに付き合ってくれると解釈しても良いのだろうか?だとすれば是非歓迎したい、そうでなくても勝手にするがね。君のファミリア全員や友人の鍛冶師共々退屈はさせないよ、楽しみにしておいてくれ。 フジヤマ・陽の仇より』
「!!」
想像通り、いやそれ以上の内容だった。もう既に私の周囲を把握されている。このままだとアストレア様とアリーゼ達、その上士郎まで巻き込む事になる。ならばいっそ・・・・・・?
偶然にも最後のページの裏にまだ書かれていた文章を見つけてしまった。
『追伸、今君がアストレア・ファミリアから離れたとしても、君と親しくなった者達の事はずっと認識し続けるとも。それを忘れないように最善の選択をしてくれたまえ』
「――――」
あまりの事に足に力が入らずに崩れ落ちる輝夜。
「どうすればいいんだ・・・・・・・・・私は、私は・・・・・・!」
答えが返ってくる事は無く、絶望と言う名の宣告が輝夜の心を蝕んだ。
最初はリューをメインヒロインにしたのを書こうと始めたのに、いつの間にか輝夜とアリーゼがメインヒロインっぽくなっている。何故だ。