料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」   作:昼猫

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第14話 過去に立ち向かうために

 天界に邪神などいない。そんな概念は無い。少なくとも邪神と言う概念は下界にしかない。

 そもそも邪神とは、六年前までの約千年間、オラリオに存在していた最強の二大ファミリアの主力が隻眼の竜の討伐クエストに失敗・全滅し、弱体化した末にオラリオから追い出された事がそもそもの始まりだ。最強と言う存在が消えた事で抑圧されて来た暴力や悪・残虐と無秩序の意思が一気に表面化した。それらの昏き神意の下に集まる混沌の意思の集合を俗に闇派閥(イヴィルス)と呼ばれ、そこの主神たちをギルドが邪神と指定・認識したのだ。

 ともあれ、闇派閥(イヴィルス)の主神たちは邪神と呼べれても気にする神も居らず、寧ろ喜んで受け取る神々もいたくらいだ。

 だがこの神は前者だった。

 

 「やあ、トライヘキサ」

 「ん?タナトスか。何の様だ?」

 

 前者の邪神タナトスが自称・邪神のトライヘキサに声を掛けた。

 

 「聞いたかい?モンスターの一体がバベルを突破したらしい噂を」

 「ほお?そうなのか。しかしウラノスがいる限りそう容易く突破できるとも思わんが」

 「噂だと言っただろう?詳しい所までは知らないが、そのモンスターは子供たちに化けられるらしいよ?」

 「化けた所でウラノスの神威を突破など出来る筈もないだろう。まあ、お前は基本的に暇神だろうから、その手の話の一つでも暇つぶしにしたいと言う気持ちは判らんでもないが」

 「暇神呼ばわりは酷いな。ギルドが邪神認定解いてくれたら街に繰り出せるんだけどね~」

 

 タナトスの言う通り、闇派閥(イヴィルス)の各ファミリアの主神たちは以前のように街をぶらつけない。まず護衛無しで街に繰り出せば、即座に御用となりギルドに連行された後、天界への強制送還となるだろう。

 それほどまでに全邪神は危険視されると同時に重要視されている。それこそ、自分達の子供達の懸賞金額を超えるほどの賞金首としてギルドに認定される程に。

 

 「それにしても珍しいじゃないか?俺達闇派閥(イヴィルス)の邪神達で一番の情報通の君がこの噂を知らなかっただなんて」

 「引っかかる言い方だが、そう言う事もあるだろう。私はこれでも忙しい身なのでな」

 

 以前からタナトスは――――いや、全邪神は最初に会った時から思っていたことがある。

 

 「まあ、また何か面白い情報が入ったら知らせて欲しいな」

 「勿論、その時は満足いくまで聞かせてやろう」

 

 ――――邪神トライヘキサ(コイツ)何だ(・・)

 

 

 -Interlude-

 

 

 夜が明けても昨夜ちゃんと寝たのか寝れなかったのか定かでは無い輝夜。ハッキリ言って呆然自失状態の彼女だが、そんな事にお構いなく突撃したのはアリーゼであった。

 

 『輝夜、あの後も何が在ったのかも知らないけど皆にちゃんと話しましょう?』

 『詳・・・細は・・・・・・』

 『言いたくない箇所は伏せていいから、大切な箇所だけでも話しましょう?大丈夫、皆分かってくれるわよ!』

 

 何の根拠もないのに、いつでも明るく自信満々に言い放つアリーゼ。

 アストレア・ファミリアに入った時から、輝夜はいつだって彼女の笑顔に救われてきた。そしてそれは今回も。アリーゼの優しさと強さに背中押された私は。

 

 「――――と言う事だ」

 

 所々詳細を省いて仲間達に説明し終えた。

 

 「そんなヤバい奴に目をつけられてるのかよ、輝夜!」

 「注意する所はそこじゃないだろ、ライラ」

 「ええ、何所であろうとそんな外道を放置できません」

 「お前達・・・!」

 

 仲間たちの反応に意外感と言う訳ではないが嬉しさを感じる輝夜。ライラは伏せた情報辺りを何となく察して、揶揄う事で輝夜を元気づけようとしたのだろう。ライラらしい。

 

 「その手紙の内容通りなら探す必要は無いんじゃないのか?」

 「いやいや、人の命を何とも思わず冒険者を化物に変貌させる薬を誰彼構わず使う外道を放置するのは危険でしょう?」

 「何より、そんな相手のメッセージを鵜呑みにするのは危険ですよ?もしかしたら手紙の内容はブラフで、私達に一切の接触を持たずにこのオラリオで更なる混沌へ追い落とす可能性の方が高いんじゃないですか?」

 「むぅ」

 

 最早我がごとの様に議論する仲間達を見ていた輝夜に、アリーゼは。

 

 『ね?言ったでしょう?』

 

 みたいなドヤ顔を満面の笑みのまま向けていた。

 

 「だけどそんな外道も一応神を名乗ってるんでしょう?アストレア様は何か心当たり在りませんか?」

 「性格や神格に多少なりとも問題がある神の方が多いの現実ですが、そこまでの非道に躊躇なく実行する神となると、少なからず心当たりがありますが、下界に降りて来てファミリアを作り子供たちと触れ合う事で丸くなりましたから、それ以外は心当たりはありませんね」

 

 主神(アストレア)の言葉に残念がるのは2,3人だけ。他は最初から期待していなかったとかそういう事では無い。自分達に話す以前からアリーゼ含めて輝夜から聞いていたとすれば、少しでも心当たりがあるなら調べてきた事を信じているからである。最初の2,3人は頭がちょっと残念なだけだ。

 

 「せめて手掛かりが有ればいいんだろうけど」

 「手がかりではありませんが、新たにギルドに報告すればいいのでは?昨日バベルを突破したのはモンスターでは無いと、詰めかけた一般人の方々や商人への説明で追われている筈。冒険者を化け物へと変貌させる危険な薬を作っている者がいると報告すれば」

 「もしかすればギルドの協力を得られるかもしれないって事?」

 「悪く無いアイデアだと思うけど、あのロイマンが素直に協力してくれると思うか?」

 「疑い出したらキリがないわ!リオンの提案に乗ってギルドに報告しに行きましょう!」

 

 アリーゼの決定で何時もの様に方針が纏まる。ではすぐにでもとホームを発とうとすると、お客が来た。

 

 『すみません!ギルドの者ですが、昨夜の件でお聞きしたい事があるのですがどなたか宜しいですか?』

 

 なんと、ギルドの方から来た事に全員で顔を見合わせる。そしてならばと早速招き入れる事を決められた。

 ロイマンの出方を心配していたライラも、これならば少なくとも下手に出る必要は無いだろうと胸をなでおろしたのだった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 後日、アストレアは護衛のアリーゼを連れてヘファイストスと待ち合わせた外食店に来ていた。

 

 「ごめんなさいね、アストレア。先日貴女の子供たちが関わった件で、しばらく外食や単独行動は控えるようにって私の子供たちにお願いされてね。遅刻してしまって」

 「いいえ、構いません。今日の予定を切り出したのは此方ですから」

 

 挨拶から冗談を交えた談話をしながら昼食をとる二柱の女神。そして護衛のアリーゼと士郎。

 

 「――――今日来てもらったのは今後の事なのです」

 「・・・・・・軽く士郎から聞いてるけど、ギルドからの協力は得られなかったんですって?」

 「ええ、不明瞭な部分が多すぎるとの事で」

 

 アストレアはちらっとアリーゼを見た。アリーゼの様子はアストレアの言葉に反応して体全体を僅かに強張らせていた。表情は憤慨しているでもなく苛ついているでも無い。自分達の証言を信じて貰えずに、悲壮感を漂わせている感じだ。

 ほぼ同時にヘファイストスも自分の子供をチラ見すると、士郎はアリーゼに心配な視線を送っていた。

 

 「ギルドの中立と言うよりも日和見的な部分は今に始まった事では無いでしょう?でも、その上で何か方針があるんでしょう?」

 「はい。出来る事は限られていますが、不明瞭な部分を少しでも明確化させればギルドも協力すると言質を取りました。そこでうちの子達が地上とダンジョンの二班に分かれて調査する事に決めたのですが」

 「うちの士郎を貸してほしいって?」

 「い、いえ、彼にご助力頂ければと・・・」

 

 ヘファイストスからの悪戯的な含みのある物を扱うような言い方に、アストレアはオブラートな言葉を選んだ。

 

 「フフ、そう慌てなくてもいいわよ。いいわよ?私は別に」

 「え?」

 「今回の件は早期に解決。次善で明確な情報収集を取らないと、今まで以上の治安悪化を招く恐れが在る。それは私達ヘファイストス・ファミリアの本意では無いわ」

 

 本来であれば情勢不安や治安の悪化は商人、とくに武器商人にとっては儲かるシーズンと言ってもいいだろう。だがこのオラリオではその限りでは無い。このオラリオには世界で唯一のダンジョンがある。そのダンジョンを攻略していく冒険者にとってアイテムや武器や防具は不可欠なモノだ。だがそれらの元の素材のドロップアイテムのほとんどがダンジョンで取れるので、治安の悪化や情勢不安はそれらの供給や恩恵の妨げとなるのだ。だからこそ今の現状はヘファイストス・ファミリアは勿論、ゴブニュ・ファミリアや他の鍛冶ファミリア、また回復アイテムなどを販売する治療・製薬系統のファミリアにとっても喜ばしい事では無い。

 だからこそアストレアからの頼みにヘファイトスが応えるのは何の不思議もない事だった。

 

 「でも私の許可と士郎の意見は別よ?」

 「え?」

 「変な意味じゃ無いのよ。私は許可したけれど、士郎からの同意を得てねと言う単純な事よ」

 

 至極真っ当な話だ。勿論その流れで士郎に視線が集まる。

 

 「別に構わないぞ?」

 「へ?」

 「何だその意外そうな顔は?当然だろ?友人が困っていて助けを求めて来たんだ。即座に応えるのが本当の友人、仲間っていうモノだ。だから見損なってくれるなよ、アリーゼ?」

 「う、うん。あ、ありがとう・・・!」

 

 自分達の子供達のやり取りを微笑ましく見る女神達。それから女神たちも交えて詳しく話を詰めて行く。具体的な話がまとまったら今日はそこで解散するのだった。自分達の様子を観ていた者がいたとも知らずに。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 二柱と二人の会食を観ていたのはバベルの最上階に個人的居を構える女神だった。ロキ・ファミリアと対と為すフレイヤ・ファミリアの主神、美神とも呼ばれ魔女とも陰口を叩かれる女神フレイヤである。

 

 「またなのね」

 

 友神という程親しくは無い女神アストレアだが、彼女の子供の見る目は確かだと評価している。アストレアの子供達はまだまだ私の子供達に及ばない域だが、それでも粒揃い。将来は第一級冒険者から最低でも第二級冒険者にまで至れる程の器を持つ子供ばかりと。

 

 だがフレイヤが気にしたのはアストレア達(そちら)では無い。友神のヘファイストスの方だ。

 

 ヘファイストスの刀剣類の見る目が確かなのは言うまでもないことだけれど、子供を見る目は不確かだったみたいね。単眼の鍛冶師(キュクロプス)を始め、鍛冶師としても冒険者としても中々の子が揃っているヘファイストスのファミリアだけど、最近彼女が御伴にさせている赤銅色の髪の少年(子供)にはなに一つとして突出した才を感じない。喩えるなら路傍の石ころと言った所かしら。ヘファイストスの子供達全員に平等の愛をあげる所は敬意を向けるけど、あんな子にまで・・・。と言う以前にどうしてあんな子をファミリアに入れたのかしら?それとも私の眼を以ても見通せない“何か”があの子にあると言うの?

 

 暫く考えるフレイヤだが。

 

 「馬鹿馬鹿しい」

 

 無価値な思考であると一蹴するフレイヤ。

 

 「如何しました?」

 

 側に控えていた猪人(ボアズ)がフレイヤに尋ねた。

 彼の名はオッタル。前団長ミア・グランドが諸事情で半脱退した折、団長の座を引き継いだ若き武人だ。

 

 「いいえ、気にしないで頂戴」

 

 所詮は些末事だからと付け加えて。

 結局フレイヤは士郎を路傍の石ころと決定づけた。現時点では。

 そして気付かなかった。誰にまでは特定できずとも、誰かからと何処からだけなら士郎が見られている事に気が付いていた事に。


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