料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」   作:昼猫

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 始末犬はこの神時代、ダンまち世界の人であって、英霊ではありません。


第15話 始末犬との邂逅

 本日から調査を始めるアストレア・ファミリア全員+エミヤ・士郎(α)はダンジョン入り口のバベル前に集合していた。

 

 「――――確認するぞ?輝夜自身も不明瞭な部分が多い程の相手だ。貸したそれ(・・)で定期連絡をしてくれ。勿論此方からも送る」

 

 士郎の言うアリーゼに貸したそれとは、小さな梟の形をしたマジックアイテムの【風魔】だ。ダンジョンで採れる特別な鉱石で作ったので軽い割に耐久力が高い。片手の平で乗りきれるサイズなので携帯しやすく、その上透明化することも可能で隠密性も高い。単純な命令であれば自動行動もできる上、視覚をリンクさせれば複雑な操作も可能。つまるところ、魔術師(メイジ)の使い魔的な事をコンセプトに制作したマジックアイテムだ。

 

 「手紙を預けるでも、魔力を通せば直接伝言も預かってくれる。この際だからそれは今日からアストレア・ファミリアで使ってくれていい」

 「ありがとう!けどこんなモノも作れると言うか、いつの間にかに持っていたの?」

 「先日の騒ぎが起きる少し前にな。あと緊急時はそっちを使ってくれ。あとこっちはだな・・・・・・」

 

 最初側こそは士郎の気遣いや、色々なマジックアイテムの提供や貸し出す事に感謝の念を禁じ得なかったアリーゼも、士郎の説明の長さやマジックアイテムの多さに表情から感謝と言う熱が消えて行った。

 最初の集合時に士郎が大きめのバックを背負ってきたから何かと思えば、見た事もないマジックアイテムや魔剣だった。しかも相当数。その多くを今回の事で全部貸し出す気らしい。

 現在進行形でバックから取り出しては説明し続ける士郎に、アストレア・ファミリアほぼ全員から辟易されて行く。無論士郎は気付いていない。

 

 「よし皆!調査を始めるわよ!」

 「待てアリーゼ!まだ半分も渡し終えてないぞ?それに説明も」

 「良いから行きましょう、士郎」

 

 きりがないので無理矢理に話を終わらせて調査開始する士郎以外の女性達。

 

 「なんでさ~!」

 

 士郎は引きずられて行った。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「納得いかん」

 

 本日はアリーゼの方がダンジョン側で、士郎含む第二班が地上組だ。結局各班、士郎からのマジックアイテムは数個程で、残りの9割程は一旦士郎の家に戻ってお持ち帰りさせた。士郎はこの件で憤慨しているのだ。

 

 「持たせすぎなのよ士郎は」

 

 士郎を諫めているのは、アストレア・ファミリア+士郎(α)の中でも最年長のマリュー・グラシアだ。地上組のメンバーが個性と言う意味で尖っているので、その仲を取り持って監督できる役にと白羽の矢が立ったのが彼女だった。因みに他のメンバーは士郎を除いて、輝夜にリュー、それにライラの合計5人だ。地上の聞き込みは疎かにしていい訳ではないが、危険度だけで言えばダンジョンの方が上なので人数もそれを見越しての割り振りとなっている。

 

 「まだ言ってんのかよ士郎は?意外とねちっこい奴だったんだな」

 「酷い中傷は止してくれライラ。俺は真剣に皆の心配をしてだな・・・」

 「ねちっこいんじゃなくて、実のところは過保護だな士郎は」

 「どこがだ?」

 

 ライラの言い様が気に入らないのか、士郎は食い下がる。

 それをリューが見つめていた事にマリューが気付く。中々の関心の宿った視線の様だが、此処で下手に揶揄うなどすれば弾みで暴走妖精(ジェノサイダー・エルフ)を顕現させる可能性が有ったので見守る事にした。

 

 「――――所で、何所で情報収集にあたるのですか?」

 

 リューに聞かれたので言い淀む士郎。穢れを誰よりも嫌うこのエルフに、どう説明したモノかと躊躇っているのだ。

 

 「リオンに遠慮なんてしなくて良いんだぜ士郎?――――【モモジの穴蔵】周辺だ」

 

 【モモジの穴蔵】は酒場ではあるが、単なる酒場では無い。ゴロツキや冒険者の半端者、果ては外部から不法に侵入した傭兵や殺し屋なども出入りしている。さらには、闇派閥(イヴィルス)の構成員も拘わっていると言う噂すら流れている。

 しかしでは何故そんな場所が今も直ギルドの強制任務(ミッション)やガネーシャ・ファミリアなどによって制圧・検挙されていないかと言えば、そこが治外法権の娯楽施設の末端にあるからだ。主に都市外からやって来る各国の王族・貴族らの護衛として雇われた傭兵などが使っている場所で、末端とは言え治外法権の一部としてギルドもガネーシャ・ファミリアも手が出せないのだ。ちなみに周囲にも同じ性質と恩恵を持った酒場が複数ある。

 

 「正気ですかエミヤさん!?」

 

 そんな所に手を出せばただでは済まない。最悪士郎に加えてアストレア・ファミリア全員都市外退去処分になる可能性すらある。だが。

 

 「安心してくれ。モモジの穴蔵に周辺の酒場まで聞き取り調査をしていい許可はとってある(・・・・・・・・・・・・)

 「っ!?ど、どうやって・・・!」

 「まあ、そこは鍛冶師としてのコネってとこかな?」

 

 士郎の鍛つ刀剣類は機能性だけのモノではない。士郎本人の意思はともかく、依頼があれば美術的な綺羅びやかな刀剣類も鍛つ。そして士郎の鍛った後者の刀剣類は、今ちょっとした流行りが各国の王族・貴族の間で広まっていた。その事を直ぐに察知した娯楽施設の支配人や大物商人などは、ヘファイストス・ファミリアと直ぐに接触して士郎に流行り物を依頼したのだ。その依頼を何度か受けていった結果として、彼ら各国の王族・貴族らと間接的にコネクションを築いたと言うわけだ。治外法権の娯楽施設に顔が利くコネクションを持ったからこそ出来る力業でもある。

 

 「と言っても、あまり手荒な真似は出来ない。あくまでも任意の情報収集しか出来ないけどな」

 「それではあまり意味がないのでは?」

 「相変わらず王道しか知らないよな?リオンって」

 

 ライラからの馬鹿にするような言い方にリューは軽く苛立ちながら聞き返す。

 

 「では邪道好きのライラに手があるのですか?」

 「ああ~、王道しか考えつかないエルフ様には思い付かない方法がな・・・!」

 

 さらに挑発し返すライラにまたもリューが苛立つ。これでは一向に話が進まないと士郎が二人の間に割って入る。

 

 「俺たちがこれからするのは、釣りだ」

 「釣り・・・・・・ですか?」

 「無理に聞き出せない奴等に頼るんじゃなく、躊躇わずに聞き出す方法を選ばなくていい獲物を誘き出す、な」

 

 リューにあくまでも形だけの情報収集を説明している間に目的地につく。

 

 「さあ、始めるぞ」

 

 肩肘張らずに、薄汚れた巣窟に士郎を先頭に乗り込んでいった。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 暗い、とても薄暗い中に“彼”はいた。何をするでもなくただ一人、瞳を閉じている。この何もしなくていい時間が彼は存外嫌いではなかった。

 そこへ、静寂をかき乱すように近くでドタバタと複数人の足音や物音が彼の部屋にまで響き渡った。これではゆっくり休んでも居られないと自室を出て、ちょうどよく近づいてきた部下を捕まえる。

 

 「どうしたがか?」

 「それがマスティマ様の新たな同士、トライヘキサ様の事を御姿を描いた絵で探っている者達がモモジの穴蔵に現れたのです」

 「ちょい待たんかいっ、モモジの穴蔵は神ヒイシの下っ端共のシマだった筈じゃろ?なして追いださん?まさか奴ら・・・・・・裏切ったがか!」

 

 裏切りを何よりも嫌うこの男は激しく反応する。

 

 「いえ、その近辺の娯楽施設に顔を聞かせている様でして」

 「つまるところ、搦め手かに。メンドイのぉ」

 「どうしましょうか?」

 

 同じ主神を仰ぐ部下からの質問に腕を組んでから考えて。

 

 「トライヘキサ(客人)から貰ったのあるじゃろ。アレ(・・)を出せるだけ出しとけ。そいと、今すぐ出れる奴、かき集めんかい」

 

 ”彼“の指示に改めて動き始める構成員。彼は彼で浪人笠を被って刀を持ち、戦闘の身支度を始める。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 「まったくフィンの奴め」

 

 調査の帰りなのか。ロキ・ファミリアの幹部のガレスがぶつくさ言いながら帰途について行く。

 

 「仕方あるまい。フィンもアレで忙しい。いざという時は誰にでも頼むと言う事だ。人数が限られて少数で動かすしかないなら、お鉢が私達に回って来ても可笑しくは無い」

 

 調査と言うのは最近の闇派閥(イヴィルス)が勢力を増強させた件だ。これにより正規の各ファミリアの冒険者たちは苦戦を強いられる結果となっている。何故急に此処までの力をつけられたのかの原因と調査の為、ガレスとリヴェリアが駆り出されたのだ。

 

 「とは言っても収穫ゼロじゃからのぉ。さて、どうするか、と」

 

 曲がり角を曲がった時に5人の男女とぶつかりそうになる。

 

 「考え事しておっての、すま・・・!」

 

 その中に唯一少年で見覚えのある若者がいた。

 

 「お主は確か・・・」

 「貴方は・・・・・・それにリヴェリア・・・さん?」

 「憶えていたか少年。それにしても・・・・・・」

 

 士郎以外が少女ばかりな事に目を見張ってから、穢れたモノを見るような蔑む視線を送る。

 リヴェリアから送られる視線に軽く居心地が悪そうに身じろぎする士郎だが、そんな2人のやり取りに直に反応する者が出る。マリューだ。

 

 「すみません、ロキ・ファミリアの副団長様。彼と私達の関係については邪推です」

 

 2人の間に割って入る形をとって事情説明を行った。

 

 「ああ、少なくともアタシとマリューは、士郎の奴を仲間だとは思っても男として意識なんてしてねぇしな」

 

 ライラは補足事項を説明した。だが、これに反感する者が出る。輝夜とリューだ。

 

 「何を言っているライラ!」

 「そうです!これではまるで私と輝夜がエミヤさんをい、異性としてい、意識している様ではありませんか!」

 「ん~?別にアタシ自身とマリューが士郎を意識してないと判ってるから言っただけで、そこまで言ってないんだがな~?逆に言えばそこまで反応するって事は、士郎に対してそれなりの懸想を懐いてるって認めている様なモノ何じゃないか?」

 

 ライラの揶揄う言葉に改めて迎撃しようと反論の言葉を口にしようとする2人だが、彼女たちよりも早く反論したのは意外にも士郎だった。

 

 「滅多なことを言うなライラ。2人に対して失礼だろ?」

 「へぇー?その心は?」

 「2人共と俺なんかが釣り合うわけがない!突拍子もない事を口にするのはどうかと思うぞ?」

 「なるほどなるほど。ところでよ、士郎。うしろ振り返ってみろよ」

 「む?」

 

 ライラの推奨通りにすると、そこには覆面越しからでもわかるくらいの悲しそうなリューと露骨なまでに不機嫌ぶりを露わにしている輝夜がいた。

 

 「いや、なんでさ?」

 

 士郎は輝夜とリューの2人を庇った――――筈なのに、結果的に不況を勝手しまっている。

 そんなやり取りに発展しているため、置いてきぼりを喰らっている者達がいる。勿論ガレスとリヴェリアだ。

 

 「ん゛ん゛、良いだろうか?」

 

 軽くわざと咳をついて、自分たちを忘れないでもらいたいという意思表示をしたリヴェリア。

 これに直に我に帰り、気まずくもロキ・ファミリアの幹部2人に向き直る。士郎だけは嬉々として直に向き直った。

 

 「なんか助かりましたけど、リヴェリアさんと・・・・・・なんてお呼びしていいのでしょうか?」

 「このいけ好かないエルフが名前呼びで許可しとるんじゃぞ。儂もガレスで構わん」

 「黙れ、野蛮なドワーフ・・・!」

 

 何時もの事なのか、ガレスの嫌味に直に反論するリヴェリア。

 その当たりは空気を読んであえてスルーする一同。

 

 「ではガレスさんと」

 「うむ。それで主らは何をしておったんじゃ?」

 

 フィンと共に長く居たせいか、彼ほどではないにしてもガレスも勘が鋭くなっている。その勘が告げているのだ。この若者たちに関わるのが調査における最善だと。それはリヴェリアも同じくだ。

 

 「・・・・・・!」

 

 ――――任せてくれ。

 

 輝夜から士郎へのアイコンタクト。

 士郎は彼らの質問にどう答えるべきかと一瞬迷ったが、代わりに輝夜が一歩前に出る。引きずっていた気分から抜け出すためにとも。

 

 「発言を御許し頂けますでしょうか。ロキ・ファミリアの幹部方」

 「そんな大仰な言葉使わんでもいいぞ。聞いているのは儂らの方じゃし、遠慮せんで良い」

 

 ガレスからの了解を得たので、士郎との協力も含めた先日の件と合わせて説明する輝夜。

 全て聞き終えたガレスとリヴェリアは、聞かされた情報を吟味しながらも渋面を作った。内容が思っていたよりも凄惨で深刻だったからだ。

 

 「そんな奴が闇派閥(イヴィルス)にいる可能性があるのか」

 「私に送られてきた手紙が、たちの悪いイタズラの類いでなければですが」

 

 輝夜の返答に渋面に戻るガレス。

 

 「その試作のマジックアイテムの効果は本当にモンスターに変貌させるだけのモノなのか?」

 「と言うと?」

 「モンスターに変貌させる。これだけだと何かしらのカースだと思えるが、それだけとは到底思えん」

 

 これに思うところを感じた輝夜が考え込むように黙る。

 質問したリヴェリアは輝夜を一瞥してから士郎に視線をやる。

 

 「なんでしょう?」

 「いや、君は何かしらの気づいているんじゃないかと思ってな」

 

 リヴェリアの指摘に全員の視線が士郎に集まる。

 

 「単なる推測ですが」

 「それども聞きたいな」

 「一時的か半永久的かは分かりませんが、恐らくはステータスの強化を目的に作られているのではないかと。モンスターへの肉体の変貌は安定しない効果の副作用によるものだとも考えます」

 

 これに同じ推測を持ったリヴェリア以外の全員が驚く。

 

 「マジックアイテムでステータスの強化なんて聞いたことないぜ?」

 「そうですエミヤさん、いくらなんでも荒唐無稽なのでは?」

 「あり得ないなんて事はあり得ないさ。人の想像しうる事は起きえない現実とは言い切れないぞ?」

 

 まだ納得してなさそうなマリュー達に、どうしてその推測に至ったかを説明し始める士郎。

 その少女達から距離を離しているリヴェリアとガレス。

 

 「驚いたのぉ。あの若造、年齢不相応な程の考察力を持っておる」

 「それに未知の技術にワールドレコードを塗り替えるレベルアップの速度といい、規格外にも程がある。しかしあの者達の情報」

 「うむ、儂らが求める情報ではなかった」

 「――――どんな情報ですか?」

 

 マリュー達に説明し終えていた士郎が聞いてくる。

 

 「差し支えなければ教えてくれませんか?今は少しでも手がかりが欲しいので」

 

 士郎からの頼みにガレスがどうすると、リヴェリアに目で語り掛け、それを彼女は構わないだろうと了承する。

 

 「ふむ。儂等はフィンからの指示で闇派閥(イヴィルス)の近頃の戦力増強について調査しておったんじゃ」

 「戦力増強・・・・・・例えばどんなものですか?」

 「それは――――」

 

 ガレスからの説明中に咄嗟に気付いた士郎が動く。闇夜から放たれた銀色の凶刃の如き弓矢が漏れなくその場にいた全員目掛けて四方八方から放たれた。それを誰よりも早く気づいた士郎が両腕の裾から瞬時に繰り出して投擲した回帰属性(ブーメラン)の武器で全て迎撃する。

 僅かに遅れてガレスとリヴェリアが斧と杖をそれぞれ構えて戦闘態勢を取る。

 

 「輝夜、ライラを囲う様に卍の陣!」

 

 士郎からの指示に何事かと問わずに瞬時に応える輝夜。

 

 「マリュー!リオン!ライラを中心に集まれ!」

 

 副団長からの命令に2人は直に応える。

 

 「ライラ!お前は私達4人の中でも一番視力が良い。お前が見張り、私達を動かせ」

 「わ、分かった!」

 

 まだそこまで修羅場慣れしていないライラも勢いに押されて輝夜の指示通りに動く。次の矢の山を警戒して動こうとした時、足元のレンガの割れ目から多くの銀色の流体が流れて浮き出て来た。

 

 「何だ?」

 「主ら警戒せい!これが儂らが調査していた原因じゃ!」

 

 ガレスの警告とほぼ同時に流体が幾つものに分れた瞬間、形がうねうねと変わって行きゴライアスよりも低いがちょっとした巨人――――銀色のゴーレムへの形となった。

 

 「っ!?」

 「せい!」

 

 先手必勝とばかりに、リューがゴーレムの関節部に刺突を仕掛ける。だがしかし。

 

 「クッ!」

 「リオン!」

 

 あまりの硬さに刃の切っ先が刺さる事もない。そのアクションを狙われて弓矢がリューに迫るが、マリューの槍によって打ち払われる。攻撃は通らないが鈍いので捕まる事もない。

 

 「輝夜、9時の方向!リオンは3時、マリューはそのまま打ち払え!」

 

 だがあらゆる方向からの弓矢の狙撃で一ヶ所に留まる事を強制される為、徐々に追い詰められていく。

 それを離れた距離から苦虫を噛み潰したガレスが横目で見やる。自分が幾度も戦った経験から理解しているのだ。レベルの低いあの少女達では、このゴーレムらは荷が重いと。ガレス自身は苦戦こそしない。

 

 「ぬあああっっ!!」

 

 大戦斧にての横一文字で多くのゴーレムが無理矢理に砕かれて薙ぎ払われた。

 だが、このゴーレム達を殲滅するための魔法の詠唱中のリヴェリアを守るために、娘っ子たちの救援ができない。斧で防御し斧で攻撃しながらも悩むガレス。そこでふと気づいた。

 

 ――――あの若造は何処に行きおった?

 

 まさかあの娘っ子達を見捨てて逃げたのかと疑問が脳裏によぎった時、斧の刀身部分が鏡になって気づいた。自分とリヴェリアのほぼ真後ろの暗がりからボロボロの外套に浪人笠を被った凶悪な目つきに敵が刀を以て迫っていた。

 

 「クッ!」

 

 直に回り込んで迎え撃とうとするも、こんな時にゴーレムらが邪魔で思うように動けない。

 

 「リヴェリア!」

 「っ!?」

 

 ガレスに呼び掛けられたことで遅れて気づくリヴェリアだが、もう遅い。凶悪な赤い目つきに喜悦を浮かべる敵。

 

 「獲っ」

 「らせるかよっ!」

 「っ!?」

 

 いつの間にか下に潜り込んでいた士郎が、二刀一対の中華刀の片方で刀身目掛けて斬り上げてリヴェリアの窮地を救う。

 

 「チッ」

 

 闇討ちに失敗したので、即座に離れて忌々しそうに士郎を睨み付ける。

 

 「リヴェリアさん、お怪我は?」

 「君のおかげで助かった。怪我はない。それより君は何処に行っていた?」

 「至急やるべき事が出来たので、それを優先させてました。すみません」

 

 こうして戻って来たと言う事は逃げたわけでは無いと判ったが、では何故と訝しむも敵が苛立ちを言葉にして吐く。

 

 「わしを前にしてお喋りとはいい度胸じゃのぉ。それに小便臭い小僧ぉ、わしの仕事邪魔しよってからに・・・!そがいに早死にしたいんやったら望み通りにしちゃる」

 

 言って、懐から何かを取り出して口の近くまで持ち上げた。

 

 「わしじゃ!全員で赤毛の小僧を狙い撃たんかい!」

 

 これにガレスとリヴェリアは何をしているんだと怪訝さを露わにしており、士郎は特別な目を以てアレがマジックアイテムだと直に気づいた。あの灰色の結晶は通信機器をマジックアイテムで実現したモノだと。

 だがしかし。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 返事が返ってくる事は無く、代わりの弓矢の掃射も無い。

 

 「無駄だぞ。闇派閥(イヴィルス)の最大派閥、マスティマ・ファミリアの【始末犬】」

 「貴様わしの名を!?いや、無駄じゃと?」

 「俺がさっき此処を離れたのは重要な事だ。援護で二百メートル以上離れている狙撃手たちは全員

お寝んねさせたのさ」

 「何じゃと!?」

 「もしもの為の自害用の火炎石も取り上げて拘束もしてある。効果範囲がどの程度か知らないが、それ(・・)は同じものを所持している者と遠く離れた地点でも会話を可能とするマジックアイテムと見たが、いくら言っても返事は無いぞ」

 

 マジックアイテムの機能を見抜かれた事にも驚く【始末犬】と呼ばれた男――――オカダ・以蔵だか、それ以上に部下の悉くを無力化して作戦を駄目にされたことに腹をたてている。

 ガレスとリヴェリアの2人は心から驚いていた。マジックアイテムの機能を見抜いたことに加え、誰よりも先に弓矢からの全方位の奇襲に気づいたときには敵の狙撃主の居場所を全て認識・把握していた事にもだ。そうでなければこの短時間での全狙撃主の無力化など完了出来ないだろう。

 

 「小僧っっっ!」

 

 瞬時に士郎へ跳躍したオカダ・以蔵は怒気と殺意を込めた一刀を振るう。勿論士郎は中華刀の片方で防ぎ、もう片方を一旦仕舞って先程狙撃手たちから取り上げた火炎石を徹甲作用を用いた投擲で各ゴーレム達に放った。

 そして――――。

 

 ドッドッドッドッドッ――――ドンッッ!!

 

 徹甲作用により、リューの刺突を受けても傷一つ付かなかったゴーレムの胴体に深くまで食い込み、直後にその衝撃で火炎石が爆発。着弾したゴーレムの事如くが爆散した。

 

 「聞いていたな、見ていたな!もう弓矢の邪魔もないし、渡した爆弾系のマジックアイテムとライラ自身の特性爆弾を使ってゴーレムを傷つけろ!比較の問題だが外よりも中の方が脆い、少しでも傷さえつければ輝夜、マリュー、リューの3人でも何とか破壊できるだろう!」

 

 士郎からの大声に早速行動に移す4人。弓矢の邪魔が無くなったので容易にゴーレムの包囲からまずは抜け出して、仕切り直し。助言通り爆弾でゴーレムを傷つけてから。

 

 「ああああっっ!!」

 「ハッ!!」

 

 爆弾で作った破壊箇所目掛けて、輝夜とリューが左右から交差する様に切り伏せた。レベル2とは言え、アストレア・ファミリア内で一、二を争う程の戦闘経験を持つ2人だ。その2人の観察力を用いためと体の使い方なども合わせれば切り伏せられない訳が無かった。

 

 「よしっ、まず一体!」

 

 マリューの護衛を受けるライラがガッツポーズをする。この調子でと、新たに一番近くに居るゴーレム目掛けて爆弾を放り投げた。すかさず輝夜とリューが息を合わせて、或いは我先にとゴーレムへと迫る。

 

 「チッ!」

 

 士郎との切り合いを演じながら今の光景を視界に納めていたオカダ・以蔵は、舌打ちをしながら次の一刀に力を込める。

 

 「チェストぉおおおおおっっ!!」

 「――――」

 

 が、士郎は真面目に応じすに躱して距離をとる。直後。

 

 「ぬぅんっ!」

 「けっ!」

 

 ガレスからの斧の奇襲が以蔵を襲うが、身軽に跳躍。斧に飛び乗ってから一瞬で離脱する。だが。

 

 「――――クロス・グレイヴ」

 「ぬぅあっ!?」

 

 着地した周辺から岩の槍が幾つも飛び出してきた。リヴェリアの魔法だ。

 流石の以蔵も驚くがそれも一瞬の事。自分の足下にも岩の槍が勢いよく生えてくるが、一歩速く躱し、着地地点にまた岩の槍が生えてくるが再び躱しの繰り返し、最後の方の岩の槍は図ったかのように数本逃げ場など許さぬように突き出でいくが。

 

 「ちぇりゃぁああっ!」

 

 剣技にて全て破壊した。

 

 「ぬぅ、この連携をいとも容易く凌ぐとは、流石はマスティマ・ファミリアの【始末犬】と言うところか」

 「ハンッ!わしが、あないな力任せしか能のないドワーフ(ノロマ)なクソ爺にハイエルフ(行き遅れの年増)の婆ぁや小便臭い士郎(小僧)に後れを取るわけなか・・・!」

 

 以蔵の口の悪さに士郎とガレスは大した反応は見せなかったが、リヴェリアだけは気にしていることを言われたので瞳に怒気を宿らせる結果となった。

 

 「じゃが対応できとるのは、回避と防御に専念しとるからじゃろ?アストレア・ファミリアの娘っ子達も少しづつゴーレムの攻略が進んどるし、お前さんの仲間らはそこの士郎(若造)によって拘束されとる」

 「貴様だけおめおめ、負け犬の様に逃げ出すぐらいなら叶おうが、貴様の立場上でそれが許されるのかな?」

 「チッ!」

 

 図星故に舌打ちを隠せない以蔵。だがしかし直後、彼を包み込むように魔法陣が展開した。

 

 「何じゃあああああああ!?」

 「ちっ!」

 

 見覚えのある光景だったのですぐさま以蔵へ駆け寄る士郎だが、既に遅く魔法陣もろとも消えて行った。

 

 「クッ、と、まさか!」

 

 直に自分が拘束した狙撃手たちの方へ眼を向けると、以前と先ほどの魔法陣から出ていた光が発生していて直に消えた。辺りを見回すとゴーレムまで一体残らず消えていた。そこへ気になったのは輝夜の姿だ。彼女は何かを探すように首を振り、体全体を回すように周囲をくまなく探すように見回していた。

 

 「ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ、ハァ」

 「輝夜?」

 

 初めて見た時から私には覚えがある。顎から聞いた話に、昔の私の目の前から消えた時もそうだった。

 ――――本音は未だに会うのが怖い。

 だが仲間達も協力してくれているのに、いつまでもしり込みしてはいられない。そう、自分を叱咤して探していると。

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・い、いた・・・・!」

 

 輝夜の表情と言葉に全員が同じ方を見る。彼らの視線の先には、輝夜から聞いたそのままの奇っ怪な姿の怪人が煙突のある搭の屋根の上から輝夜に向けて手を振っていた。あたかも久しぶりの知り合いに挨拶するかのように。

 が、彼女達の視界が変化する。自分達の視界から怪人を覆い隠す様に士郎がそこまでいつの間に壁を伝って跳躍。怪人を捕らえようと襲いかかる。

 

 「捕らえ――――!?」

 

 手を伸ばして捕らえようとした士郎だがすり抜けたのだ。

 

 「幻術(イリュージョン)!?」

 「士郎!あっちだ!」

 

 別の怪人の姿を視界に捉えたのはライラだった。誰よりも速く気づいて士郎に大声で叫んだ。

 

 「っ!」

 

 ライラの助言に反射的に反応して即座に屋根を蹴る。視界に捉えた怪人を今度こそ実体ありと認識する。

 

 「フフ、【ネメア・デルマ】」

 

 怪人がそう言うと、獅子の毛皮の如く光り輝き透き通った膜が何重層も怪人自身に纏うように顕現した。

 

 「っ!」

 

 怪人の口にした言葉を確かに耳にした士郎は、再び腕の裾から中華刀を取り出した。

 

 「士郎!?」

 

 全員の気持ちを代弁するかのように、刀を取り出した事に正気を疑うように誰かが叫んだ。が、士郎は無視して突き刺す様に怪人にそのまま突貫。だがしかし。

 

 「くっ!」

 「即座に素手から剣を持ち、私に襲いかかる。いい判断だ。だが悲しいかな、それでも不足だよ?エミヤ・士郎君」

 

 膜に阻まれて切り裂く事が叶わない士郎。

 

 「サタンアイズ術式展開――――イグニス」

 

 ズンッッ。

 

 指向性を持たせた魔力の暴発により、吹っ飛ばされる士郎。

 

 「士郎!?」「エミヤさん!?」

 「大丈夫だ。直前で躱した。それより――――」

 

 見上げた先には消えかかっている怪人。

 

 「それじゃあ、いずれまた」

 

 士郎たちの必死さを嘲嗤うかのように、怪人は去っていくのだった。

 

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