料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」   作:昼猫

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 明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致しますm(__)m


第17話 仕組まれた因果へ

 あれから士郎達はロキ・ファミリアと定期的にに情報共有をしながら邪神トライヘキサを追った。勿論、トライヘキサを匿う闇派閥(イヴィルス)に幾度も戦闘を繰り返した。その追走の日々からもうすぐで一月が経過しようとしていた。

 

 「――――随分と待たせてくれたものだな」

 

 今日も情報共有の為にいつもの待ち合わせ場所に来てみれば、今までの幹部と違い、それでも何度か見たことのある団員だ。激情騎士(エモーショナリーナイト)の二つ名を持つロキ・ファミリアの団員、ケイン・ラモルフが開口一番に嫌みによる口撃をしてきた。

 

 「まだ待ち合わせの時間までに小半刻はある筈ですが?」

 

 ケインからの口撃に一応の反論をする士郎。しかしその冷静な態度も気に入らなかったのか、さらなる追撃を仕掛けてきた。

 

 「鍛冶屋風情の下っ端ごときが口答えするのか?うちは大派閥、ロキ・ファミリアだぞ。大体うちはお前らが追っている件だけにかまけている暇はないんだ。その上自称邪神の件とて、本当なんだか胡散臭い。ロキ・ファミリア(うち)に少なからずのダメージを与える自作自演の画策の線もある。それを賢しいだけの調子に乗ったガキが身の程を弁えろよ…!」

 「………」

 

 随分と長い口上に士郎は一切口を挟まずに聞いていた。同時に視線をそらさずにケインの瞳を見続けた。が、もう用はないと言わんばかりに踵を返して来た道を戻ろうとする。

 

 「おい待て!何処に行こうとしている!」

 「帰ります。貴方と話は時間の無駄のようだ」

 「何だとっ、先の俺の話を聞いてなかったのか!」

 「確かにロキ・ファミリアは忙しいようだ。何時もなら幹部のお三方の何方かがお越しになるのに、今日来たのは礼儀も成っていない下っ端の貴方だ」

 

  士郎はケインに対して正しい返答ではなく判断上の意思を口にした。

 

 「貴様っ、ロキ・ファミリア(うち)を侮辱するのか!?」

 「勘違いしないで頂きたい。俺が指摘したいのは貴方の浅慮さだ。前回来たのは団長のフィン・ディムナさんだった。それが急に今回になってこの件事態を軽視すると言うのは客観的に見ても考えづらいし、俺たちを切り捨てるにしてもタイミング的に中途半端過ぎる。そんな無様をあの勇者(ブレイバー)がする筈もない。であれば先の発言は貴方個人の意志――――極めて私的な独断だと推察できます。だからこそつい先程に貴方を下っ端と言ったわけです」

 

 半身だけ振り替えって話を早々に切り上げた理由を説明した士郎。淡々とした態度が自分を見下しているようで、ケインはさらに激昂する。

 

 「余所者の分際でロキ・ファミリア(うち)を語るなっ!」

 「俺が余所者なら貴方は浅はかな裏切り者だ。貴方は私的な独断で自身のファミリアの意向をねじ曲げようとしている。それは貴方のファミリア全員への裏切り行為に他ならない」

 「ッッッッ~~~~!!」

 

 最早我慢の限界だった。どれだけ士郎の言葉が正論であろうとも、激情騎士に躊躇う理性は残されていなかった。

 

 「お前ぇ…、お前ぇええええっっ!!」

 

 躊躇なく鞘から剣を抜き去るケイン。

 彼の二つ名の由来は精神状態により全体のステータスが一時的に上下するスキルがあるのと、元々の性格によるものだ。

 感情変動幅力(メンタルアンリミテッド)。このスキルは名前の通り、昂れば昂るほどステータスが一時的に上昇し、落ち込めば落ち込むほどステータス一時的に下がるのだ。メリットとデメリットの両方を併せ持つスキルに思えるが、ケースバイケースであろうが実のところデメリットしかないスキルだとロキ・ファミリアの首脳陣は見ている。昂るほどステータスが一時的に上昇すると言うが、残念ながら高ぶりすぎたケインは戦闘上の動きが乱雑になり、駆け引きもかなり単純かつ稚拙なモノとなる。故に日頃から精神鍛練を怠らないようにと今日まで言いつけられてきたが未だ形となってはいなかった。その証拠に。

 

 「ああああっっ!!」

 

 ただ乱雑に剣を振り回して士郎目掛けて突撃するだけ。いや、普段は此処まで酷くはないのだが原因は言わずもがなであろう。だが、だからこそ。

 

 「…………」

 

 士郎は容易に回避して踊るように身を捻って回転。即座にケインの背後を取ってからの裏拳を彼の右のこめかみに食らわす。

 

 「がっ!?」

 

 前後不覚も相まって、右からの予想外の衝撃によろめくケイン。

 士郎はさらに隙をついて剣の柄を蹴りあげて剣を手放させてからの懐に入り込んでの顎目掛けてのアッパー。

 

 「ぐっぎっ!?」

 

 顎を揺さぶられたことにより脳震盪を引き起こされた。そんな隙だらけの最後のトドメは左肩を押す程度。それだけでケインは壁にもたれ掛かるように倒れた。

 

 「うぐっ……っ」

 

 倒れてもなお戦意だけは残っているのか、うまく動かせない体、朦朧とする意識の中でさえ士郎の事を今も睨み付けている。

 自分から招いた結果だと言うのにと、仲間への侮辱とも取れる発言にしてわずかな憤りがあった士郎もこれには呆れるしかなかった。

 

 「貴方に対してたいした怪我を負わせなかった俺の意図を察してほしいんですが」

 「だ…ま、れ」

 「ひとえに貴方が腐ってもロキ・ファミリアの団員だからですよ。貴方が裏切ったファミリアの庇護の恩恵で俺も手心を加えたんです」

 「だま、れ」

 「にもかかわらず、貴方は未だに私欲の結果を省みずに、まだ俺に噛みつこうと言う態度を崩さない。これではロキ・ファミリアに直接出向いてこの事実を報告するしかないですよ」

 「…チク…るの、か……この卑、怯者…め」

 「俺の主神様とファミリア。そしてアストレア・ファミリアに迷惑をかけないための正当な報告です。それでも卑怯だと言うのであっても、裏切り者より遥かにマシだと思いますけどね」

 「だっ…まれぇっ……」

 

 自分を放置してその場を離れるエミヤ・士郎(憎きガキ)の背中をケインはいつまでも睨み続けた。

 後日当然のようにお叱りを受けたケインは暫く新人たち同様の雑用扱いを受け続けることとなった。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 「ねぇ主神様。オラリオのアレ(・・)はどうなったのかしら?」

 

 マッド女性パルゥムの研究ラボに久方ぶりに寄った自称邪神が我が子からのかけられた言葉。

 

 「ん?どちら(・・・)だ?おまぇ」

 「違うに決まっているでしょう……!」

 

 今までになく眼で、声で、態度で強く否定した。彼女の滅多にない憤怒に自称邪神は仮面の下でクツクツと嗤う。

 

 「……何がおかしいのかしら?」

 「いやさ、あれだけ()にはもう興味も関心もないと、いつか言っていたあの時には嘘はなかった。だが、今では明らかな動揺があるのがついつい愉しくてね」

 「……本当に意地の悪い邪神だこと」

 「いやいや、そう褒めてくれるな。まだまだからかいたくなる…!」

 

 この邪神のからかいから逃れる方法は心を何処までも冷ますこと。彼女は直ぐに実行して主神の邪な言霊から撤退した。

 

 「それで、先の質問の答えも取引しなければならないのかしら?」

 「おや、もう終わりか。――――いーや、構わない。答えよう。例のクスリ型の試作マジックアイテム(サクリフィキウム)の最大被験者の元冒険者の成れの果てのグラビムは現在深層に近い下層にまで降りてきている」

 「へぇー、生きてたの?」

 「ああ。それほどまでの復讐心(執着心)だったと言うことだろう。お前の復讐相手は五十層にいると言い含めたからな」

 「よく信じたわね?あのオッタルが今の時期にそうそうフレイヤから離れるのは考えづらいのだけれど」

 「クク…アレにはもう、そんな判別できる理性など残ってはいないと言うことだ」

 

 彼女の前から離れて出ていこうとする邪神。

 

 「オラリオに戻るの?」

 「ああ、そろそろ(・・・・)だろうからな」

 

 去り際に邪神は仮面の下で嗤った。

 

 

 ―Interlude―

 

 

 ――――低すぎる!

 

 ロキ・ファミリアの眷属の一人として約一年ほど経過した今日この頃。アイズはステータスの更新値の低さに焦りを見せていた。ロキ、フィン、リヴェリア、ガレスにはステータスの更新値は段々下がっていくものだと説明された上、レベルアップの方法もはぐらかされた様に感じた。ならばと別を当たろうとギルド本部の受付に来たのだが。

 

 「教える気はないわ」

 「なんで…!」

 「無責任にそれ教えてアンタみたいな子供死なせたら、冒険者共の死亡案件に慣れてるとはいえ流石に夢見が悪いもの」

 「っ!」

 「………」

 

 納得できる答えではなかったが、流石のアイズも約一年ほど顔を会わせてくればこの受付の人の性格を理解できるようになる。ぶっきらぼうで冷たく接してくるのはその裏返し。彼女なりの自分への優しいお節介なのだと。

 だが、だからと言って諦めきるないのがアイズである。とは言え彼女が自分が今望んでいる情報をくれることは無いだろう。ならば他を当たるしかない。踵を返してその場を後にしようとした所、でアイズは見た。

 

 「ハイハイ、私はこれでも忙しいんですからヘルメス様は即刻お帰りください!」

 「ん~?つれないな~」

 

 仕方ないと言わんばかりに胡散臭い男神(ヘルメス)はその場を後にしようとした――――ところで。

 

 「ん?」

 

 アイズと目が合う。

 

 「…………」

 「君は…?」

 

 声をかけられそうなところでアイズは瞬時にその場から離れる。

 

 「って、あれ?」

 

 予想外の反応に慌てるヘルメス。アイズはリヴェリアやロキから耳にタコができるほど聞かされてきた。知らない神に何か渡されても貰うな。話を振られても付いて行くなと。胡散臭げな神は特にと。

 アイズにとってあの男神は正しく後者。なので直ぐにでも離れることを選択したのだ。

 

 「いやいや待って」

 「…………」

 

 スタスタスタスタ―――。

 

 「やれやれ聞く耳持たずか。なら――――レベルアップの方法を教えてあげようか?」

 「!!?」

 

 思っても見なかった言葉にアイズは震える。

 

 「漸く聞く気になってくれたようだね」

 

 ――――アイズがぎこちなく振り向くよりもヘルメスがゆっくり回り込んで言葉を紡いでいく。

 

 ――――士郎は今日もアストレア・ファミリアの仲間達と共に邪神の行方を追う。

 

 ――――人間を捨てた復讐者は何もかも殴り捨てて下を目指していく。

 

 ――――機は熟したと言わんばかりに異端の邪神は仮面の下で盛大に嗤う。

 

 あらゆる流れは運命へと収束して行く。


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