料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 作:昼猫
アストレア・ファミリア。
正義を司る女神アストレアが主神となって奉られている探索系ファミリーの一つ。
通常のダンジョン探索の他にも、都市内のパトロールや賞金首の討伐などもしている。
特に今は
だが団長・副団長含めてLv2が7人、Lv1が4人と言う構成なのでそこまで上位に位置している訳では無い。
だからこそ、自分達が掲げる正義を貫くためにも力をつける必要があり、ダンジョンにも足をよく運んでいる。
今日も団員全員でダンジョンに来ていた。
ただ今日は力をつける為だけでは無く、賞金首を討伐するためだ。
何も賞金首はブラックリスト入りした冒険者だけでは無い。ダンジョン内で稀に表れる『強化種』が多くの被害を出すと討伐
今回のアストレア・ファミリアの団員達の目的の一つも『強化種』の討伐にある。
討伐対象は16階層に現れると言うヘルハウンドの強化種だ。火力と俊敏性が通常種よりも上がり、隠密性を持つ。攻撃を防いだとしてもあまりの逃げ足と隠密性で反撃・捕捉が困難と言う一撃離脱型の厄介な存在だ。
だが情報収集や調査を重ねて作戦を立て、万全の体制で上手くいく――――筈だった。
「くっそ、完全に囲まれてる!」
「ハイポーションも残り少ないわよ!」
「意味わかんない・・・・・・意味わかんないよ・・・」
「まったくさ!ヘルハウンドの強化種一匹だけだった筈なのに、どうして四匹に増えてんのよ!」
このヘルハウンドの強化種は見た目も通常種とは異なり、全身の毛色にやや赤みが増して、牙は
しかも隠密性と逃げ足の速さを生かした一撃離脱型に特化しているので作戦を立てて罠に嵌めなければ補足は難しい筈だったのに、距離を開けているとは言え彼女達の前に普通に姿を現していた。
ただし、不定期に遠吠えをしながら。
「しかも次から次へと・・・・!」
「切り殺しても刺殺してもキリが在りません」
ヘルハウンドの強化種らは、遠吠えをする事でこの
「弱音を吐くなお前達!どれだけ受け入れがたい現実だろうと、乗り越えなければ全滅するだけだ!」
副団長である輝夜による叱咤に気を引き締め直す。
その緊迫した状況で唯一冷静そうに見える団長のアリーゼだが、内心では彼女も焦っている。
――――不味いわね。ノインとセルティは気絶しているし、皆も息が上がってる。こうなったら・・・・・・!
向かって来るヘルハウンドらを切り伏せながら周囲を見回して比較的に一番群勢の薄い箇所を探り当てる。
「皆!こうなったら一点突破よ!リオンとリャーネは威力の一番高い魔法で4時の方向へ砲撃!詠唱時間は私達が稼ぐから」
団長からの決断に、即座に応じて詠唱を開始する魔法剣士と魔導士。
「ライラは周囲の警戒を厳に!アスタとネーゼは気を失っている2人を守って!道が出来たら2人を担いで!」
反論することなく2人も指示通りに動く。
「輝夜、イスカ、マリュー!貴方達は私と一緒に時間を稼いで貰うわよ!いいわね!」
「了解!」
「あいよ!」
「任されました!」
アリーゼの指示により、彼女を含めた4人は7人の盾であり矛となる為に四方に散らばる。
輝夜は太刀と小太刀の二刀を煌めかせ、イスカは自慢のナックルを突き出して構えを取る。マリューは愛槍を振り回してモンスターを怯ませる。最後に団長たるアリーゼは――――。
「アガリス・アルヴェンシス!」
全身から得物である長剣に至るまで炎の鎧を纏わせる、アリーゼの強力な
「さあ、行くわよ!」
その声が開戦となり、背水の陣を敷いて来た冒険者たちに向かって様子見をしていたモンスターたちの最前列が雄たけびを上げながら彼女たちに跳びかかって来た。
アリーゼは剣戟と蹴りで応戦し、輝夜は舞う様に切り結ぶ。イスカは自分目掛けて突っ込んで来るヘルハウンドの群れを倒しきれずともひたすらにゴリ押しの殴打の連続攻撃を続けて行く。マリューは長槍で薙ぎ払いながら、時折突き出していく。
多勢に無勢ではあるが、ギリギリのラインでの攻防。4人の攻勢から漏れそうになったモンスターをライラが直に察知して指示を飛ばす。
それでも漏れ出た場合、アスタの盾とネーゼの爪、それにライラの特性爆弾で気絶している2人と詠唱中の2人の計4人をモンスターたちから必死に守る。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
16階層の死闘を観察し続ける“誰か”がそこにいた。
重厚な革製の鎧にボロい外套に身を包み、まるで古いおとぎ話に出て来る魔王の威容を誇るヘルムをつけた奇人だ。
そうしてしばらく観察を続けて興味が失せたように途中で去って行くのだった。死闘を続ける彼女たちを野放しにして。
-Interlude-
生き残るために死地にて活を見出そうとしているアストレア・ファミリア。
「皆!2人の魔法が完成しそうだ!」
本来ならばライラが伝えなくても解りやすそうなものだが、一瞬の判断ミスで全滅しかねない状況だからこその伝達だ。
これに応えるように集まる、或いは射線上の道を開けた。
『――――ルミノス・ウィンド』
『――――ブロック・ブレイズ』
『『『『『グォオオオオオオオオオッッ!!?』』』』』
瞬間、作戦通りの方向に光の風と鋭利な岩の杭が放たれて、射線上と近辺だけのヘルハウンドが一掃された。
「今よ!」
アリーゼの指示に続く様に、魔法の威光が消え去った直後にまたヘルハウンドで壁が出来ない内にその場からの撤退が開始された。
計算通り直には襲ってこなかった通常種の群れだが、四匹の内の一匹の強化種がノインを担いだアスタごと噛みちぎる様に跳びかかって来た。
『ルォオオオオッ!』
「
仲間に跳びかかられる前に、一番最後尾にいたアリーゼが強化種のどてっぱらに剣を突き刺してからの爆発させるスペルキーを口にした直後、雄たけびにもならない獣声じみた悲鳴が強化種の口から上がると同時に体内から爆散した。
「止まらないで!走って!」
今の爆発によりヘルハウンドの群れはさらに怯んだ事により、彼女達全員窮地を脱する事に成功したのだ。ひとまずは、だが。
「団長、これから如何するんだ?」
アリーゼの真横に並走して聞く
当然だが全員走っている。
「18階層のリヴィラの町に行くわ。話はそれからよ」
「だけどその前の『嘆きの大壁』はどうする?」
「もうすぐ
「それでもよ!直追いつかれるし、このままじゃ嬲り殺しに合って
「どちらにせよ背水の陣に変わりはありません。アリーゼの案に乗りましょう」
これにより彼女たちの方針は決定された。だがしかし現実は非情なモノ。幾つものヘルハウンドの遠吠えが聞こえて来たのだ。つまり少しづつだが確実に追いつかれつつある証拠。
「ぐっ、もう追い付いてきたのか!?」
「しつこいっ!」
ヘルハウンドの追撃に焦る少女達。
そんな中で腹を括った少女が1人―――――アリーゼである。
「こうなったら殿は私に任せて、皆は行きなさい!」
突如1里止まっての発言に、団員達は悲鳴に近い反論をした。けれどアリーゼの気持ちは変わらない。
「誰かが足止めしなければならないの。だからその役目は私が請け負うわ」
「でしたら私が!団長の身代わりなら既に覚悟の上だ!」
「いいから言うことを聞きなさい!」
『『っ!!?』』
怒気を込めて声を荒げるアリーゼに全員固まる。
「私だって死にたい訳じゃない。そして殿として残った上で生き残れる可能性が一番高いのはこの私よ。これは理屈の問題なの。いいわね?」
『『っ』』
理屈の問題でもなんでもない。所詮は後付けだ。言い返したい。だが時間をかければかける程――――。
そこで次に腹を括ったのは副団長たる輝夜だ。
「行くぞお前達」
それは団長の指示に従うと言う決断だった。
だがそれに真っ先に反論するのはリオンと呼ばれた覆面姿の魔法剣士。
「輝夜!」
「黙れリオン!これは団長からの厳命であり私の決断だ!理想主義の下っ端如きが口出しするなッ。文句なら危機を脱した後、幾らでも聞いてやる・・・!」
「っ!」
リオンと言う少女を黙らせた輝夜は他の団員達にも割り切らせてアリーゼに背を向ける。
「ありがとう輝夜・・・!」
「・・・・・・ご武運を」
そうしてアリーゼを置いて去って行くアストレア・ファミリア。
「さて、と。死ぬ気は無いって豪語して見たけど厳しいわよね?」
群れの足音が近づいて来るのが分かる。対して、改めて腹を括り直してから再びアガリス・アルヴェンシスを纏う。
「・・・・・・・・・・・・っ!!」
自分達が逃げて来た道を真正面から見据えて構える。
しかし彼女は見誤っていた。殿を務める責任感などで視野狭窄に陥ってしまった。
自分達を追って来るモンスターは正面から来ると確信するのは良いが、その周囲でモンスターが新たに生まれ落ちないとは限らないからだ。
自分を覆う様に背後から影が延びて来るのが分かった。気付くのが遅すぎたが。
『『『ォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』』』
「ミノタウっ!?」
雄たけびでミノタウロスだと気づいたアリーゼが振り向くと、二本の剛腕が振り下ろされてくる直前だった。
「ぐあっ!?」
『ブモォオオオオッ!?』
痛撃によって地面に叩き付けられるアリーゼ。
遅れて、あと先構わずアリーゼを叩きつけたミノタウロスの両腕が燃え盛っており、苦痛にのたうち回っている。
その隙に立ち上がろうとするも、別の二頭の内の一頭に体を踏みつけられて起き上がれないでいる。
『ォオオオオオオオオッ!!』
さらにもう一頭の
――――駄、目。このまま、意識、失・・・たら・・・。
殺されるのは必然であり、殿の役目も全うできない。
だが彼女の意思とは反対に意識はだんだん薄らいでいく。
もうダメかと薄らいでいく意識の片隅で一陣のそよ風が吹いた気がした。直後、ミノタウロスの悲鳴らしき獣声も聞こえた気がした。
そうして自分を押さえつけていた圧迫感が無くなった代わりに、自分の体が誰かに持ち上げられたように感じる。
「・・・・・・・・・誰・・・?」
「――――もう大丈夫だ」
疑問に対する正しい答えではない。けれど、声音が優しかったから、言葉に暖かみを感じたからか、私は思わず安心して意識を手放してしまった。