料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」 作:昼猫
此処では、その衣装にしようとしてるんじゃがの。
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・っ!」
輝夜は頭から血を流しながら肩で息をしていた。
太刀を地面に突き刺しながら体にむつ打つように立ち上がる。
団長の思いを無駄にしない為に。残された者としての、副団長としての責務を果たす為に。
「・・・・・・!」
アリーゼを抜いたアストレア・ファミリアの団員達が現在いる場所は17階層の最奥。嘆きの大壁と呼ばれる最初の階層主がいる広間だ。
そこで彼女達は苦戦を強いられていた。階層主、ゴライアスによって。
『オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
彼女たちは賭けに負けたのだ。
「くそっ」
アストレア・ファミリアは、今までは自分たちだけでゴライアスを倒した経験は二度ほどあった。勿論、楽では無かったが。
十全にそろえた装備、事前に聞いた情報を元にした連携、そして何よりファミリア内で絶大な信頼を寄せた団長たるアリーゼの指揮の下での戦いがあってこそだった。
だが今は――――。
「ぐあっ!?」
「アスタっ」
前衛のアスタがゴライアスの強烈な蹴りにに対して盾で防ぐも、力負けして吹っ飛んだ。
今までならタイミングに合わせて魔法で攻撃するなりして、ゴライアスの攻撃威力を減退させてきたが他のモンスターの相手も他がしなければならない現状、最低限の人数で相手にしなければならないと言う窮地に追い詰められていた。
「リオン!アスタの回復をっ・・・・・・!?」
だが彼女の目線の先には覆面姿のリオンが、気絶したライラを庇いながら他のモンスターらに必死の抵抗を見せていた。
他も似たような現実。
このままでは全滅。
そんな不吉な言葉が今も戦い続けている少女たちの脳裏に否応にも浮かんだ。
「「輝夜っ!!」」
「っ」
周囲を見過ぎて自分に攻撃してくるゴライアスへの反応が遅れた輝夜は、振り下ろされて来る拳に対して太刀と小太刀で防ぐように前に出して後ろへ跳んだ。だが直撃こそ防いだが地面を叩いた時の衝撃波はモロに受けてしまって吹っ飛ぶ。
「ガハッ!」
吹っ飛んだ輝夜の行き先は、破り捨てるように現れたゴライアスの大壁の瓦礫の山。
「ぐっ、っっ・・・・・・ごばっ!?」
瓦礫の山から抜け出した直後、内臓にダメージでも受けたからか吐血した。
「ゼぇ、ゼぇ、ゼぇ、ゼェ・・・・・・」
口元から血を流しながらも不屈の闘志を見せる輝夜。
理解しているのだ。自分が折れれば全滅は確実だと。
であればこそ、折れるわけにはいかない。屈するわけにはいかない。ここが正念場だと無理矢理に自分を奮い立たせる。
だがしかし、窮地にも気丈に戦う不屈の少女達を嘲笑う様に追撃とばかりの咆哮が放たれる。
『ォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
「「「「「「っっ!!?」」」」」」
人間には出来ず、強力なモンスターのみに許された
心の弱いモノや耐性の低い者を強制的に行動を停止させる。
それは今の彼女たちには致命的過ぎる程の隙を作る事になった。
ノインとセルティを守るイスカとマリューに数頭のライガーファングの凶悪な牙が眼前に迫っている。防御は間に合わない。
ライラを庇いながら奮闘していた覆面の少女のリオンに2人まとめて食い千切ろうと周囲を囲う様にヘルハウンドの群れが跳びかかるように迫っている。迎撃はもう間に合わない。
アスタを背にして拳を振るい続けていたネーゼの隙をついてミノタウロスらの剛腕が迫っている。回避する訳にもいかずに、怪我を追っている両腕で防御しようとしてもそれは悪手過ぎた。
魔法で援護し続けていたリャーナの周囲には誰も居らず、ワームの撒きつき殺そうとするさまに体を縮みこらせる。最早少し先の未来は確定。
そして――――。
体に鞭打ち何とか立っているだけの状態だった輝夜に咆哮は不味すぎた。誰よりも長く行動を強制停止させられる時間が長すぎて、目を開けた先に合ったのは――――死。
死、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死――――死。
眼前には文字通りゴライアスの蹴りによる足の指先が迫っている。
迎撃も、回避も、防御すら間に合わない。
確定された死に抗う術は無い。
そんな中彼女が思うのは自身の脆弱惰弱な不甲斐なさ――――そして悔しさである。
――――ああ、私の
逃れること叶わぬ死。もしこの状況で生き残れるとしたら、それこそおとぎ話に出てくるような英雄が駆けつけて来るだけだろうからな。
だがそんなものはない。このオラリオにそんな物好きがそうそう現れるはず――――。
「え」
それは誰の呟きだったろうか。
直後にそれは起きた。
リオンとライラに跳びかかって来たヘルハウンドの中心辺りに目にもとまらぬ速度で“何か”が来たかと思うや、突如爆発して空中にて悉く爆散させた。
「っ!?」
ノインとセルティを守るイスカとマリューに襲い掛かって来たライガーファングの数頭にも“何か”が飛来、ぶつかったと思うや先程と同じように爆散した。
「「えっ!?」」
リャーナを撒きつき殺そうとしていたワームの魔石を貫き、灰へと霧散させたものが在った。
“何か”の正体――――変哲のないロングソード、剣だった。
「け、剣・・・?」
アスタを守るネーゼに剛腕を振り降ろそうとしていたミノタウロス数頭にも剣が飛来、首に突き刺さってから爆発。蹂躙した。
「ぬあっ!?」
そして――――。
輝夜の眼前に迫っていたゴライアスの足の指先が遠ざかっていく。
輝夜の無意識的な回避行動が間に合った――――訳では無い。
ゴライアスに感情が生まれて慈悲を以て辞めた――――訳は無いし、有りえない。
答えは一つ。
「!」
輝夜の視線の先に見えたのは
メリメリメリメリッッ!
その冒険者はゴライアスの腹に強烈な蹴りを入れている。
今現在鳴り響いている擬音は冒険者の足がゴライアスの腹に蹴りによる強大に圧をかけている音だ。
「ラァッッッ!!」
『ォオオオオオオオオオッッ!!?』
「「「「「「・・・・・・っ!!?」」」」」」
今の光景を見ていた6人は全員我が目を疑った。謎の冒険者に蹴りを入れられたゴライアスの巨体が宙を飛んで吹っ飛んだのだから。
吹っ飛んだゴライアスは自分が破り捨てるように現れた嘆きの大壁に突っ込んで壁を盛大に破壊した。
今の信じがたい光景を成した謎の冒険者が地面に着地した。外見は赤銅色の髪に和洋折衷の衣服に身を包んだ細身の男だと背中越しからでも分かった。背中には槍に見紛う荒々しい剣に棍棒を背負っている。
その男性の冒険者が振り返ってきた。
「君!いや、君達もだが大丈夫か?」
「え、あっ、いや……っと!?だ」
「「「「団長!?」」」」「アリーゼ!!?」
こんな状況なのでいきなりの質問に答えに戸惑っていると、冒険者の腕の中には自身を犠牲にして殿の為に1人途中で残ったアリーゼの姿が在った。ただし気絶している様だが。
「団長・・・と言う事は、君たちの仲間か?」
「だ、団長は・・・」
「気絶している事なら心配するな。ミノタウロスに襲われて怪我もしていたが回復させた」
「ミノタウロス・・・?ヘルハウンドの群れじゃなくて・・・?」
「ヘルハウンドの群れなら彼女を助けている途中で来たぞ?全部殲滅して来たが」
「「「「「「!!」」」」」」
この冒険者には驚きの連続だ。
あの残りの強化種三頭に加えたヘルハウンドの群れをたった1人で殲滅したと言うのだ。勿論この男の言葉には何の証拠もない。しかし先ほど見せたゴライアスを蹴り飛ばすという離れ業を見た後では充分に信憑性が高かった。此処までの常識はずれの強さを持つという事は、まさか探索系の二大派閥のロキ・ファミリアか、フレイヤ・ファミリア所属の冒険者ではないだろうか。
「彼女は返す、それから――――」
そこまで考えたところで自分達の窮地を救うように現れた常識はずれの冒険者は、団長を私に預けるように地面に寝かせて背を向けた。
「話の続きはゴライアスを討伐した後にしよう」
直後、未だ倒れた状態のままのゴライアスが咆える。
『ォオオオオオオオオオオオオッ!』
巨人の咆えに呼び出される様に、再びその他のモンスターが召喚される。
しかしそれを許しはしないのが常識外れの冒険者だ。
「フッ」
輝夜は見た。彼が背を向けたまま自身の背後側に召喚されたモンスターたちに向けて、両手から幾つもの“何か”を投擲したのを。
投擲された“何か”は取りあえず小さいことは判った。その投擲物はモンスターたちの核である魔石に狂いなく着弾して砕け散り、体を保てず灰となる。
「「「「「「!?」」」」」」
如何なる原理かは分からないが、投擲されたものは全て男性冒険者の手元に戻って行き、再度投擲する。それを再び召喚されたモンスターたちが殲滅されるまで続いた。その間わずか十秒行くかどうかだ。
『ォオオオオオオオオアアアアアアアアッッ!!』
その事実が気に入らずに何時の間に這い出て来たゴライアスが、瓦礫の岩を冒険者目掛けて無造作に投げて来た。
「返すっ」
それを男性冒険者は回し蹴りの如く迎撃して、ゴライアスの顔面目掛けて岩を蹴り返した。
岩は見事に目標に着弾。当てられた本人――――本モンスターは短く鳴くが、直にその眼に怒りを滲ませて襲い掛かろうと睨もうとすると。
「あああっ!」
『ゴアッ!?』
標的の男性冒険者はいつの間にか自分の眼前に迫って来た直後に、自身の右頬を棍棒で思い切り殴って来たのだ。
だがゴライアスに対する男性冒険者の攻撃はそれだけでは終わらない。
「おおおおおおおおおおああああああっっ!!」
『グォオオオオオオオオオアアアアアアアアッッ!!?』
強力な棍棒と明らかに業物な剣での連続攻撃。
殴る。切る。殴る。切る。殴る、切る、殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る殴る切る砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬砕斬――――――――ッッッ!!!
ゴライアスの体中をひたすらに砕く様に殴り、切り刻んで行く。
しかも殴る箇所も切る箇所も適当では無く、効果に見合った箇所への冷酷な程の蹂躙戦法。
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
立ち尽くしてみているだけの輝夜達は、いっそどちらが強者でどちらが弱者か判らなくなるほどの一方的な戦いだった。それこそ自分達を苦しめるいたゴライアスに対して、僅かながらの憐れみを向けてしまうほどに。
『ガッアアアアアアアアアアアアッッ!??』
自身の体に無数の深い切り傷と砕けて行く傷の痛みに悶絶するゴライアス。だが彼の苦しみも長くは続かなかった。
「フッ!」
『グォオオオオオッ!??』
ゴライアスの眼前に再び迫る冒険者は今度は棍棒ではなく剣を真横に振り抜いた。しかも両目に。
これに、切られた両目を両手で抑えるゴライアスは胴体が完全にがら空き。
先程までどれだけ殴られようが切られようが、胴体――――というより胸板を守り抜いていたのだが、これによって完全に晒していた。それを逃す程この男性冒険者は甘くない。
「ハァアアッ!」
『ッ!?』
剣で胸を思いっきり切り裂く。
「ラァアアッッ!!」
『!!?』
曝された魔石を棍棒で叩き砕いた。
これに体を維持できなくなったゴライアスは呆気なく灰となって霧散した。
それを見送ったのは、途中から立ち尽くしていただけの少女6人。
そして彼女たちの視線の先に居るのは、自分達の窮地に英雄の様に颯爽と駆けつけて、英雄の様にいとも容易く助けてくれた男性冒険者の背中だった。