料理人と冒険者の二足鞋で征くワーカーホリックの天然ジゴロがオラリオに居るのは間違っているだろうか 「俺一応、鍛冶師なんだけど・・・・・・」   作:昼猫

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 別に戦闘とかないです。


第6話 新たなる恐怖!爆誕、紅蓮の魔神!!

 私の名前はアリーゼ・ローヴェル。アストレア・ファミリアを率いる団長を務めているわ!

 アストレア様の掲げる正義の翼に見惚れたのが始まりね。私もアストレア様みたいに何時かどう堂々とした正義を貫き語りたいわ、なんて最初の内は言ってたっけ。

 でもまだまだ私は弱い。事実、事前の情報とは違い場面に遭遇したとはいえ、先日私は危うく自分も含めた仲間達を守り切れずに全滅するところだった。それを通りすがりの――――実は鍛冶師だった――――冒険者に救われた。助けられたことに感謝しつつ自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 だけど私は挫けない。いつか“彼”の様な誰も彼もをまとめて救えるような正義の味方に至るために・・・!

 

 そんな今の私はアスタと共に、我らが気高き主神アストレア様の護衛としてある場所に向かっている。

 ある場所とは鍛冶最大派閥のヘファイストス・ファミリアの主神ヘファイストス様との会談場所に向かっているの。

 会談場所と言っても何か重大な話がある訳では無く、先日私達を全滅の危機から救ってくれたのがヘファイストス・ファミリアの戦う鍛冶師だった事の説明をアストレア様に聞かせると、感動して是非自分からもお礼がしたいと言う事になったのよ。

 だけど神ヘファイストス様も大変忙しい方なので、先方の都合の付く日に合わせて会談を行う事になり、それが今日これから行われるから道中の護衛と、改めて団長である私からも主神であらせられるヘファイストス様に感謝の意を伝える事になったのよ。

 

 そう言えば肝心の私達を救ってくれた人の事を言って無かったわね?

 名前はエミヤ・士郎。輝夜と同じ出身地で私と同い年の戦う鍛冶師。

 接していた時間は少なかったけど、そんな短時間だけでも彼の人となりはある程度知ることが出来た。士郎は凄く良い人で何より強い。まるで私が目指している正義の味方の理想像そのもの。

 その思いを昨夕、偶然に出くわした士郎に挨拶の流れでぶつけてみた。そしたら面を喰らったように驚いた表情をしてから数秒で一旦落ち着いて、笑顔で感謝の言葉を向けられたわ。けれどとても寂しそうな笑顔だったことが印象的過ぎて、胸を締め付けられる思いだった。

 如何してそんな顔をするの?貴方の何がそんな顔をさせるの?と、問い詰めたかったが何故か口に出来なかった。もしかしたら口にしたくなかったのかもしれない。よく判らない。あの時のモヤモヤした感情が私には分からなかった。

 

 「どうかしたの、アリーゼ?」

 

 そんな私の心情に気付いたか否かは分からないけれど、私の顔を覗きこむようにアストレア様が心配そうに慮って下さった。

 

 「いえ、大丈夫です」

 「・・・・・・そう?無理はしないでね」

 

 この御方に余計な心痛を与えるのは本意じゃない。だから私は無理矢理切り替えて護衛に専念することにした。

 

 

 -Interlude-

 

 

 私達はヘファイストス・ファミリアが持つ取引相手との交渉などで使われるゲストルームに案内された。

 豪華絢爛な装飾や置物に場違いさを感じてどうしても委縮してしまう私。

 輝夜なら慣れてるんだろうなぁと考えていた時に、左目を眼帯で覆い隠した私の髪以上に紅蓮の色に極めて近い短髪に男装の麗人然とした女神ヘファイストス様入って来られた。

 

 「ごめんなさいね。約束の時間に遅れてしまって」

 「たかが数分です。それに時間に融通が利く私と違い貴女が日頃から忙しくしていることは知っていますので。寧ろ会う時間を作ってくれてありがとうございます。ヘファイストス」

 「あら、別に。友神に会うくらいの時間作るくらい訳ないわ」

 

 直後に日常会話が始まったので、挨拶もできなかったことに慌てて気づいてアスタと共に立ち上がる。

 

 「あ、あの!?」

 「そんな慌てる事は無いわよ?アストレアの子よね?焦らずにしてくれて良いわ」

 

 ヘファイストス様の御言葉に緊張気味だった私は何とか頭を冷静に戻すことが出来た。

 

 「では改めまして。アストレア様の最初の眷属にして団長を務めさせて頂いています、アリーゼ・ローヴェルです。まだ大して有名な名前ではありませんが、御記憶くださいましたら至上の喜びです!」

 「え、ええ・・・。よろしくお願いするわね、アリーゼ・ローヴェル」

 

 少々堅苦しい挨拶にヘファイストスは心中で苦笑する。

 けれどアリーゼは自分が畏まり過ぎたことに気付いき、後悔しても後の祭り。

 

 「同じく、アストレア様の眷属のアスタです。如何かよろしくお願いします」

 「ええ、よろしくね」

 

 アリーゼとは違いあっさりとした挨拶にヘファイストスも楽に受け止めた。

 

 「むぅ」

 

 アスタと自分の違いに唸るアリーゼ。

 ドワーフは種族的に全体的に見て胆がすわっていて落ち着いており、誰に対してもあまり心乱すことなく対応できるものが多い。悪く言えばマイペースな者も多い。

 故にそれが例え神といえども気後れする者も少ない。その態度を気に食わないと断ずる神もいるようだが、少なくともヘファイストスはアスタの応対の姿勢には良好な態度を見せていた。

 まあ、結果論だが。

 そんな2人の人の子らの内心を見透かしたように2柱の女神は視線を合わせて今度こそ露骨に苦笑した。

 

 「さて、自己紹介も済んだところで本題に移らせてもらえる?アストレア達はどんな用で会いに来たのかしら?」

 「はい、別段特別な事はありません。先日ダンジョンにて、私の眷族(子供)達がヘファイストス(貴女)眷族()に危ないところを助けられたという説明を受けたので、私からも是非お礼の言葉を贈りたかったのです」

 「え?用件って、もしかしてそれだけ?」

 

 想像していた内容とはかけ離れていた事に、ヘファイストスは目を丸くした。

 今だ終わりを見せない闇派閥(イヴィルス)との戦いにむけての刀剣類の交渉かと思っていたのだが、蓋を開けてみればただ感謝だけをしに来ただけとは・・・。

 そんな友神の反応に動揺する女神アストレア。

 

 「あれ?い、いけませんでしたか?」

 「うん?いや、いけないと言う事は無いわよ。それに何というか、義理堅く真面目な貴方らしい反応よね」

 

 褒められたのか貶されたのか微妙な反応に居心地が悪そうに軽く身じろぐアストレア。

 だが彼女にそうさせた本人のヘファイストスは気にせずに考えている。

 

 「アストレアの子を助けたうちの子か・・・・・・・・・・・・って、考えるまでも無かったわね・・・。アリーゼ・ローヴェル」

 「は、はい!」

 「貴方達を助けたうちの子の名前はエミヤ・士郎じゃない?」

 「あ、は、はい!神ヘファイストス様のファミリアのし・・・エミヤ氏に私達は救われました!本当に感謝の念は今も絶えません・・・!」

 

 相変わらず堅苦しい対応してくるアリーゼにこれは時間の解決に任せるしかないかと諦めて、とある点を指摘する。

 

 「感謝は素直に受け入れるけど、士郎(あの子)のこと、そんなぎこちない呼称使わなくていいのよ?」

 「は、はい・・・」

 「それにしても士郎にねぇ~・・・・・・」

 

 片手を顎につけて何かを考え出した神ヘファイストス様。

 

 「「ッッ!!?」」

 「?」

 

 少ししてから何故か剣呑な神威を少しばかり解放したことに私とアスタは驚き、アストレア様は首を傾げた。

 

 「あ、あの、どうかなさったんでしょうか?」

 「ううん。いいえ、何でもないのよ」

 「「!!」」

 

 アリーゼの質問に対してヘファイストスは満面の笑顔で何となしに答えるが、彼女たちは恐れた。先ほどの剣呑とした空気に僅かながらの神威の解放。アレの後では寧ろ笑顔の方が戦慄を際立たせる結果となった。

 

 「そう言えば3人にはお茶請けどころかお茶も出していなかったわね。ごめんなさいね?もうすぐ来ると思うから」

 「いえ」

 「お、お構いなく!」

 

 そこへタイミングを合わせたようにノック音が響いた。

 それに待ってましたと言わんばかりに入室の許可を出すヘファイストス様。だが私は見逃さなかった――――正確に言えば見てしまった。入室の許可を出す直前に一瞬だけ口角が僅かに吊り上がったのを。まるでネギをしょったカモが自ら来た事に歓喜した狩人を連想させる獰猛さを。

 正直止めるべきだと思う。しかし何を?どうすれば!?どう行動すればヘファイストス様の企みを阻止できるのだろうか。

 結局何もできずに押し黙るしかない私。そんな私の意表を突く出来事が起きた。それは――――。

 

 「――――失礼しま・・・・・・って、アスタにアリーゼじゃないか」

 「「士郎・・・・・・っ!?」」

 

 入室して来たのがまさかの士郎とはと驚いたがそれ以上に彼の服装に意表を突かれた。執事服だ。

 

 「何なのその服装?」

 「ヘファイストス様に着る様に強制されたんだ」

 「だって士郎なら似合う気がしたんだもの。実際完璧に着こなしてるじゃない?」

 「と言う事だ。別に不満も無いしな。それよりどうしたんだ2人共?確かに今日はお客が来るから手が空いていたら(・・・・・・・・)もてなしの手を貸してほしいと頼まれたが、まさか二人だ・・・とは・・・・・・」

 

 士郎の視線の先には自分が仕える女神とは別の女神が立ち上がっていた。

 

 「士郎・・・・・・と呼ばれていたと言う事は貴方が私の子供たちを助けてくれたヘファイストスの子でしょうか?」

 「お初にお目にかかります、女神アストレア様。ただ一度貴女様の御子の方々に入らぬ施しをした程度のこの雑排の名を御記憶にとどめて頂いた此度の事、誠に光え」

 「変な紹介なんてしなくていいのよ。そう、この子が士郎よ」

 

 明らかなわざとらしい畏まった紹介をぶった切るヘファイトス。

 

 「フフ、やはりですか。今回の事は本当にありがとうございました。これからもうちの子達を宜しくお願いしますね」

 「そん」

 「わざとらしい返事しなくていいから、早く持ってきた紅茶と洋菓子配膳してくれない?」

 

 なおも抵抗を貫こうとする我が子に呆れ果てたヘファイストスは身も蓋もなく配膳を強制させた。

 士郎本人はそんな気もなかったが、主神が言うのであればと大した不満も憶えずに言われた通りに仕事をする。

 そんな1人と1柱の砕けた態度にアストレア達は口を挟まずに見ているだけ。

 ファミリアによっては神と眷属の間には、感情を挟まずにお互いを自分の利益とする道具程度に思っていない所もしばしばある。

 だが目の前の関係は中々砕けており、まるで信頼し合う家族の様なモノに彼女たちには映っている様だ。

 

 「フフ、美味しいですね」

 

 その後、用意が終わってから漸く落ち着いた日常会話に花を咲かせながら紅茶と洋菓子に舌鼓を打っていた。

 

 「ええ、本当に!」

 「マリューの淹れてくれる紅茶より美味しい。士郎、随分紅茶の淹れ方上手いんだなぁ」

 「と言うよりも、その洋菓子を作ったのも士郎なのよ?」

 

 悪戯っぽく言ったヘファイストスの言葉にアリーゼとアスタはぎょっとする。

 

 「士郎っ、貴方そんな事出来たの!?」

 「まあ、最初は必要に駆られてだが」

 「でもだんだん趣味に転じて何でも作れるようになったらしいのよ。そうよね?」

 

 ヘファイストスからの確認に士郎は頷いた。

 これに自分の中で何かが崩壊しそうな幻聴を聞いたアリーゼ。それでも耐える。だがトドメはすぐに訪れた。

 

 「それに加えて家事も万能でね。強制はしてないけれど忙しい時とか本当に何時も助かっているわ」

 「そん・・・な・・・」

 

 男は仕事、女は家庭。そんな古い体制が世界中で未だに蔓延っているのは知っている。

 だが現代はその逆もあるのだ。

 その上で女性は家事が出来て当然と言う概念はセクハラと言えるだろう。だが、やはり家事スキルの修得は女にとっての一種の防波堤とも言えると考える人も少なくは無い。

 アリーゼもその例には漏れずにいるのだ。その上で思う。

 

 ――――家事も万能で料理の腕もすごい上に鍛冶師としても腕が良く、その上私達よりもLvが上でおまけに強い(・・・・・・・・・・・・・・・)なんて、どんな怪物よッ・・・・・・!

 

 そこなのだ。自分には士郎に何一つとして敵うモノが無い。女の専売特許も奪われている。これでは矜持など保てない。

 心の中で自身の矜持がへし折れる音を確かに聞いたアリーゼだった。

 しかしこれは意外にもアスタも同じだった。

 彼女は女を捨てた覚えはないが、同時にあまり女らしくないと言う自覚くらいはあった。だがアリーゼの心情に偶然にも共通して全てにおいて上をいかれた事に、軽いショックを受けている。

 

 「「・・・・・・・・・・・・」」

 「?」

 

 2人の心情など察せられない士郎は首を傾げる。

 

 「あらら?」

 「・・・・・・」

 

 男は仕事、女は家庭――――の概念は神たちの間には無いが、下界に来てから一知識として修めているので2柱の女神たちは子供たちの反応にそれぞれの想いに従って違う反応を見せていた。

 

 「ところでアリーゼ・ローヴェル、聞きたい事があるのだけれどいいかしら?」

 

 変な空気になってしまったからそのお詫びに――――というのもあるが、ヘファイストスにとっての企みはここからが本題だった。

 

 「・・・?・・・・・・っ、は、はい!」

 

 一方で、自身の深い部分へ埋没しようとしていたところに急遽名前を呼ばれた事で、条件反射で浮上・強制起動してヘファイストスに体全体を全速力で彼女に向けるアリーゼ。

 だがアリーゼは条件反射とは言え後悔した。直感で気づいたのだ。あの時士郎の入室の許可の直前に見せた獰猛な狩人の如き企みの嗤いを。それを顕現させようと言う神意を。

 そしてもう1人直感を働かせたものもいた。他ならぬ士郎だ。

 一部の特化した部分以外は基本的には凡才の士郎にはどれだけ鍛え上げても天性の直感など宿る事は無かったが、神との契約の恩恵を切っ掛けに嫌な予感だけに関して第六感が冴える様になったのだ。勿論明確な詳細までは分からないが。

 だが今の士郎には情報が足らな過ぎて何を如何すれば嫌な予感からの回避が可能なのか分からずに動けない。

 そんな動けぬ木偶共を嘲笑う様にヘファイストスの口が開く。

 

 「士郎が貴方達を助けた事は聞いたけれど、詳細は聞いてないのよね~?」

 「ッッ!?」

 「・・・・・・?」

 「「?」」

 

 これに嫌な予感の正体について明確に感じ取りだした士郎。

 未だに何を聞きたいのか分からないが探るような目を止めないアリーゼ。

 さらにヘファイストスの神意に全く気付いていないアストレアとショックから抜け出したアスタ。

 故に、4人の中で唯一最早一刻の猶予は無いと感じた士郎だけが動く。

 

 「俺ちょっと急用を思い出し」

 「私が神である事を解って言ってるのかしらね~?士郎?」

 「っ!」

 

 神時代の常識。『人の子の嘘は神には通じない』

 

 「如何してそんな嘘つくのかしら~?それとも嘘をついてでもこの場から逃げ出したい事があるのかしらね~?士郎?」

 「そ、そそそそんな訳無いじゃないですか!」

 

 ヘファイストスと士郎のやり取りに未だに状況に付いて行けないアストレアとアスタ。

 それはアリーゼも同じだが士郎の慌てぶりから情報を掬い取るが、未だにその一つ一つの繋ぎ方すらままならないので、現実的にがアストレア達と状態はほぼ変わらない。

 

 「なら此処に居て頂戴。――――イイワネ?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 長い沈黙の後に一言と。その沈黙の中で士郎は覚悟を決めた様だ――――多分。

 

 「じゃあ、改めて聞きたいのだけれど、アリーゼ・ローヴェル。貴方達を助けた士郎は“1人”だったかしら?」

 「え、あっ・・・・・・・・・」

 

 アリーゼはヘファイストスの神意が未だ何所を目指しているのか分からなかったから直に答えようとしたのだが、彼女の背後で処刑台に上がる死刑囚の様な面持ちをしていた士郎から縋るような視線を受けて口を噤んだ。

 その視線を受けても未だに答えを出す事は出来ずにいるアリーゼだが、その先を答えないでほしいと言う意思だけは汲み取れた。

 故に答えられない。答えるわけにはいかない。士郎は恩ある人だ。そんな彼から縋るような目で見られたら口を噤んでも仕方がないだろう。

 だがそんな2人の意思を汲み取れない――――よく言えば楽天家、悪く言えば能天気――――のアスタが動いた。

 

 ――――何故団長は答えないのだろう?これは失礼に当たるんじゃないだろうか。

 

 神ヘファイストスへの敬意も先行して、アスタはよく考えずに代わりにと答える。

 

 「ヘファイストス様、はい。私と団長はリヴィラの町で気が付いてから仲間に詳細を聞きましたけれども、そこから地上までの帰還まで確かに1人でした」

 「ちょっ!?」

 「アスッ!?」 

 「そう。教えてくれてありがとうね。アスタ」

 

 アスタにお礼を言ってから直に士郎に向いて、彼の肩に手をヤサシク置いた。

 

 「ねぇ、士郎?貴方私と約束したわよね?上層よりも下の階層にソロで探索しないって」

 

 ヘファイストスの声音はとても蕩けてしまうほどに余ったらしいが、左目には憤激が宿っている。

 これに士郎は震え上がりながらも抵抗を試みる。

 

 「そ、そそそそそそそんなや、ややややや約束しししししてませんんんんっ!たたたたたた単にちゅちゅちゅちゅちゅちゅ中層からのソロたたたた探索ははははじじじじじ自殺行為だとあっ!?」

 

 そこで自身の失敗に気づく。誘導されていたのだと。

 

 「認めるわ。約束はしていなかったわね?そして貴方の言う通り中層からのソロでの探索は自殺行為だから注意もしたわよね?その上で聞きたいのだけれど、どうしてまた誰ともパーティー組まずにソロで潜ったのかしら?」

 

 ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 

 恐怖のあまり悲鳴も叫べずに戦慄し続ける士郎。

 

 「ウフフフフ♪本当にお馬鹿な子ね?何度言えば理解できるのかしら。ねぇ、士郎しろうシロウ士郎シロウしろうシロウしろう士郎士郎しろうシロウしろう士郎しろうしろうシロウ士郎しろうしろう士郎シロウ士郎シロウシロウ士郎しろう士郎士郎しろうシロウシロウ――――()()()♡」

 

 殺気じみた神威を解放し、器用に士郎のみにそれを向けている。満面の笑顔で開いている左目には劫火を灯したまま。

 

 ((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルガクガクブルブル

 

 士郎の体感している戦慄は凄まじい。

 士郎はアカイアクマやクロイアクマ、イニシエのアカキリュウやキンイロのマオウに逆鱗時に変貌する女性達と巡りあってきたが、神は初めてだった。

 今、士郎の眼前に在るのは瞳に劫火を灯し、灼熱を彷彿させる髪を靡かせて、あらゆるモノを灰燼と帰す様にも見える神威を向けて来る――――そう、言うなれば“紅蓮の魔神”とも評せる存在として顕現していた。

 

 「紅蓮の魔神?面白いこと考えるわね。私貴方に優しくしてたけど、色々な意味で甘やかしてたのかしら?」

 

 ――――虚偽を見分けるなら兎も角、どうして口にもしてない事が分かったんですかっ!!?

 

 口にしたいがそれでは認めるも同然。故に心の中で悲鳴だけでなんとか堪えた。

 

 「いくら恩人でも()となったからにはちゃんと調き――――調教しないとね」

 

 ――――言い直そうとしたのに、結局言い切るのですかっ!!?

 ――――それに調教って!?

 

 心の中でアリーゼとアスタが悲鳴を上げる。勿論言われている士郎も悲鳴を上げたくなる勢いだが、それ以上に顔を蒼白とさせていた。残りの女神アストレアも我が子達の恩人と言う事でヘファイストスを窘める事を試みる。

 

 「ヘ」

 「ごめんなさいねアストレア。私これから今すぐ愚かな子への調教(やる事)できちゃったから、今日はもういいわよね!」

 

 先回りされて言葉を封じて笑顔で圧を掛けて来る友神ヘファイストスに、かつて無いほどに恐怖を感じた私は思わず反射的に頷いてしまう。

 

 「分かりました・・・・・・・・・あっ」

 

 ――――アストレア様ぁああああッッ!!?

 

 士郎は心の中で大絶叫!しかも直後に首根っこを掴まれた。勿論誰が誰を掴んだなど言うまでもない。

 

 「観念しなさい。貴方の為を想って私、心を鬼にするわ。愛の鞭十二割増しで」

 「十二てっ!!?あ、いや、それよりも!どうか、慈悲をっっ!!」

 「だが断る♡」

 「ヒィイイイイイイイイイイッッ!!!?」

 

 その言葉を最後に扉を閉めてこの部屋から出て行ってしまった1柱と1人。

 

 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 それを正義の女神とその使徒たちは、ただ見送るしかなかった。

 

 

 -Interlude-

 

 

 「あがっ・・・・・・がっ・・・がっ・・・」

 

 あの後たっぷりお仕置を受けた士郎は、とある一室のベットの上で白目を剥き口元からは僅かに液体を零しうつ伏せで気絶していた。

 あのままなので執事服のままだ。ただし下だけ。

 上は完全に半裸を晒していて、とても16歳とは思えぬほどの細身ながら筋肉の鎧を着た様な肉体美を晒していた。だが自分で脱いだのではなく、気絶した後に主神の手によって剥かれたのだ。

 士郎を半裸にした張本人のヘファイストスは、本人の許可なくステータスを更新して目覚めた後見せる為に書いた概要を記した羊皮紙を見て溜息を吐いている。

 

 エミヤ・士郎

 Lv3

 力:D554→597 耐久:C631→689 器用:C624→658 敏捷:B751→774

 魔力:A821→849

 鍛冶:C 神秘:F

 

 「たった一ヶ月でトータル約200アップ・・・・・・か。ホント何所で何すればこんな風になるのよ」

 

 心当たりに全くないワケでも無かった。その理由の一因には士郎のスキルにある。

 

 【守護者(ガーディアン)

 ・ステータス熟練速度、中速~高速。

 ・戦闘時のみ効果発揮。 ・守護対象の数で効果向上。 ・守護対象が親しい者や愛する者で在る程、効果向上の上乗せ。

 

 【熱され鍛れ続ける剣(トゥルー・ブラックスミス)

 ・火炎攻撃、または火炎魔法系統を受けると各ステータス一時的に上昇。 ・火炎攻撃、または火炎魔法系統では負傷しない。 ・鍛錬後に僅かにステータス向上。 

 

 【贋作者(フェイカー)

 ・人格を宿した物や生物以外の物を見るだけで構造を解析し、複製品を作成可能とする。

 

 この三つの内の一つである守護者が士郎のステータスを今までの冒険者としての歴史を覆すように馬鹿みたいに向上させている原因だった。

 本来であればステータスの向上が速いのは喜ぶべき事だが士郎の場合は別だとヘファイストスは考えていた。

 これではシロウの無茶な行動を肯定している様で、ヘファイストスは()として素直に喜べなかった。つまるところ放っておけないのだ。

 この感情は親だから――――の筈だが、断言できないでいる。

 さらには寂しさも感じている。

 理由として、まず大前提にステータスの更新時、如何なる魔法が使えるかどうかも記されるのだが、何所にも魔法名が記されていない事から士郎には一切の魔法が使えない――――筈だった。

 なのに士郎が虚空から剣を出すと言う異端であろうとも魔法としか思えない現象を一度だけ見たことがある。けれどその魔法について士郎から説明を受けた覚えはない。その事実を隠されている事が溜まらなく寂しいのだ。

 放っておけない。寂しい。これらの感情が親だからと言う理由だけで成り立っているのかは未だに判って無い。

 しかし心配なのは確かだ。事実、お仕置中に結局ソロでの探索を止めると明言させることが叶わなかったから。

 

 「本当に貴方って子は、一体何なのよ?」

 

 どこまでも意地っ張りで不器用だけれど可愛い子。

 漸く表情が落ち着いた愛しい子の頭をヘファイトスは暫く撫で続けるのだった。




 士郎のスキルの守護者と熱され鍛れ続ける剣の効果内容、結構考えた末にこうしましたけど変えるかも。
 ベルのスキルの憧憬一途がぶっ壊れ性能なだけで、守護者も十分に良いレアスキルです。

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